あったkind of
| 定義 | 「事情が存在した」ことだけを残し、評価や断定を柔らかくする婉曲表現である |
|---|---|
| 主な用法 | 説明・言い訳・記憶の曖昧化の際に用いられる |
| 起源とされる年代 | 1990年代後半〜2000年代初頭にかけてのネット交流期 |
| 関連表現 | 「たぶん」「〜っぽい」「さすがに〜」など |
| 言語的特徴 | 日本語文脈の動詞「ある」に対し英語の“kind of”を接続する |
| 社会的機能 | 対立を緩和しつつ、記憶の責任範囲を調整する |
| 議論の対象 | 曖昧さが説明責任を回避する手段ではないか、という批判がある |
あったkind of(あった カインド オブ)は、日本語会話において「たしかにそういう事情はあったが、断定は避ける」といった温度感を示す、半ば慣用化した言い回しとされる[1]。語尾の“kind of”が英語圏の婉曲表現と共鳴した結果、議論の場で誤解と同時に“安全弁”として機能したと論じられている[2]。
概要[編集]
は、出来事の存在を示しつつも、因果関係や評価を確定させないための婉曲表現として語られている。表面上は「英語由来の便利な言い逃れ」程度に見えるが、言語運用の観点では“断定コスト”を計量し、相手との関係温度を調整する装置として分析される[3]。
この語が定着した背景として、当時の掲示板文化において「真偽よりも円滑さが優先される場面」が増えたことが挙げられる[4]。特に、事実を断定するほど炎上が起きる環境で、話者は自分の発話責任を“少しだけ薄める”必要に迫られたとされる。なお、語の具体的な初出は複数説があり、近辺のローカル英会話サークルの“即興弁護”が元だという証言もある[5]。
成立の物語[編集]
「軽い断定」を売りにした喫茶会議[編集]
2000年ごろ、にあった喫茶「時計豆(とけいまめ)」で、翻訳者志望の学生たちが“意訳コンテスト”を続けていたとされる。そこで彼らは、英語圏の曖昧表現を日本語の口語に接ぎ木し、「言い切らないことを言い切る」技術として教え込んだという。
代表格だったのは、のちに教育メディア会社へ転じたである。山岸は「断定が強すぎると会話が壊れる。弱めるほど、むしろ説明は生き残る」と主張し、会議の採点表には“断定の熱量”を数値化した項目(熱量スコア)を導入した。ある議事録では、発話が1回増えるごとに熱量が+7.5点され、和らげ表現を挟むと-3.2点されると記されている[6]。
その“熱量調整”の中で、最初は「あったけどさぁ…」のような口癖が流行していたが、英語をまぜるとさらに角が取れることが判明した。そこで“kind of”が、動詞「ある」の直後に接続される形で固定され、という“呼気の濁し方”が模倣されていったとされる。
ネット掲示板での誤爆と拡散[編集]
喫茶での流儀はやがて、匿名掲示板のオフ会トピックへ“翻訳テンプレ”として持ち込まれた。そこで使われたのが「存在は認めるが、証拠は提示しない」という、いわば“最小限の良心”の型である。
具体的には、のデータ復旧会社「北明星データ復元(きたほし)」が社内勉強会で採用していた“事故報告フォーマット”が、偶然スクリーンショットとして流出し、その文面に「あったkind of」が混ざっていたとされる。流出日とされるのログには、アクセスの山が“午前0時から23分間”に集中したと書かれているが、実際のデータと一致するかどうかは確認されていない[7]。
一方で、誤爆も広がり、たとえば「それって詐欺じゃないの?」と問われた返信に「あったkind of です。たぶん」と書かれてしまい、話が“詐欺の有無”から“言い回しの礼儀”へ転じた事件があったとされる。この転位が、結果的に語の面白さとして拡散を加速したと考えられている。
社会的影響[編集]
は、責任の所在を曖昧にしながらも衝突を回避するための“会話のクッション”として機能したとされる。特に、仕事の引き継ぎやレビュー文化が強まるにつれ、「間違いではないが、断定もしない」という言い回しが好まれたのである。
言語学寄りの議論では、この語が“談話管理(discourse management)”の一部として定式化されたという。つまり、話者は「主張の真理値」ではなく「相手の受容コスト」を調整するために、kind of を差し込み、受け手はそれを“攻撃の意図なし”のサインとして解釈する。なお、の研究会資料(未公刊)では、会話ログを用い“婉曲比率”が上がるほどグループ内の返信率が上がったと報告されたとされる[8]。
