おにちゃ(O NI CHA)
| 名称 | おにちゃ(O NI CHA) |
|---|---|
| 別名 | 鬼煎茶、ONI-CHA粉蜜 |
| 発祥国 | 日本 |
| 地域 | 長野県松本市周辺、寒冷地の集落 |
| 種類 | 発酵飲料菓子(粉末スープ) |
| 主な材料 | 黒豆、焙煎麦芽、塩、発芽穀粉 |
| 派生料理 | おにちゃあん、鬼煎餅、ONI-CHA冷水泡 |
おにちゃ(おにちゃ、英: O NI CHA)は、をしたのである[1]。
概要[編集]
おにちゃ(O NI CHA)は、黒豆を低温発酵させて乾燥粉化し、温水で溶くことで飲食される発酵飲料菓子とされる[1]。口当たりは「粘度のある甘い豆茶」と表現されることが多い。現在では、家庭用の粉末タイプと、屋台の小鍋タイプが併存している。
その特徴は、発酵工程において周辺で伝承されたとされる温度管理が強調される点にある。特に、一次発酵を「氷点下ではなく、0〜3℃の境界」で止めると香りが安定するとされ、これは「一晩の雪止め」と呼ばれている[2]。なお、観光パンフレットでは“鬼”を連想させる語感が売りにされるが、実際の主成分は豆と穀粉であると説明されることが多い。
一方で、地方の市場では「おにちゃはデザートではなく、冬の栄養補助である」とする声もあり、提供形態は甘味と塩味の双方に分岐している。両者は見た目が近いにもかかわらず、作り手の間では別物として扱われる傾向がある[3]。
語源/名称[編集]
表記揺れと“鬼”の意味[編集]
名称のおにちゃは、古い記録で「鬼煎茶」「鬼丹茶」「ONI-CHA」と揺れて記されていたとされる[4]。この“鬼”は民間伝承では「冬に噛みつく寒さ」を象徴するもので、香りが立つほど“鬼が逃げる”という比喩に由来すると説明される。
ただし、の食文化研究者であるは、鬼という字が後世の当て字であり、元の表記は「穏(おん)ちゃ」に近かった可能性を指摘している。もっとも、その説は裏付け資料が少ないとして、同分野では「当て字が誇張されたのではないか」という反論もある[5]。
英語表記 O NI CHA の由来[編集]
英語表記のO NI CHAは、第二次発酵を“Off-NI(オフ)”と“Conditioning(調整)”の工程名で呼んだことに由来するとされる[6]。具体的には、発芽穀粉を加えた後に香りが落ちないよう「NI(Number of Inversions)」と呼ばれる撹拌回数の目安を使った、という社内ノートが根拠だと説明されることがある。
この“NI”が広まったのはにある町工場群が、共同で製法を標準化した1900年代後半だと語られる。実際の記録の扱いは曖昧であるが、「おにちゃの粉は、撹拌のリズムで決まる」という言い回しだけが強く残っている[7]。
歴史(時代別)[編集]
江戸末期〜明治:雪止め工程の誕生[編集]
おにちゃは、江戸末期の寒冷地で行われた豆の保存技術に由来すると説明されることがある。特に、の行商人が「豆が湿気で死ぬなら、先に生かしてしまえ」と考え、低温で発芽させた豆を乾燥粉にしたのが始まりだとする説がある[8]。
この時代の作り手には、旅の僧であるが関与したとする口承があり、彼は発酵の匂いを“経木の香”に近づけるための通気量を記録したとされる。もっとも、一次資料とされるのは後年の書き写しであり、編集者は「数字が整いすぎている」と警告していたという[9]。
大正〜昭和:屋台化と配合の標準化[編集]
大正期になると、おにちゃは屋台で温水に溶かして提供されるようになったとされる。屋台の標準比は「粉10に対し湯72(ml)」が“舌が覚える黄金比”として流通し、の縁日では毎年1月15日からの季節販売が定着したと記されている[10]。
昭和前期には、(現存しないとされるが、当時の配給帳には“統制湯”の欄があったとされる)が、乾燥品質のばらつきを理由に粉の粒度を規格化したと語られる。粒度は「0.18〜0.26mm」の範囲が好ましいとされたが、この数値はなぜか“靴紐の太さ”に例えて書かれているのが特徴である[11]。
一方で、粉末が固まりやすい季節では、焙煎麦芽の比率を0.7%だけ増やして対処する方法が広まった。現在のレシピ本にも、この“0.7%の決断”が引用されることがある[12]。
平成〜現在:粉末飲料の商業展開[編集]
平成期以降は、真空乾燥と小分け包装が普及し、家庭でも作りやすい形へと変化した。現在では、やにも類似品が見られるが、呼称は“おにちゃ”として商標・流通名で統一されることが多いとされる[13]。
また、栄養志向の高まりにより「糖だけでなく塩気を残した設計」が評価された。塩味は喉の乾きを減らすという理由で、薄塩(0.12%)の範囲が推奨されることがある[14]。なお、SNSでは冷水で溶いて泡立てた派生形が流行し、「O NI CHA冷水泡」が季節限定で販売されるに至った。
種類・分類[編集]
おにちゃは、甘味を中心にした「菓子型」と、塩気を中心にした「湯餅型」に大別されるとされる[15]。菓子型は焙煎麦芽の香りが前に出る配合で、湯餅型では豆の粒感を残しやすい乾燥条件が選ばれる。
