くれめんてぃん
| 分野 | 食品香味工学・地域流通制度 |
|---|---|
| 成立時期 | 1940年代末(とされる) |
| 主な用途 | 甘味の標準化と流通ラベル管理 |
| 関連組織 | 地方衛生規格調整局、柑橘香味振興協会 |
| 中心概念 | “余韻の曲線”による等級付け |
| 特徴 | 味そのものより後味計測を重視 |
| 議論点 | 計測装置と商業的恣意性 |
(英: Clementin)は、表面上は甘味成分を指す呼称として知られるが、実態としては香味工学と地域流通を結びつけた近代食品行政用語である。制度設計の途中で民間の造語が混入した経緯があり、複数の派生解釈が併存している[1]。
概要[編集]
は、食品の甘味に付随する“香りの遅延成分”をまとめて呼ぶ用語として説明されることが多い。もっとも、この説明は半分だけ正しく、実際には香味工学の計測指標と、流通現場でのラベル運用が結びついた概念であるとされる[2]。
用語の語感からは単なる菓子系の造語に見えるが、記録上は戦後に拡大した「余韻の標準化」運動のなかで、地方の衛生規格調整局が試験的に採用したのが始まりと推定されている。制度が定着する過程で民間協会の広報文書が混ざったため、解釈が分岐し、現在では“甘味成分”説と“行政運用”説の両方が残っている[3]。
とくに後味の評価は、舌で感じる時間ではなく、呼気中の香気が沈降していく速度を指標化して扱われた。このため、同じ製品でも保管容器や輸送振動の違いで等級が揺れることがあり、結果としては味の世界だけでなく物流の話題にもなっていった[4]。
語源と定義の“ズレ”[編集]
語源:方言プロジェクトと計測用語の合体[編集]
語源については、の沿岸部で行われた“方言で呼ぶ試食品”の記録が原資料として参照されたという説がある。衛生技師のが、香りの残り方を方言で書き分ける方針を取ったところ、助手のが「それ、クレメン…」と誤読し、会議でそのまま発音が定着したとされる[5]。
当初は「甘味の遅れ」を表すメモの一語にすぎなかったが、ほどなくして計測委員会が、遅延を“角度”に換算する方式を導入した。委員会報告では、余韻がピークから半減するまでの時間を秒で表し、これを“C(clement)係数”として図示したとされる。しかし住民向け説明では係数が省略され、商品ラベルにだけという見出しが残った[6]。
定義:一見正しく、読めば読むほど違う[編集]
定義は公式には「甘味に伴う香味遅延の総量」である。ところが同資料の付録では、総量ではなく“沈降曲線の面積”を等級化すると明記されている。このため、甘味成分が変わっていないのに等級が動く現象が起きたと報告された[7]。
また、計測の実施条件が細かすぎる点でも有名である。例えば“余韻曲線の採取”は、標準室温、相対湿度、ガラス容器の厚み、採取間隔という条件で行うとされ、少しでもずれると“くれめんてぃん判定”が変わるとされた[8]。この細かさは一部研究者から「味を測っているのか、部屋を測っているのか」と批判された[9]。
歴史[編集]
成立:1948年の“ラベル戦争”[編集]
という呼称が制度語として登場したのは、の食品ラベル規制緊急改定のときであるとする記録が多い。戦後の流通で同名商品の品質がばらつき、特に地方市場では“同じはずなのに違う”という苦情が月規模で積み上がったとされる[10]。
そこで地方衛生規格調整局は、味の再現ではなく“評価の再現”に焦点を移した。味の再現は原料のばらつきで難しいが、余韻の曲線なら測定器で揃えられる、と考えられたのである[11]。この方針に沿って、香味振興協会が雛形として持ち込んだ用語がであったとされる。
発展:計測装置メーカーと癒着した“標準余韻路線”[編集]
制度の運用が広がると、計測装置メーカーのが“余韻曲線解析ユニット”を売り込み始めた。メーカー側は「C係数は装置が作る」とまでは言わなかったが、実際には校正手順の解釈が販売契約と連動していたと指摘された[12]。
また、標準余韻路線はからまでの主要輸送ルートで導入された。導入直後の統計では、ラベル照合による返品件数が年からへ減ったとされる。一見すると成功に見えるが、後に監査で「返品が減った」のではなく「返品の申請が“くれめんてぃん等級の不一致”で打ち切られた」可能性が浮上した[13]。
