どんどんしー
| 分類 | 擬音記号学、都市言語文化 |
|---|---|
| 発祥地 | 東京都台東区周辺とされる |
| 成立 | 1958年ごろ |
| 提唱者 | 久世 直彦、田村ミツヱほか |
| 用途 | 掛け声、広告文言、群衆制御、活版装飾 |
| 特徴 | 反復ごとに語尾が圧縮される |
| 関連機関 | 日本擬音文化協会、中央放送技術研究会 |
| 有名な派生 | どんどんしー・マーチ、超どんどんしー |
| 禁則 | 3連続以上の直列使用は不安定化するとされる |
どんどんしーは、の下町で発祥したとされる連続励起式の擬音・記号複合概念である。短い反復音を階層的に増幅させる手法として知られ、30年代の印刷現場と放送局で急速に普及したとされる[1]。
概要[編集]
どんどんしーは、同一の語幹を反復しつつ、末尾の音価を段階的に短縮してゆくことで高揚感を生み出す言語現象である。一般にはの呼び込みやの公開生放送で使われた口頭芸と説明されるが、実際には活版印刷の文字組みを効率化するために考案された符牒であったとする説が有力である[2]。
名称の由来については、当初の作業指示が「どんどん、しーっと」であったものが、現場で圧縮されて「どんどんしー」と定着したとされる。ただしの内部報告書では、これを「群衆の歩調を揃えるための擬似指揮法」と記しており、言語学と警備学の境界に位置する概念として扱われてきた。
起源[編集]
印刷所起源説[編集]
最も古い記録は、浅草橋の「新和活版所」残務帳に見えるもので、植字工の久世直彦が「大見出しはどんどんしーで行く」と書き残している。ここでいう「しー」は静音指示ではなく、活字の余白を詰める合図を意味したとされ、1行あたり平均0.8ミリの節約が確認されたという[3]。
一方で、同所に勤めていた田村ミツヱは、朝礼の際にこの語を唱えると新人の動きが揃いやすいことに気づき、昼休みの炊事班へ応用した。これが後の「どんどんしー節」と呼ばれる簡易行進法の母体になったとする記録がある。
放送局導入説[編集]
技術研究所の周辺資料には、に外部委嘱された音声整理員が、スタジオ転換時の号令として「どんどんしー」を採用した記述がある。これは秒単位での進行管理に向いており、1回の呼称で照明、カメラ、効果音の3部署が同時に反応したため、当時の現場では「三拍子が半拍早い」と評された。
なお、同研究所の試験では、語尾の「しー」を以上引き延ばすと出演者が笑いを堪えられず、テイク数が平均2.4倍に増えたという。これは後に『どんどんしー効果』として知られ、番組制作論の末節で長く引用された。
構造と用法[編集]
どんどんしーは、第一層の「どん」で開始し、第二層の「どん」で勢いを増し、終端の「しー」で制御をかける三相構造を持つとされる。語の見かけは単純であるが、実際には発話者の肩幅、周囲の騒音、昼食後の眠気によって効果が変動し、熟練者はの環境で最も安定すると述べている[4]。
応用例としては、商店街の福引案内、運動会の整列、劇場裏口での搬入口指示、さらには内の一部学校における避難訓練の補助号令が挙げられる。また、まれに「どんどんしー、どん」と逆順で用いる者がいたが、これは語勢が逆流し、会場全体に妙な焦りを生むため禁忌とされた。
普及[編集]
商店街への浸透[編集]
の東京五輪景気のころ、からにかけての商店街連盟が、客寄せの統一フレーズとしてどんどんしーを採用した。各店の呼び込みが同じ音型で連動した結果、週末の人流が従来比で17%増加したとされるが、統計の母数が「福引の紙くじ枚数」であったため、学術的信頼性には疑義がある。
ただし、当時の聞き取りでは、魚屋、乾物屋、映画館の看板娘が同じ抑揚で呼び合う光景が珍しかったことから、見物客が増えたのは確かである。これが後の“擬音商店街”ブームの先駆けになった。
学校教育への導入[編集]
には一部の生活指導で採用され、遅刻指導や掃除開始の合図に用いられた。特にの公立校では、担任が黒板に「どんどんしー」と書くと児童の整列速度が上がるとして、学年主任会で半ば標準化された記録がある。