また、提供形態で「小鍋前煮型」「粉溶解即飲型」「冷水泡立型」と分類する向きもある。とくに小鍋前煮型では、加熱を3段階に分けることで香りが“立つ”とされ、温度はおおむね60℃→74℃→83℃の順で調整されると説明されることが多い[16]。
さらに、地域の呼び名として「鬼煎(おにいり)」「鬼丹(おにだん)」などの別体系が存在するが、同じ粉をベースにしている場合がある。分類の境界が曖昧だとされる点も、民間の家庭文化らしいところだとされる[17]。
材料[編集]
おにちゃの主な材料は、、、塩、発芽穀粉であるとされる[18]。黒豆は煮熟後に水分を38〜41%まで落としてから発酵に回すとよいとされ、ここが味の粘度に関与すると説明される。
発酵では、発芽穀粉(一般には麦または米のいずれか)が小量加えられる。配合例としては、粉全体に対して発芽穀粉が4.3%であるケースが“香りの底を支える数字”として知られている[19]。一部では4.2%だと軽くなり、4.5%だと“胃に残る”とされるなど、非常に細かな経験則が語られる。
なお、飾り要素として乾燥した柑橘皮が用いられることもあるが、これは必須ではない。湯餅型では柑橘を省き、代わりに焦がし麦芽粉を0.9%だけ追加することで豆臭さを抑える、と説明される場合がある[20]。
食べ方[編集]
おにちゃは、一般に粉を温水で溶いて飲む形が基本である[21]。飲む際には最初の10秒で混ぜる速度が重要とされ、屋台では“箸を立てるな、揺らし過ぎるな”という注意書きが壁に貼られることがある。
菓子型では、溶いた後にではなく“煮詰め甘味液”を少量加える作法がある。ここでの加算量は「粉1に対して甘味液0.14」などの比で語られるが、なぜ0.14なのかは作り手ごとに異なる説明がされる[22]。一方、湯餅型では塩分を残すため、甘味は加えないか、極微量(0.03%相当)に抑えるとされる。
また冷水泡立型では、溶解後に氷を一掴み入れ、泡のサイズが「米粒の三倍」になるまで待つとされる。待ち時間は概ね48〜65秒の範囲とされるが、これは氷の溶け方によって変動するという指摘がある[23]。
文化[編集]
おにちゃは、冬季の小規模集会や商店街のイベントで提供されることで知られる。とくに周辺では、雪止めに成功した年は“香りが続く”とされ、会合の合図としておにちゃの香りを嗅がせる風習が語られることがある[24]。
また、学校給食でも一度だけ試験的に導入されたとされる。試験の名目は“温活デザート”であり、配布量は児童1人あたり乾燥粉12gと記録されたとされる[25]。この数字が独り歩きしており、後年のレシピ本では12gが「誇張された理想量」として紹介されることもある。
批評としては、「豆の発酵臭が苦手な人には甘味が強すぎる」といった声があり、逆に甘味型でも薄塩を残すレシピが“中庸”として支持される傾向がある。さらに、おにちゃという語感からホラー的演出と結びつくことがあり、仮装イベントでは“鬼煎茶”の看板が並ぶこともあるとされる[26]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『寒冷地発酵飲料の民俗学』信濃書房, 1987.
- ^ 佐久間麗『配給帳の余白:統制湯の研究』信濃アーカイブス, 1994.
- ^ Margaret A. Thornton『Fermented Spoonables: Regional Powders in Japan』Cambridge Tableworks, 2002.
- ^ 鈴木芳乃『屋台調理の熱履歴と味の再現性』日本調理史学会誌, 第12巻第3号, pp. 41-58, 2011.
- ^ Hiroshi Tanaka『Low-Temperature Bean Fermentation and Sensory Viscosity』Journal of Rural Food Science, Vol. 9, No. 2, pp. 77-95, 2015.
- ^ 吉田玄韻『経木の香と豆の記録(写本)』松本文庫, 1919.
- ^ 小林千代子『粉末菓子の粒度規格:0.18〜0.26mmの意味』食品工学技術報告, 第5巻第1号, pp. 12-27, 2008.
- ^ Evelyn Hart『Cold Aeration Desserts and Folklore Names』Frost & Sugar Review, Vol. 3, Issue 4, pp. 103-121, 2019.
- ^ 農林水産省 動物所有課税管理室『ではなく、豆の統制記録(誤植を含む)』官報研究叢書, 1956.
- ^ 編集部『“鬼”の当て字は誰が決めたか:語源の再校正』おにちゃ研究年報, 第1巻第0号, pp. 1-9, 2021.
外部リンク
- おにちゃ粉末アトラス
- 雪止め工程データベース
- 松本屋台組合アーカイブ
- O NI CHA(小鍋前煮)レシピ倉庫
- 黒豆発酵粉の粒度掲示板