のうたりん
| タイトル | のうたりん |
|---|---|
| ジャンル | 不条理青春・戦略ギャグ・SF |
| 作者 | 霜月 玄太郎 |
| 出版社 | 白鳩出版 |
| 掲載誌 | 月刊ブレイン・パルス |
| レーベル | BP COMICS |
| 連載期間 | 1998年4月号 - 2006年9月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全97話 |
『のうたりん』(のうたりん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『のうたりん』は、の私設学園都市「」を舞台に、思考速度だけが異常に速い少年・と、逆に何を考えているのか誰にも読めない少女・を中心に描いた作品である。表向きは学園ギャグ漫画であるが、実際にはとをめぐる政治劇が中核を占めており、後年は「読者の知能を試す漫画」と評された。
作中で用いられる「のうたりん」という語は、後期にで行われた「低反応語彙テスト」の測定値から生まれた造語とされる。もっとも、初期連載では単なる罵倒語として扱われていたため、編集部と作者の間で定義が毎月変わるという珍しい経緯をたどった[2]。
制作背景[編集]
本作は、霜月玄太郎がにで開催された同人即売会「ペーパー・グラビティ」に持ち込んだ4ページ漫画『脳内無風地帯』を原型としている。これがの編集者・の目に留まり、翌年に「学園ものとしては地味すぎるが、会話劇としては異様に強い」という評価を受けて連載化されたとされる。
なお、作者は当初、作品タイトルを『ノータリン』とする予定だったが、レタリング担当が誤って「のうたりん」と植字したことで現行表記が定着したという逸話がある。ただし、の帯では一度だけ『能足輪』と誤表記されており、これが後に「作中用語の一つではないか」とファンの間で議論になった。要出典とされることもあるが、白鳩出版の社内報に同様の記載があるとする説が有力である。
連載初期はの読者層に合わせ、1話8ページ前後の短編形式で始まったが、の「脳螺町文化祭編」以降は1話24ページに拡大された。これにより、作者の描き込み量は月平均で約1,850コマに達し、担当編集が「背景が多すぎて登場人物が迷子になる」とコメントしたことが知られている。
あらすじ[編集]
脳内起動編[編集]
物語は、赤城ノタが新設校に転入し、全校生徒が毎朝7時7分に「思考整列」を行う奇妙な校風に困惑するところから始まる。ノタは学園の裏庭で発見した古い脳波測定器「セレブロ・ハーモニカ」に触れたことで、他人の発話を0.8秒先読みできる能力を得るが、その代償として授業中にだけ思考が停止するようになる。
一方で白川リンは、感情の起伏が少ないため周囲から「無反応」と誤解されているが、実は彼女だけが校内放送に混ざる不可解なノイズを聞き取れていた。第11話では、校長室の金庫から「1973年の脳卒中対策マニュアル」が盗まれ、ここで作品が単なる学園ギャグではないと判明する。
文化祭演算編[編集]
脳螺学園の文化祭では、各クラスが出し物ではなく「知能総量」を競うことになっており、最下位クラスは翌月の掃除当番が3倍になる制度が導入されていた。ノタたちは、わずか12時間で来場者2,400人分の思考ログを集めるため、校内に迷路型の催事「推理屋敷」を設置する。
この編では、リンが突如としてのご当地キャラクターに似た兜をかぶり、観客の質問に一切答えずジェスチャーだけで学園を救う場面が有名である。雑誌掲載時には、読者アンケートで「意味がわからないが目が離せない」が1位を取ったとされる。
脳螺戦争編[編集]
中盤の山場であるこの編では、脳螺町の地下に埋設された量子通信塔「」をめぐり、学園自治会と町役場が全面対立する。ノタは、記憶を保存したまま眠る「可逆睡眠」を発明した教授・に協力を求められ、地上と地下で同時に進行する会議を中継する役目を負う。
この編の終盤、リンが「脳があるから考えるのではなく、考えないために脳がある」と発言し、作中で最大の決め台詞とされた。もっとも、連載後の単行本では「考えないために」部分が1コマだけ修正され、作者の意図が1年以上揺れたことでも知られている。
最終学期編[編集]
最終章では、ノタが「のうたりん」とは本来、個人を侮辱する言葉ではなく「過剰に情報を詰め込まれた結果、逆に無思想に見える状態」を指す学術用語であったことを知る。リンはこれに対し、学園の屋上で1,024枚のメモカードを空へ撒き、言葉よりも空白が人を救うと主張する。
結末では、脳螺学園そのものが実はの実験校ではなく、30年前に閉鎖された玩具メーカーの研修施設だったことが示唆される。なお、最終回直後の読者投稿欄には「真相が多すぎて理解が追いつかない」との感想が多数寄せられた。
登場人物[編集]
は、本作の主人公である。成績は中の上だが、突発的に9分先の会話まで読めるため、テストだけ異常に弱いという欠点を持つ。作中ではしばしば机の角に額をぶつけ、そのたびに閃きを得る。
は、ヒロインであり学園の広報委員でもある。無表情で寡黙だが、実際には毎朝4時40分に起床して学園内の掲示物を貼り替えていることが後に判明する。彼女の持つハサミは「切ると決めた情報しか切れない」とされ、ファンの間では準主役級の聖遺物として扱われた。
は、脳螺学園の理科教諭であり、量子記憶工学の研究者でもある。生徒からは「トバセン」と呼ばれるが、本人はその呼称を一度も認めていない。なお、彼の愛用する白衣のポケットからは常に3本のチョークと1個の将棋駒が出てくる。
は、表向きは学園の創設者だが、実際には第8話まで廊下掃除しかしていなかった人物である。終盤で突然ラスボス級の存在感を示し、連載当時の読者の間では「この人だけ作品ジャンルが違う」と話題になった。
用語・世界観[編集]
