ようぺー
| 名称 | ようぺー |
|---|---|
| 分類 | 会話技法・都市俗語・準儀礼的応答 |
| 成立年 | 1987年ごろ |
| 発祥地 | 東京都渋谷区神南周辺 |
| 提唱者 | 渡辺精一郎(民間伝承上) |
| 主な使用層 | 編集者、深夜帯の制作現場、喫茶店文化圏 |
| 関連機関 | 都市言語研究会、首都圏会話慣習調査班 |
| 派生語 | ようぺる、ぺー返し、逆ようぺー |
| 象徴的な場 | 、、の純喫茶 |
ようぺーは、の都市部で発生した、短い呼吸音を伴う返答様式、またはそれを核に成立した即興的な合意形成技法である。特にの若年層文化において、会話の開始と終了を同時に行う特殊な言語行動として知られている[1]。
概要[編集]
ようぺーは、発話の末尾に短い吸気と半音高い語尾を付加し、相手の主張をいったん受け止めるふりをしつつ、同時に議論の主導権を奪うとされる応答法である。今日では、、そして会議時間の長いなどで半ば慣用句のように用いられている。
もともとは後半、の深夜喫茶に集まった書き手たちが、終電前の短時間で意見をまとめるために編み出したものとされる。ただし、初期の用例は手書きのメモにしか残っておらず、研究者の間では「音声的な癖が後から制度化された」とする説も有力である[2]。
成立の経緯[編集]
ようぺーの起源については、夏にの喫茶店「珈琲アポストロフ」で行われた編集会議がしばしば引用される。そこでは、雑誌『月刊クロージング・ノート』の特集見出しを巡って12人が2時間48分議論し、最終的に誰かが小声で「ようぺー」とだけ言って机上の紙束を整えたことが発端とされる。
この一語が、同席していたの間で「異論はあるが、今日はこれで進める」という合図として共有され、翌月にはの制作現場へ流入した。特に、深夜3時台の校正作業では、語気を強めることなく強制力を持つ便利な表現として重宝されたという。
なお、にが実施したとされる「都市応答語調査」では、都内34地点のうち9地点で類似音が確認されたが、記録票の半数にコーヒー染みがあり、原資料の信頼性には疑問が残る[3]。それでも、この曖昧さこそがようぺーの「公式化される前の自然さ」を示すと評価する向きもある。
語義と用法[編集]
ようぺーは名詞として扱われる場合と、動詞化して「ようぺる」「ようぺった」などと変化する場合がある。名詞としては「この案件、ようぺーでいいですか」のように、結論を暫定的に固定する意味を持つ。動詞としては「彼は会議をようぺって帰った」のように、議論を締めたまま離席する行為を指す。
また、語尾を伸ばした「よーぺー」はやや柔らかく、逆に促音を入れた「よっぺ」は圧を強めるとされる。言語学者のは、これらの変種を「関係維持型の短縮応答」と分類し、の論文で「意味内容より空気圧の制御に重点がある」と記した[4]。
一方で、若年層以外には意味が通じないことも多く、の番組収録現場で誤って気圧調整用語と解釈され、照明係が換気を強めた逸話が残っている。これが原因でスタジオ内の紙片が32枚飛散したというが、記録は一部のスタッフ証言に限られている。
文化的広がり[編集]
メディアへの浸透[編集]
中盤には、深夜バラエティ番組の作家たちが台本上でようぺーを記号化し始めた。とくに系列の演出会議で用いられた「YP」略号は、1枚の進行表に14回も書かれたことがあり、現場では「沈黙の指示語」として扱われた。
喫茶店文化との結びつき[編集]
ようぺーは、やの純喫茶における注文の決定にも転用され、メニュー表を閉じる動作と同時に意思決定を終える作法として広がった。老舗喫茶「ルミエール・東風」では、1日平均63回のようぺーが観測されたというが、店主が数え方を独自に定義していたため、統計としてはやや怪しい。
社会的影響[編集]
ようぺーは、単なる流行語ではなく、長い会議を短縮するための半制度的な知恵として受け入れられた。にはの内部研修で「曖昧な合意を明確化する補助動作」として紹介されたとする資料があり、以後、議事録に「ようぺー相当」という注記が付く部署もあった。
