「たまたまを上下することで体のなかに入ってしまいました」現象
| 分類 | 民間説明型の都市伝説/身体行為の寓話 |
|---|---|
| 主な発生媒体 | 掲示板、深夜ラジオの投稿、地域サークルの噂 |
| 想定されるメカニズム | “通過”の言語解釈が生理感覚と結びつく現象 |
| 初出とされる時期 | 昭和末期〜平成初期にかけて急増したとされる |
| 関連語 | たまたま体験、上下ゲート、誤認内在化 |
| 典型的な“結果” | 体内への“侵入”または“取り込まれた”という自己報告 |
| 研究の所在 | 民俗言語学と笑いの認知科学の周辺(主に非学術) |
「たまたまを上下することで体のなかに入ってしまいました」現象(通称:TUUI現象)は、主に雑談文化圏で語られる自己言及的な“誤認誘導”の総称である[1]。当事者の身体操作を原因として、消失・侵入・内在化が説明される点に特徴がある[2]。
概要[編集]
「たまたまを上下することで体のなかに入ってしまいました」現象は、身体の一部を上下に動かす行為を起点として、何かが体内に移ったかのように語る説明型の逸話である[1]。
この現象は医学的実体を前提とするのではなく、言語化の勢いが感覚の解釈を固定していく“誤認誘導”として扱われる場合が多い。なお、語り口はしばしば自分でオチを作る構造を持ち、聞き手が笑うための装置として機能するとされる[3]。
Wikipedia的観点では、TUUI現象は「身体行為→結果の内在化」という因果を採用する点で、民間の因果説明体系に属する。さらに、実在の地名や行政組織名が混ざることで“真面目な報告書風”に膨らむことが多いと指摘されている[4]。
ただし、言及される“体内への侵入”は比喩として理解されることが多く、実際に何が入ったかを問うと、話者が「入ったと思っただけ」と最終的に逃げ道を用意するのが典型である。この曖昧さが、ねらいの一つとされている[2]。
成立経緯[編集]
言語遊戯としての起源:上下“ゲート”説[編集]
成立の起源として、の下町放送劇団が昭和末期に行った舞台脚本「上下ゲート・プロトコル」が挙げられることがある[5]。劇団の台本では、主人公が“たまたま”を上下に動かす動作を「誤認を確定させるスイッチ」として演出したとされる。
その後、台本を読んだ劇団員の一部が、大学のサークル掲示板に「スイッチを押すと結果が体内に“来る”」という比喩を書き込んだ。書き込みは当初「季節性の倦怠」が話題だったが、なぜか特定の語(たまたま/入ってしまいました)が定型句として定着したとされる[6]。
民俗言語学者のは、言い回しが“身体感覚に因果を貼り付けるための短文”として効率化した点を重視した。とくに「上下」と「入ってしまいました」の結合は、話者が説明を省略できるため、会話のテンポを上げたと論じられている[7]。
なお、この説には異論もあり、別系統ではのローカルテレビの深夜通販コーナー(司会が早口で言い間違えが多かったとされる)が、定型句の音の“似通い”を通じてTUUI現象を拡散した可能性が指摘されている。もっとも、どちらが先かは確定していないとされる[8]。
行政報告書風に“見せる”技術:観測者の演出[編集]
TUUI現象が“それっぽく”語られるようになった背景には、観測者の演出があるとされる。特にの類似書式を真似た「体内侵入報告様式」が、匿名まとめサイトで流用されたことが分かるケースがある[9]。
この書式では、冒頭に観測地点として「記載:東京都千代田区某所(経度・緯度は小数第3位まで)」を置き、次に「操作:たまたまを上下(左右ではなく上下とする)」と書き、最後に「結果:入ってしまいました(語尾は断定)」で締める構造が定着したとされる[10]。
また、民間の“再現”を促すため、数値が過剰に細かく書かれる傾向が生まれたと指摘される。たとえば「上下動作は合計12回、休止は0.8秒、観測開始までの遅延は3分17秒」などである。これらは実測ではなく、読者が信じたい“報告の気配”を付与するための記号として機能しているとされる[4]。
この流れはの地域アーカイブ担当者が“誤情報を面白くする編集”として紹介したともされるが、内部記録の所在は明らかになっていない。なお、当時の担当者名として「大塚和則」「岸本香澄」など複数の候補が挙がることがある[11]。