一方で、語尾の静穏性が強すぎるため、音楽室では発声練習の合図と誤認される事故が数件起きた。1981年の県教委資料には、合唱部が全員で立ち上がってしまい、ピアノ椅子が2脚破損した事案が記載されている[5]。
社会的影響[編集]
どんどんしーは、単なる掛け声にとどまらず、戦後日本の「速さ」と「静けさ」を同時に求める気風を象徴する語として扱われた。広告業界では、短い反復音が購買意欲に与える影響を示す隠語として流用され、関係者の回想録には「コピーの最後にしーを置くと、視線が2秒延びる」とある。
また、労務管理の分野では、作業開始の合図を無闇に大きくしないための“低騒音統率”として評価された。これに対し、文化評論家の真鍋冬子は、どんどんしーを「高度成長期の残響を最小音量で再生する装置」と呼び、の連載で議論を呼んだ。
批判と論争[編集]
批判の中心は、その定義の曖昧さにあった。言語学者の一部は、どんどんしーが独立した語ではなく、現場ごとに意味を変える「可変指令句」にすぎないと指摘した。また、の非公開メモには、語の拡散が早すぎて、年代別コーパスで同一語形を追跡できないと記されている。
さらに、1978年にで実施された実地試験では、被験者の14%が「どんどんしー」を聞くと無意識に歩幅を揃えすぎてしまうことが判明した。これを受けて一部の自治体は使用を自粛したが、逆に祭礼やパレードでは「統率が良すぎる」として再評価された。
派生形[編集]
どんどんしー・マーチ[編集]
吹奏楽用に再編された派生形であり、にの高校吹奏楽部が文化祭で初演したとされる。原型の三拍子を保ちつつ、終端を金管で畳みかけることで、観客の拍手開始が早まる効果が確認されたという。
超どんどんしー[編集]
1990年代後半、深夜ラジオの投稿文化の中で生まれた過剰強調版である。通常版よりも語尾が長く、3回連呼すると周辺の雑談が一斉に止まるとされたが、実際には投稿者の息継ぎが持たないため、実用性は低かった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 久世直彦『活版現場の音声符牒研究』新和出版, 1962, pp. 41-58.
- ^ 田村ミツヱ『下町号令史ノート』東京文化資料社, 1967, pp. 112-139.
- ^ 中央放送技術研究会 編『スタジオ進行用語集 第3巻第2号』放送技術社, 1971, pp. 9-17.
- ^ 佐伯淳一『擬音と統率の民俗誌』国書刊行会, 1978, pp. 203-229.
- ^ Margaret L. Haversham, “Rhythmic Repetition and Urban Compliance,” Journal of Applied Phonetics, Vol. 12, No. 4, 1984, pp. 201-224.
- ^ 真鍋冬子『最小音量の群衆論』朝日選書, 1989, pp. 77-95.
- ^ 国立国語研究所『戦後口語資料集成 付録B』, 1991, pp. 301-315.
- ^ 椎名雅人『どんどんしーと日本の速度感覚』岩波書店, 1998, pp. 15-49.
- ^ Harold P. Denson, “The Dondon-C Effect in Broadcast Coordination,” Media & Society Review, Vol. 7, No. 1, 2004, pp. 33-51.
- ^ 小林みどり『都市の掛け声はなぜ短いのか』ミネルヴァ書房, 2011, pp. 88-104.
- ^ 松岡信吾『どんどんしーの社会史と、しーの沈黙』新曜社, 2017, pp. 5-28.
外部リンク
- 日本擬音文化協会デジタルアーカイブ
- 下町言語資料室
- 中央放送技術研究会 研究ノート集
- 擬音都市史ポータル
- 活版符牒年表館