おにぎりの著作権
| 名称 | おにぎりの著作権 |
|---|---|
| 別名 | 握り飯表現権、三角飯権 |
| 分野 | 著作権法、食文化、家庭料理史 |
| 提唱時期 | 1958年頃 |
| 主要論点 | 形状、具材配置、海苔の巻き方、手水の痕跡 |
| 管轄とされた機関 | 文化庁 著作物様式審査室 |
| 有名な事件 | 新宿三角むすび仮処分事件 |
| 影響 | 弁当産業の意匠競争、家庭内レシピの秘匿化 |
| 象徴的存在 | 梅干しの位置をめぐる『中心主義論争』 |
おにぎりの著作権(おにぎりのちょさくけん)は、においてを三角形または俵形に成形した食品表現に付与されるとされる権利概念である。の家庭料理雑誌を端緒に議論が始まったとされ、のちにとの境界事例として知られるようになった[1]。
概要[編集]
おにぎりの著作権とは、同じを用いた料理であっても、形状や構成、さらには握り手の癖にまで独自性が認められるという、きわめて日本的な権利観念である。一般には30年代に一部の料理研究家が唱えた仮説として扱われるが、のちに内の百貨店催事や弁当業界の内部文書を通じて半ば制度的に流通した。
もっとも、実際には法的に確立した制度ではなく、家庭料理のレシピをめぐる慣習、商標、意匠、ノウハウ保護の境界が曖昧なまま肥大化した文化現象であるとする見方が有力である。なお、握りの圧力を前後に保つと「再現可能性が高い」とされたが、その測定法についてはとされることがある。
歴史[編集]
戦後家庭料理研究会と初期の議論[編集]
起源は、の貸会議室で開かれた「家庭料理の図像化に関する懇談会」に求められることが多い。この会合では、系の料理記者であったが、弁当写真の無断転載をめぐる苦情に対し、「おにぎりにも配置の著作性がある」と発言したことが転機となったとされる。
翌には、の前身にあたる文部省文化課が、食品写真における構図保護を検討したという内部メモが見つかっているが、原本は紛失しており、現在は写しのみが流通している。これにより、具材の中心位置、海苔の重なり幅、塩の粒度まで権利の対象になりうるという理解が一部で広まった。
新宿三角むすび仮処分事件[編集]
最も有名なのはの「新宿三角むすび仮処分事件」である。これはの駅前デパートで販売された「白梅おむすび」が、先発商品の「角田式三角握飯」と酷似しているとして、販売差止めが申し立てられた事案である。審理では、裁判所が「三角形一般は自然界に広く存在するが、頂点の丸みが未満の場合は独自の鑑賞体験を与える」と述べたと伝えられるが、この一節は判決要旨に存在せず、後年の週刊誌が拡大解釈したものとみられている。
ただし、この件をきっかけに、弁当業者の間で「おにぎりの著作権表示」と称する独自ラベルの貼付が流行し、のちのにはが「形状類似紛争の予防指針」を刊行するに至った。ここで初めて、海苔の縦巻き・横巻き・半月巻きが半ば類型化され、店ごとの“作法”として共有されたのである。
学術化と行政文書への浸透[編集]
に入ると、の比較文化研究室やの食生活史講座で、おにぎりの著作権が「再現可能な家庭内創作物」の代表例として扱われるようになった。特に准教授は、1986年の論文で「具材の非対称配置は人格権に近い」と論じ、学生からは半ば伝説的な扱いを受けたという。
また、が1989年に作成したとされる『弁当文化保全に関する覚書』では、米粒の立ち具合を測定するために、単位の定規を用いる試験案が記載されていた。もっとも、同文書には実際には存在しない「海苔の敬礼角度」という項目があり、官僚文書としてはやや異様である。
理論[編集]
おにぎりの著作権をめぐる理論は、主に「形状説」「手技説」「儀礼説」の3つに分かれる。形状説は、三角形、俵形、俵に近い六角形などの外形に創作性を見いだす立場であり、の食品法学者が支持した。
手技説は、握る速度、手の湿り気、塩の散布順序にこそ個性が宿るとする見解である。一方、儀礼説は、台所での沈黙、炊き上がり後の蒸らし時間、子どもが海苔を勝手に食べないよう見張る行為まで含めて一つの著作物とみなすため、家族法との接続が避けられない。
とりわけ論争的なのは「梅干し中心主義」である。これは梅干しが中心から2ミリずれると作品の同一性が崩れるとする説で、の老舗米穀店が独自に掲げた基準が、いつのまにか学会発表の引用元として定着した。
社会的影響[編集]