社会的影響[編集]
TUUI現象は、医学・宗教・民間療法のいずれとも直結しない“雑談の文法”として広がった。人は複雑な出来事を、身体操作と断定的な結語で短くまとめやすくなり、その結果、日常会話の「説明不足」や「照れ」を笑いに変換できたとされる[2]。
とくに、災害や長期休暇のように不確実性が高い時期ほど、TUUI現象の“入ってしまいました”が多用されたとの指摘がある。たとえばの避難所で配布された「見出しつきの雑談用紙」なるものに、テンプレ文として「たまたまを上下することで体のなかに入ってしまいました」が印字されていた、という逸話が繰り返し語られた[12]。
このような定型句の普及は、対人コミュニケーションにおける“責任の所在”を曖昧にする効果もあった。話者は「確かにそう感じた」と言える一方で、相手を直接説得する必要がないため、摩擦が減ったとされる。一方で、冗談が過ぎると誤解を招くとも指摘されている[9]。
なお、TUUI現象はSNS時代において動画形式とも結びついたとされる。動画は本来の動作を撮るのではなく、字幕だけが定型句を再現し、視聴者が勝手に意味を補完する構造になったため、拡散速度が速かったと推定されている[6]。
一覧:代表的な“報告”パターン[編集]
以下は、TUUI現象として語られやすい報告パターンの一覧である。いずれも“実体がある”と断定するのではなく、語りの型として記録されたものに基づくとされる[1]。
カテゴリは投稿サイトの分類慣行に倣って便宜的に整理したが、実際には相互に混ざることが多いとされる。なお、本文中の年は“流行の波が観測された時期”として語られることがあり、厳密な年代確定を意味しない[4]。
一覧(メイン)[編集]
1. 『上下12回で入ってしまいました』(2001年)- もっとも短い定型であり、動作回数が最初に来る形式である。投稿者が「息を止めたかどうか忘れた」と追記しつつ、それでも“入った”と結論づけるため、読者のツッコミを誘うとされる[13]。
2. 『0.8秒休止が鍵でした』(2004年)- “休止”の秒数が妙に具体的で、科学っぽい雰囲気が出るとされる。編集者風の語り手が「第3休止の後、なぜか背中が冷えた」と添えるのが定番だった[14]。
3. 『断定語尾だけは譲れない』(2007年)- 語尾が「入ってしまいました」で固定されているかを検査する遊びが流行したとされる。語尾を「入りました」に変えると途端に信憑性が落ちるという“疑似統計”が提示された[15]。
4. 『上下ではなく“垂直方向”と書け』(2010年)- 注意書き型の報告であり、言語の物理化を狙う。投稿者がの地形説明文を引用し「垂直方向の定義は〜」と長文を貼るが、結局オチは同じである[16]。
5. 『港区某所、観測開始は21:17』(2003年)- を舞台にした“報告書風”である。なぜ21:17なのかは不明とされつつ、見た人が「その時間にやったんだろ」と勝手に補完するため、笑いが生まれるとされる[9]。
6. 『千代田区の階段で体内に入った』(2006年)- 階段の段数が「29段」とだけ記されるのが特徴である。段数を数え直した形跡が見えないため、読者が“嘘を嘘だと分かっているのに信じそうになる”状態に陥るとされる[17]。
7. 『札幌・雨の日、湿度73%で成立』(2009年)- 天気と数値を結びつけるタイプであり、科学っぽさの誤誘導が強い。実測かどうかは問われないのがこの型の勝ち方で、むしろ気象庁の文章を引用して“整って”見せるとウケが良いとされた[18]。
8. 『観測は民間の“内在化委員会”で行われた』(2011年)- 実在の委員会名を避けつつ、しかしそれっぽい官製語を混ぜる形式である。委員長名として「伊藤宗甫」が挙げられるが、裏取りは不要という空気が出来上がったとされる[19]。
9. 『生活安全局の巡回で“事象確認”』(2013年)- の口ぶりに似せた報告が用いられる。巡回員が「“体内”という比喩であることを念のため確認」と言ったとされ、真面目さが増すほど笑いが生まれると指摘されている[20]。
10. 『厚労省プロトコルの“空欄”を埋めた』(2015年)- 書式の空欄を埋めた瞬間に入ったとされるタイプである。空欄のサイズが「A4の余白14mm」と書かれるが、読者には意味が分からないまま“それっぽい”感触だけが残る[21]。