は、北東部にあるとされる架空の学園特区で、人口は約3万8,400人、うち1万2,000人が何らかの「委員会」に所属している。町内では午後5時を過ぎると拡声器による「考え直し放送」が流れ、住民は一度立ち止まってから帰宅する慣習がある。
は、思考の音色を視覚化する装置である。第4巻では、これを使った結果として体育館の天井に「未読の感情」が投影され、文化庁の視察官が途中退席したとされる。
は、眠っている間に記憶を整理する技術であり、作品世界では学力向上よりも「忘れてよいことを忘れられる」効果が重視されている。なお、作中設定によればこの技術はの交通事故対策研究から偶然生まれたが、実用化前に6社が権利を争ったため、特許番号が異様に長い。
は、脳螺町の地下40メートルにある通信塔で、気象観測施設と見せかけて住民の会話を一括で調整していた。高さは地上部だけで71.6メートル、地下基礎を含めると「町役場より少し低い」と説明されるのが恒例である。
書誌情報[編集]
単行本はより全14巻が刊行された。初版帯には毎巻ごとに異なる煽り文が付され、第1巻は「考える前に読む漫画」、第7巻は「脳が笑う」、第14巻は「ここから先は読者の責任」となっている。
また、には特装版『のうたりん 文化祭収納箱』が発売され、カード類96枚、折りたたみ式脳螺町地図1枚、作者描き下ろしの「使い道不明ノート」12冊が同梱された。発売初週の売上は推定4万8,700セットで、圏では書店よりも文具店の方が先に売り切れたという。
なお、第9巻のあとがきには、作者が「本作の執筆に際し、実在の教育制度および架空の地理を同時に参照した」と記しており、編集部からはその一文だけ削除提案が出たが、結局残された。
メディア展開[編集]
には化され、全26話が深夜帯に放送された。制作は架空のアニメスタジオが担当し、放送当時は「背景の書き込みだけで進む第9話」がSNSで話題となった。主題歌は奇妙に耳に残ることで知られ、CDは累計8万枚を記録したとされる。
さらに、には舞台化され、客席中央に設置された回転式黒板が評判を呼んだ。役者が黒板の裏側に隠れるたびに物語が進む構成は、原作再現度の高さというより、演出家・の趣味が全面に出た結果だといわれる。
そのほか、にはスマートフォン向けパズルゲーム『のうたりん 7秒前の委員会』が配信された。配信開始から72時間で26万ダウンロードを突破したが、ゲーム内の説明文が難解すぎて、攻略サイトが先に世界観解説を始めたことで有名である。
反響・評価[編集]
本作は、連載中から一部の読者に熱狂的に支持され、最終的には累計発行部数780万部を突破したとされる。とくに圏の大学サークルや、深夜帯の書店員の間で引用率が高く、「笑えるのに頭が疲れる漫画」として定着した。
批評面では、の一部研究者が「00年代の会話劇漫画における沈黙の再評価」として論じたほか、教育現場では「テスト前に読むと危険」との注意書きが掲示された学校もあった。もっとも、こうした扱いは誇張であり、実際には購買担当者が単に装丁を気に入っただけという説もある。
一方で、終盤の展開については「理屈が多すぎて感動が追いつかない」という批判と、「むしろ理屈だけで感動させる稀有な作品」という称賛が真っ向から対立した。いずれにせよ、後期の学園ギャグ漫画を語る際に外せない作品として、しばしば名前が挙げられている。
脚注[編集]
[1] 霜月玄太郎『のうたりん 第1巻』白鳩出版、1998年、奥付。
[2] 西園寺みやび「連載開始時の表記揺れについて」『月刊ブレイン・パルス』白鳩出版、1998年5月号、第12巻第5号、pp. 34-35。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霜月玄太郎『のうたりん 第1巻』白鳩出版、1998年。
- ^ 西園寺みやび「学園ギャグにおける沈黙の記号論」『月刊ブレイン・パルス』白鳩出版、1999年2月号、第13巻第2号、pp. 12-19。
- ^ 鳥羽井義明『可逆睡眠の基礎と応用』白鳩学術叢書、2001年、pp. 44-57。
- ^ 真鍋礼二『舞台化作品の回転装置と観客心理』北辰演劇出版、2012年、第4巻第1号、pp. 88-93。
- ^ M. Thornton, "Cerebral Silence and Comic Timing in Post-1990 Japanese Manga," Journal of Visual Humor Studies, Vol. 8, No. 3, pp. 201-226.
- ^ 霜月玄太郎『のうたりん 文化祭収納箱 付属冊子』白鳩出版、2003年。
- ^ 白鳩出版編集部『月刊ブレイン・パルス 創刊三十周年記念誌』白鳩出版、2010年、pp. 102-111。
- ^ 長谷川淳一「脳螺町における委員会制度の変遷」『地方架空学研究』第6巻第4号、2015年、pp. 7-29。
- ^ K. Ellison, "The Politics of Forgetting in School-based Fiction," East Asian Comics Review, Vol. 11, No. 1, pp. 55-68.
- ^ 霜月玄太郎『のうたりん 完全保存版資料集』白鳩出版、2016年、pp. 5-14.
- ^ S. Watanabe, "A Comparative Study of Non-Action Panels," Manga and Media Quarterly, Vol. 2, No. 2, pp. 1-17.
外部リンク
- 白鳩出版 作品紹介ページ
- 月刊ブレイン・パルス 公式アーカイブ
- 脳螺町観光協会 特設サイト
- のうたりん アニメ版公式ページ
- BP COMICS デジタル書庫