もちろん俺らは抵抗するで
| 名称 | もちろん俺らは抵抗するで |
|---|---|
| 別名 | 抵抗宣言、俺ら式反駁 |
| 成立時期 | 1988年頃 |
| 発祥地 | 大阪府大阪市此花区周辺 |
| 主な担い手 | 労働組合青年部、学生サークル、商店街連合 |
| 分類 | 抗議フレーズ、群衆動員技法 |
| 特徴 | 肯定形から始まる拒否表明 |
| 関連機関 | 近畿社会文化研究会、関西口語行動学会 |
| 影響 | 街宣、演説、ネットスラング |
もちろん俺らは抵抗するで(もちろんおれらはていこうするで)は、日本の都市圏で発達した即興的な抗議表現、ならびにそれに付随する行動様式を指す語である。1980年代末に大阪府大阪市の労働運動圏で定着したとされ、のちに関西一帯の若者文化にも浸透した[1]。
概要[編集]
もちろん俺らは抵抗するでは、相手の提案を一旦受け入れるように見せかけ、直後に共同体の意思として拒否を宣言する言い回しである。単なる強がりではなく、発話の前半に「もちろん」を置くことで、聞き手に“すでに合意済みである”という錯覚を与える点に特徴がある。
この表現は、昭和末期の大阪における再開発反対運動と、商店街の値下げ交渉文化が交差する中で形成されたとされる。のちに演説、ビラ、インターネット掲示板へと流入し、発話の勢いそのものが一種の抵抗技法として認識されるようになった[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
通説では、1988年夏にの港湾労組が、埠頭再編計画に抗議する臨時集会で初めて使用したとされる。当初は「もちろん、俺らは抵抗するで」と読点が入る形であったが、拡声器の故障により読点が飛び、断定の勢いだけが残ったという逸話がある[3]。
この“読点脱落事件”を契機に、発話のテンポが重要視されるようになり、以後は一息で言い切ることが推奨された。特にの街宣では、語尾の「で」を3拍引っ張る流儀が広まり、観客の拍手が遅れるほど説得力が増すとされた。
表現の特徴[編集]
この言い回しの第一の特徴は、否定ではなく肯定の語形から始まる点にある。聞き手は「もちろん」により一瞬だけ賛同を予期するが、直後に“俺ら”の共同体性が前面に出るため、個人の反対意見が集団意思に転化したかのような印象を受ける。
第二の特徴は、語尾の「で」が関西方言の終助詞として機能しつつ、軍事命令のような歯切れを生む点である。言語学者のは、これを「同意誘導型の集合拒絶」と呼び、発話者が5秒以内に姿勢を固めると相手の説得成功率が約12%下がると報告した[4]。
第三に、ジェスチャーとの相性が異常に良い。左手で胸を叩き、右手で空を払う型が“標準形”とされるが、では箸を置く音、京都では扇子を閉じる音が代替ジェスチャーとして使われた。
社会的影響[編集]
本表現は、単なる流行語にとどまらず、交渉文化そのものを変えたとされる。商店街では値下げ交渉の際に「もちろん俺らは抵抗するで、でも今日は三割で」と続ける“二段構え”が一般化し、2011年にはの内部資料で「過剰に丁寧な拒否表現」として注意喚起が出された。
また、自治体の説明会では、住民が長い説明に対してこの表現を返すことで、議事進行が平均9分短縮されたとの調査もある。もっとも、議長が慣れると会議がむしろ長引き、吹田市の某地区では“抵抗の応酬”により終了時刻が23時を超えた事例が報告されている。
批判と論争[編集]
批判の中心は、表現が強いわりに実際の抵抗を伴わない場合がある点である。特に以降、SNS上での軽率な使用が増え、「口だけ抵抗」「引用だけ反抗」と揶揄されることもあった。これに対し、支持者側は「抵抗は物理量ではなく姿勢である」と反論している。
なお、は2020年の大会で、この表現が“反骨”ではなく“共同編集”の精神を示すと結論づけた。ただし同大会の懇親会では、参加者の7割が結局このフレーズを使って追加注文を行っており、学術的立場の一致は確認されなかった。
派生形[編集]
派生形としては、「もちろん俺らはちょっと抵抗するで」「もちろん俺らは一回抵抗するで」「もちろん俺らは、まあ抵抗するで」などが知られている。とりわけ前者は、抵抗の意思はあるが予算がない場面で用いられ、コンビニの深夜勤務者のあいだで流行した。
インターネット上では、語尾だけを強調した「でぇ」が流行し、これを“抵抗の伸ばし”と呼ぶ。さらに一部の掲示板では、文章全体を全角カタカナに変換することで政治的含意を薄める手法も確認されている。
脚注[編集]
脚注
- ^ 田所真理子『半同意型拒否フレーズの社会言語学的研究』関西口語研究社, 1994, pp. 41-68.
- ^ 中村修一『大阪湾岸における即興抗議表現の形成』大阪大学出版会, 2001, pp. 112-139.
- ^ Margaret A. Thornton, "Affirmative Negation and Collective Defiance in Urban Japan", Journal of Applied Sociolinguistics, Vol. 18, No. 2, 2006, pp. 77-103.
- ^ 佐伯光男『商店街交渉術とその儀礼化』ミナミ文化新書, 1998, pp. 9-31.
- ^ Hiroshi Yamabe, "The Rise of Resistant Courtesy", Bulletin of Kansai Speech Studies, Vol. 7, No. 4, 2011, pp. 201-224.
- ^ 藤井まどか『抵抗するで! の音韻と身体動作』神戸民俗学叢書, 2013, pp. 55-79.
- ^ Karl E. Bender, "When Yes Means No: Regional Refusal Phrases in East Asia", Comparative Pragmatics Review, Vol. 12, No. 1, 2015, pp. 3-28.
- ^ 大阪市史編纂室『平成初期の街宣文化と合意形成』大阪市資料刊行所, 2008, pp. 144-176.
- ^ 山岡仁志『企業研修における抵抗表現の逸脱使用』労務と会議, 第14巻第3号, 2019, pp. 19-42.
- ^ 近藤雪乃『もちろん俺らは抵抗するで現象考』都市言語ノート, 2022, pp. 5-17.
外部リンク
- 関西口語行動学会デジタルアーカイブ
- 大阪都市表現研究センター
- 近畿社会文化研究会年報
- 街宣語彙データベース
- 抵抗フレーズ博物館