まるお
| 名称 | まるお |
|---|---|
| 読み | まるお |
| 英語表記 | Maruo |
| 分野 | 民間美学・都市習俗・記号論 |
| 成立 | 18世紀末ごろ |
| 中心地域 | 大坂、江戸、東京 |
| 関連組織 | 円環文化研究会、丸尾調整局 |
| 象徴 | 円印、輪札、反復歩 |
| 特徴 | 簡潔さ、往復性、過剰な整列 |
まるお(英: Maruo)は、において円環的な輪郭や反復的な所作を指す民間の美学概念、あるいはその概念を実践する人物・記号を総称する語である。後期ので整理されたとされ、のちにの商業文化を中心に普及した[1]。
概要[編集]
まるおとは、物事をまるく収めること、または同じ動作や配置を一定周期で繰り返すことを良しとする日本の都市文化上の概念である。一般には「丸いもの」を指すと誤解されやすいが、実際には形状よりも、空間の使い方や人の立ち位置、会話の終わらせ方に強い規範を持つ点が特徴である[2]。
この語は年間ので、問屋仲間が帳簿の締めを円滑化するために用いた隠語に由来するとされる。のちに期の都市改造、期の量販店文化、さらに期のSNS上の自己演出へと受け継がれ、現在では「やや妙に整いすぎた状態」を評する俗語としても流通している[3]。
起源[編集]
大坂の輪札と帳合[編集]
最古の用例はに作成されたとされる『北浜輪札覚』に見え、ここでは取引先への返答を「まるおに戻す」と記した欄外書きが確認される。これを研究したのは、当初のまるおが「確認を最後まで丸める」意味を持っていたと指摘したが、この解釈には異論もある[4]。
一方で、の呉服商が、帳面の数字を半紙の端に小さく円形に記す癖を周囲にまねられたことから、まるおが「職人の整頓癖」を指す語になったとする説もある。なお、この説を裏づける資料として旧蔵の虫損した領収書がしばしば引用されるが、判読部分が都合よく少ないため要出典とされることが多い。
江戸への移入[編集]
末から初年にかけ、まるおはの長屋や芝居小屋の周辺で急速に広まった。とくにの小間物屋が、包装を円筒状に巻く際の手順を「まるお包み」と呼び始めたことが普及の契機であったとされる[5]。
の米問屋では、昼食後に店先へ戻るまでを一筆書きのように歩く番頭を「まるお番」と呼ぶ習慣が生まれた。ここから、単に「丸い」ではなく「戻り道まで含めて無駄がない」ことを美徳とする理解が定着したとみられる。
制度化[編集]
丸尾調整局の設置[編集]
、外郭の諮問機関として、半ば試験的にが設けられたと伝えられている。職務は、駅前広場、学校の整列、盆踊りの輪の半径を「市民に不快感を与えない範囲」に収めることで、実際には都市景観の標準化を進めるための名目組織だったとみられる[6]。
初代局長とされるは、円の中心に立つ人間が3秒以上沈黙すると周囲の秩序が崩れるという独自理論を唱え、各地で「沈黙3秒則」を広めた。この規則は一部のに採用されたが、客の回転率が上がりすぎるとして2年で緩和された。
学校教育への浸透[編集]
初期には、小学校の図画工作において「まるおのある構図」が奨励された。これは、紙面の四隅に意図的な空白を残し、中心付近にのみ情報を集約する方式で、当時の教育雑誌『児童整列』が連載したの実践例によって広まった[7]。
ただし、地方によっては「まるお」を過度に形式化した結果、習字の点画まで円形に寄せる児童が続出し、下伊那郡の一部では校長会が注意喚起を出したとされる。なお、この件に関する公文書は一部欠落しており、学術的には伝聞の域を出ない。
文化的特徴[編集]
まるおの特徴は、完全な円形そのものではなく、円に向かう途中の「ため」に価値を置く点にある。たとえば挨拶では、要件を先に述べず、最後の一文で本題に戻る話法がまるお式とされ、商談では最初に価格を示さず、輪郭だけを合意する進め方が好まれた。
また、日用品の設計にも影響し、の商家では角のない帳箱、の寄席では座布団を少しずつずらして置く「ずらし円陣」が流行した。これにより、場の緊張を保ったまま無駄な衝突を避けられるとして評価されたが、実際には片づける側の手間が増えたとも言われる[8]。
一方で、まるおはしばしば「何も決めないための方便」と批判された。とくにの会議文化においては、議論が丸く収まりすぎるあまり、結論が翌月へ持ち越される現象が「過剰まるお」と呼ばれ、社内用語として定着した。
流行と派生[編集]
まるおブーム[編集]
前後には、の若者文化の影響を受けて「まるおグッズ」が短期間だけ流行した。代表例は円形の名札、輪のように折り返すマフラー、そして一度閉じると開きにくい筆箱である。とくにの文具店が販売した「M-30型丸筆入」は、初週で約2,800個を売り上げたが、その半数が使用方法を理解されないまま返品された[9]。
