もさり
| 分類 | 擬態語(聴覚・触覚の描写) |
|---|---|
| 主な用法 | 音の減衰、毛布や粉の動き、衣擦れの描写 |
| 起源とされる時期 | 17世紀後半(都市口承) |
| 関連分野 | 触覚工学、舞台音響、民俗言語学 |
| 表記揺れ | もさり/モサリ/莫佐里 |
| 派生概念 | もさり配列、もさり係数 |
もさりは、音や動きの「柔らかい粒立ち」を表すとされる日本語の擬態語である。江戸期の都市伝承から派生し、近代には触覚研究や舞台技術の用語としても定着したとされる[1]。
概要[編集]
もさりは、音や動きが急激に立ち上がらず、表面がもつれたまま減衰していく様子を指す擬態語である。特に、布・毛・粉・土などの「摩擦の質感」が変化する瞬間に使われるとされる。
言語学的には、母音の丸みと子音の摩擦が組み合わさることで「静かな圧」と「微細な粒子感」を連想させる語として説明されることが多い。また、舞台芸術や音響設計の現場では、聞こえの強弱だけでなく、観客の体感(首・肩のわずかな緊張)まで含めた設計指標として運用された歴史があるとされる。
一方で、現代の辞書では「擬態語」としてまとめられることが多いが、その内部には少なくとも3系統の用法があったと推定されている。すなわち、(1)布の擦れ、(2)粉の崩れ、(3)人の歩みの鈍さである。特に(2)は、後述する「もさり計量」の成立に影響を与えたとされる[2]。
歴史[編集]
都市口承としての誕生と「計測」への飛躍[編集]
もさりが初めてまとまって記されたとされるのは、後期の商家の帳面「囁き帳(ささやきちょう)」である。そこでは、で行われた「砂糖粉の夜間舞踊」において、照明を落としたときだけ聞こえる足取りの“鈍い粒立ち”をもさりと呼んだ、と記録されているとされる[3]。
その後、初期に入ると、言葉が「観察」から「再現」へと移ったと説明される。具体的には、浅草近辺の職人が集めた民間工房「夜間触音(やかんしょくおと)研究所」が、布地を一定角度で擦らせたときの摩擦音を、音叉ではなく皮膚感覚で分類する手法を開発したとされる。ここで提案されたのが「もさり配列」という概念であり、布の毛並みの方向と擦過速度の組を“配列”とみなす枠組みであった。
さらに大きな転機として、にが行った「静粛労働環境調査」で、もさりが“騒音”ではなく“誤差の少ない安心感”として扱われたことが挙げられる。調査報告では、被験者が「不快」ではなく「もさり」と表現した場合にのみ、作業効率が平均で約6.2%向上したとされる。ただし、この数字は同報告書内で「測定担当が途中で疲労したため、丸め処理を行った」との注記付きであり、後の研究者からは疑義が出たとされる[4]。
もさり配列・もさり係数と舞台技術の普及[編集]
もさり係数は、布や粉が“音として”現れるまでの減衰曲線を、1本の式に圧縮するために作られた指標である。考案したのは、の劇場技師である渡辺精一郎(わたなべ せいいちろう)とされる。渡辺は「観客は耳でなく身体で聴く」と繰り返し、舞台袖で観客の袖口の挙動(上半身の微細な揺れ)を観察したと伝えられている。
この方法は、の小規模実験で「もさり係数0.41〜0.55の範囲で、観客が演者の沈黙を“安心”として受け取る」ことが示されたとされる。さらに同年、渡辺は舞台用の砂袋を導入し、砂袋の粒度を0.2mm刻みで調整したという逸話がある。砂の粒径表は残っているとされるが、後年に再現しようとした工房が「0.2mmを揃えると逆に音が明るくなる」と主張したため、もさり係数の再現性は論争となった[5]。
一方で、舞台現場では実用性が勝ち、もさりは“空気の重さ”を調律する合図として広がった。特にの小劇場ネットワークでは、衣擦れの「もさり」を増やすために、衣装の内側に極薄の綿層を3.6mmだけ足す改造が流行したとされる。ここで妙に細かい“3.6mm”が独り歩きし、当事者は後に「何となく針金が切れた寸法だった」と語ったが、結果だけは好評だったとされる[6]。
行政・教育への波及と「誤用」の発生[編集]
もさりは、言葉のままではなく技術語として行政に吸収された。たとえばにの一部部局が実施した「朗読の身体学」講習では、擬態語の表現を採点する際に“もさり度”という採点欄が置かれたとされる。これは子どもが語尾を尖らせず、息の抜けを柔らかくする指導に向けたものであると説明された。
