もちもち
| 分類 | 食感表現(語用論的形容) |
|---|---|
| 起源とされる分野 | 民間食文化+品質管理用語 |
| 関連語 | もち、弾力、粘性、ねばり、やわらかさ |
| 用例の代表 | 餅・麺・団子の食感評価 |
| 波及分野 | 広告表現、接客評価、議論のレトリック |
| 公式化の試み | 食感スケール(曖昧さを含む) |
もちもちは、主に食品の食感や品質を表す日本語の副詞的形容であり、口当たりの「反発感」として説明されることが多い[1]。また転じて、感情・議論・人間関係における「粘り」と「やわらかい抵抗」まで含む語として用いられているとされる[2]。
概要[編集]
もちもちは、食べたときの歯ごたえと、押し返される感触の両方を同時に想起させる語として知られている。特に餅や団子の評価では、表面の滑走性だけでなく、口腔内での「微小な粘り」が重要であると説明されがちである。
一方で、語の中心が単なる食感ではなく、説明の仕方(どこまで強く褒め、どこから照れずに評価を確定させるか)にある点が指摘されている。実際、が「やわらかいのに負けない」といった道徳的ニュアンスと結びついた例が、近年の広告・接客・議論の場で増えてきたとされる[3]。そのため本項では、食文化から言語運用へ波及した「ありえたかもしれない系譜」を、資料の体裁に沿って整理する。
歴史[編集]
民間の食感計測と「抵抗点」仮説[編集]
「もちもち」という語が体系化された背景には、江戸後期に広がったとされる民間の食感計測があると推定されている。とりわけの菓子屋の一部では、餅の出来を“見た目”ではなく“咀嚼の終端がどこに来るか”で判定する「抵抗点」観測が行われたとされる[4]。
観測者の記録では、餅を一口分に切る前に、箸で十回圧してから(圧力は「指の重さ×四割」とされる)、口に入れて舌で押し返すまでの時間を測定したという。ところが、ある記録帳では「抵抗点は平均で0.73秒(ただし個体差が±0.11秒)」とされ、語感の良さが測定値を上書きしていった可能性が示唆されている[5]。
この時点で「もちもち」は、物理量というより合図語になった。すなわち、料理人が“数値の代わりに合図で合意するための短い擬音”として使い始めたのが、のちの普及につながったと語られることが多い。
品質表示運動と食品工学的な誇張[編集]
明治末期、食品の均質化を求めた一派が、食感の言葉を標準化しようとした。ここで登場したのが内の「食感評価試験室」(当時の内部呼称は「食感室」)である。食感室はに置かれ、炊飯・製粉・練りの各工程で“押し返し”の再現性を競ったとされる[6]。
試験室では、を評価するための「弾性-粘性バランス指数(E-BBI)」が提案された。指数は(A:圧縮変形率)×(B:離脱抵抗)÷(C:表面乾燥度)から算出されるとされ、ある年次報告では「良品のE-BBIは17.4〜19.1の帯」と記された[7]。もっとも、出回った資料の多くは“言葉の丸さ”を損なわないために、数値を直接書かず「もちもち帯」とだけ表記していたという。
この隠し表記が、消費者にとっては都合よく機能した。結果として、は「規格の入口でありながら、具体的に確定しない自由度を残す」評価語として定着し、食品業界だけでなく広告のコピーにも転用されることになった。
社会への影響[編集]
は、食品の評価語にとどまらず、対人関係の言語運用へ流入したとされる。たとえば、接客現場では「反応がもちもちであるべき」といった研修が行われたという報告がある。これは“丁寧すぎて固くなる”状態を避けるための比喩で、相手の表情を押し返しで認識するよう求めたのだと説明されることが多い[8]。
また、広告表現では「もちもち=安心して繰り返し食べる理由」と再解釈され、菓子・麺・パン以外にも広がった。たとえばのある食品メーカーが、麺ではなく“会議用スナック”の宣伝にを使い、「議事がもちもちに進む」とまで言った広告が、皮肉としてではなく真面目に掲載されたとされる[9]。
さらに言語論の周辺では、議論の場における「もちもち」が“相手の主張を即座に切り捨てず、押し返しながら残す”態度を意味する、とまとめられた。学会誌の書評では、この語の魅力が「曖昧でありながら、言った者の自信だけは伝わる点にある」と評されている[10]。
批判と論争[編集]
一方で、の標準化には批判も多い。食感室の試験が“言葉の熱量”を測ってしまうのではないか、という指摘が続出したとされる。そのため、1980年代後半に「もちもち厳密化委員会」がの協力を得て設立されたが、結局は成果が“語の余白”に吸収されたと報告されている[11]。
また、当初の測定値の再現性についても疑義が示された。ある内部資料では、同じレシピでも週末はE-BBIが平均で+1.9上がり、平日は-0.6下がったという奇妙な変動が記録されている[12]。温度・湿度の影響という説明が一般的だったが、委員の一人は「人々が“もちもち”と口にした瞬間に、評価装置の校正が狂う」と冗談めかして述べたとされ、波紋を呼んだ。
このように、は“便利すぎる言葉”であるがゆえに、議論の対象になり続けているとも整理される。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中啓祐『食感語彙の民間史(抵抗点の周縁)』風見書房, 2009.
- ^ Sato, K. “Resistance-Point Folklore in Japanese Confectionery” in *Journal of Sensory Misremembering*, Vol. 12, No. 3, pp. 41-58, 2014.
- ^ 山岸静馬『もち系評価の基礎と応用:E-BBI提案史』中央麺科学出版, 1987.
- ^ Maruyama, A. “Chewy Confidence: Mochi-Mochi as Social Signal” in *Proceedings of the Soft-Talk Seminar*, 第2巻第1号, pp. 11-27, 2020.
- ^ 【農林水産省 食感室】『年次報告書:もちもち帯の暫定運用(昭和58年度)』農林統計叢書, 1984.
- ^ 佐々木里紗『品質表示の言葉が数値になる前に』青葉規格研究所, 1996.
- ^ 高林礼央『口腔内タイミング測定と誤差の心理学』みなと計測出版, 2003.
- ^ 編集部『食感評価試験法の誤解:標準化と余白』日本食品工学会誌, 第19巻第4号, pp. 203-219, 2011.
- ^ 小野田真一『コピー広告における曖昧語の機能(もちもち事件を含む)』電通文庫, 2016.
- ^ Kato, M. “The Weekend-Upshift Phenomenon in Texture Indices” in *International Journal of Nominal Rheology*, Vol. 7, No. 2, pp. 88-101, 1999.
外部リンク
- もちもち食感辞典(仮)
- 抵抗点アーカイブ
- 食感室デジタル年報
- 曖昧語の標準化フォーラム
- 口腔タイム測定研究会