ぶぶか
| 分野 | 香気学・民俗言語学・計測規格論 |
|---|---|
| 提唱期 | 1970年代後半〜1980年代前半 |
| 主な用途 | 香りの記述・官民の品質審査 |
| 評価軸 | 立ち上がり速度、残香の温度感、反応語彙の一致率 |
| 関連技術 | 携帯嗅覚計・香気スペクトル辞書 |
| 登場組織 | 環境香料測定協議会(EAFMA) |
| 地理的背景 | 東京都文京区の試験室群 |
ぶぶか(英: Bubuka)は、香気学と民俗言語学の交差領域で用いられる、香りの「立ち上がり方」を分類するための概念である。昭和後期に民間団体が体系化したとされ、のちに官製の測定規格へ波及したとされる[1]。
概要[編集]
は、香りが感じられるまでの「遅延」と、感じた後に言葉が勝手に口を突く現象を、一定の手順で言語化するための枠組みである。香気の成分そのものではなく、知覚の時間構造と記述語の癖を対象としている点が特徴とされる[1]。
体系化の経緯としては、もともとでの香り評価が「気分」へ回収されがちであったことが問題視され、試験官の発話をログ化して「ぶぶかスコア」を算出する方法が提案されたとされる。なお、ここでいう「ぶぶか」は擬音語由来であり、特定の食物名や人物名に直結するわけではないとされる[2]。一方で、辞書編纂の現場では「ぶぶか=泡状の香り」と誤読された時期があり、後述の騒動につながったと指摘されている[3]。
歴史[編集]
起源:文京の嗅覚辞書室と「遅延30秒」[編集]
の起源は、東京都にあった小規模研究室「鷲田式嗅覚辞書室(わしだしききゅうかくじしょしつ)」の実験メモにあるとされる。記録によれば、研究室では香料の評価を行う際に、被験者が匂いを嗅ぎ始めてから最初の説明語を口にするまでの時間(遅延)を30秒単位で丸めていたという[4]。
1978年のある日、当時の室長は、遅延が30秒台の被験者だけが「ぶぶか」という言葉を勝手に口にしたことに気づいたとされる。しかも、同じ香りでも「ぶぶか」と言う人の方が、残香を「ぬるい」「温い」と表現する確率が高かったという。研究室側はこれを“温度感の言語反射”と呼び、遅延と残香表現の結びつきとして整理したとされる[5]。
ただし、後年の追試では、この「遅延30秒」の条件が被験者の待機姿勢に影響されていた可能性が指摘された。具体的には、背もたれに寄りかかった群で「ぶぶか」が増え、直立群では減少したと報告されている。このため起源譚は、科学的再現性よりも“実務の手触り”を優先した逸話として語られることが多い[6]。
制度化:EAFMAの「評価語彙一致率」導入騒動[編集]
は、ぶぶかを官民の品質審査に取り込み、評価語彙の一致率を指標化したとされる。EAFMAの提案書では、被験者が発話した記述語が、あらかじめ登録された香気スペクトル辞書のどの項目に近いかを算出し、その一致率が一定値を超えると「ぶぶか適合」と判定される仕組みが採られたという[7]。
ここで論点になったのが「一致率80%ルール」である。運用上は“80%を超えれば安定した嗅覚体験とみなす”とされたが、ある企業が「言葉を選べる」タイプの教育プログラムを被験者に施したため、実験が“香り教育”になってしまったと問題視された[8]。なお、EAFMAの会議録には「香気そのものではなく、語彙の相互学習が進行した」との記述があり、編集者が脚注を追加した経緯があるという[9]。
1983年にはEAFMAの事務局が「ぶぶかは測定可能である」とする広報原稿を急ぎで作成したが、原稿が“泡状の食感”を連想させる言い回しを含んだため、食品業界側から抗議が相次いだとされる。結果としてぶぶかは、香りの記述形式として限定され、食品の食感用語とは切り離される運用へ改められたと報告されている[10]。
拡張:携帯嗅覚計と「反応語彙の3点差」[編集]
携帯型測定器の普及期、には“反応語彙が3点ずれるだけで別分類になる”という設定が組み込まれ、ぶぶかの運用は一層細分化されたとされる。ここでいう「3点」は、香気スペクトル辞書の類似度計算における量子化差であり、現場では「ぶぶかは紙一重で変わる」とさえ言われたという[11]。
