さとうもか
| 分類 | 低刺激カフェイン飲料・粉末混合飲料(呼称) |
|---|---|
| 主な流通形態 | 粉末(計量スティック)および茶葉混合 |
| 発祥とされる地域 | (喫茶店横断計量会) |
| 命名由来(諸説) | 糖度測定とモカ風味の合成語とされる |
| 関連団体 | 渋谷粉末飲料協会(通称:渋粉協) |
| 主要用途 | 集中作業時の飲用・家庭用再現レシピ |
| 代表的特徴 | 苦味立ち上がりを遅らせる配合設計 |
(さとう もか)は、日本で独自に流通したとされる「低刺激カフェイン飲料」系の呼称である。主に周辺の喫茶文化圏で用いられ、のちに即席飲料・粉末調味領域へ波及したとされる[1]。
概要[編集]
は、糖度計の数値に基づく配合と、モカ系フレーバーの香気設計を組み合わせた「飲用レシピ」全体を指す語として説明されることが多い。実際には単一のメーカー商品ではなく、のちに複数の工房・喫茶店が同名の作法を採用したことで、ひとつの“文化名”として定着したとされる[1]。
成立経緯は、1940年代末ので開催された「横断計量会」に遡ると語られる。横断計量会では、各店舗が同じ粉末比率で抽出したうえで、味覚ではなく糖度計と香気メーターの値を先に揃える運用が議論されたとされる。ただしこの会の記録には、測定器の型番が複数回すり替えられた疑いがあるとも指摘されている[2]。
なお、語感の面白さからSNS時代には「甘いのにカフェインは角が立たない飲料」という説明が広まり、家庭用の粉末セットや、喫茶店の“追い粉(ついこな)”提供にも波及した。学術的な厳密性よりも、利用者が体感する「飲みやすさ」の再現性が重視された点が、誤解を生みながらも普及を加速させたとされる[3]。
歴史[編集]
横断計量会と「糖度-立ち上がり遅延」設計[編集]
横断計量会は、の道玄坂側に点在した喫茶店の有志が、同じ豆(モカの系統と称される)を使いながら味の“立ち上がり”を揃えようとした試みとして語られる。ここで重要視されたのが、飲用3分後の後味苦味を「-12〜-8の範囲」に収めるという目標値である。いかにも技術的に聞こえるが、当時の試験記録では「-12」と「-9」が同一のページで入れ替わっていることが後年の照合作業で見つかったとされる[4]。
当事者の中心には、渋粉協の前身である「道玄坂計量研究会」がいたとされる。研究会の実務責任者は姓の企業広報担当とされるが、資料には「佐藤 もか」という愛称が同時に記されており、個人名なのか商品名なのかが曖昧になっている。結果として、配合ノートの表紙だけが先に共有され、そこに書かれた呼称が店舗を越えて広がったという説明が採られている[5]。
また、横断計量会の合意事項として「計量スティックは1本あたり 1.72g、ただし初回は1.68gで開始する」が挙げられている。この「0.04gの差」は意味があるように見える一方、当時のスティック製造ロットの許容誤差が±0.1gだったとする資料もあり、妥当性に疑義があるとされる[6]。ただし、疑義があったとしても“決め事”が物語になり、参加店の看板メニュー化が進んだ点は共通している。
粉末化ブームと渋粉協(通称)の誕生[編集]
1960年代後半、家庭での再現需要に対応するため、喫茶店側が粉末化を進めたとされる。ここで開発されたのが「二層振とう型」配合であり、カップ投入後に軽く振ると香気が遅れて立ち上がる仕組みとして売り出された。渋粉協は1974年に設立されたとされるが、設立届の受付日がのうち“2種類のカレンダー”で記録されているという奇妙な証言が残っている[7]。
渋粉協の発行した暫定規格では、抽出液の導電率を「0.82〜0.91mS/cm(室温)」に合わせることが求められた。導電率という言葉が入ることで信頼性が増したと同時に、測定器の校正を誰が担うかで地域差が固定化したとも言われる。一部の店舗では、校正液をの薬局で入手したとされるが、当時その薬局が存在したかどうかについては資料が欠けている[8]。
この時期に、の小規模工房が「もか」を“苦味抑制の相当語”として独自解釈し、糖分を下げた代わりに香り成分を増やす配合へ移行した。結果として同名でも味が分岐し、のちのユーザー間で「さとうもかは甘い派/香り派」といった“宗派”が生まれた。宗派間の論争は、渋粉協の規格改定会議(1983年)に持ち込まれ、最終的に「甘さは第1工程、香りは第2工程」として折り合いが付けられたとされる[9]。ただしその会議録には、工程の並びが逆に書かれているページがあることが知られる。
製品・作法としての「さとうもか」[編集]
は単なる飲料名ではなく、作法の束として語られることが多い。たとえば標準作法は「粉末はカップ底で 9回、次に 3秒の待ち、最後に“静かなかき混ぜ”で 12回」とされる。回数が多い分だけ儀式化し、飲用体験が“手順の再現”になった点が普及の要因とされる[10]。
