もちもちかちかち
| 分類 | 食感・材質評価概念 |
|---|---|
| 成立 | 1928年ごろ |
| 提唱者 | 白石兼三郎、片山トキ、ほか |
| 発祥地 | 東京府深川周辺 |
| 用途 | 菓子、紙、繊維、玩具の硬軟判定 |
| 主要機関 | 帝都食感標準協会 |
| 関連領域 | 食品工学、民俗学、包装設計 |
| 広まり | 昭和初期から全国の菓子問屋へ拡散 |
もちもちかちかちとは、食品の食感評価と機械材料の硬度試験を融合させた、日本発祥の民間分類概念である。もとは末期にの菓子職人との試験員が共同で用いた業界隠語であったとされる[1]。
概要[編集]
もちもちかちかちは、対象物が「もちもち」と「かちかち」のどちらに近いかを、触感・反発・噛断時間・指先での追従性の4指標で総合判定する慣用的な概念である。現在では主にの説明に用いられることが多いが、元来は袋の封緘具合やの乾燥状態を表すための業界語であったとされる[2]。
この語は一見すると幼児語の反復に見えるが、実際には下の菓子卸「白鳥屋」と、同じ通りにあった試験研究施設「帝都物性簡易鑑定所」の共同会話から生まれたと説明されることが多い。なお、後年の文献では「もちもち」と「かちかち」を単純に対立させるのではなく、その中間にある「ねばかち」「ふにかち」などの亜種が提案されており、分類体系は意外に複雑である。
もっとも、学術的にはの初期議事録に同語の確実な使用例がなく、成立年代については説と説が併存している。いずれにせよ、戦前の包装技術と地方菓子流通の拡大が、語の定着に大きく関与したとみられている。
成立の経緯[編集]
帝都食感標準協会の回顧録によれば、もちもちかちかちは3年、深川の寒天菓子見本市で、仕入れ担当の白石兼三郎が「これはもちもちだが、外箱がかちかちすぎる」と発言したのが語源であるという。これに同席していた計量係の片山トキが、外箱の硬さと中身の柔らかさを同時に記録するため、両語を連結した帳票記号「MMKK」を導入したのが始まりとされる[3]。
この帳票は当初、品目ごとに「もち2・かち7」のような主観的配点で運用されていたが、にの外郭団体であった「地方菓子流通改善委員会」が試験的に採用したことで広く知られるようになった。採用品目には、求肥、落雁、煎餅、紙風船菓子などが含まれ、各地の問屋が自前の判定法を持ち寄ったため、同じ商品でも地域ごとに点数が3以上ずれることがあった。
一方で、深川以外を起源とする説もあり、の港湾倉庫で輸入クッキーの輸送監査に使われたのが最初だとする説もある。ただし、この説は、初出資料とされる倉庫台帳のインク成分が戦後のものと一致することから、後世の改竄を疑う研究者もいる。
分類体系[編集]
基本の四象限[編集]
もちもちかちかちの基本体系は、縦軸に弾力、横軸に崩れやすさを置いた四象限で整理される。左上は「もちもち寄りかちかち」、右下は「かちかち寄りもちもち」と呼ばれ、実務上はこの二つが最も混同されやすい。
1930年代の講習会では、受講者が寒天ゼリーを指で押したのち、机に載せた小槌で再確認するという手順が推奨された。現在では危険性のため推奨されていないが、当時の記録写真には白手袋の係員が真剣な顔でゼリーを測定する様子が残されている。
亜種と派生語[編集]
派生語としては「もかち」「かちもち」「ねりかち」などがあり、いずれも正式な標準語ではないが、地方菓子店の掲示にしばしば見られる。特に「かちもち」は、外側が硬く内側が柔らかい類を指すことが多く、包装紙の折り目がきれいなほど高評価とされた。
また、昭和中期にはの玩具業界がこの語を転用し、木製コマの削り精度を「かちかち度」として売り出した例がある。これが子ども向け雑誌に掲載されたことで、一般家庭にまで語が浸透した。
社会への影響[編集]
もちもちかちかちは、単なる食感表現にとどまらず、包装、輸送、そして接客用語にまで影響を与えた。たとえばの試食係は、1950年代には「本品は中身がもちもち、包みがややかちかちでございます」と説明することを研修で求められたとされる。
さらに、には内の菓子団体が、過剰に柔らかい製品を「もちもち失調」、硬すぎる製品を「かちかち過剰」として注意喚起するポスターを配布した。このキャンペーンは一定の成果を上げたが、表示を見た消費者の一部が「食品なのに病名のようで怖い」と苦情を寄せたとも伝えられる。
なお、の東京オリンピック開催期には、外国人記者向けの土産菓子案内にこの表現が使われ、英訳として "soft-resilient" と "hard-crisp" が案内された。しかし、翻訳担当者が“resilient”を「逃げる性質」と誤解したため、しばらくの間、菓子がスポーツ用品の一種であるかのような説明文が流通した。
批判と論争[編集]
もちもちかちかちには、早い段階から批判も存在した。とくにの食品化学系研究者である高瀬礼一は、1967年の講演で「概念として便利ではあるが、測定者の気分に依存しすぎる」と述べ、学術用語としての採用に疑義を呈した[4]。
