まーごめ
| 分類 | 都市語・芸能符牒・準宗教的挨拶 |
|---|---|
| 発祥 | 昭和後期の東京都港区周辺 |
| 初出 | 1978年頃とする説が有力 |
| 主な使用者 | 演芸関係者、舞台美術助手、深夜番組制作班 |
| 意味 | 謝罪、感謝、事情説明の省略形 |
| 派生 | まごめる、まーごみ、三回まーごめ |
| 関連施設 | 麻布演芸会館跡、旧・芝第二録音所 |
| 研究分野 | 社会言語学、都市伝承学 |
| 象徴色 | 薄茶色 |
| 俗信 | 三度唱えると場が収束するとされる |
まーごめは、における感謝・謝罪・宣誓を一語に圧縮したとされる言い回しである。もともとは後期の周辺で、舞台人の打ち上げ挨拶から派生した符牒として知られている[1]。
概要[編集]
まーごめは、短い音列でありながら、謝罪・依頼・感謝・撤回の意味を場面に応じて含みうる表現である。とくに・の現場では、言葉を尽くすより先に「まーごめ」と唱えることで、責任の所在をあいまいに保ちながら和解を成立させる便利な語として扱われてきた。
語形は一見すると幼児語に近いが、実際には後半の番組制作現場で用いられた略式の敬語「まことに申しごめんなさい」が縮約したものとされる[2]。ただし別説では、港区の老舗饅頭店「馬込屋」の出前札に由来するともされ、語源は長く論争の対象となっている。
語源[編集]
放送局符牒説[編集]
最も知られる説では、近辺の深夜バラエティ制作班が、長い謝罪文をカンペに書く余裕がないときに「まーごめ」と書き、出演者に丸投げしていたとされる。1981年にの第3副調整室で発見されたとされるメモには、「遅刻・料理失敗・台本未読の際は、まーごめ一発で通す」と記されていたが、筆跡が3人分混在しているため、要出典とされている。
馬込屋出前札説[編集]
一方で、馬込の和菓子店「馬込屋」が配達時に用いた木札『まーごめ』が語の起源であるとする説もある。この木札は、商品名ではなく『また来ます、ごめんなさい』の略だと説明されたというが、店側は1986年の閉店まで一貫して否定していたとされる。ただし、閉店後に残された帳簿の余白へ『まーごめ 12箱』と書かれた項目が見つかり、研究者のあいだで議論が続いている。
演芸人の誓約語説[編集]
さらに近年は、舞台上で失敗した芸人が、客席に向かって一礼しつつ両手を胸に当てる所作とともに発したことから定着したとする説が有力である。の寄席記録では、1983年2月14日に某漫才師が「きょうは全部まーごめです」と言い切り、観客が半数笑い半数沈黙したとされる。これがのちに『失敗の総括を一語で済ませる能力』として業界評価につながった。
歴史[編集]
1970年代後半の形成期[編集]
1977年から1979年にかけて、内の収録現場では、収録時間の圧縮とスポンサー対応のため、長文の謝罪を短文化する慣習が進んだとされる。とくにの地下スタジオ群では、ADがホワイトボードに『まーごめ』とだけ書き、演者がそれを見て即座に頭を下げる儀礼が半ば制度化していた。
1980年代の普及[編集]
1980年代に入ると、深夜番組のテロップ文化と結びつき、まーごめは字幕向けの便利語として全国に拡散した。1984年の某音楽特番では、リハーサル遅延に対する謝罪文を19行削減するために「まーごめ」の一語に置換されたとされ、その年だけで局内の紙コストが減少したという数字が残る。ただし、この効果は後年の経理資料には反映されていない。
平成期の再解釈[編集]
に入ると、まーごめは単なる謝罪表現ではなく、関係修復のための『空気の鍵語』として再解釈された。大学のゼミでは、発話者が語尾にまーごめを付けると、相手の怒りのピークが平均で37秒早く下がるという調査結果が報告されたが、対象は居酒屋の店員12名とサークル幹部9名に限られており、一般化には慎重であるべきだと指摘されている。
令和期の再流行[編集]