ただし、この影響は肯定だけではない。あまりに多用されると、説明が“なかったこと”扱いされる逆作用も起きた。たとえばの若手編集会議では、修正指示に「あったkind of」を挟んだところ、指示の意味が「存在したという感触だけで、具体性は期待しない」に変換され、結果として校正が進まなかったという。会議記録には、翌週の遅延が“合計11.4時間”と記されているが、なぜ小数点が必要だったのかは不明である[9]。
用法と例[編集]
は、主に(1) 記憶の曖昧化、(2) 証拠の不足の補助、(3) 謝意や配慮の体裁、の三類型で観察されるとされる。特に(2)では、「知らない」の代わりに「知っている感じ」を残すため、言い争いが減る一方で、検証が後回しになる。
一方で、会話のテンポとしては、前半の日本語で情報を立て、後半の英語フレーズで角を丸める二段構えが採用されやすい。例として「その書類、です。たぶんファイル名が違っただけ」などが挙げられるが、こうした言い回しが“優しい否定”として受け止められる場合がある。
なお、用法の地域差も語られる。関東では語尾に「〜だよね?」を続ける形が多く、関西では「〜やったkind of」が混ざることがあるとされる。さらに、広告業界では「クライアントに断言させない」ために書き起こし文章へも混ぜる運用が見つかったという指摘があり、取扱い規程(社内)では「英語混入は“拒絶ではない”合図」と説明されている[10]。
批判と論争[編集]
批判側は、が“事実の存在”だけを盾にし、肝心の検証を先延ばしにすることで、説明責任を空洞化させると主張している。言い換えれば、語が会話を滑らかにするほど、責任分解の透明性が下がるという構図である。
一例として、で行われた自治体の公開ワークショップでは、住民説明の質疑応答に「あったkind of」が多発し、「それならなぜ資料に載っていないのか」という問いが宙に浮いたとされる。市の担当者は後日、「当時は資料化していなかった可能性が高い」と釈明したとされるが、資料の更新履歴は“7回”で止まっていたという[11]。さらに、当該回の議事録には一部「要出典」級の記述があったとの内部指摘もある。
この論争は、言語の自由の範囲と、社会的合意の必要性の境界をめぐるものとして扱われることが多い。ただし、擁護派は「断定できない状況で、断定せずに伝える術が必要なのは事実だ」と反論し、結局この語は“正しさ”ではなく“関係”を守るための技術として整理されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山岸凪『会話熱量スコアの実装:婉曲語尾の工学』砂糖書房, 2006.
- ^ M. A. Thornton『Hedging in Everyday Japanese: A Corpus Study』Journal of Contact Linguistics, Vol. 12, No. 3, pp. 41-66, 2011.
- ^ 【国立国語研究所】『談話管理の暫定指標案(未公刊資料)』研究会資料, 2009.
- ^ 佐倉由紀『“あった”の責任範囲:記憶と説明のあいだ』言語社会学叢書, 第2巻第1号, pp. 88-103, 2014.
- ^ 北明星データ復元『社内事故報告フォーマット改訂履歴と語彙混入の経緯』北明星社内報, 2005.
- ^ E. R. Caldwell『Soft Assertion and Defensive Communication』International Review of Pragmatics, Vol. 7, No. 2, pp. 201-229, 2013.
- ^ 藤堂恵理『英語フレーズの日本語接続:kind of の居場所』翻訳史研究会紀要, 第19巻第4号, pp. 55-79, 2017.
- ^ 中村慎二『名古屋ワークショップ議事録の言語特徴(誤解を含む)』社会言語学ノート, 2020.
- ^ 佐久間亮『炎上を潤滑油にする言い回し』つむぎ文庫, 2018.
- ^ D. K. Ito『Corporate Apologies and “Kind of” Rhetoric(架空題)』Pragmatics & Organizations, Vol. 3, No. 1, pp. 9-23, 2016.
外部リンク
- 熱量スコア・アーカイブ
- 婉曲表現コーパス倉庫
- discourse management 模擬講座(掲示板風)
- 炎上回避テキスト整形ガイド
- 英語混入トーン判定ツール