しかし、教育現場では誤解も生んだとされる。もさりを「音量を下げること」だと理解した教員が増え、結果として声がこもり、逆に読みが聞き取りにくくなる例が報告された。あるの視察記録では、誤用のクラスの平均正答率が通常授業に比べて14.7%低下したと書かれている[7]。もっとも、この視察記録には“平均の算出方法が不明”という注記があり、真偽は揺らいでいるとされる。
なお、最近の言語研究では、もさりが本来は「減衰の質」を指す語であり、音量や速度の単純操作では再現できない、という見解が強いとされる。とはいえ、現場では引き続き“操作可能な合図”として使われ続けているという[8]。
批判と論争[編集]
もさりの計測体系には、当初から懐疑があったとされる。特に、もさり係数が“身体反応”に依存するため、被験者の体調や椅子の硬さといった交絡因子が混入する可能性が指摘された。そこでに行われた再実験では、椅子の材質を合成樹脂からへ変えた結果、係数が0.07だけ上昇したと報告されたが、同時に照明の色温度も変わっていたことがのちに発覚したとされる[9]。
また、言語学の側からは、「擬態語は感覚の誤差を含むため、単一指標に圧縮すべきでない」という批判が出た。これに対して渡辺精一郎の弟子筋とされる小林宙(こばやし そら)は、もさり係数は“真の物理量”ではなく“舞台設計の合意形成ツール”である、と反論したとされる。ただし、この主張を裏付ける一次資料は限られており、編集者によっては要出典とされやすい部分であるとされる[10]。
さらに近年では、もさりを多用する朗読が「本当に聞こえなくなる」という倫理的問題として取り上げられることもある。観客の集中が削がれる可能性があるため、講師側に“沈黙の演出”としての説明責任が求められる、という議論がある[11]。一方で、もさりは誤用されてもなお魅力が残る語である、とする反論も根強い。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「夜間触音における擬態語分類—もさりの減衰曲線仮説」『日本舞台技術年報』第12巻第3号, 1932年, pp.14-29.
- ^ 佐伯静流「囁き帳と浅草砂糖粉舞踊の民俗言語学」『民俗言語学研究』Vol.7 No.2, 1978年, pp.101-134.
- ^ 小林宙「もさり係数は物理量ではなく合意形成である」『劇場音響学会誌』第5巻第1号, 1964年, pp.33-48.
- ^ M. A. Thornton「Tactile Listening and Pseudo-Perceptual Metrics in Theatre」『Journal of Somatic Acoustics』Vol.18, No.4, 2001, pp.221-245.
- ^ Y. Nakamura「Misuse Patterns of Onomatopoeia in Reading Education」『教育心理学季報』第26巻第2号, 1999年, pp.55-73.
- ^ 石田緑「靜粛労働環境調査におけるもさり度の統計処理」『行政環境評価論集』第2巻第7号, 1950年, pp.7-19.
- ^ G. R. Whitcomb「On the Rounded Vowel Effect in Japanese Sound Symbolism」『Phonetics Review』Vol.41, No.1, 2010, pp.1-22.
- ^ 田中啓介「3.6mmの衣装改造と観客反応の相関」『小劇場デザイン研究』第9巻第6号, 1987年, pp.77-96.
- ^ 文部省「朗読の身体学講習資料(抄)」『教育課程資料研究』第1巻第1号, 1951年, pp.1-58.
- ^ 【タイトル】「もさり配列の物理的正当化(再解釈)」『触覚工学トピックス』第3巻第9号, 1968年, pp.201-210.
外部リンク
- 擬態語アーカイブ室
- 舞台音響・用語辞典
- 夜間触音研究所デジタル資料
- もさり計測キット製品履歴
- 浅草民俗語彙メモ