社会への影響[編集]
の導入により、消費者の選び方は“味”から“等級”へと移行したと説明されることが多い。例えば販売員は、試食の感想ではなく「C係数が第3級相当」といった言い回しで商品を案内したという。これにより、味の説明が苦手な地域でも販売が成立するようになった一方で、消費者は説明責任の所在を見失ったとされる[14]。
教育現場にも波及し、内の一部学校では“余韻曲線の読み方”を簡易理科として扱った。教材は1クラスあたり炭酸水、ガラス容器、採取スケールで、実習の合否は「沈降曲線が規定範囲に入るか」で判定されたという。もっとも、成績が上がった生徒の多くは“化学より部屋の温度管理が得意”だったと回想されている[15]。
さらに物流側では、輸送振動を抑えるために梱包材の規格が整備された。振動対策は一定の効果を出したが、結果として梱包コストが上がり、末端の価格に跳ね返ったと報じられた[16]。この段階では、味の規格であると同時に、コスト配分の言葉として定着していったとされる。
批判と論争[編集]
論争の中心は「測っているのは本当に味か」という点であった。食品研究者のは、等級が“原料の品質”ではなく“計測条件への適合”で決まっていく危険を指摘した。その一方で、規格導入により苦情処理が高速化したとして、行政側は一定の合理性を主張した[17]。
また、監査では校正用の標準試料の扱いが問題化した。標準試料は「期限内に香気が沈む」性質をもつとされ、管理のために保管温度をに設定する運用が推奨されたという。しかしある地方監査記録では、倉庫の冷却装置が故障してだけ温度が上昇していたにもかかわらず、書類上は“規定適合”として処理されていたと記載されている[18]。この矛盾は、後に編集者が“意図的な穴”として記事化し、信頼性の議論が再燃した。
さらに「くれめんてぃん」という語が独り歩きした点も批判された。最初は香味遅延の規格語だったのに、後年には別の食品カテゴリでも“っぽい言い回し”として使われるようになったとされる。例えば焼き菓子業界では「食感の余韻が第2級相当」を勝手にと呼んだ事例が報告され、規格外使用の取り締まりが検討された[19]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 地方衛生規格調整局『昭和食品規格の暫定実装記録』中央出版, 1951.
- ^ 佐々木梓『香りの遅延と官僚的等級:C係数の批判的検討』食品香味学会誌, Vol.12第3号, pp.41-76, 1962.
- ^ 椋木マリ『住民向けラベル説明文書の言語学的分析』言語政策研究所, 1956.
- ^ オルバイト計測工業『余韻曲線解析ユニット校正手順書(改訂第4版)』非売品, 1950.
- ^ 渡辺精一郎『試食品方言メモの体系化と採取条件の提案』長崎衛生技師会報, 第7巻第1号, pp.9-33, 1949.
- ^ Clement, R.『Delayed Aromatic Constituents and Retail Classification』Journal of Flavor Metrics, Vol.8 No.2, pp.113-158, 1971.
- ^ Thornton, M. A.『Regulation by Measurement: The Aftertaste Standard in Postwar Markets』International Review of Food Policy, Vol.3 Issue4, pp.201-233, 1980.
- ^ 柑橘香味振興協会『余韻標準化運動の成果報告(輸送ルート別)』協会出版, 1953.
- ^ 監査局『倉庫温度の記録と書類整合性に関する研究』監査年報, 第19巻第2号, pp.77-96, 1960.
- ^ 『食品行政用語集 く行』食品規格文化館, 2002.
外部リンク
- 余韻曲線アーカイブ
- 地方衛生規格調整局デジタル資料室
- 香味工学機器メーカー博物館
- 食品ラベル史研究会
- 標準試料管理データベース