11. 『背中が痒くなったので確定』(2008年)- “入ってしまいました”の前に、背中の痒みや喉の違和感が細かく列挙される。列挙の量が増えるほど信じたくなるが、最後に「原因はたぶん乾燥」と追記されるため、二段オチになるとされる[22]。
12. 『数秒後、頭の中でアナウンスが鳴った』(2012年)- 現象が“音声”として内在化したという報告である。投稿者が「NHKのような語り口だった」と書くと、聞き手が勝手に想像して笑うとされる[23]。
13. 『入ってしまいましたの前に3回深呼吸』(2016年)- 手順の儀礼化により、単なるジョークが“イベント”になるタイプである。深呼吸の回数が偶然「3回」で固定され、なぜ3なのかは「胃がなんとなく納得するから」と説明される[24]。
14. 『子どもには説明しない運用だった』(2018年)- 対象年齢の制限が付くことで、逆にリアルさが増すとされる。投稿者が「大人だけでやると戻ってくる」と冗談めかして語り、読者の理解を一段遅らせる効果がある[25]。
15. 『最後に“水を一口”で収束』(2020年)- 収束条件が付くのが特徴であり、物語が終わる。水の量が「30mL」と書かれ、飲み残しの写真が添付されたこともあるとされる。もっとも真偽は不明であり、むしろ“それっぽい不明さ”が笑いの中心になったと記録されている[26]。
批判と論争[編集]
TUUI現象は“笑い”として消費される一方、身体操作を連想させる表現が不快感につながる可能性があるとして、複数の掲示板運営が注意喚起を行ったとされる[27]。とくに「子どもは〜」系の報告が拡散された時期には、冗談の境界を巡って議論が起きたとされる。
また、民俗学的には、TUUI現象の言語の定型化が、身体感覚の解釈を固定しすぎる点に問題があるのではないか、という指摘がある。たとえば「痒み」や「冷え」が入った証拠として扱われるため、同じ症状が出た場合に“また入った”と誤って自己診断するリスクがあると論じられることがある[21]。
一方で、認知科学側では「誤認誘導は必ずしも害にならず、むしろ言語によるストレス調整として働く」という見解も示されている。ただし、この見解にはサンプル数が小さいという批判があり、結論には慎重であるべきだとされる[14]。
なお、もっとも笑われた論争は「上下ゲートの回数は偶数が良いのか奇数が良いのか」という細目であり、集計役が勝手に“統計係数”を名乗ってランキングを作ったことで一気にカオス化したと記録されている[18]。この過剰な細分化が、TUUI現象の“嘘が嘘であることを隠して楽しむ”性格を表しているとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『笑いの民俗文法:短文が身体感覚を固定する理由』講談社, 2012.
- ^ Margaret A. Thornton『Embodied Misattribution in Informal Discourse』Springer, 2016.
- ^ 佐藤真希『“入ってしまいました”という断定の力』青土社, 2019.
- ^ 李明哲『Urban Legend Protocols and the Appearance of Evidence』Cambridge University Press, 2018.
- ^ 山本梨紗『報告書風ユーモアの設計:行政書式の模倣と誤誘導』日本評論社, 2021.
- ^ Katrin E. Holm『Sound-alike Phrases and Memory Locking』Oxford University Press, 2017.
- ^ 田中宏樹『比喩の中の数値:0.8秒に意味はあるのか』新潮学芸文庫, 2015.
- ^ フリッツ・クライン『Local Broadcast Errors as Meme Engines』MIT Press, 2020.
- ^ 松田章『TUUI現象の全体像(第1版)』(編者不詳), 2013.
- ^ 大塚和則『港区某所の観測記録:21:17の真偽』NHK出版, 2009.
外部リンク
- TUUI現象アーカイブ倉庫
- 上下ゲート計測委員会(非公式)
- 報告書風ユーモア研究室
- 雑談テンプレ博物館
- 深夜ラジオ定型句データベース