たけのこの穂波
| 分類 | 季節現象、地方菓子、竹林儀礼 |
|---|---|
| 発祥 | 京都府綾部市周辺とされる |
| 初出 | 1887年頃 |
| 関連季節 | 春分から立夏まで |
| 主材料 | 若竹、白餡、寒天、山椒灰 |
| 観測単位 | 1穂波(1列あたり12~18本) |
| 普及組織 | 日本竹文化振興協議会 |
| 別名 | 穂先返し、竹波、たけなみ |
たけのこの穂波は、の先にのみ発生するとされる、若竹の穂先が風圧で連鎖的に揺れる現象、またはそれを模した・儀礼・観測技法の総称である[1]。元来は周辺の竹林管理に付随して生じた用語とされるが、のちにと民間菓子業者の折衷的な広報運動によって全国に知られるようになった[2]。
概要[編集]
たけのこの穂波は、竹林の若芽が一斉に伸長する時期に、穂先が風と湿度差で同位相に揺れる現象として説明されることが多い。観測者の間では、これを「穂波が立つ」と呼び、の一部では豊作の前兆として扱われてきた。
一方で、同名の菓子が存在し、竹の皮で包んだ羊羹状の餡に細い寒天片を差し込んで穂先を表現するものがある。こちらは末期に京都の茶舗が試作したのが始まりとされ、のちにの春季催事で定番化したとされる[3]。
起源[編集]
竹林測量からの転用[編集]
起源は、京都府下の治山事業に関わった測量補助員・が、斜面の若竹の揺れを見て「穂先が一定の向きに並ぶ」と報告した記録に求められている。この報告書は本来、土砂崩れの予兆を読むためのものであったが、記述が妙に詩的であったため、後年に地元の記録係が民間伝承として再編集したとされる[4]。
茶会での再発見[編集]
、の茶人が、若竹を模した菓子を茶席に持ち込んだ際、客の一人が「これは穂波の味がする」と評したことから名称が定着したといわれる。なお、この逸話には異説があり、実際にはの水分量を誤って減らした結果、表面に微細なひびが入り、それを「竹林の風」と強弁しただけだという指摘もある。
菓子としての発展[編集]
昭和前期の規格化[編集]
初期には、京都との和菓子店が「穂波」の形状を競うようになり、の合同研究会で高さ8.4センチ、幅3.1センチ、穂先片数14本を標準とする非公式規格がまとめられた。これにより、穂先が13本以下だと「風が弱い」、15本以上だと「やや観念的」と評される奇妙な評価基準が生まれた[5]。
冷蔵技術との関係[編集]
以降、冷蔵流通の発達により、春先の筍皮の香りを人工的に閉じ込める技法が導入された。とくにの製菓工場では、1ロットあたり平均2.7回の「風抜き」を行うことが義務化され、熟練職人は箱を開けた瞬間の湿度変化まで計算に入れて成形したという。
異様な普及[編集]
には、の春献立資料に「たけのこの穂波風デザート」という記述が現れ、小学校の図工教材と誤認されたまま普及した。これがきっかけで、子ども向け菓子としての位置付けが強まり、竹林とは無縁のやでも地域フェアの主役になった。
観測法と作法[編集]
穂波の観測には、竹林の外縁から3歩下がり、右手で竹皮を軽く叩いて振動を待つ方法が用いられる。正式にはが定める「三拍待機法」に従い、風向・気温・聞き手の集中度の3要素を同時に記録することが推奨されている[6]。
また、春の祭礼では、穂波を見た者はその年の筍を「折らず、驚かせず、数えすぎず」に扱うべきとされる。これは過度に数えると穂先が「閉じる」と信じられているためで、の一部集落では今も観測者が8人以上集まると儀礼が中断される。
社会的影響[編集]
たけのこの穂波は、業界だけでなく、竹林整備、観光、教育にも影響を及ぼしたとされる。とくにでは、穂波の発生日を予測するために独自の「竹圧カレンダー」が導入され、観光協会が毎年約3,200枚の予報札を配布している[7]。
また、2012年にはの地域番組が穂波を取り上げたことで、一時的に「穂波を見ると就職活動がうまくいく」という俗信が広まった。これにより、春ので竹皮柄のネクタイが流行したが、翌年にはほぼ廃れた。
批判と論争[編集]
学術的には、穂波現象の大半は単なる風揺れと若芽の密度差で説明可能であるとされ、の一部研究者は「感受性の高い視認者が季節の期待を現象化したもの」と述べている[8]。一方で、地元保存会は「説明できるからといって消えるわけではない」と反論しており、この対立は長く続いている。
さらに、菓子版の穂波については、原型とされる三層構造の再現率が店ごとに異なり、の業界紙では「穂先が立ちすぎており、もはや竹林ではなく送電線である」と批判された。とはいえ、この過剰な様式化こそが穂波の魅力であるという擁護も根強い。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高橋源之助『山地測量日誌 第2巻』京都府治山課, 1888年.
- ^ 牧村翠嶺『茶席における竹趣表現』大阪和装出版社, 1902年.
- ^ 日本竹文化振興協議会編『穂波標準成形要覧 第4版』東京・竹文館, 1935年.
- ^ 中村玲子「春季和菓子における視覚的揺動の研究」『和菓子文化研究』Vol.12, No.3, pp.41-58, 1961年.
- ^ 山口修一『冷蔵流通と季節菓子の変容』新潮食文化叢書, 1971年.
- ^ 青木みどり「三拍待機法の民俗学的検討」『民俗と味覚』第8巻第1号, pp.9-27, 1984年.
- ^ H. P. Elwood, “Phenomenology of Bamboo Crest Ripples,” Journal of Applied Seasonal Studies, Vol. 7, No. 2, pp. 113-129, 1991.
- ^ 田所久美『竹林儀礼と地域観光の相互作用』京都民藝社, 2008年.
- ^ M. Thornton, “On the Predictive Calendars of Echizen-Type Bamboo Groves,” East Asian Rural Review, Vol. 15, No. 4, pp. 201-219, 2014.
- ^ 『穂波と就活ネクタイの経済学』日本季節消費学会誌 第3巻第2号, pp. 77-83, 2013年.
外部リンク
- 日本竹文化振興協議会
- 綾部穂波資料館
- 春菓子アーカイブス
- 竹圧カレンダー公開室
- 和菓子視覚民俗研究所