じゃんけん一筋ジャン太郎
| タイトル | じゃんけん一筋ジャン太郎 |
|---|---|
| ジャンル | スポーツ、学園、超常バトル |
| 作者 | 三浦 玄斎 |
| 出版社 | 銀河書房 |
| 掲載誌 | 月刊コロナトーン |
| レーベル | コロナトーンKC |
| 連載期間 | 1997年4月号 - 2004年11月号 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全143話 |
『じゃんけん一筋ジャン太郎』(じゃんけんひとすじじゃんたろう)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『じゃんけん一筋ジャン太郎』は、を競技化した「拳技道」を題材とするである。単なる心理戦ではなく、指の角度、発声の抑揚、掌の湿度までを勝敗因子として扱った点が特徴で、連載当時は「家庭内の遊びを国技にまで引き上げた」と評された[2]。
作品はの架空地名にある私立を主な舞台とし、主人公・が「一手入魂」の理念のもとで全国拳技大会を目指す物語である。もっとも、作中の大会は学内行事のはずなのに毎回の後援がついており、読者の間ではその整合性のなさも含めて人気を集めた[3]。
制作背景[編集]
原作者のは、もともととを組み合わせた短編で知られる作家であったが、1990年代半ばにの逗子で行われた青年会議所の余興大会を見て着想を得たとされる。そこで発表された即席の「三本勝負じゃんけん」が、後の本作の原型になったという説が有力である[4]。
また、初期担当編集のは、連載会議で「主人公が毎回グーを出すだけではドラマにならない」と強く主張し、これに対して三浦が「ならばグーを“思想”にすればよい」と返したという逸話が残る。なお、この発言は後年、単行本第7巻の帯文にも引用されたが、実際には帯の文言だけが先行して独り歩きした可能性が指摘されている[5]。
作画面では、当初は地味なスポ根調であったものの、第3話以降にの気流エフェクトが導入され、以後のジャン太郎の指先は「武術というより気象現象」と評されるようになった。この演出は背景助手のが、墨汁の乾きムラを偶然利用して考案したものとされる。
あらすじ[編集]
鳩森入学編[編集]
は、幼少期から町内会の遊戯で無敗を誇り、「じゃんけん一筋」を掲げる謎の少年である。鳩森学園に入学した彼は、入学式で校長に対していきなり3連続あいこを成立させ、学園内で一躍注目の的となった。
この編では、同級生のとの初対決や、購買部のパン争奪戦をめぐる「昼休み公式戦」が描かれる。特に、1年B組の教室で行われた非公式大会では、勝者が黒板消しを独占するという奇妙な制度が採用され、以後の学園生活に深刻な影響を及ぼした。
拳技道選抜編[編集]
拳技道連盟の地区予選に参加したジャン太郎は、川越市で開催された「北関東手のひら杯」にて、審判の目測を超えた“先出し読心”を披露する。ここで登場するは、出す手そのものではなく「出すまでの間」に勝負が宿るという独自理論の持ち主であり、主人公の最大の好敵手となった。
この大会では、1試合ごとに平均14.8回の握り直しが発生したと作中で説明されており、編集部が後年公開した設定資料でも「必要以上に細かい」と評された。なお、予選会場の空調設定が23.5度に固定されていたことが勝敗に影響したとされるが、これは要出典である[6]。
全国三段戦編[編集]
全国大会は名古屋市ので開催され、参加校は過去最多の128校に達したとされる。ジャン太郎は決勝リーグで「出す前に勝つ」境地に至るが、その代償として右手の親指を一時的に使えなくなり、左手専用の変則型へ移行する。
物語はここで急速に超常色を帯び、掌から発する「気配圧」で対戦相手の手形を変形させる“掌鳴り”が導入される。読者アンケートでは賛否が割れたものの、結果的にこの奇抜な展開が単行本売上を押し上げ、累計発行部数は最終的に860万部を突破したとされている。
空手形帰還編[編集]
最終章では、ジャン太郎が故郷の漁村に戻り、祖父が隠していた“空手形の奥義書”を発見する。奥義書には、三すくみを超えて“無を出す”という記述があり、これを巡っての生活安全課まで出動する騒ぎとなった。
クライマックスでは、主人公が自身の過去の敗北をすべて肯定し、「勝つために出すのではなく、出すために勝つ」と宣言する。最終決戦の相手は、かつて幼稚園で引き分け続けた幼なじみであり、二人が合わせて41分間あいこを維持した末に物語は幕を閉じる。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、「じゃんけんは人格の最短距離」と信じる少年である。勝負の前に必ず指を温める癖があり、その儀式の長さは最長で17分に及んだ。
は鳩森学園の同級生で、理論派の戦術家である。出す手を前夜の天気予報から決めるという変わった方法を採っていたが、晴れ予報の日にだけ異常に弱かった。
は拳技道連盟の中学生チャンピオンで、作品中もっとも人気の高いライバルである。ジャン太郎との対戦時に毎回メガネを曇らせる演出があり、ファンの間では「曇りの木ノ原」と呼ばれた。
は最終章の鍵を握る人物で、作中で唯一「最初から最後までチョキしか信じていない」と明言した。彼女のチョキは「切断」ではなく「選別」の象徴として描かれ、後年の評論ではフェミニズム的読解の対象にもなった[7]。
用語・世界観[編集]
拳技道(けんぎどう)とは、じゃんけんを武道として体系化した作中の架空競技である。勝敗は3本先取制を基本とするが、地方によっては「声量」「ため息の深さ」「握り拳の礼儀」まで採点対象となる。