一例として、同一の原料で作られた芳香液が、配送温度が2℃違うだけでぶぶか区分が変わったケースが報告されている。保管庫は神奈川県の倉庫「大貫物流第2冷蔵エリア」で、温度差は—と言い切りたいところだが、公式記録では「±1.8℃」としか記載されておらず、温度ログの精度が議論になった[12]。
さらに、学生ボランティアの被験者では、夜間の自宅で異なる言語環境にいた場合に分類が揺れることが分かり、ぶぶかが香りだけでなく“生活語彙の位相”に影響される可能性が示されたとされる。もっともEAFMAは、これは測定器の言語インターフェース設計の問題であり、概念そのものの誤りではないとして押し切ったという[13]。
批判と論争[編集]
は、言語を測っているのであって匂いを測っていないのではないか、という批判が根強い。特に、香り教育の影響を排除できていない可能性が議論され、実験室内の説明語の選び方が恣意的になり得るとの指摘がある[14]。
また、辞書の登録項目が一部の企業主導で増補され、特定の香り嗜好に寄った分類になっているのではないかという疑念も示された。EAFMA内部では「語彙の偏りは避けるべきである」とされながら、実務上は“審査を速く回すために、出現頻度が高い語から登録する”方針が採用され、結果的に初期セットの影響が残ったとされる[15]。
加えて、ぶぶかという擬音がもつ“泡ぶく”連想の強さが、広報面でたびたび失敗したと報告されている。実際、ある年度のポスターでは「ぶぶか=泡立つ芳香」と誤って解釈され、飲料企業からは広告差し止めの相談が来たという。EAFMAは「香りの立ち上がりの擬音であり泡そのものを指さない」と弁明したが、会議記録には“言葉の勝ち”に関する苦言が残されたとされる[16]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鷲田良治「遅延30秒で観測される記述語の偏り」『嗅覚辞書研究報告』第12巻第3号, pp. 41-62, 1979年。
- ^ 田島岬人「香気記述の時間構造とぶぶか分類」『日本香気学会誌』第8巻第1号, pp. 1-19, 1981年。
- ^ Margaret A. Thornton「Linguistic Reflections in Olfactory Delay Tasks」『Journal of Applied Perception』Vol. 14, No. 2, pp. 201-228, 1984.
- ^ 環境香料測定協議会(EAFMA)編「評価語彙一致率に基づく品質判定の指針(試行版)」『EAFMA運用資料』第2号, pp. 5-38, 1983年。
- ^ 杉本雪乃「泡ぶく連想と香気用語の誤読に関する現場報告」『広告言語と社会』第5巻第4号, pp. 77-95, 1985年。
- ^ Klaus Nieder「Quantization Effects in Portable Odor Instruments」『International Review of Olfactometry』Vol. 9, No. 1, pp. 33-51, 1986.
- ^ 文京区立試験室群監修「鷲田式嗅覚辞書室アーカイブの読解」『地域計測史資料』第1巻第1号, pp. 12-29, 1990年。
- ^ 佐倉隆文「温度感の残香表現と反応語彙の相関」『日本語用論研究』第18巻第2号, pp. 140-166, 1992年。
- ^ 丸山晴「ぶぶかは測定できるか——言語インターフェース設計の観点から」『計測と言語の交差研究』第3巻第2号, pp. 9-27, 1996年。
- ^ 不思議館編集部「横浜の冷蔵倉庫における微差分類の一例」『現場データの読み物』pp. 1-8, 2001年。
外部リンク
- ぶぶか・用語解説アーカイブ
- EAFMA運用資料の閲覧ポータル
- 鷲田式嗅覚辞書室メモ館
- 携帯嗅覚計ユーザー会BUBUKA
- 擬音語の語用論フォーラム