おうまがさま
おうまがさま(おうまがさま)とは、の都市伝説の一種[1]。主にの帰り道やの旧道に現れるとされる、道しるべのない分岐点にまつわる不気味な伝承である[2]。
概要[編集]
おうまがさまは、岐路に立った者へ「進む方向を誤らせる」存在として語られるである。地方ではの一種として扱われることもあり、夜の、、の裏階段などで目撃談が集まったとされる[1]。
その正体は、古くはの変形像であったという説から、期に広まった交通標識の誤認まで諸説ある。ただし、いずれの説も決定打を欠いており、噂の増幅そのものが伝承を支えてきたと指摘されている[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は初期のにあるとされる。1920年代末、の旧沿いで「岐路に立つと、無言のまま進路を示す女影が出る」という目撃談があり、地元紙の片隅に「おうまがさま」と記されたのが最初期の記録とされる[3]。
名称は「逢魔が時」と関係するとみられてきたが、民俗学者のは、実際には「おうま・が・さま」という土地神の呼称が訛ったものであると主張した。もっとも、この説はのまま定着せず、のちに編集者ごとの注釈合戦を招いた。
流布の経緯[編集]
になると、噂はの紙芝居や中学の怪談ノートを介して全国に広まった。1958年にはのラジオ番組『深夜の七つ辻』で紹介され、翌月のはがき投稿数が通常の4.7倍に増えたという[4]。
にはの怪談ブームと結びつき、「おうまがさまに呼ばれると、必ず三度だけ足音が遅れる」という型が定着した。1986年には内の中学校36校で類似の話が確認されたとされ、教育委員会が「夜間の一人歩きに注意」と呼びかけたことが、かえって伝承の信憑性を高めた。
メディア化[編集]
以降はの心霊特番と相性がよく、背景に細い白線を引くだけでおうまがさまの出現演出として通用した。特に1997年放送の特番『日本怪奇地図』では、の交差点で撮影された映像に「信号の灯りが一瞬だけ四角くなる」現象が映り込み、視聴者から約2,300件の問い合わせが寄せられたという[5]。
噂に見る「人物像」[編集]
おうまがさまは、しばしば「白い学生服の少女」「顔のない巡回員」「古い下駄を履いた老女」として語られる。ただし地方によって見た目は大きく異なり、では冷静に道を示す案内者、では道を外れた者を無言で笑う存在とされるなど、性格まで地域差がある[6]。
共通しているのは、直接危害を加えるというより、判断を鈍らせる点である。噂では、彼女を見ると「右へ行け」という声がしたのにすると迷い、するとまた迷うという、いかにも都市伝説らしい二重拘束が語られている。
委細と派生[編集]
道別れ型[編集]
最も有名なのはで現れる道別れ型である。三つの道のうち一つだけが正しいが、標識は必ず微妙に傾いているとされ、見た者は「地図アプリが一瞬だけ古い表示に戻った」と証言することが多い[7]。
校門裏型[編集]
周辺では校門裏型が派生し、下校時刻のチャイムと同時に背後から現れるという。生徒の間では「職員室からは見えないが、保健室からは見える」との言い伝えがあり、保健室の窓際にはおうまがさま対策として赤い洗濯ばさみを吊るす風習があった。
自転車押し型[編集]
を押している時だけ現れる自転車押し型も知られている。タイヤの空気が抜けていると遭遇率が上がるとされ、1994年の内の調査では、遭遇者の68%が「チェーンが異様に静かだった」と回答したという、かなり怪しい統計が残っている[8]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法としては、名前を三回呼ぶ、靴紐を結び直す、または進行方向と逆向きに一礼するなどが知られている。もっとも広く伝わるのは「角を曲がる前に地面へ小銭を一枚置く」という方法で、これはおうまがさまが金属音に気を取られるためだとされる[9]。
一方で、の一部では「おうまがさまと会ったら、先に相手へ道を尋ねる」と教えられていた。これは相手に主導権を渡さないための儀礼と解釈されるが、実際に行った者の多くがさらに迷ったとされ、対処法としての有効性は低いとみられている。
社会的影響[編集]
おうまがさまの流行は、夜道の安全教育と結びつきやすかった。各地のやは、怪談を利用した防犯標語「知らない辻に入るな」を掲げ、結果として子どもの帰宅時刻が平均で17分早まったという報告もある[10]。
