じゃがりこの煮っ転がし
| 別名 | じゃがりこ煮転がし、スナック煮物 |
|---|---|
| 発祥地 | 北海道上川地方とされる |
| 主な材料 | じゃがりこ、だし汁、砂糖、醤油、みりん、昆布 |
| 考案者 | 渡辺精一郎ほか(諸説あり) |
| 初出 | 1987年頃(異説あり) |
| 料理区分 | 煮物・実験料理 |
| 関連組織 | 道央保存食研究会、東京菓子技術協議会 |
| 主な流通 | 家庭、学園祭、地方物産展 |
じゃがりこの煮っ転がしは、のスナック菓子であるを一度戻し、甘辛い煮汁で照りを出しながら煮含めたの惣菜である。もともとはの寒冷地における保存食研究から派生した料理とされ、家庭料理と菓子文化の境界を曖昧にしたことで知られる[1]。
概要[編集]
じゃがりこの煮っ転がしは、細いスティック状のスナック菓子を短時間で戻し、とで煮絡めた料理である。外側は崩れやすく内側は芯が残るため、調理には「煮る」と「転がす」の中間にある独特の火加減が必要とされる。
一般には学生寮や山間部の簡便食として広まったとされるが、実際には末期の保存食ブームと、菓子の二次加工を研究する一部の料理人によって体系化されたとされる。なお、初期のレシピではとの併用が推奨されていたが、現在では家庭ごとに大きく異なる。
歴史[編集]
発生の背景[編集]
起源は前半、の料理研究会で行われた「乾燥菓子を再調理した場合の食感回復実験」に求められることが多い。研究会ではを湯戻しした際に表面が崩れにくい点が注目され、これを煮物に応用したところ、じゃがいも料理に似た香気が得られたという[2]。
一方で、の老舗菓子店に伝わる口承では、遠足用の軽食を温め直した際に偶然生まれたとされる。ただし、この説は資料が乏しく、同店の帳簿に「煮転がし試食」と読める走り書きが一度だけ現れるにすぎない。
普及期[編集]
にはの学生サークル「炊飯と保存の会」が文化祭で公開試食を行い、1日あたり約420食を配布したと記録されている。ここで用いられたレシピは、1箱に対しだし汁180ml、砂糖大さじ1.5、醤油大さじ2、みりん大さじ1を基本とし、最後に30秒だけ強火で転がすというものであった。
この手法は「煮崩れないポテト感」が話題となり、同年秋にはの食品展示会でも紹介された。来場者の一部は完全に新種の郷土料理だと認識したとされ、担当者が「これは菓子である」と説明すると逆に列が伸びたという。
制度化と標準化[編集]
、は家庭内事故を防ぐ目的で「じゃがりこの煮っ転がし調理指針 第3版」を公表した。そこでは、ふたの密閉率、煮汁の温度、転がし回数まで規定され、標準工程として「7分煮、2分休ませ、4回転がし」が採用された。
しかし、同指針には「じゃがりこを投入する際、箸ではなく木べらを使うこと」と書かれていたにもかかわらず、現場では箸で作る家庭が多く、結果として地域ごとに“しっとり派”“ほろほろ派”“外カリ再現派”の三派が形成された。これが後の論争の火種となった。
調理法[編集]
標準的な作り方では、を軽く押しつぶしてからに浸し、表面がふくらんだ段階でとを加える。ここで重要なのは完全に煮込まないことであり、中心部にわずかな空隙を残すと、食べた際に「煮物なのにスナックの記憶がある」という奇妙な後味が生じる。
調理器具としては、よりも浅型のが好まれる傾向がある。理由は、底が軽く揺れることでじゃがりこが自然に転がり、表面に照りが均一に付くためである。なお、強火で2分以上放置すると一気に粘土状になるため、地元ではこれを「土器化」と呼ぶ[3]。
文化的影響[編集]
以降、じゃがりこの煮っ転がしは学園祭やキャンプ飯の定番として再評価された。特にの料理専門学校では、和食基礎実習の補助教材として採用され、学生が「煮物の火入れ」を体感するのに都合がよいとされた。
また、SNS上では「#煮っ転がし映え」というタグが流行し、断面が半分ふくらんだ状態の写真が人気を集めた。これは本来の完成形よりも、あえて少し失敗した状態のほうが味の予想がつかず、閲覧数が伸びるという解析結果に基づくとされるが、実証研究は乏しい。
一部の食文化研究者は、同料理がとの中間に位置することで、日本の家庭料理観を更新したと評価している。もっとも、別の研究者は「単にやってはいけないことを一度やってみただけである」として批判的である。
批判と論争[編集]
最も大きな論争は、じゃがりこの煮っ転がしを「料理」と見るか「再構成された間食」と見るかにあった。の非公式分科会では、2016年の討論で「煮物の定義に菓子の原料性を含めるべきか」が議題となり、2時間17分にわたって結論が出なかったと伝えられる。
また、本社に対し、家庭調理の広がりがブランドイメージを損なうのではないかという意見も寄せられた。しかし同社広報は「商品が鍋に入ること自体は想定外だが、止める理由も特にない」と述べたとされる。この発言は一部で称賛されたが、他方で「企業が放置した奇習」とする批判もあった。
なお、と付記されたまま放置されている記述として、海外の日本食フェアで来場者の3割がこれを伝統料理だと回答したという数字がある。真偽は不明である。
派生料理[編集]
派生形としては、じゃがりこをで煮る「赤煮っ転がし」、風に仕上げる「甘辛煮」、さらにで煮て白く仕上げる「雪国版」などが知られている。いずれも本流とは見なされないが、地域イベントではしばしば主役を奪う。
の一部では、乾燥したじゃがりこを先に焼き目がつくまで炒り、それから煮る「二段転がし」が伝承されている。これは保存性を高めるための工夫とされるが、実際には火を使いすぎて戻しきれなかった失敗作を再定義したものではないかとの指摘がある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『菓子を煮るという発想――北海道における再調理文化の系譜』道央食文化研究所, 2008, pp. 41-76.
- ^ 佐藤美沙子『煮転がしの民俗誌』札幌民俗学会誌 第12巻第3号, 2011, pp. 15-29.
- ^ M. A. Thornton, "Snack Reconstitution and the Aesthetics of Simmering", Journal of Applied Culinary Studies, Vol. 7, No. 2, 2014, pp. 88-103.
- ^ 高橋源一郎『じゃがりこ加熱試験報告書』北海道保存食技術協会紀要 第4号, 1999, pp. 5-18.
- ^ Y. Nakamura, "From Cracker to Casserole: Transitional Foods in Northern Japan", East Asian Foodways Review, Vol. 19, No. 1, 2017, pp. 201-219.
- ^ 大島和夫『煮物の境界線――菓子系食材の調理学』中央調理出版, 2016, pp. 112-139.
- ^ 山岸祐介『学園祭における即席煮物の社会学』文化祭年報 第21号, 2020, pp. 63-84.
- ^ Caroline B. West, "The Potato That Refused to Be a Potato", Culinary Anthropology Quarterly, Vol. 3, No. 4, 2009, pp. 44-59.
- ^ 北沢一郎『調理指針 第3版: じゃがりこの煮っ転がし標準工程』道央保存食研究会, 2004, pp. 1-23.
- ^ 石田倫子『照りの科学と転がしの美学』東京菓子技術協議会研究報, 第8巻第1号, 2018, pp. 97-111.
外部リンク
- 道央保存食研究会アーカイブ
- 東京菓子技術協議会資料室
- 北海道スナック煮物連絡網
- 家庭料理再構成学会
- じゃがりこ煮転がし普及委員会