そうせき
| 名称 | そうせき(Sousekia lithomucus) |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 粘礁門 |
| 綱 | 石粘綱 |
| 目 | 鱗嚥目 |
| 科 | 石粘科 |
| 属 | Sousekia |
| 種 | S. lithomucus |
| 学名 | Sousekia lithomucus |
| 和名 | そうせき |
| 英名 | Souseki Moss-Stone |
| 保全状況 | 情報不足(ただし局所的に増減が激しいと報告) |
そうせき(漢字表記、学名: 'Sousekia lithomucus')は、に分類されるの一種[1]。
概要[編集]
そうせきは、の代表種として知られ、岩の表面に粘膜状の層を形成しながら移動・採食する動物である[1]。観察例では、体表の粘層が乾燥すると半透明の「石化スライム」状になり、足跡が数日単位で残ることが記録されている。
初期の記録はの断崖地帯での漁網回収作業に紐づけられており、漁師が「網が石みたいに固まる」と訴えたことから、1890年代後半に自然史系の官報へ言及が集約されたとされる[2]。ただし後年の再調査では、固化現象はそうせきの体表粘層が網目の隙間で乾いた結果であったと説明されている[3]。
分類[編集]
そうせきは、に属し、喉の奥に「嚥嚢(えんのう)」と呼ばれる可逆的な貯留器官を備える系統としてまとめられている[4]。この嚥嚢は、食性が変化する時期に合わせて粘層の粘度を調整する装置だと考えられている。
また、石粘科には複数の近縁群が含まれるが、そうせきは「層形成の周期性」によって区別されることが多い。具体的には、観察地では春先に体表粘層が薄くなり、雨天が続くと厚くなる傾向があると報告されている[5]。
分類学史では、最初期に「岩場の藻」と誤認された経緯があり、研究者のが標本を“生物らしさの薄い付着物”として扱ったことが、後の誤差を固定化したとされる。のちにのチームが、微細な繊毛配列を根拠に動物として確定したとする文献がある[6]。
命名の経緯[編集]
学名の語源は、保存液から発見された個体の粘層が「石のように伸びる」ことに由来すると記載されている[7]。一方で、別説として、採集担当者が宿帳に書いた手書きの判読ミスで“そうせき”が先に定着した可能性も指摘されている[8]。
系統位置の揺らぎ[編集]
鱗嚥目内の位置については、粘層の成分が海産藻の二次代謝物に似る点から、と近い系統だと主張する研究者もいた[9]。ただし、その根拠は後に同位体分析のサンプル汚染が原因だったと見直され、現在は動物側の特徴が優勢とされている[10]。
形態[編集]
そうせきは体長が平均約14〜22cmの個体が多いとされるが、成熟個体では最大で約31cmまで達するという観察がある[1]。体表は鱗状の隆起で覆われるものの、乾燥時には隆起が粘層と一体化し、触ると「石の縁が丸くなった」ような硬さを示すとされる[3]。
嚥嚢は胸部背側に配置され、餌を嚥下するたびに体表粘層の色が一段階だけ変化することが観察されている。報告された色相変化は、観察器材の校正値に基づき「登録された橙がかった黄から、同じ橙がかった黄でも彩度が12%低下」といった細かい数値で記述された[5]。
また、そうせきの足は筋肉繊維が少なく、代わりに粘層の表面張力差を利用して前進するタイプとして分類される。乾いた岩の上では速度が落ちる一方、湿度が高い沿岸では活動時間が延長する傾向が示された[2]。
分布[編集]
そうせきは、の沿岸岩場を中心に分布するとされる。ただし分布は一様ではなく、同じ県でも海岸線の“微妙な潮位差”が一致する場所に偏るとする説明がある[11]。
具体例として、の東部断崖から南西部の低温多湿域にかけて、断続的な目撃記録が整理されたとされる[2]。一方、の人工海岸では定着個体が現れたものの、冬期の塩分濃度が原因で繁殖に失敗したと推定されている[12]。
分布地図の作成では、研究者が現場の漁協名簿と照合し、「そうせきの網固化が毎月第2金曜日に多い」という統計を作ったことがある。もっとも、その月次パターンは漁の出航時刻の変更に連動していたという指摘もあり、分布推定の妥当性は議論が続いている[13]。
生態(食性/繁殖/社会性)[編集]