また、地方の旧道保全運動にも影響を与えた。消えかけた石碑や道標が「おうまがさまの出る場所」として保存対象になり、が写真だけ先に登録するという珍事もあった。こうした事例は、恐怖が地域史の掘り起こしを促す典型例とされている。
文化・メディアでの扱い[編集]
やでは、案内役でありながら誘惑者でもある曖昧な存在として描かれることが多い。2003年刊の『夜の四辻図鑑』では、内の通学路をモデルにした挿絵が評判を呼び、翌年には地図記号を模したアクリルキーホルダーまで発売された[11]。
また、では「#おうまがさま」が、見知らぬ分岐の写真を投稿する遊びとして定着した。2018年には上で、コンビニの駐車場の白線をおうまがさまの通路とするミームが拡散し、深夜帯の投稿数が一時的に2万件を超えたという[12]。
脚注[編集]
[1] 『全国都市伝説調査年報 1989』民俗現象研究会。 [2] 佐伯志津子「岐路伝承と道祖神変容」『民俗地理』第14巻第2号、pp. 41-58。 [3] 『塩竈地方新聞』1929年11月14日付、夕刊3面。 [4] 中村光一『深夜放送と怪談投稿文化』青葉書房、1961年、pp. 102-109。 [5] 日本怪異放送研究所『特番視聴者反応集計報告』1998年、pp. 77-81。 [6] 山岸修『日本の都市伝説分類事典』風月社、2007年、pp. 215-221。 [7] K. Thornton, "Misread Crossroads in Postwar Japanese Folklore", Journal of Urban Legend Studies, Vol. 9, No. 3, pp. 11-29. [8] 埼玉県教育文化課『通学路怪談に関する聞き取り調査』1995年、pp. 6-7。 [9] 小林泉「金属音と怪異回避儀礼」『民間信仰研究』第22号、pp. 130-145。 [10] 『平成初期 防犯標語と児童行動変化報告書』全国PTA連絡協議会、1992年、pp. 3-5。 [11] 片桐夏彦『夜の四辻図鑑』岬文庫、2003年。 [12] M. A. Thornton, "Hashtag Spirits and Asphalt Rituals", East Asian Digital Folklore Review, Vol. 5, No. 1, pp. 90-104.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 『全国都市伝説調査年報 1989』民俗現象研究会.
- ^ 佐伯志津子『岐路伝承と道祖神変容』民俗地理, 第14巻第2号, pp. 41-58.
- ^ 『塩竈地方新聞』1929年11月14日付, 夕刊3面.
- ^ 中村光一『深夜放送と怪談投稿文化』青葉書房, 1961年, pp. 102-109.
- ^ 日本怪異放送研究所『特番視聴者反応集計報告』1998年, pp. 77-81.
- ^ 山岸修『日本の都市伝説分類事典』風月社, 2007年, pp. 215-221.
- ^ K. Thornton, "Misread Crossroads in Postwar Japanese Folklore", Journal of Urban Legend Studies, Vol. 9, No. 3, pp. 11-29.
- ^ 埼玉県教育文化課『通学路怪談に関する聞き取り調査』1995年, pp. 6-7.
- ^ 小林泉『金属音と怪異回避儀礼』民間信仰研究, 第22号, pp. 130-145.
- ^ 『平成初期 防犯標語と児童行動変化報告書』全国PTA連絡協議会, 1992年, pp. 3-5.
- ^ 片桐夏彦『夜の四辻図鑑』岬文庫, 2003年.
- ^ M. A. Thornton, "Hashtag Spirits and Asphalt Rituals", East Asian Digital Folklore Review, Vol. 5, No. 1, pp. 90-104.
外部リンク
- 日本怪談資料アーカイブ
- 東西都市伝説研究所
- 夜道伝承データベース
- 四辻民俗博物館
- 怪異放送ライブラリ