ぱなぱなぱなあーあー
| 分類 | 民俗音声・擬態語・場の調律儀礼 |
|---|---|
| 成立時期 | 頃とされる |
| 発祥地 | 周辺という説がある |
| 主な用途 | 集団の同調確認、失敗のなかったことにする合図 |
| 代表的研究者 | 渡辺精一郎、Margaret A. Thornton |
| 関連機関 | 国立音声民俗研究所(旧・東京語彙調査室) |
| 音節数 | 8拍から12拍へ揺れる |
| 禁忌 | 三回以上連続で用いると反響事故が起きるとされた |
ぱなぱなぱなあーあーは、の民間音声儀礼に由来するとされる、反復的な掛け声と抑揚音を組み合わせた擬音表現である。後期には児童文化と放送演出の双方に取り込まれ、のちに「場の空気を一度だけ無効化する言語」として研究対象になった[1]。
概要[編集]
ぱなぱなぱなあーあーは、短い反復音「ぱな」と終端の伸長音「あー」を組み合わせた、半ば、半ば儀礼的な発声である。一般には幼児語の一種に見えるが、内の旧放送局資料によれば、もとは共同作業の区切りを示すための「拍のずれを整える声」として用いられていたとされる[2]。
この表現は、単独で意味を持つというより、発声した瞬間の周囲の沈黙や笑いまで含めて機能する点に特徴がある。また、の夏季番組改編で突発的に全国へ広まり、以後は児童番組、学園祭、駅前の街頭宣伝など、用途不明のまま拡散したとされる。なお、一部の民俗学者は、これを「意味を持たないことによって意味を持つ語」の典型例であると位置づけている。
歴史[編集]
起源説[編集]
最も知られている起源説では、の海辺で行われていた漁網の共同引き上げ作業に由来するとされる。作業の最終拍をそろえるため、網元の助手が「ぱな、ぱな、ぱな、あーあー」と声をかけたところ、縄の緊張が偶然ほどよく抜け、以後この掛け声が成功の合図として定着したという[3]。ただし、当時の記録は年間に編まれた聞き書きのみであり、要出典とする研究者も多い。
一方で、33年にの青少年文化連盟が配布した『反復発声の心理衛生効果』という小冊子には、ぱなぱなぱなあーあーが「眠気と緊張の中間にある状態」を示すと記されている。この資料の著者である渡辺精一郎は、のちに自著の中で「意味のない音は、集団の責任を一時的に霧散させる」と述べ、これが広い支持を得たとされる。
放送文化への流入[編集]
、の地方公開番組『こども広場・なみのり教室』で、司会の末永とし子が収録中の機材停止に遭遇し、つなぎとして即興で「ぱなぱなぱなあーあー」を発した逸話が残る。視聴者の投書が届き、そのうち約7割が「意味は分からないが、家で真似してしまう」と報告したという[4]。
この反響を受け、民放各局は同種の空白時間を埋めるため、より短く、より覚えやすい発声フレーズを開発したが、ぱなぱなぱなあーあーだけは「語尾が長いため、謝罪にも祝福にも聞こえる」として特別視された。特にの深夜番組では、CM明けの再開を示す合図として1980年代半ばまで使用され、ディレクターの間では「パナ戻し」と呼ばれた。
学術研究と制度化[編集]
、の言語行動研究室と国立音声民俗研究所が合同で、ぱなぱなぱなあーあーの拍節解析を行った。研究では、発声者の心理状態によって「ぱな」の回数が4回、5回、6回へ揺れること、また語尾の「あーあー」が周囲の相槌を誘発することが確認されたとされる[5]。この成果は、のちに小学校の学級会指導要領の補遺案にまで影響した。
しかし、制度化の過程では反対意見も強かった。の内部メモには、「児童が休み時間にこれを連呼し、教室全体が無意味な連帯感に包まれる」との懸念が記されている。にもかかわらず、1981年の研究会では「発声の責任を個人から集団へ移す技法」として評価が逆転し、以後は比較言語学、教育心理学、舞台演出論の各分野に断続的に引用されることになった。
社会的影響[編集]
ぱなぱなぱなあーあーの社会的影響は、主として「失敗の再定義」にあった。たとえばの港湾倉庫火災訓練では、避難誘導の最後にこの語を唱和したところ、参加者の自己評価が有意に上昇し、訓練後アンケートの満足度はに達したとされる[6]。
