どどっとん
| 名称 | どどっとん |
|---|---|
| 別名 | 連打音、拍動擬音、下町式ドラムトリガー |
| 分類 | 音響儀礼・民俗娯楽 |
| 成立 | 1908年頃 |
| 発祥地 | 東京都深川周辺 |
| 主な用途 | 祭礼通知、興行告知、集客演出 |
| 特徴 | 三拍子の後に不規則な余韻が残る |
| 規格化 | 1947年 旧内務省外郭整理により試案化 |
| 関連団体 | 日本どどっとん協会 |
どどっとんは、の大衆娯楽および儀礼音響に用いられる連打式の擬音装置、またはその出力音を指す語である。一般には圏で成立したとされ、拍子木・太鼓・電磁音叉を混成した独特の振動列として知られている[1]。
概要[編集]
どどっとんは、音そのものを指す場合と、一定の手順で発生させるの総称を指す場合がある。の・周辺で、船乗りの呼び込み、縁日の開始、寄席の開幕を知らせるために用いられたとされる。
語感の強さから大正期には「威勢のよさの象徴」として広告文句にも転用され、の興行主が「どどっとん三回で満員御礼」と書いた紙片が複数残る。なお、当初は正確な表記が定まらず、「ドドトン」「土々敦」「どど突音」などの異表記が並立していた[2]。
成立史[編集]
深川の波止場における起源説[編集]
最も広く知られる説では、に沿いの荷揚げ場で、樽を転がす音と木槌の合図が偶然重なったことから生まれたという。の桶職人・が、荷役を急がせるために三度強く叩いたあと間を置いて一度弱く打つ癖を持っていたため、周囲がこれを「どどっとん」と呼んだとされる。
ただし、この説は刊の郷土誌『深川雑喉記』にしか現れず、しかも同書の著者であるが「実見ではないが、そう聞いた」と本文中で述べているため、史料としての扱いには慎重さが求められる。
寄席と見世物小屋への拡散[編集]
末から初期にかけて、どどっとんは寄席の開場合図として定着したとされる。の一部の興行では、開演前に舞台袖から、拍子木、鉄板を組み合わせた「どどっとん盤」が鳴らされ、客席の半数以上が入場した時点でさらに一打する慣習があったという。
の夕刊には、ある見世物小屋が「どどっとん五連打で雨天を忘れさせる」と宣伝した記事が載ったとされるが、同紙の現存版では確認できない[3]。もっとも、広告文としては非常に筋が通っており、後年の研究者は「紙面はともかく文体は実在的である」と評した。
戦後の規格化と衰退[編集]
、外郭の「仮設音響整理委員会」が、祭礼や街頭告知で用いられる雑多な鳴り物を分類する過程で、どどっとんを暫定規格に含めたとされる。この時、音の長さを0.8秒、余韻を0.3秒以上とする案が出され、の試験場では「一音ごとの腹持ち」が検査項目に含まれていたという。
しかし以降、拡声器とラジオの普及によって実用性が薄れ、どどっとんは「懐古的な下町語」として残存した。なお、の期間中、外国人観光客向けの民俗実演として短期間復活したという記録があるが、実演回数が「延べ14回」なのか「14日間」なのかで資料が割れている。
構造と作法[編集]
どどっとんの基本形は、強・強・弱・余韻の四段構成であるとされる。打点はおおむね「ど、ど、っと、ん」に対応し、最後の「ん」が必ず完全に消え切らないことが重要とされる。
実演では、やに加え、やを混ぜる流派があり、これを「重層式」と呼ぶ。とくにの一部では、雨天時に限り音が一拍遅れることを吉兆とみなし、遅れたぶんだけ拍手が増えるという奇習があった。
社会的影響[編集]
どどっとんは、単なる擬音表現を超えて、の景気づけ、組合の団結儀礼、子どもの遊びの号令にまで広がったとされる。頃には「今日はどどっとんの日だ」と言うだけで近隣の露店が早仕舞いを避けたとの証言もあり、地域経済に微細な影響を及ぼしたという。
また、にはのワイドショーが「昭和の残響」として取り上げたことで再評価が進み、の分野では「音を聴く前に空気を整える文化」として注目された。一方で、夜間の多用が「過度の気分上昇を招く」として苦情の対象になったこともあり、の一部地域では自主規制の申し合わせが作られた。
批判と論争[編集]
どどっとんをめぐっては、その成立を巡る異説が多い。なかでも起源説、港湾伝来説、の金属打楽器説が競合しており、の『日本擬音文化年報』では、編集会議が4時間以上にわたって紛糾した。
また、一部の研究者は「どどっとんは実在の音響文化ではなく、昭和中期の編集者が複数の鳴り物文化を一語に圧縮した概念である」と主張する。しかし反対派は、の古い長屋で採録されたという録音資料を根拠に、少なくとも「音としての実在性」はあったと反論している。録音盤は78回転で、冒頭3秒に謎の咳払いが入っているため、研究用途では扱いが難しい。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 北見庄助『深川雑喉記』深川郷土研究会, 1932.
- ^ 田村喜八『荷役と拍子木のあいだ』私家版, 1911.
- ^ 佐伯玲子「連打音の民俗的拡散」『民俗音響学紀要』Vol. 12, No. 3, 1968, pp. 44-67.
- ^ Edward C. Hollis, "Percussive Calls in Downtown Edo-Tokyo", Journal of Urban Folklore, Vol. 8, No. 2, 1974, pp. 101-129.
- ^ 杉山正道「戦後街頭音響の再編と仮設規格」『社会音響史研究』第4巻第1号, 1952, pp. 9-26.
- ^ Margaret A. Thornton, "The Dodotton Question: A Study in Audible Tradition", Asian Sound Studies Review, Vol. 15, No. 1, 1987, pp. 3-41.
- ^ 『東京日日新聞』夕刊 1927年7月18日号, 3面.
- ^ 日本どどっとん協会編『どどっとん標準作法書 第2版』日本どどっとん協会出版局, 1998.
- ^ 小林玄太『どどっとん入門: 下町の四拍子を読む』青燈社, 2006.
- ^ A. Nakamura & J. Bell, "Dodotton and the Geometry of Crowd Arrival", Proceedings of the Institute of Improvised Acoustics, Vol. 2, 2015, pp. 88-93.
- ^ 松本いずみ『音が先か、空気が先か—どどっとん論序説』風待書房, 2019.
外部リンク
- 日本どどっとん協会
- 下町音響アーカイブ
- 仮設音響整理委員会資料室
- 民俗音のしおり
- 深川郷土デジタル文庫