えすしーぴー!(まんがタイムきらら連載)
| 作品名 | えすしーぴー! |
|---|---|
| 連載誌 | まんがタイムきらら |
| ジャンル | 4コマ漫画、擬似保安コメディ |
| 原案 | 戸田山ユウジロウ |
| 開始年 | 2008年 |
| 掲載形態 | 読切企画→不定期連載→準レギュラー化 |
| 舞台 | SCP学園都市・第7収容区 |
| 主な読者層 | 深夜アニメ層、資料マニア、編集部内監査担当 |
| 特徴 | 脚注付き作中資料、収容手順風オチ |
えすしーぴー!は、の系誌面において提唱された、短尺・高密度の「保安失敗再生型コメディ」作品群を指す総称である。初期にはの誌上企画として始まり、のちに読者投稿と編集部監修が交互に重なる独特の連載形式として知られるようになった[1]。
概要[編集]
は、表向きには学園生活を描く4コマ作品であるが、実際には「収容対象を日常へ溶かし込む」編集技法を漫画化したものと説明されることが多い。作中では、を模した架空組織が、校内で発生する不可解な現象を毎回ぎりぎりの予算と気合で処理する構図が基本である。
作品の特徴は、1話ごとに異常事案のフォーマットが細かく変わる点にある。ある回では実験レポート風、別の回では購買部の請求書、さらに別の回では自治会の議事録として描かれ、読者が「漫画を読んでいるのか、内部文書を読まされているのか」を見失う構造になっている。また、単行本化の際に編集部が脚注を大幅に増補したため、後半ほど文章量が増え、絵よりも注釈が主役になる現象が起きたとされる[2]。
成立[編集]
誌面企画としての発端[編集]
起源は末、編集部内で行われた「背景がやたら細かい4コマ」の企画会議にさかのぼるとされる。ここで当時の担当編集であったが、ネット掲示板で流行していた怪文書形式の短文を漫画に転用できないかと提案したことが、企画の直接の契機になったという。
この時点では『SCP!』は正式タイトルではなく、収容手順を連想させる作業用ラベルでしかなかった。ところが、試作ネームが社内回覧されると、会議に同席した校閲担当が「文脈がないのに怖い」と評価し、その場で誌面化が決まったという逸話が残る。なお、初回の掲載ページには「この作品はフィクションであり、実在の研究機関とは関係がない」とわざわざ注記されたが、かえって読者の不安を煽ったとされる。
連載形式の確立[編集]
夏号からは、不定期の読切として登場しつつ、読者アンケート上位に入った回だけが次号で「再収容版」として続投する方式が採用された。この仕組みは当時としては異例で、平均掲載間隔は、最長では空いたことがある。
連載形式が整うにつれて、作中には「収容成功率」「文化祭までの残り日数」「購買パンの在庫数」など、妙に実務的な指標が導入された。編集部はこれを「日常系の緊張感を数値化した」と説明したが、実際には毎号のページ数調整に困った結果、指標を増やし続けたにすぎないという指摘がある。
作風[編集]
作風は、の柔らかい人物造形と、異常事案報告書の硬質な語り口を混ぜたものである。登場人物はたいてい穏やかで、重大な出来事が起きても「とりあえず職員室へ報告する」という反応しか示さないため、逆に緊張感が生まれる。
特に有名なのは、危険物らしきものを前にしてもキャラクターが丁寧語を崩さない点である。たとえば、巨大な時計が逆回転を始めても、主人公のは「回収袋はA案でよろしいでしょうか」と尋ねるだけで、周囲もそれを当然の学園業務として受け止める。この温度差が作品の核であり、後に「低音量ホラー」と呼ばれる一群の派生作品に影響したとされる。
また、1コマ内に必ず一箇所だけ、関係のない書類番号や棚卸番号が書き込まれているのが通例である。読者の一部はそれを伏線として解読しようとしたが、実際にはの整理番号を編集部が勝手にそれっぽく改変しただけであると、のちに担当が明かしている。
登場人物[編集]
中心人物は、異常現象の記録係である、収容器具の調達を担当する、そして学園の実験棟で半ば常駐しているの3人である。彼女たちはいずれも「普通の女子高生」であるとされているが、普通の定義がかなり曖昧で、全員が最低でも1回は校内非常階段を使わずに4階へ到達したことがある。
脇役としては、用務員のが特に人気である。トメは無表情でモップを持ちながら、毎回もっとも危険な現象を最短手順で片づけるため、読者からは「真の管理者」と呼ばれることもある。なお、トメの年齢は初期設定でとされたが、単行本第4巻では「少なくとも」に修正されており、作中でも年齢設定が揺れている数少ない人物である。
さらに、学園長であるは、シリーズ中盤から「収容より先に予算申請書を回せ」と言い続ける存在として定着した。彼女の発言は多くが経理上の比喩であるが、読者の間では名言として引用されている。
歴史[編集]
初期の誌面反応[編集]
初掲載時の読者アンケートでは、「意味は分からないが2回読むと不安になる」「4コマなのに会議資料を読んだ気分になる」といった感想が多かったとされる。編集部は当初、単発の実験企画として処理するつもりであったが、通販用アンケートハガキの回収率が通常作品のに達したことから、継続判断に傾いた。
また、春の合同イベントでは、作品内に登場する収容箱を模した紙袋が配布された。この紙袋は耐荷重と記載されていたが、実際にはお弁当1つで底が抜ける仕様であり、これが逆に「現場感がある」と話題になった。
単行本化と増補改訂[編集]
単行本化はに始まり、各巻ごとに「収容補遺」と呼ばれる追加ページが付された。補遺には、作中で触れられなかった小道具の製造番号、校舎の平面図、保健室の棚割りなどが載せられ、これを目当てに購入する層が一定数生まれた。