食性は雑食性であり、主に岩表面の微細な有機片と、体表粘層上に付着する微生物群を摂食することが観察されている[1]。観察個体では摂食後、粘層が一定時間だけ“薄膜のまま”維持され、その後に厚みを増して排泄物と混ざることで再利用されるとされる[6]。
繁殖は春〜初夏の雨天に合わせて同期する傾向があり、卵は岩の凹みへ1つずつ配置されると記述されている。ある調査では、1回の産卵で平均7個前後、孵化までに約19〜23日を要したとされるが、気温が1℃下がるごとに孵化が約1.4日遅れるという経験則も併記されている[14]。
社会性は限定的で、そうせきは単独行動に見える一方、食糧の多い“粘層回廊”では複数個体が同じ経路を反復することがある[5]。この回廊は、前個体の粘層が次個体の足場となることで形成され、回廊の上では移動効率が最大で約18%改善したと報告されている[11]。
人間との関係[編集]
そうせきは、人間にとって厄介でもあり、同時に有用でもあるとされている。漁業では網の固化が問題視され、内の漁協が対策として「回収後すぐに海水で攪拌する」手順を導入したという記録がある[2]。この手順は当初、漁師たちが経験則として語っていたが、のちにの技術員が“攪拌回数40回以上”といった基準に落とし込んだ[6]。
一方で、研究面ではそうせきの粘層が“自己整形(じこせいけい)”する点に注目が集まり、表面加工材の試作に使われたとされる。化学系のが、そうせきの体表成分に似たポリマーを人工的に合成し、ガラスの微細亀裂を塞ぐ用途が提案された[15]。
もっとも、社会への影響には倫理的な批判もあった。特定の採集業者が、見つけた個体を写真だけ撮って戻さず、粘層を“採取資源”として売買した疑いが持ち上がったことがある。これに対しは、そうせきが「岩場の微生物循環」を担う可能性を理由に採集制限を提案したが、業界は“固化による漁損”が先だと反論し、論争が長引いたと記録されている[12]。
なお、そうせきの生息地が観光化された事例では、ガイドが“見つけたら触らない”と強調したにもかかわらず、触れてしまう来訪者が翌日になって「手袋が石みたいに硬い」と苦情を出した。運営側は、粘層が反応して硬化するまでの時間が平均33分だったと公表したが、別資料では平均29分とされており、計測条件の違いが疑われている[13]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 九条瑞穂「岩場付着物としてのそうせき(鱗嚥目仮説)」『海岸自然誌』第12巻第3号, pp. 41-68, 1897年.
- ^ 田中祐介「青森沿岸における網固化現象と石粘科の関係」『沿岸漁撚学報』Vol.8 No.2, pp. 105-132, 1932年.
- ^ Katherine L. Morrow「Mucus-Silicate Coupling in Lithomucous Fauna」『Journal of Coastal Biophysics』Vol.54 No.1, pp. 12-37, 1989年.
- ^ 柳沢志摩「鱗嚥目の嚥嚢構造と運動様式」『比較形態学研究』第26巻第1号, pp. 201-239, 2001年.
- ^ 宮城琢磨「そうせき体表粘層の周期性に関する分光記録」『日本スペクトル生態学会誌』第9巻第4号, pp. 77-96, 2016年.
- ^ 佐伯恵梨香「国立地殻生物研究所の現地調査に基づく再分類」『地殻生物学年報』第3巻第2号, pp. 1-24, 1974年.
- ^ 早瀬加工研究会「石粘科粘層由来ポリマーの試作と硬化条件」『材料と現場』第41巻第6号, pp. 300-327, 2008年.
- ^ 環境庁沿岸保全室「沿岸小型地殻動物の採集制限指針案」『行政技術資料』第19号, pp. 55-73, 1999年.
- ^ Mina A. Duarte「Seasonal Synchrony of Lithomucous Reproduction in Northern Shores」『Coldwater Zoology Letters』Vol.19 No.7, pp. 551-576, 2011年.
- ^ 松岡三郎「潮位差とそうせき分布の相関——再検討」『日本地理生物学会論文集』第17巻第2号, pp. 88-109, 1968年.
外部リンク
- Souseki Field Notes Archive
- 国立地殻生物研究所 そうせきデータベース
- 沿岸漁撚学報 オンライン索引
- 石粘科 標本ギャラリー
- 比較形態学研究 収載目録