あかちゃんですか?
あかちゃんですか?(あかちゃんですか)は、の都市伝説の一種[1]。夕方の通園路や児童の集まる場所で、赤子を装った声が「それで合ってますか」と問い返すのが特徴とされる[2]。
概要[編集]
は、に児童や親世代が立ち寄る場所で遭遇したとする噂が全国に広まった都市伝説である[3]。
目撃談では、見知らぬ子ども(または子どものような影)が、近づく大人に対し「赤ちゃんですか?」と聞く一方、返答の内容によって場所の温度や時間感覚がずれるとされる[4]。
言い伝えでは、この問いは相手の抱える「用件」や「気の緩み」を確認するものだとされ、正体は見つからないまま終息することが多い[5]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源として、末期から初期にかけて流行した「子育て相談の臨時窓口」制度が挙げられている[6]。当時、児童福祉の担当者が「困りごと」を聞き取る際に使った定型句が、後年には都市伝説化したとする説がある[7]。
また別の起源として、周辺で広まった「夕方の巡回放送」怪奇譚が指摘されている。夕方になると無線のような声が重なり、最後に「赤ちゃんですか?」だけが妙にクリアになるという[8]。
ただし、記録の最初期は行政資料ではなく、町内掲示板の匿名投稿であるとされる。投稿日時が「18:43」や「17:58」と秒単位で揃っていたため、数人の編集者が“投稿者が同じ端末を使っていた”と推定した、という話もある[9]。この“整い方”が、噂を信じさせた要因として語られている[10]。
流布の経緯[編集]
全国への流布は、頃に動画共有サイトで「夕方の駅前で聞こえた」という短い音声クリップが転載されたことに始まるとされる[11]。クリップには文字起こし機能が働かず、字幕が「……あかちゃんですか?」の一点だけ同期して表示された、と噂がある[12]。
その後、育児サークルのブログや地域SNSで「返事のしかた」をめぐる投稿が増え、噂の体裁が“怪談”から“手順書”に変わっていったとされる[13]。
とくにの児童向けイベント会場で、目撃者が「誘導員の制服色が一瞬だけ薄く見えた」と書いたことで、マスメディアが関心を持ち、特集枠に取り上げられたという話がある[14]。この報道がブームの火種になった一方、後に“作り話ではないか”という批判も併発したとされる[15]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承の中心にあるのは、出没する“子どもっぽい存在”である。声の主は、赤子を抱える姿をしている場合と、抱えていないのに「赤ちゃんですか?」と問い返す場合があるとされる[16]。
目撃談では、まず夕方の導線——の玄関前、の下り階段、の遊具周辺——で、誰もいない空間から呼びかけが始まるとされる[17]。次に存在は、見えているのに“輪郭が定まらない”状態で現れるという。見た目の色は、夕焼けの反射や防犯灯の明滅のせいで変化しているように見えるとされる[18]。
さらに不気味な点として、返答者の口から出た言葉が、しばらく遅れてもう一度読み上げられるという噂がある。たとえば目撃談では「はい」と答えると、少ししてから「はい、ですか?」と繰り返された、とされる[19]。
正体については、妖怪とされる説がある一方、親の“ためらい”を拾う学習型の怪異だとする説もある。つまり、恐怖を感じた人ほど“質問が精密化”するため、同じ場所でも違う問いが返ってくるとされる[20]。このような話は、都市伝説としての怖さだけでなく、心理的作用の説明としても語られている[21]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとして、問いが少しずつ変わると言われている。代表例として、、そして地域によってはと漢字混じりの言い回しになることがあるという[22]。
細部の条件も語られている。目撃談では、存在は必ず“建物の影”の境目に立ち、足元が影からはみ出さないとされる[23]。また、声が聞こえるのは18:00〜18:30の間が多いとされ、たとえばで報告が集中した月は、雨の日より晴れの日の方が多かったという統計めいた話がある[24]。
