もちもちたいがらぶ
| 分類 | 感情表現語(ローカル俗語) |
|---|---|
| 地域的な広がり | 北東部〜東葛の一部 |
| 主な媒体 | 地域掲示板、即売会の配布紙、歌詞カードの余白 |
| 関連キーワード | もちもち/タイガー/“がらぶ”(愛称語尾) |
| 初出とされる時期 | 頃(同語の類似表記を含む) |
| 象徴とされる行為 | 手で“弾く”ように言う朗読 |
| 論争点 | 出典不明のまま商用利用が進んだ疑い |
| 現代での扱い | ネットミームとして断片的に継承 |
は、の一部地域で流通したとされる、奇妙に甘い“感情の形”を指す語である。語源は麹文化や児童唱歌に関連づけられているが、成立経緯は複数の説に分かれている[1]。
概要[編集]
は、ほの甘い高揚感と、手触りの良さを連想させる擬態語的表現として用いられる語である。多くの場合、「もちもち」を身体感覚の起点に据え、「たい」「がらぶ」を畳みかけることで“恋でもない・怒りでもない”曖昧な気分へ着地させる、と説明される[1]。
一方で、語感だけが先行し、意味の中身は話者ごとに変動する点が特徴とされる。例えばの古い掲示板では“放課後の廊下で、スリッパが鳴る直前の気配”として言及され、別の記録では“冷めても伸びるお餅を見つめる時間”とされている。なお、語が独立して流通し始めた契機については、麹業者の販促言葉から派生したとする説や、学童の合唱の誤記に由来する説が併存している[2]。
本記事では、複数の回想と当時の配布物を“それらしく”つなぎ、成立の物語としてまとめる。あくまで伝承の編集合戦の結果として理解されるべき語であり、語りの中心にはの民俗倉庫再利用事業に関わった団体、ならびに「虎」という象徴物の運用が置かれている[3]。
語の定義と用法[編集]
用法としては、(1)一文の末尾に付与して気分を濃くする、(2)短い唱和にして場の空気を揃える、(3)商品名や屋台札に“感情の字幕”として添える、の三形態が観察されるとされる[4]。
(1)では「今日は“もちもちたいがらぶ”だね」のように、曖昧な同意を取りやすい形に整えられる。特に語尾のは、地域では“言い切らない愛称”として機能し、相手を否定せずに気持ちの解像度だけ上げる役目があると説明されることが多い[5]。
(2)の唱和は、声の強弱よりも“間”が重要とされる。伝承では、拍手を1回だけ入れてから吐くのが基本で、茨城の古記録紙では「拍手は小指側で、回数は1回、秒数は1.7秒を超えない」と妙に具体的に書かれている[6]。
(3)の商用利用は、1990年代後半の即売会文化と結びつき、屋台札や配布うちわに「もちもちたいがらぶ 〜もちもちが来ます〜」のような文言が載ることで一気に認知が広がったとされる[7]。ただし、この段階で“意味の統一”が起きたかどうかについては異論もある。
歴史[編集]
前史:麹倉庫の“弾き語り”[編集]
語の核である「もちもち」は、関連の職人が、仕込みの待ち時間に行っていたとされる“弾き声”に由来する、という伝承が残っている。茨城の保存会『発酵音律研究会』(架空の団体名として記録されることがあるが、当時の会合資料には「音律」とだけ記されていた)では、仕込み桶の蓋を閉める前に「音を一度だけ跳ねさせる」と説明されていたとされる[8]。
この話を裏づけるものとして、の古い講習会の配布プリントが挙げられる。プリントには“跳ね音テスト”として、(a)声量を3段階、(b)床から口までの距離を24cm、(c)息継ぎは鼻だけ、の三条件が書かれている。参加者が条件を満たせたとき、近くの子どもが「もちもち、たいがらぶ!」と叫んだことが、語の固定化につながったのだと語られている[9]。
なお、「タイガー(虎)」に結びついた経緯は、同じ倉庫が年一回の祭礼で“虎の幟”を立てていたことにあるとされる。幟は本来、雨除けの呪符として扱われていたが、誰かが幟の前で朗読の練習をしたことで、語に“虎”のイメージが結びついた、と述べられている[10]。この結合が、後年の奇妙な語感の土台になったと解されている。
成立:1999年の“東葛掲示板誤変換事件”[編集]
広域での流通のきっかけとしてしばしば挙げられるのが、に方面の掲示板で起きた誤変換である。掲示板では当初、「もちもち たいよ、がんばれ」と書かれていた投稿が、変換候補の中の“がらぶ”に置換され、以後、参加者が冗談半分にその表記を踏襲したとされる[11]。
ただし、この“誤変換”は意図的だった可能性もあると指摘されている。理由として、同掲示板の管理人が「単語は短いほど拡散する」と語っていたとされる回想が残り、さらに投稿数のログが「第2水曜だけ伸びる」偏りを見せたためである。実際、当該ログでは“もちもち”系の書き込みが月内合計で平均312件ほど観測される一方、奇妙に第2水曜だけが427件に跳ね上がった、とまとめられている[12]。この数字が真に確定した根拠は示されていないが、回覧用のまとめ文には確かに書かれていたという。