一方で、粉末セットを扱う量販系の通販では、所要時間を「最短37秒」として掲載した記録がある。ここでいう37秒は、実際には“計量”に要する時間を含めており、飲用だけの時間を切り分けると 21秒前後になると当時のクレーム対応資料に書かれている。にもかかわらず広告では37秒のまま残り、後年、消費者庁相当の検討会で“計測基準のズレ”として取り上げられたとされる[11]。
味の特徴は「苦味が立つ前に香りだけが先に到達する設計」と説明されるが、成分そのものよりも、抽出過程での攪拌タイミングが支配的だとする説が有力である。つまり、粉末が同じでも“混ぜ方”が違うと別物になり、結果として利用者が自分流を編み出しやすい土壌が形成された、と整理されることが多い[12]。
社会的影響[編集]
の流行は、喫茶文化を“飲む”から“測る”へ寄せた点に意義があったと評価される。横断計量会以来、味の議論が数値の議論へ移り、糖度計や簡易香気メーターを持ち込む習慣が一部のコミュニティで広がった。これにより、飲食の趣味が工学的な趣に寄ったという指摘がある[13]。
また、受験期の集中学習での利用が促進されたとされる。1980年代には、学習塾の自習室で「さとうもか 1スティック=集中90分」のような“換算”が掲示されたという。掲示の根拠は明示されていないが、ある講師が「飲むタイミングが一定だと姿勢が揃う」と述べたことで広まったとされる[14]。ここで、集中90分の換算が後に「90分ではなく88分が中央値」と修正されたという噂があるが、出典は公表されていない。
さらに、粉末化技術の波及として、調味料分野への応用が挙げられる。渋粉協の技術部が、飲料用の二層振とう型配合を応用して“香り遅延型の粉末ソース”を試作したとする記録がある。試作品はの家庭で“粉が勝手に香る”と話題になったが、販売には至らず、技術だけが隠れて広がったとされる[15]。
批判と論争[編集]
には批判もある。第一に、糖度計や導電率などの指標が、家庭環境で再現しにくい点が問題視された。渋粉協は「室温23±1℃を前提」とする推奨条件を掲げたが、利用者の実測では室温がもっとぶれるため、公式値に届かないという不満が出たとされる[16]。
第二に、語源・命名に関する混乱がある。前述の「佐藤 もか」が個人なのか、計量研究会の“愛称”なのか、あるいは単に表紙のレイアウトから生まれた仮名なのかが曖昧である。文献によっては、命名を「糖=さとう、モカ=苦味の遅延速度」といった意味論で説明しているが、論理の飛躍が大きいとして異論もある[17]。
第三に、広告表現の誇張が論点になった。通販サイトでは「わずか37秒で“苦味が消える”」という言い回しが出回ったとされるが、栄養表示の検討資料では「苦味が消えるのではなく、感じるタイミングが遅れる」という注釈が付けられていたとされる。にもかかわらず注釈が目立たず、結果として消費者が“効果”と“体感タイミング”を取り違えた、と指摘されている[11]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渋粉協規格委員会『粉末飲料の暫定規格—二層振とう型と立ち上がり遅延—』渋谷出版, 1976.
- ^ 山口玲奈『喫茶の味を数値で揃える試み』日本味覚測定学会誌, Vol.12 No.3, pp.41-58, 1981.
- ^ M. A. Thornton『Delayed-Perception Aromatics in Home Brewing Systems』Journal of Sensory Kinetics, Vol.7 No.1, pp.12-29, 1994.
- ^ 佐藤もか(編)『計量ノート残欠集:道玄坂の横断記録』道玄坂書房, 1987.
- ^ 小牧真琴『糖度計と官能評価のズレ—室温依存性の検討—』食品計測研究, 第4巻第2号, pp.77-102, 1990.
- ^ R. Tanaka『Aroma-First Texture Scheduling in Powdered Mixes』International Review of Brewing Arts, Vol.19 No.4, pp.201-214, 2002.
- ^ 渋谷区生活衛生課(資料)『市販飲料呼称に関する実態調査(試作版)』渋谷区公文書, 1999.
- ^ 北村公彦『“37秒”広告の計測基準をめぐる検討会報告』消費者表現監査年報, Vol.3, pp.88-105, 2006.
- ^ 井上怜『宗派化するレシピコミュニティ—さとうもか派の形成—』社会飲食論叢, 第11巻第1号, pp.33-55, 2012.
- ^ 架空出版社編集部『わかりやすい渋粉協用語集(第2版)』架空書籍, 2018.
外部リンク
- 渋谷粉末飲料協会 公式アーカイブ
- 横断計量会 デジタル展示室
- 二層振とう型 技術メモ(非公式)
- さとうもか 派閥年表Wiki風ページ
- 導電率で見る飲料官能(研究まとめ)