この概念は、弁当店のみならず、家庭内でも思わぬ影響を及ぼした。ある調査によれば、時点で首都圏の小中学生のうち約が、親の作るおにぎりを「再現許諾のない借用品」と呼んだ経験があるという。なお、この数字はの内部アンケートに基づくとされるが、回収率がだったため、学術的には慎重な扱いが必要である。
また、コンビニ業界では「類似形状を避けた楕円握り」「片側だけ海苔を残す半包み型」などの工夫が進み、にはの大手弁当工場で、1日あたりの“非侵害型おにぎり”が生産されたと報じられた。もっとも、当時の工場長は後年「単に海苔の在庫が足りなかっただけである」と回想している。
さらに、家庭教育の場では「人の家のおにぎりを真似しすぎない」という道徳が広まり、学校の家庭科ではレシピよりも“家庭の味の尊重”が強調される傾向が生まれた。これがいわゆる「おにぎり著作権教育」である。
批判と論争[編集]
批判の中心は、第一におにぎりの形状に独創性を認めるのは過剰であるという法学的反論である。第二に、握り飯は人類史上きわめて素朴な食品であり、以来の連続性を考えれば、現代的な権利付与は不自然であるという歴史学的反論である。
さらに、にはで「塩むすびの縦筋が意匠か、偶然か」をめぐる公開講演会が行われたが、質疑応答が長引き、司会者が「本日は海苔の巻き方向で結論を出さない」と述べて終了した。これは後に弁当業界で名言として引用されたが、実際の議事録には残っていない。
一方で擁護派は、おにぎりの著作権は法の文字面ではなく、家庭料理の労苦や記憶を可視化するための比喩装置であると主張する。したがって、権利そのものよりも「誰が最初に握ったのか」をめぐる物語性に価値があるという点で、民俗学的意義は否定できないとされる。
現在の扱い[編集]
現在では、実際の法制度としてのおにぎりの著作権は否定されているが、料理番組、地域振興パンフレット、創作漫画などでは今なお比喩的に用いられる。特にの観光キャンペーンでは、「あなたの町の一口を守ろう」という標語とともに、地元産を用いた三角型弁当が販売された。
また、SNS上では自作おにぎりに対して「#著作権つよい」「#海苔の権利を守れ」などのタグが用いられ、半ばジョークとして定着している。2022年には、の私設資料館が「おにぎり著作権史料室」を開設し、握り手の指紋を3D保存した展示で話題となった。
ただし、同資料館の案内文には「展示品はすべて来館者の了解を得て握られた」と書かれており、現代的なコンプライアンス意識が妙に高い点が逆に注目された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 小早川澄枝『家庭料理の図像と再現性』主婦の友社, 1960.
- ^ 神田和夫「握り飯の様式と著作物性」『食文化研究』Vol.12, No.3, pp. 44-61, 1986.
- ^ 三宅冬彦『食品意匠法入門――おにぎりを中心に』有斐閣, 1991.
- ^ Margaret L. Haskins, "The Semantics of Rice Compression", Journal of Comparative Food Law, Vol. 8, No. 2, pp. 113-129, 1993.
- ^ 全国弁当工業会編『形状類似紛争の予防指針』全国弁当工業会出版部, 1981.
- ^ 文化庁著作物様式審査室『弁当文化保全に関する覚書』内部資料, 1989.
- ^ 渡辺精一郎「海苔の巻き方向と家族法の接点」『日本民俗法学会誌』第7巻第1号, pp. 5-22, 2001.
- ^ A. T. Robertson, "Onigiri and the Problem of Prior Art", Food Heritage Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 77-88, 2004.
- ^ 北原栄子『おむすびの肖像――戦後日本の昼食美学』平凡社, 2007.
- ^ 東京高等裁判所研究会編『塩むすび縦筋鑑定報告書』ぎょうせい, 2008.
- ^ 国際米文化学会『The Rice-shaped Question』Cambridge Rice Press, 2016.
外部リンク
- おにぎり著作権史料室
- 日本家庭料理法学会
- 全国弁当工業会アーカイブ
- 海苔配置研究ネット
- 三角むすび判例集データベース