しゃっくり省

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しゃっくり省
正式名称しゃっくり省
英語名称Hiccup Ministry
設置年1912年
廃止年1978年
所在地東京都千代田区霞が関
所管反復性横隔膜振戦の予防・鎮静・統計
前身内務省臨時呼吸補整掛
後継厚生省生活音対策室
予算規模昭和41年度で約3億8,400万円

しゃっくり省(しゃっくりしょう、英: Hiccup Ministry)は、東京都霞が関に置かれたとされる、日本のしゃっくり対策を統括する行政機関である。主として反復性横隔膜振戦の抑制、発生予測、および「公的場面での突発的しゃっくり」への緊急対応を所管したとされる[1]

目次
1概要
2歴史
2.1創設の背景
2.2全盛期
2.3廃止と後継
3組織構造
4政策と手法
5社会的影響
6批判と論争
7資料と研究
8脚注
9関連項目

概要[編集]

しゃっくり省は、明治末期から昭和後期にかけて存在したとされる中央行政機関である。公式には「生理現象の急性社会化」に対処するための省庁と説明され、実際には官庁の会議、国会答弁、鉄道旅客、学校給食時の突発事案を対象に、しゃっくりの発生を統計的に減らすことを目的としていたとされる。

その性格上、内務省厚生省運輸省文部省の所掌が部分的に重複し、各省のたらい回しを避けるために新設されたというのが通説である。ただし、当時の官報には「呼吸整斉ノ便宜ヲ図ル」という曖昧な文言しか残っておらず、設置理由の大半は後年の回想録に依拠している[2]。なお、役所内では「ヒック」と発声しただけで始末書が必要とされたとの伝承がある。

歴史[編集]

創設の背景[編集]

創設の契機は1911年冬、東京駅開業準備に関与した技師・渡辺精一郎が、式典中に十七回連続のしゃっくりを起こし、祝辞が3分40秒遅延した事件であるとされる。これにより「国家儀礼における反復性横隔膜振戦は、単なる個人の不調ではなく、行政上の時間損失である」という認識が広まった。

1912年内務省に臨時呼吸補整掛が設けられ、初代掛長の大友兼吉は、京都の寺院で用いられていた驚愕法、横浜港の船員が用いる水飲み法、さらには陸軍で密かに行われていた「九九を逆順で唱える法」を収集した。これらの民間療法を標準化した結果、のちの省令「しゃっくり鎮静手続細則」が成立したとされる。

全盛期[編集]

戦前から戦後直後にかけて、しゃっくり省は最盛期を迎えた。特に昭和18年には、全国の官庁・学校・病院・旅客船から月平均4,600件の申告があり、うち62%が「発生時刻を記録し損ねたため再調査」となっている。

この時期、省は東京・丸の内の仮庁舎に加えて、大阪名古屋広島に「静息出張所」を設置し、駅弁の掛け紙にまで啓発標語を刷り込んだ。標語の一つ「急いで飲むな、まず止まれ」は、1950年代の国民標語としてしばしば引用されたが、実際の配布枚数は12万7,300枚で、回収率はほぼ不明である[3]

廃止と後継[編集]

1970年代に入ると、予算の重複と所掌の曖昧さが問題視され、1978年の行政整理で廃止された。最終的な廃止理由は「同種の事案が厚生行政に吸収可能であること」「各省庁からの苦情が年間81件に達したこと」とされるが、実際には庁舎内での会議がしゃっくり発生の実地研究を兼ねてしまい、意思決定が進まなかったという指摘もある。

後継機関である厚生省生活音対策室は、しゃっくりだけでなく、くしゃみ、せき払い、独り言のような「生活音一般」を扱う部署として再編された。しかし、元職員の証言によれば、書類の件名は最後まで「ヒック案件」で統一されていたという。

組織構造[編集]

しゃっくり省の本省は、霞が関合同庁舎旧別館の三階に置かれ、内部は「予防局」「鎮静局」「統計局」「教育啓発課」の四局体制であったとされる。特に統計局は、しゃっくり発生の原因を「空腹」「笑い」「驚愕」「酒席」「その他」に分類し、1964年版白書では「その他」が41.8%を占めたため、分類の妥当性が国会で問題になった。

また、庁内には独自の職階として「一等止め役」「二等止め役」「記録止め役」が存在したとされる。彼らは会議中に職員がしゃっくりを起こすと、手順書第14号に従い、湯飲み、砂糖、水、驚かせ役の順で対応した。なお、驚かせ役は総務局からの兼務であり、毎月の任命通知により精神的負荷が高かったという[4]

政策と手法[編集]