これに対し、帝都食感標準協会側は、測定者の気分こそが食感評価の本質であるとして反論し、むしろ体温、湿度、午前か午後かまで含めた補正係数を導入するべきだと主張した。結果として議論は泥沼化し、1969年の公開討論会では、登壇者12名のうち9名が最終的に試食に移ってしまい、決着がつかなかった。
また、1980年代にはコンビニ菓子の大量流通により、もちもちかちかちの旧来体系が若年層に通じなくなったことも論争となった。これに対し保存派は「表現が死ぬと、食感の記憶も死ぬ」と主張し、現在も一部の郷土資料館で啓発展示が行われている。
歴史[編集]
戦前[編集]
戦前期には、もちもちかちかちは主に菓子卸売の現場語として用いられた。帳簿には記号化された評価が記され、特に周辺の店では、納品後24時間以内に「もちの衰え」を再点検する慣行があったとされる。
ごろには、陸軍の糧食検査に応用されたという記録もあるが、これは保存缶詰の硬度評価に語が流用されただけで、実際に概念が採用されたかは不明である。
戦後[編集]
戦後になると、連合国軍の購買部で日本菓子を扱う際に、簡易な英語説明としてもちもちかちかちが紹介されたとする逸話がある。米兵向けの配布カードには、"Mochi-like" と "Brick-like" が併記されていたというが、カード現物は見つかっていない。
にはの製菓講習所がこの語を正式な講義題目に採用し、以後、包装紙の厚さや餅菓子の水分管理にも応用された。
現代[編集]
現代ではSNS上で、食感を誇張する文脈で再流行している。とくに、外はかちかち、中はもちもちの焼き菓子を紹介する投稿では、#もちもちかちかち のタグが一定数見られるとされる[5]。
ただし、若年層の利用は比喩的であり、古典的な四象限分類を理解している者は少ない。2022年に行われた非公式調査では、20代の回答者のうち約18.4%が「語感だけで使っている」と答えた一方、13.2%は「筋トレ器具の名称だと思っていた」と回答した。
脚注[編集]
[1] 白石兼三郎「深川菓子卸売覚書に見る食感連結語の生成」『帝都物性簡易鑑定所紀要』Vol. 2, No. 1, 1936年, pp. 14-29. [2] 片山トキ「菓子包装と触感表現の相互作用」『日本食感学会雑誌』第5巻第3号, 1941年, pp. 201-218. [3] 帝都食感標準協会編『もちもちかちかち標準判定表』私家版, 1934年. [4] 高瀬礼一「可塑性語彙としてのもちもちかちかち」『東京大学食品文化論集』第11巻第2号, 1968年, pp. 77-91. [5] 山岸夏実「SNSにおける食感二項対立表現の復活」『現代広告と食文化』Vol. 8, No. 4, 2023年, pp. 55-63.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 白石兼三郎『深川菓子卸売覚書に見る食感連結語の生成』帝都物性簡易鑑定所紀要, Vol. 2, No. 1, 1936, pp. 14-29.
- ^ 片山トキ『菓子包装と触感表現の相互作用』日本食感学会雑誌, 第5巻第3号, 1941, pp. 201-218.
- ^ 帝都食感標準協会編『もちもちかちかち標準判定表』私家版, 1934.
- ^ 高瀬礼一『可塑性語彙としてのもちもちかちかち』東京大学食品文化論集, 第11巻第2号, 1968, pp. 77-91.
- ^ 山岸夏実『SNSにおける食感二項対立表現の復活』現代広告と食文化, Vol. 8, No. 4, 2023, pp. 55-63.
- ^ 中村善之『昭和菓子流通史と包装硬度の変遷』岩波書店, 1998.
- ^ Margaret A. Thornton, 'Resilience Metrics in Japanese Confectionery', Journal of Applied Folklore, Vol. 17, No. 2, 1979, pp. 90-112.
- ^ 田所春男『菓子と木型のあいだ:触感の地方差』日本評論社, 2007.
- ^ Kenji Watanabe, 'A Brief History of Mochi-Mochi Kachi-Kachi Standards', Pacific Studies in Food Semiotics, Vol. 4, No. 1, 1988, pp. 1-19.
- ^ 小松原理恵『かちかち度の民俗学的再編成』青弓社, 2015.
- ^ Eleanor P. Grant, 'The Hardness of Softness: Notes on Dual Texture Taxonomies', Food & Society Review, Vol. 22, No. 3, 2001, pp. 33-47.
外部リンク
- 帝都食感標準協会アーカイブ
- 日本食感学会デジタル年報
- 深川菓子文化研究室
- 包装工学と民俗表現の博物館
- もちもちかちかち用語辞典