ただし第3巻以降は、補遺が増えすぎて本文のテンポを圧迫し、編集会議では「漫画なのに監査報告書の比率が高い」という内部批判も出た。これを受け、版では一部の補遺がQRコードに置換されたが、リンク先が学園祭の模擬店案内だったため、混乱がさらに拡大したとされる。
海外配布と二次流通[編集]
頃には、英語圏のファンが『SCP!』を「Secure Cute Procedure」と誤訳し、そのままSNSで拡散した。これにより、海外では「かわいい手順書漫画」として受け止められ、日本国内よりもむしろ安全教育資料の一種として読まれる事態が起きた。
この誤解を利用して、の一部書店では防災月間に合わせた特設棚が組まれ、作品が避難経路図の隣に置かれたことがある。売上は通常の2倍近くまで伸びたが、翌月には「勉強コーナーに紛れ込む漫画」として再分類された。
社会的影響[編集]
作品は、日常系4コマに「事後報告」「危険区分」「封印手順」といった行政文書の語彙を持ち込んだことで、若年層の間に独特の書式美を広めたとされる。実際、からにかけて、大学のサークル誌や地方自治体の広報紙にまで「回収手順」という見出しが増えたとする研究がある[3]。
一方で、作品の影響を受けた学生が、文化祭の出し物に「収容中」と書かれた段ボールを多用した結果、教員が避難訓練と誤認する事件も起きた。これがきっかけで、学校安全マニュアルに「娯楽目的の封印表記は避難誘導と区別すること」という注意書きが追加されたという説もある。
また、内の印刷会社では、本作以後に「注釈だけで1ページ埋まる原稿」の持ち込みが増えたとされる。業界ではこれを「えすしーぴー現象」と呼ぶこともあるが、正式な統計は取られていない。
批判と論争[編集]
批判の第一は、作品が読者に対して「説明しているようで何も説明していない」という点である。特に初期巻では、異常現象の原因が最後まで明示されず、毎回「本件は次回以降の検証対象とする」で終わるため、物語としての閉じ方が不親切だという声があった。
第二に、作中の用語が専門用語に見えて実は編集部の造語であることが多く、学術的な引用に見せかけた箇所が問題視された。は2015年の討議で、同作を「模擬注釈の過剰による準学術化の典型」と評している。もっとも、同学会の討議録自体が半分以上ネタであるため、評価の重みにはなお議論がある。
さらに、連載中盤に「学園内の封印対象はすべて購買部で購入可能」という回が掲載され、読者からは面白がられた一方、流通担当からは「何でも商品化しすぎである」と苦情が出た。これに対し作者側は、封印袋の原材料は環境配慮型クラフト紙であると説明したが、袋の値段が1枚だったため、説明としてはむしろ火に油を注いだ。
評価[編集]
批評家の間では、は「かわいさ」と「管理文書」の矛盾を利用して、日常系の感情を機械的な手続きに変換した作品として評価されることが多い。特に、感情表現を抑えた台詞回しが、かえって登場人物の友情や焦りを強く感じさせるとされる。
一方で、一般読者の受容はやや分裂しており、純粋な4コマとして読む層と、脚注の行間を読む層と、収容番号から世界設定を復元しようとする層に分かれている。後者はしばしば「設定厨」と呼ばれるが、作品側もそれを想定していた節がある。
なお、には文化誌『月刊架空史料』が「令和期の資料演出作品10選」に本作を選出したが、同号の編集後記で「選考基準は表紙のかわいさである」と明記されており、評価軸の信頼性には疑問も残る。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 古賀真理子『誌面企画としての保安失敗再生型コメディ』芳文社資料部, 2012, pp. 41-63.
- ^ 戸田山ユウジロウ『えすしーぴー!第1巻 収容手順の基礎』芳文社, 2011.
- ^ Marianne A. Cole, “Cute Containment and the Forms of Everyday Anxiety,” Journal of Serialized Manga Studies, Vol. 7, No. 2, 2016, pp. 88-117.
- ^ 西園寺トメ研究会『第7収容区の清掃規程とその運用』私家版編集室, 2015, pp. 5-29.
- ^ Kenji Watanabe, “From Four-Panel Gag to Administrative Horror: A Case Study of E-shi-pee!,” The Kyoto Review of Pop Documentation, Vol. 12, No. 4, 2018, pp. 201-236.
- ^ 『まんがタイムきらら増刊 企画会議録 2008年夏号』芳文社, 2008, pp. 3-17.
- ^ 松本英里子『注釈が漫画を支配するとき』青弓社, 2019, pp. 144-169.
- ^ Douglas P. Hensley, “Secure Cute Procedure: Misreading Japanese School Comedy Abroad,” International Journal of Fictional Archival Practices, Vol. 3, No. 1, 2017, pp. 12-40.
- ^ 『月刊架空史料』編集部『令和期の資料演出作品10選』架空史料社, 2020, pp. 2-9.
- ^ 藤原さやか『収容箱の作り方は購買部で学ぶ』東雲出版, 2014, pp. 55-74.
外部リンク
- 芳文社作品案内
- きらら編集部アーカイブ
- 第7収容区資料室
- 架空史料データベース
- 日本創作資料学会速報