さらに委細な派生として、「赤ちゃんですか?」に対して“誰の赤ちゃんか”を聞き返すと、相手の頭上に見えない風鈴のような音が鳴る、と言われている[25]。この音の後、目撃者の記憶だけが一秒単位で欠けるとする噂があり、帰宅後にメモ帳へ同じ短文だけが増えていることがある、という話がある[26]。なお、この症状は全国の報告から“欠けの位置”が揃うとされ、逆に作為性が疑われる点としても扱われている[27]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は“質問に答えない”系と“答えるなら型にはめる”系に大別される。前者では「無視して足を止めず、曲がり角を一つ多くする」が推奨され、言い伝えでは“回り道の回数が多いほど、聞き返しの回路が壊れる”とされる[28]。
後者では「否定もし肯定もしない返し」が勧められることが多い。たとえば「今は違いますが、すみませんね」といった“謝罪+状況説明”を入れると、存在が“用件確認”を諦めるとされる[29]。一方で「いいえ」は危険であるとされ、直後に“いいえ、ですか?”と復唱されるため、恐怖の再生ループに入るという[30]。
また「赤ちゃんですか?」と言われたら、相手が誰であっても「今日は来ないでください」と返すと安全だとする派もある。これは、存在が“来訪の許可”を探しているという解釈に基づくものとされる[31]。
ただし、どの対処法でも必ず守られるとされる共通点がある。それは、声が聞こえた瞬間にを見ないこととされる。目撃談では、画面を覗いた人だけが“そこにいないのに撮れてしまう”という[32]。このため、不気味なパニックが誘発されると恐れられている[33]。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、子育て世代の動線の設計に影響を与えたとされる。たとえば一部地域では、夕方の通園時刻に合わせて、児童の列を一列ではなく二列にしたり、施設の掲示で「夕方は静かに通行してください」と注意書きを増やしたという[34]。
さらに、前後には“質問禁止ポスター”が流行したとされる。コピーの例として「赤ちゃんですか?に答えないでください」「知らない呼びかけには手を振らないでください」があり、子どもの安全対策として半ば冗談のまま導入されたと噂されている[35]。
一方で、警察や自治体の担当部署が公式に否定した際には、噂の熱量が逆に上がったという。言い伝えでは、否定の文章が読まれた夜にだけ出没が増えるとされ、全国に広まったという[36]。
また学校現場では“学校の怪談”として取り入れられ、軽い注意喚起として語られることもあったとされる。その結果、実際の迷子対応の訓練に「声かけの拒否」という観点が混ざり、教育プログラムの一部に“口頭の合図”が追加されたという話もある[37]。ただし、これが都市伝説の直接原因かは不明であるとされ、出典の確認が求められている[38]。
文化・メディアでの扱い[編集]
では、怪談特集における“短い音声の再現”として取り上げられることが多い。とくに、番組内で同じ時刻(18:21、18:22)にスタジオが一度だけ暗くなり、その後に「赤ちゃんですか?」だけがスタッフの耳に聞こえたという演出があったと語られている[39]。
文学寄りの扱いとしては、児童文学のように見せつつ不気味さを残す作品があり、主人公が夕方の児童館で“言葉の遅れ”に巻き込まれるとされる[40]。また漫画では、妖怪としての表情が描かれるのではなく、会話のテキストだけが強調される作風が多いとされる[41]。
一方でネット文化では、対処法のテンプレートが「#あかちゃんですか?手順」として拡散し、実在の子育て相談のハッシュタグと混線したことがあるという。ここでは“ブームの皮肉”として、相談内容の代わりに都市伝説の返し文が並んだとされ、ネットの空気が恐怖から笑いへ転ぶきっかけになったと語られている[42]。
加えて、正体を説明する疑似科学系の動画も出回り、「音声の反射が壁の材質によって質問文だけ残る」とする解説が投稿された。ただし視聴者はすぐに“そんなはずはない”と突っ込み、結局は怪談として受け止められ続けたという[43]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
※いずれも架空の文献である。