この流行を追った写真家は、被写体を常に少し左へ寄せて撮る「まるお構図」を提唱した。彼女の写真集『円の行方』は地方の美術館で小規模な話題を呼んだが、後年の再評価では「構図が全体的に落ち着きすぎて眠い」とも評された。
インターネット上の変形[編集]
以降、まるおはネットスラングとして再解釈され、文末をやわらかく閉じる語尾や、過度に整ったプロフィール文を指すようになった。特に末期から初期にかけて、自己紹介欄の一文目がやたら丸い人を「完全まるお」と呼ぶ遊びが生まれたとされる。
には、匿名掲示板上で「まるお診断」が流行し、質問に答えると「半円型」「輪郭過多型」「中心喪失型」の3類型に振り分けられる簡易診断が拡散した。もっとも、診断結果の8割が「あなたはたぶんまるおです」と表示されたため、統計的な意味はほぼないとされる[10]。
社会的影響[編集]
まるおは、商業実務、教育、礼儀作法、さらには都市設計にまで影響を及ぼしたと考えられている。とりわけの催事場では、客導線を円形に近づけることで滞留時間を平均14分延ばしたとする内部資料があり、これが「まるお型売場」の始まりと説明されることがある[11]。
また、自治体行政では「角の立たない説明文」を良しとする傾向に拍車をかけ、の一部区役所では、通知文の末尾を必ず「以上、取り急ぎ円満にお知らせします」で締める様式が採用されたという。もっとも、この文言が実在したかどうかは確認されておらず、編集者間でも意見が割れている。
近年では、円環的なコミュニケーションを支援するコンサルティング業が「まるお設計」を名乗ることがあり、実務と流行語の境界は曖昧になっている。なお、の資料に類似語が見られるとの指摘もあるが、関連性はまだ整理されていない。
批判と論争[編集]
まるおをめぐる批判として最も多いのは、概念が便利すぎて何にでも貼りつく点である。学者のは「まるおは説明ではなく、説明を省略したいときの掛け声に近い」と述べ、これに対し実践家の流の系譜を引く団体は「省略こそが高度な調整である」と反論した[12]。
さらに、の調査とされる資料では、まるお志向の強い組織ほど会議資料のページ数が平均1.7倍になるとされ、逆に結論到達率は11%低下したと報告されている。ただし、この数字は集計方法が不明であり、再現性について疑義がある。
もっとも興味深いのは、まるおが反体制文化の記号としても用いられたことである。すなわち、整いすぎた社会に対する抵抗として、わざと輪郭を崩す「逆まるお」がの学生運動周辺で用いられたとされ、これは概念の自己否定として研究者の関心を集めている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 杉本勘三郎『北浜輪札覚の研究』関西商業史叢書, 1998年, pp. 41-67.
- ^ 藤枝澄之助『都市の円環と整列意識』内務文化研究会, 1902年, Vol. 3, No. 2, pp. 12-29.
- ^ 丸川サト『児童整列と図画工作』児童教育出版社, 1934年, pp. 88-104.
- ^ 高瀬ユリ『円の行方』青磁書房, 1975年, pp. 5-93.
- ^ 小野寺茂夫「まるお概念の過剰適用について」『社会記号学紀要』第14巻第1号, 2008年, pp. 101-118.
- ^ M. A. Thornton, “Circular Etiquette in Late Industrial Tokyo,” Journal of Urban Folklore, Vol. 22, No. 4, 1997, pp. 211-236.
- ^ Kenji Aramaki, “The Maruo Principle and Retail Flow Design,” Pacific Studies in Commerce, Vol. 9, No. 1, 2011, pp. 17-42.
- ^ 田中屋庄兵衛監修『心斎橋帳合控』大阪商工会議所史料室, 1829年, pp. 3-19.
- ^ 佐伯みどり『学校儀礼における円形化傾向』教育民俗学研究, 第8巻第3号, 1968年, pp. 55-71.
- ^ The Editorial Board of Maruo Studies『Maruo and the Geometry of Silence』Nihon Press, 2022, pp. 1-146.
外部リンク
- 円環文化研究会アーカイブ
- 丸尾調整局資料室
- 都市習俗民俗館デジタル展示
- まるお事典編集室
- 北浜輪札研究ノート