くまとカニダンス
くまとカニダンス(くまと かにだんす)とは、クマの“腕ばさみ”モーションとカニの“横歩き”モーションを交互に行う舞踏遊戯を指す和製英語・造語である。〇〇を行う人はクマンカニヤーと呼ばれる[1]。
概要[編集]
「くまとカニダンス」は、サブカルチャー・ネット文化の文脈で流通した“場の温度を上げるための即興振付”として理解されている。明確な定義は確立されておらず、動画の長さ・足型・掛け声の有無などが地域(あるいはサーバー)ごとに変化している。
インターネットの発達に伴い、ダンスそのものよりも「ダンスをしたという証拠(うp)をどう頒布するか」が文化の中心に据えられたとされる。結果として、くまとカニダンスは“運動”であると同時に“配信上のジェスチャー規格”として扱われることが多かった。
定義[編集]
文化的な用法では、くまとカニダンスは「クマパート→カニパート→クマパート…」のループを基本形とする。クマパートは両腕を前方で折りたたむ動作(通称“挟み”)を指し、カニパートは床と平行に重心を移しながら横へ進む動作(通称“横歩き”)とされる。
また、くまとカニダンスの成立条件として「音源のテンポが極端に速くなく、足音が拾えるマイク距離であること」がしばしば挙げられる。テンポは概ね130〜162BPMの範囲が“踊りやすい帯”として語られ、明確な根拠は示されないもののコミュニティ内では経験則として定着した。
一方で、開始合図(秒数カウント)を必ず入れる流派も存在した。たとえば『0.5秒の沈黙→1.5秒目で挟み』のような“秒刻みルール”が投稿ガイドとして扱われた時期もあり、ルールの微差が称賛や叩きへ直結することがあった。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、2000年代後半に大学の軽音サークルが主催した学園祭の即興企画に求められるとされる。企画名は《陸上げんき学習プログラム:くまとカニ》で、当時の学生は“動物の動きを言語化することで照明係の段取りを覚えやすくする”目的を掲げていたという。
関係者の中心にいたのは、千葉県の学生サークル「蘭燈研究部」の出身者である渡辺精一郎(わたなべ せいいちろう)と、同部の非常勤講師を名乗った藤堂ミラ(とうどう みら)であるとされる。特に藤堂ミラは、ダンスを“振付ではなく合図”と定義し、歌詞のないジングルに合わせて動作を規格化した点が評価された。
ただし、その後のアーカイブ調査では当該企画の台本が残っておらず、口伝による再構成が混ざっていると指摘されている。もっとも、この“欠落”こそがのちに二次創作の余地を広げる要因になったと見る向きもある。
年代別の発展[編集]
2010年前後には、振付を「擬音」に翻訳するミーム化が進んだ。例として、クマパートを「ギュ、ギュ」と表現し、カニパートを「ズリ…ズリ…」と表現する投稿が増え、同時に“投稿テンプレ”が整備された。
2013年頃からは、動画の長さを固定した“3分縛り”が流行した。縛りの内訳は、前奏(0:30)→メインループ(1:45)→余韻(0:45)という配分が推奨され、再生時間の統計は当時のまとめサイトで集計されたとされる。ある集計では「全投稿のうち約31.7%がこの配分に一致した」と報告されているが、集計方法は明らかにされていない[2]。
2017年には、バーチャル空間での“座標ダンス”として再解釈され、足音や重心移動が見えない環境でも成立するよう手の角度だけを重視する流派が現れた。そこでは、腕ばさみの角度が「37°前後」が理想とされるなど、やけに細かい指標が信仰のように扱われた。
そして2019年以降、インターネット普及後の分岐として「音なしでも成立」「効果音だけで成立」などの派生が増殖し、結果として“くまとカニダンス”は一つの振付というより、投稿時の合図体系として広がった。
インターネット普及と“証拠”文化[編集]
普及期には、ダンスそのものの上手さより「その場で踊った」証拠を残す行為が重視された。証拠の形式として、壁の時計を画面端に入れる、窓の反射に自分の影を映すなどの“監査的”な工夫が推奨されたという。
この頃から、くまとカニヤーは匿名アカウントでも名乗れる肩書きとして定着した。名乗りの由来は「本人がクマでも、証拠がカニでもよい」という半ば冗談の格言にあったとされる。明確な定義は確立されておらず、しかし“名乗ったら最後まで踊る”という暗黙のルールだけは強かった。
また、まとめサイト《踊れない日に踊る》では、投稿から検出される規格一致度を点数化する試みが行われ、最終的に「規格一致度 78点以上で殿堂入り」という謎の閾値が話題になった。なお、この採点モデルの詳細は公開されなかったとされるが、ファイル共有リンクは“いつも似た名前”で配布され続けた。
特性・分類[編集]
くまとカニダンスの最大の特性は、同じ動作でも解釈が増殖する点にある。振付の厳密さより、投稿時の“説明責任(どう頑張ったかの物語)”が評価される傾向があるとされる。
分類は概ね、(1)歩行主導型、(2)腕挟み主導型、(3)効果音主導型、(4)無音ジェスチャー型の4系統に分かれると説明されることが多い。ただし明確な定義は確立されておらず、実際には「腕挟み37°流派」や「カニ横歩き45cm基準」などローカル規約が優先される。
さらに、感情表現による分類も行われた。たとえば“誇張”を強めた「よろこびカニ」や、逆に丁寧に動作を分解する「講義クマ」があり、後者では手順をテキストで添える投稿が増えたとされる。とはいえ、これらは分類というより“タグの流行”として消費された面も大きい。
日本における〇〇の普及[編集]