[1] 佐倉みくり『夕方の質問怪談—「あかちゃんですか?」の語用論』港南社, 2012年. [2] 井上琢磨『都市伝説の音韻パターン分析』東京計測出版, 2014年. [3] 山縣春馬『児童館の影と噂の行方』新潮都市研究所, 2010年. [4] 朽木玲奈『言い返しが呼ぶ恐怖—復唱現象の民俗学』蒼天書房, 2016年. [5] 川島道彦『妖怪語りのテンプレート化』講談風書院, 2011年. [6] 田端由香『昭和末期の相談窓口と定型句』全国福祉史叢書, 2008年. [7] Norman E. Haldane『Urban Myth Grammar in Postwar Japan』Vol.3, Institute for Folklore Audio, 2013. [8] 森崎信也『堺の放送と異音—地域無線怪奇譚の記録』浪速アーカイブ, 2006年. [9] 高城真紀『掲示板時刻の一致性:都市伝説の疑似統計』データ幽霊出版社, 2015年. [10] 鈴木章吾『匿名投稿はなぜ“整う”のか』朝霞学術社, 2017年. [11] 『ネット怪談の再生環境』メディア文化研究会, 2009年. [12] 若林由紀『字幕同期の失敗—音声クリップ解析の落とし穴』映像表現科学, 第12巻第2号, pp.41-58, 2010年. [13] 佐倉みくり『育児サークルにおける噂の伝播』家庭民俗学ジャーナル, Vol.7 No.1, pp.19-33, 2013年. [14] 門脇誠也『港区夕方特集の裏側—番組演出と噂の相互作用』放送技術研究会, 第4巻第1号, pp.77-90, 2011年. [15] 『怪談特集の責任—訂正が逆効果になる論理』時評民俗学, 2012年. [16] 渡辺精一郎『子どもっぽい存在の言語行動』国際民間伝承誌, Vol.22, pp.100-129, 2018年. [17] 山縣春馬『動線設計と恐怖の地図』新潮都市研究所, 2011年. [18] Patricia L. Monroe『Reflections, Streetlights, and the “Unfixed Edge” Phenomenon』Journal of Night Sociology, Vol.9 Issue4, pp.201-219, 2015. [19] 朽木玲奈『復唱される言葉—恐怖の遅延記憶』蒼天書房, 2016年. [20] エイミー・グレア『学習型怪異の社会的受容』海外奇譚研究レビュー, 第1巻第3号, pp.12-28, 2014年. [21] 鈴木章吾『都市伝説と“言い換えられる恐怖”』朝霞学術社, 2017年. [22] 『方言で変わる怪談質問—全国サンプル集』怪異方言研究班, 2018年. [23] 井上琢磨『影の境目に立つ存在—都市伝説の幾何学』東京計測出版, 2014年. [24] 平井啓太『雨晴れと出没時刻の仮説』千葉観測民俗報告, 2012年. [25] 川島道彦『風鈴のような音と欠落の記憶』講談風書院, 第2巻第2号, pp.33-45, 2016年. [26] 佐倉みくり『メモ帳に残る短文—書き起こしの再帰』港南社, 2012年. [27] 高城真紀『作為性と整合性の検証』データ幽霊出版社, 2015年. [28] 山縣春馬『無視の作法—対処法の系譜』新潮都市研究所, 2011年. [29] 渡辺精一郎『謝罪が怪異を止める理由』国際民間伝承誌, 第21巻第1号, pp.55-73, 2019年. [30] 朽木玲奈『否定語が呼ぶ復唱』蒼天書房, 2016年. [31] 森崎信也『「来ないでください」が効く夜』浪速アーカイブ, 2006年. [32] 井上琢磨『画面を見た者の異常記録』東京計測出版, 2014年. [33] 『恐怖とパニックの伝播モデル』メディア心理学研究, Vol.5, pp.10-24, 2013年. [34] 『通園時間の再編と注意掲示の実務』全国自治体安全会議, pp.3-9, 2010年. [35] 『質問禁止ポスターの設計案』教育サポート叢書, 第9巻, pp.61-72, 2009年. [36] 門脇誠也『否定報道と夜の出没増加』放送技術研究会, 第4巻第2号, pp.91-103, 2012年. [37] 高城真紀『学校の怪談における安全教育の混線』データ幽霊出版社, 2015年. [38] 田端由香『出典確認の倫理と限界』全国福祉史叢書, 2018年. [39] 『夕方特集の暗転と音声—撮れないはずのセリフ』放送演出研究, Vol.16, pp.140-161, 2012年. [40] 『児童館の遅延—短編アンソロジー』小春文庫, 2014年. [41] 『会話だけが残る漫画技法』視覚物語技術叢書, 2016年. [42] 『ハッシュタグ怪談の誤差』ネット文化年報, 2013年. [43] モーガン・リード『壁材が音韻を“固定”するか?—反証できない説明の魅力』Journal of Folk Acoustics, Vol.3 Issue1, pp.1-18, 2016年.
関連項目[編集]
外部リンク
- 怪異アーカイブ・夕方音声
- 都市伝説語用論サロン
- 通園路の安全地図(非公式)
- 夜の掲示板研究室
- 音韻分析ファイル