しゃっくり省が採用した政策は、医学・心理学・儀礼工学の折衷であった。代表的なのは「七拍停止法」「逆名唱和法」「水面視認法」の三つで、いずれも官庁内の実験で一定の成功を示したとされる。とくに七拍停止法は、七拍ごとに息を止めることで反復性横隔膜振戦の連鎖を断つというもので、1958年の省内試験では成功率78.4%、再発率11.2%と報告された。

一方で、全国の小学校に配布された「しゃっくり静止カード」は効果が限定的で、カードの裏面に印刷された「静かに三度うなずくこと」が児童の笑いを誘い、かえって症状を誘発したとの報告がある。また、鉄道車内での啓発放送は、車掌の声量が大きすぎて驚愕法の副作用が頻発し、国鉄からは「実害はないが落ち着かない」と評価された。

社会的影響[編集]

しゃっくり省の存在は、日常語にも影響を及ぼした。たとえば「省にかける」は、緊急時に誰かを落ち着かせることを意味する官僚隠語として広まり、1970年代には東京都内の会社員の間でも用いられたとされる。また、結婚式や式典では、来賓が緊張でしゃっくりを起こすことを避けるため、乾杯前に必ず2分間の無音を置く慣行が生まれた。

教育面では、文部省との合同で「生活音と公的品位」に関する副読本が作成され、1967年時点で全国1,284校に配布された。もっとも、実際にはその多くが保健室の棚に積まれたままになり、翌年度の調査では38校しか所在確認できなかったとされる。こうした不完全な普及も含めて、同省は「日本の細やかな行政文化の象徴」として研究対象になっている。

批判と論争[編集]

しゃっくり省は、設置当初から「行政の肥大化を象徴する奇書的存在」と批判された。とりわけ帝国議会では、「しゃっくりは人の自然な反応であり、国家が介入するのは過剰である」という意見と、「自然な反応だからこそ国家が介入すべきである」という意見が激しく対立した。

また、1961年に公表された「全国しゃっくり地図」は、都道府県別の発生率を算出したとするが、青森県沖縄県で異常に低く、集計方法に「冬季に凍結したため申告が減った」「海上輸送中の症例が未記載だった」などの説明が付されたため、統計の信頼性が問題になった[5]。一部の医師からは「しゃっくりを省で扱う前に、まず書類のしゃっくりを止めるべきだ」と皮肉られている。

資料と研究[編集]

現在、しゃっくり省に関する研究は、国立公文書館東京大学医学史研究室、および一部の民俗学者によって進められている。特に1977年の内部文書「止息日誌」は、職員の勤務記録と症状記録が混在しているため史料価値が高いとされるが、文中の「本日、課長が三回、机に向かってしゃっくり」といった記述は解釈が分かれている。

また、静岡県の旧旅館で発見された「しゃっくり省予算手帳」には、紙面の余白にまで経費が書き込まれており、昭和44年度の旅費として「水一杯、驚き一回、反省二回」と記されていた。これが実際の会計処理であったかは不明であるが、少なくとも当時の職員が異様に几帳面であったことはうかがえる。

脚注[編集]

脚注

  1. ^ 渡辺精一郎『帝都呼吸行政史』霞ヶ関出版、1969年.
  2. ^ 大友兼吉『しゃっくり鎮静手続細則解説』内務行政研究会、1938年.
  3. ^ Margaret L. Thornton, "A Comparative Study of Hiccup Ministries in East Asia", Journal of Bureaucratic Medicine, Vol. 12, No. 3, 1974, pp. 201-229.
  4. ^ 佐伯直人『生活音と国家—昭和期の静音政策—』日本評論社、1981年.
  5. ^ Harold J. Whitcombe, "On the Fiscal Burden of Sudden Diaphragmatic Reflexes", Proceedings of the Royal Society of Administrative Science, Vol. 8, No. 1, 1959, pp. 44-67.
  6. ^ 『全国しゃっくり地図 1961年度版』しゃっくり省統計局、1962年.
  7. ^ 高橋美津子『驚かせ役の心理学』新潮選書、1972年.
  8. ^ Yasuo Kanda, "The Public Management of Hiccups and Other Small Emergencies", Asian Journal of Civic Symptoms, Vol. 5, No. 2, 1968, pp. 88-114.
  9. ^ 『止息日誌』しゃっくり省内部資料第17号、1977年.
  10. ^ 村上栄一『官庁の笑いと沈黙』中央公論新社、1990年.

外部リンク

  • しゃっくり省アーカイブ
  • 帝都生活音研究所
  • 霞が関行政史資料館
  • 全国静息推進協議会
  • 反復性横隔膜振戦史料データベース
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