この時期に「がらぶ」が“愛称語尾”として定着し、「虎の気配」を呼ぶ読み方が共有された。読みの作法として「口の中で“ら”を転がしてから“ぶ”を止める」など、発音に関する注記も付けられたとされ、結果的に音韻ゲームとしても楽しめる語になった、と評価されている[13]。
社会的影響:餅屋の販促が“恋の代替語”に[編集]
2000年代初頭になると、の老舗菓子店が“感情の短縮形”として「もちもちたいがらぶ」を札に採用したことで、語は恋愛の比喩に近い位置へ移動したとされる。店の内部メモは「告白は言いづらいが、気分は置ける」という趣旨で、購入者に配られる紙袋の内側に小さく印刷された[14]。
この試みは、商店街の行動デザインを担当したの“心地よい無言推進”という小規模施策(当時の非公式資料にそう書かれていた)と接続し、言葉を直接使わずに関係を進める手段として採用された、とする見方がある[15]。実際、2002年の聞き取りでは、告白率が前年比で約0.8%上がった、というかなり控えめな数値が示されている。数値だけを見ると効果が薄いように見えるが、同時期に“声を出す回数”が減ったことが重要だったと、聞き取り側は強調している[16]。
一方で、誤用による摩擦も発生した。学校の掲示物で「もちもちたいがらぶは禁止」と急に書かれた回があり、その場を収めるために教師が「もちもち」は健康語だから、という“妙な理屈”で説明した、という逸話が残る。語は、善意にも悪意にも転びうる“無害そうな刃”として扱われるようになり、自治体への問い合わせ件数が増えたとも報じられた[17]。
批判と論争[編集]
批判として最も多いのは、起源の説明が後付けされ続けた点である。語源をに求める話、児童の唱歌に求める話、掲示板の誤変換に求める話が並行しており、どれも“確かそうな資料”を伴っているため、却って検証が難しいとされた[18]。
また、商標的な動きがあった可能性も議論された。ある地域情報誌は「もちもちたいがらぶ 〜のれんの色〜」という表記が、無断で統一配布されたと報じたが、当事者は「のれんの色は配布していない」と主張した。ここで、情報誌が出した再現表では配布物の枚数が「総数1,024枚、うち“らぶ”入りは331枚」とされ、読み物としては楽しいが、当時の発注記録に一致しない、と指摘された[19]。
さらに、意味の曖昧さが“空気の強制”に転じるとして、ネット上では「同じ気分を要求する語だ」という批判が出た。反論としては「語尾が合っていれば、人は本来それ以上を押しつけない」という主張がなされ、結果として議論は収束せず、“もちもちたいがらぶ警察”という自称ハンドルも生まれたとされる[20]。ただし、その人物像は後に別のミームに吸収され、実在の個人がいたかは不明であるとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「『もちもちたいがらぶ』の音韻的評価と地域差」『民俗擬態語研究』第12巻第3号, 2003年, pp. 44-59。
- ^ Margaret A. Thornton「Ambiguous Endings in Local Japanese Internet Slang」『Journal of Microlects』Vol. 7 No. 1, 2005, pp. 101-129。
- ^ 佐藤和音「麹倉庫における“弾き声”の実践記録」『発酵と身体の民俗学』第2巻第1号, 2001年, pp. 12-27。
- ^ 高橋うらら「掲示板の誤変換が固有語を生む条件」『計算言語の片隅』第9巻第2号, 2004年, pp. 88-104。
- ^ 【都市景観局】編「無言コミュニケーション施策報告書(非公式版)」【都市景観局】, 2002年, pp. 3-41。
- ^ 鈴木マサト「恋の代替語としての語尾“がらぶ”」『若者ことば年鑑』2006年版, pp. 210-235。
- ^ 田中真砂「“虎の気配”と朗読作法の接続」『季刊・祭礼音誌』第15巻第4号, 2007年, pp. 77-92。
- ^ Eiko Nishimura「Merchants and Emotional Branding in Rural Japan」『Ethnography of Commerce』Vol. 11, 2008, pp. 55-81。
- ^ 松田啓助「もちもちたいがらぶ禁則表の社会的受容」『学校掲示の言語学』第6巻第2号, 2003年, pp. 30-46。
- ^ 大塚ミロ「The Case of ‘Mochimochi Tiger Love’」『Proceedings of the Local Meme Symposium』pp. 1-18, 2004年(タイトル表記が一部原題と異なる)。
外部リンク
- 発酵音律アーカイブ
- 東葛掲示板・保存ミラー
- 商店街札データベース
- 拍手タイミング研究部
- 地域ミーム検証会