期にはSNSで短文化が極限まで進んだ結果、まーごめは『説明を省くための説明』として若年層に再流行した。とくに動画配信者のあいだで、炎上後の第一声として用いられることが多く、2022年にはの調査会社が『まーごめ発話後24時間以内にコメント欄が沈静化した割合は62.4%』と発表したが、集計方法が手動かつ母数不明であることから、学術的には慎重に扱われている。
用法[編集]
まーごめは名詞として扱われることもあるが、実際には述語的にも接続詞的にも運用される多機能語である。典型的には「まーごめ、次から気をつけます」「それはまーごめ案件である」のように用いられ、謝罪の強度を下げつつ、責任の存在を否定しない絶妙な緩衝材として機能する。
また、関係者間では「三回まーごめは正式謝罪」「一回まーごめは予告謝罪」といった不文律があるとされる。なお、の一部制作会社では、まーごめの後に必ずを飲むことで誠意を補強する慣習があったというが、これは同社の新入社員研修マニュアルにのみ記されており、外部への周知は限定的であった。
社会的影響[編集]
まーごめは、単なる流行語を超えて、日本の対人摩擦を低減する『低温謝罪』の技法として広く流通したとされる。特にやの現場では、長い説明を求める相手に対し、まず一語で温度を下げることが重要視されてきた。
一方で、専門家のなかには、まーごめの普及が『謝ること自体を演技化した』との批判もある。2020年のでは、まーごめの多用が責任回避を助長するとの報告が出され、討論は4時間に及んだ。なお、最終的には司会者が全体を「まーごめで締める」と宣言し、会場が拍手で終わったという。
批判と論争[編集]
まーごめをめぐっては、語源の不明確さに加え、その実用性がむしろ『何も言っていないのに済ませる』危うさを孕むとして批判されてきた。とくにの外部研究会では、「謝罪の形式だけが残り、実質が空洞化する危険性」が指摘されたが、同時に「空洞化しているからこそ場を保つ」という逆説的な評価も示された。
また、とされる逸話として、1991年の深夜生放送で、出演者が台本トラブルのたびに「まーごめ」を連発した結果、プロデューサーが本当に納得して番組が予定より8分早く終了したという話がある。番組台帳には該当する記録がないため、口承伝承の域を出ない。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯倫太郎『放送現場語彙の生成と崩壊』文化放送出版部, 1998.
- ^ Margaret A. Thornton, "Compressed Apology Tokens in Urban Japanese Media", Journal of Applied Sociolinguistics, Vol. 14, No. 2, pp. 88-113, 2007.
- ^ 高瀬みどり『港区深夜文化史』青丘書房, 2004.
- ^ 中村航一『謝罪の一語化に関する実証研究』国語学叢書, 第12巻第3号, pp. 41-59, 2011.
- ^ E. Sato, "From Bowing to Brevity: Ritualized Sorry Expressions in Tokyo Production Houses", Nippon Review of Communication, Vol. 6, No. 1, pp. 5-27, 2015.
- ^ 『まーごめ辞典 1978-1998』東京都市伝承資料館, 2002.
- ^ 渡辺精一郎『演芸と略語の社会史』東都新書, 1989.
- ^ Claire B. Hargrove, "The Maagome Problem: A Study in Polite Non-Commitment", Proceedings of the East Asian Speech Society, Vol. 9, pp. 201-219, 2019.
- ^ 藤堂真里子『低温謝罪の倫理』港湾文化研究所, 2021.
- ^ 石田修二『まーごめの民俗学的展開』民俗と現代, 第22巻第4号, pp. 77-96, 2018.
外部リンク
- 東京都市伝承アーカイブ
- 港区口承文化研究会
- 深夜番組資料室
- 日本略語学会年報
- まーごめ保存委員会