日本における普及では、動画投稿サイトやまとめサイトが重要な役割を果たしたとされる。特に、投稿文の定型句が文化を支えた。例として「本日の条件:床が乾いている/テンポは158BPM/今日のクマは機嫌が悪い」がテンプレとして貼られた時期があった。
また、コミュニティの形成には、地方の文化祭が擬似的な“検定会場”として機能した。東京都のではなく、周辺の中規模駅近イベントで“踊れる人が少ない”会を狙って参加者を集める動きがあったとされる。一例として、NPO法人「市民萌え体操推進機構 ほぐり隊」(仮称)を通じ、2016年にの学習センターで試験的なワークショップが開催されたという記録が紹介されている[3]。
いっぽうで、投稿が増えるほど模倣が進み、オリジナル性が問われる場面も増えた。そこで“自分語り”が盛り上がり、くまとカニダンスは運動動画というより、自己証明の形式に近づいたと指摘されている。
世界各国での展開[編集]
世界各国での展開は、日本語圏のミームがそのまま翻訳されずに輸入される形で進んだとされる。英語圏では、くまとカニダンスは“熊手の挟み”と“カニ横歩き”という説明を付けて紹介され、最終的には“誰でも名乗れる遊戯”として理解されるようになった。
米国では、ダンスが“企業研修のユーモア枠”に採用されかけた例が知られている。ニューヨークのデザインスタジオ「Harbor & Folio」による社内研修資料では、クマパートを“安全確認ジェスチャー”、カニパートを“座標移動の比喩”として置き換える案が提示されたとされる。ただし当該資料は引用元が不明であり、社内SNSのスクリーンショットが出回ったのが確認の手がかりとなった。
一方で、欧州では“動物擬態の手話芸”として扱う動きがあり、フランスのオンライン演劇コミュニティでは、効果音主導型を“舞台のテキスト化”として評価する声があったとされる。明確な定義は確立されておらず、結果として各国で似たような遊戯が勝手に派生し、“本家はどれか”が争点になった。
くまとカニダンスを取り巻く問題(著作権/表現規制)[編集]
くまとカニダンスでは、振付そのものより“音源や字幕、テンプレ文”が著作権・利用許諾の論点になりやすいとされる。とくに、効果音の擬音「ギュ、ギュ」「ズリ…ズリ…」を含む動画では、音声素材の権利処理が曖昧になりがちだった。
また、表現規制との関係も指摘されている。ある時期、児童向け配信枠で“動物を模した不適切な動作”の可能性が議論になり、配信プラットフォームの一部では「過度な腕挟み」を控える注意書きが出たとされる。このときの青少年条例担当部署がネット監視の文脈で言及したという噂も流れたが、公式文書としては確認されなかったという。
さらに、著作権以上に“代替不能な体験”の取り合いが起きたともされる。つまり、くまとカニダンスは誰でもできる一方で、投稿時の状況(床の状態、部屋の光、タイミング)が独自性として扱われ、二次利用の範囲が不透明だった。なお、著作権と利用ガイドラインの解釈はプラットフォームごとに異なるため、トラブルが起きるたびに「ガイドだけ更新して中身は変わらない」状態が続いたと報告されている[4]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「擬音化が成功を決める—くまとカニダンスの実験報告」『サブカル運動学ジャーナル』第12巻第3号, pp. 41-59, 2014.
- ^ 藤堂ミラ「合図としての振付:場の温度を上げる設計論」『ネット文化研究』Vol.8 No.1, pp. 12-28, 2015.
- ^ Sophie Nakamura「Internet-Exported Animal Mimicry in Japanese Micro-Dances」『Journal of Meme Choreography』Vol.3 No.2, pp. 77-103, 2018.
- ^ 佐藤由香「“証拠”が増やした再生—自己撮影と即興遊戯」『デジタル民族誌年報』第5巻第1号, pp. 201-226, 2019.
- ^ Harbor & Folio「Corporate Warm-up Gestures: A Kuma-Kani Mapping Proposal」『Internal Training Memo Series』, pp. 1-19, 2017.
- ^ Catherine M. Laurent「Silence Beats: The Emergence of No-Audio Meme Dances」『European Screen Studies』Vol.21 Issue 4, pp. 310-335, 2020.
- ^ 市民萌え体操推進機構 ほぐり隊「学習センターでのミーム体操検定手順(抜粋)」『地域活動記録集』第2号, pp. 55-63, 2016.
- ^ 月島レイ「タグが振付を決める—分類の政治学としてのくまとカニ」『サブカルタグ論集』pp. 9-33, 2021.
- ^ Kaito Watanabe「The 37-Degree Myth and Why It Persists」『Proceedings of the Semiotic Gym』第1巻第2号, pp. 88-101, 2022.
- ^ 中村サナ「踊れない日に踊る:まとめサイトが作った規格」『ウェブと身体の社会学』第9巻第1号, pp. 120-149, 2023.
外部リンク
- くまとカニダンス同人アーカイブ
- クマンカニヤー手順書Wiki
- 規格一致度チェッカー(非公式)
- 踊れない日に踊る編集部
- 無音型くまとカニ研究会