また、には、若者言葉の研究対象としての外部報告に登場し、年間約2,400件の使用例が収集されたとされる。ただし、そのうち約700件は居酒屋の店員が「ヨーペー?」「酔うペース?」と聞き返した記録であり、純粋な言語資料としては扱いが難しい。
この語の普及は、同意と保留の境界を曖昧にする日本的コミュニケーションの象徴とみなされる一方、責任の所在がぼやけるとして批判も受けた。もっとも、批判の多くはようぺーを使う側が「それはまあ、ようぺーで」と返したことで会話が終わり、そのまま議論にならなかった。
批判と論争[編集]
ようぺーに対する最大の批判は、それが「了解」でも「不同意」でもない、第三の曖昧地帯を意図的に温存する点にある。とくにのの市民討論会では、住民説明会の参加者47人中19人がようぺーを多用し、議題が3時間延長されたことから、「公共空間の音響的サボタージュ」として問題視された。
また、の非公式セッションでは、ようぺーが実際には末期の若者文化ではなく、期の寄席芸「ぺー返し」の変形ではないかという異説が提示された。しかしこの説は、唯一の根拠が古い速記録に書かれた「ヨウ、ペー」の二文字であったため、現在では周辺説の域を出ないとされる[5]。
それでも、批判者の中にも「会議を終えるための倫理がある」としてようぺーを肯定的に評価する者は少なくない。要するに、これは言葉の問題というより、終わらせ方の美学をめぐる争いである。
派生語と関連概念[編集]
ようぺーからは、いくつかの派生語が生まれた。最もよく知られるのは「逆ようぺー」で、これは同意した直後に再検討を要求する言い回しであり、での使用は原則として禁じられている。また「ようぺりる」は、発言の結論だけを曖昧に保ち、周辺情報を過剰に丁寧にすることを意味する。
これらの語は、圏の「ぼちぼち決める」文化や、圏の沈黙による承認とも比較されることがある。ただし、比較研究の多くは地域差ではなく、むしろ同席者の空腹度や終電までの残り分数に依存している可能性が高い。
近年では、での「ミュートようぺー」が注目され、反応スタンプ1個で議事を閉じる実践が報告されている。なお、これが最初に記録されたのはのある省庁のWeb会議で、参加者23人のうち18人が顔を出さず、唯一表示された背景画像が海辺だったという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『都市応答語としての「ようぺー」』東都書房, 1992年.
- ^ 田所美佐子『会話の終端操作と間投詞』日本言語文化研究社, 2006年.
- ^ 佐伯和宏「渋谷深夜喫茶における合意形成の音声的特徴」『都市コミュニケーション研究』Vol.14, 第2号, 1994年, pp.33-58.
- ^ Margaret A. Thornton, The Phatic Closure of Tokyo Workrooms, Cambridge Urban Press, 2008, pp.112-139.
- ^ 黒川匠「YP表記の成立とその誤用」『広告制作年報』第21巻第4号, 2001年, pp.9-21.
- ^ NHK放送文化研究所編『1989年 都市応答語調査報告書』NHK出版資料部, 1990年.
- ^ 山岡玲子「ようぺーと寄席芸の連続性について」『日本口承文化論集』第8号, 2013年, pp.77-95.
- ^ Peter L. Hargrove, Conversations That End Themselves, Routledge & Kanto, 2016, pp.201-224.
- ^ 首都圏会話慣習調査班『会議短縮語彙の実態と課題』中央行政資料出版社, 2011年.
- ^ 小松原一葉『ミュート時代の合意形成』青嶺社, 2021年.
- ^ 遠藤静「ようぺーの音韻変異とコーヒー染み資料」『喫茶店文化研究』第5巻第1号, 1998年, pp.1-19.
外部リンク
- 都市言語アーカイブセンター
- 渋谷口語資料室
- 会話終端研究ネットワーク
- 純喫茶方言地図
- 首都圏応答詞データベース