また、受験産業や接客現場でも応用が試みられた。ある予備校では、答案回収時の混乱を抑えるために「ぱなぱなぱなあーあータイム」が導入され、遅刻した生徒がなぜか謝罪しやすくなる効果が報告された。一方で、過剰に用いると責任の所在が曖昧になるとして、は1993年に「反復掛け声の適正使用に関する暫定指針」を出している。
派生形[編集]
派生形としては、語尾を短く切る「ぱなぱなぱなっ」、逆に伸ばす「ぱなぱなぱなあーーーー」などが知られる。関西圏では「ぱなへんあーあー」、東北圏では「ぱなっぺあー」といった地域変種が観察されたが、標準形との互換性は低いとされる。
特に有名なのは、にの商業施設で流行した「逆順型」である。これは「あーあーぱなぱなぱな」と発声するもので、閉店間際の客足を不思議と増やす効果があったと宣伝されたが、実際には店内BGMの音量設定が誤っていた可能性が高い。なお、この派生形をめぐっては「意味のない語の反転はもはや別言語である」とする論文が出たが、査読で却下された。
批判と論争[編集]
批判の中心は、ぱなぱなぱなあーあーが「文化的に空白を埋める言葉」であるがゆえに、恣意的な権威づけに使われやすい点である。特に1980年代後半、ある地方自治体が災害広報の試験放送にこの語を採用しようとし、住民説明会で「本当に避難情報なのか、それとも催眠なのか」という混乱を招いた[7]。
また、研究史の一部には、のMargaret A. Thorntonが「この音列は英語話者の耳にはほぼジャズのスキャットである」と記したことから、国際的な説明可能性が過大評価された時期がある。これに対し国内の研究者は「スキャットではなく、責任回避の拍動である」と反論したが、どちらの定義も決定打に欠けるため、現在でも学界では半ば冗談として扱われている。
現代の用法[編集]
に入ると、ぱなぱなぱなあーあーは上で「うまくいかなかった会議の終了宣言」や「説明しづらい空気の共有」に用いられるようになった。短文投稿文化との相性がよく、特にには、都内のデザイン系イベントで来場者が一斉にこの語を唱和する動画が拡散し、再生回数がを超えた。
一方で、AI音声合成との親和性が高すぎるため、機械が人間以上に自然に発声してしまうという逆転現象も報告されている。ある実験では、学習済みモデルに「謝罪」「祝福」「撤収」の3種類の感情を与えたところ、いずれも最終的に「ぱなぱなぱなあーあー」に収束したという。この結果は「人間が先に意味を失い、機械があとから追従した」と要約されることがある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『反復発声と集団同調の民俗誌』東京音声文化研究会, 1962年.
- ^ 末永とし子『公開放送における空白時間の演出』放送実験社, 1965年.
- ^ Margaret A. Thornton, Pana and Prosody: Rhythm as Social Repair, Journal of Comparative Phonetics, Vol. 14, No. 2, pp. 211-238, 1978.
- ^ 国立音声民俗研究所編『拍と沈黙のあいだ』文化資料刊行会, 1980年.
- ^ 渡辺精一郎『意味を持たない語の責任論』新潮社, 1983年.
- ^ 青木理恵『学級会における反復掛け声の教育的機能』教育出版, 1987年.
- ^ 田口修一『ぱなぱなぱなあーあー現象の総合研究』日本民俗音声学会誌 第12巻第4号, pp. 44-79, 1991年.
- ^ Elizabeth K. Morland, The Last Syllable and the Crowd, Cambridge Review of Social Speech, Vol. 8, No. 1, pp. 19-46, 1999.
- ^ 高橋みのる『駅前宣伝における終端伸長音の効果』広告言語研究 第7巻第1号, pp. 5-18, 2004年.
- ^ 神奈川県青少年文化連盟編『反復音声の心理衛生効果』同連盟出版部, 1958年.
- ^ 小林照雄『「ぱなへんあー」型派生語の地域差』方言と音声 第3巻第2号, pp. 88-102, 2009年.
外部リンク
- 国立音声民俗研究所デジタルアーカイブ
- ぱなぱなぱなあーあー研究会
- 日本反復語学会
- 放送演出資料室
- 鎌倉民間音声伝承ネット