空手形(からてがた)は、本作における最重要概念であり、出す手を決めないまま相手の意識にだけ干渉する境地とされる。これに到達した者は、審判が手を確認する前に勝敗が確定するというが、連盟規約第12条では「説明不能な判定は再戦」とされており、運用面でたびたび揉めた。
また、作中には「掌紋気圧線」「勝負の間合いは8.2秒が理想」「グーは守備、パーは解放、チョキは思想」といった独自理論が登場する。特に「勝負前に水を飲みすぎるとチョキが重くなる」という設定は、読者の間で妙に実用的だと話題になった。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルより刊行された。第1巻は1997年9月、第18巻は2005年2月に発売され、各巻の帯には担当編集による過剰に熱い推薦文が付された[8]。
特装版として、第9巻には「勝負手帖」と呼ばれる32ページの小冊子が同梱され、そこには作中に登場しない“幻の第144話”のネームが収録された。さらに第15巻初版には、なぜかの和菓子店と提携した「勝ち飴」が封入され、後のプレミア化につながった。
なお、海外版はからに刊行されたが、英題が『Jantaro: The Rock-Paper Cicada』と誤訳され、セミが重要モチーフであるかのような印象を与えた。
メディア展開[編集]
2001年には制作によるテレビアニメ化が行われ、全52話が系列……ではなく、架空局で放送された。主題歌『ひらけ、掌』は異様にテンポが速く、1番の時点でサビが3回来る構成だったため、番組改編期の名物として語られている。
また、2003年には向けの対戦型ゲームソフト『じゃんけん一筋ジャン太郎 激闘! 鳩森学園』が発売され、発売初週売上は12,400本を記録したとされる。ゲーム版では、Aボタンがグー、Bボタンがチョキ、Xボタンが礼であり、初心者が礼を押しすぎて敗北する事故が多発した。
そのほか、舞台化、ラジオドラマ化、地域振興イベント「砧川じゃんけん祭り」とのタイアップも行われ、2000年代前半の一時期には「右手の所作が上手くなる漫画」として社会現象となった。
反響・評価[編集]
本作は連載開始当初、読者アンケートで中位を推移していたが、第27話「親指の沈黙」を境に支持を急拡大させた。評論家のは「バトル漫画の皮を被った所作教育である」と評し、別の論者は「家庭の食卓で最も揉めない競技を、最も激しいドラマへ変換した」と指摘した。
一方で、じゃんけんを「精神修行」とみなす描写については、教育関係者から「児童に無意味な右手への過剰期待を抱かせる」との批判もあった。また、連載後期に導入された“無を出す”展開は、当時のファンレターの約18%に「理解したくないが、嫌いではない」と書かせたとされる[9]。
2020年代に入ると、SNS上で「#グーを思想にする」が再流行し、短時間で1万件以上の投稿が確認されたとされる。ただし、その大半は本作未読の利用者によるネタ投稿であり、作品の読解史よりもミーム史のほうが長く語られるようになった。
脚注[編集]
[1] 『月刊コロナトーン』1997年4月号、銀河書房。 [2] 斎藤 志郎「拳技道漫画の成立と身体技法」『現代娯楽研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-57. [3] 鳩森学園後援会資料『学園行事と競技性の境界』、1999年。 [4] 三浦 玄斎『掌の民俗学』、黒曜社、2001年。 [5] 北見 恒一「連載会議メモと帯文の相互作用」『編集工学通信』第8巻第2号、pp. 11-19. [6] 砧川区体育協会『室温管理と勝敗の相関調査』、2000年版。 [7] 早乙女 玲子「チョキ表象における切断と選別」『ジェンダーと娯楽表現』Vol. 4, pp. 88-103. [8] 銀河書房編集部『コロナトーンKC刊行目録1997-2005』、2006年. [9] 岡崎 透『少年漫画における無の演出』、星雲館、2005年. [10]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 斎藤 志郎『拳技道漫画の成立と身体技法』現代娯楽研究 Vol. 12 No. 3, pp. 44-57.
- ^ 北見 恒一『連載会議メモと帯文の相互作用』編集工学通信 第8巻第2号, pp. 11-19.
- ^ 三浦 玄斎『掌の民俗学』黒曜社, 2001.
- ^ 早乙女 玲子『チョキ表象における切断と選別』ジェンダーと娯楽表現 Vol. 4, pp. 88-103.
- ^ 岡崎 透『少年漫画における無の演出』星雲館, 2005.
- ^ 鳩森学園後援会『学園行事と競技性の境界』鳩森学園資料室, 1999.
- ^ 銀河書房編集部『コロナトーンKC刊行目録1997-2005』銀河書房, 2006.
- ^ 木谷 真吾『勝負前の所作と読者参加型演出』漫画文化年報 Vol. 21, pp. 201-219.
- ^ 荒川 芳樹『掌紋気圧線の理論と誤用』体育表現学会誌 第6巻第1号, pp. 5-16.
- ^ 北見 恒一『グーは守備、パーは解放、チョキは思想』編集部内講演録, 2002.
- ^ Y. Moriyama, 'The Janken Paradigm in Late-1990s School Manga', Journal of Comparative Pop Studies, Vol. 9, pp. 73-91.
- ^ Northern Prism Press Editorial Dept., Jantaro: The Rock-Paper Cicada, 2008.
外部リンク
- 銀河書房作品案内
- 東都クローバー放送アーカイブ
- 鳩森学園同窓会資料室
- 拳技道連盟公式年鑑
- 砧川じゃんけん祭り実行委員会