よっこい省庁
| 名称 | よっこい省庁 |
|---|---|
| 別名 | 掛け声官庁、持ち上げ式庁務 |
| 分類 | 日本の官庁慣行 |
| 起源 | 昭和後期の霞が関文書文化 |
| 主導機関 | 内閣官房 行政姿勢研究班 |
| 初期普及地 | 東京都千代田区霞が関 |
| 代表的儀式 | 決裁盆の一斉持ち上げ |
| 関連法規 | 庁務振起要領(通称) |
| ピーク | 1992年頃 |
| 現在の扱い | 一部庁舎で慣習的に継続 |
よっこい省庁(よっこいしょうちょう)は、の官庁組織に見られる、重量物の移動や大型印章の押捺に先立って発せられる掛け声を制度化した半ば儀礼的な行政慣行である。を中心に発達したとされ、のちに複数の省庁へ波及した[1]。
概要[編集]
よっこい省庁は、内で重い資料箱や回覧板、あるいは年度末の会計綴じを動かす際に、職員が「よっこい」と発声することで、庁内の動作開始を可視化・可聴化する仕組みである。単なる掛け声ではなく、の流れを止めないための心理的補助装置として位置づけられてきた。
制度としての成立はごろのに求められることが多い。当時、の倉庫で起きた「決裁箱落下事故」を受け、の有志が、重量物を持ち上げる前に声を合わせることで腰痛と書類紛失を同時に減らせると考案したとされる[2]。なお、後年になってからはの前身にあたる研究会でも再評価が進んだが、紙の時代にしか成立しない制度であるとの指摘もある。
歴史[編集]
成立以前の前史[編集]
よっこい省庁以前にも、官庁では荷役や文書搬送の際に自然発生的な掛け声が存在した。とくにの倉庫係が使っていた「はいせー」の声掛けや、の仕分け班で確認された短い息継ぎの慣行が原型とされる。これらは統一されておらず、庁舎ごとに発声の強さが異なったため、末には標準化の必要性が議論された。
の庁内調査では、書類棚の高さが平均でに達し、女性職員の約が「決裁綴じを持ち上げる際に無意識に声が漏れる」と回答したという。もっとも、この調査票は後年の整理過程で一部紛失しており、数値の正確性には疑義がある。
庁務振起要領の制定[編集]
、内部の非公式会合で「庁務振起要領」がまとめられ、よっこい省庁が半公式に採用された。文書には、決裁箱は「両手で抱え、足幅を肩幅のに開いた上で、発声後以内に持ち上げる」と記されていたとされる[3]。
この要領の作成に関わったのは、官僚出身のと、の民俗音声研究者であるという説が有力である。両者はにで共同発表を行い、掛け声の語尾を伸ばすと書類の角が折れにくいという、きわめて奇妙な実験結果を報告した。
全国への波及[編集]
後半になると、よっこい省庁は、、へと急速に広まった。とくにの中部合同庁舎では、エレベーター停止時に職員が一斉に「よっこい」と言って扉を押し開ける儀式が定着し、見学者が拍手を送るまでになった。
一方で、では「よっしゃい省庁」との混同が起き、若手職員の間で派閥争いが生じたとされる。またにはの一部で「よっこい」の代わりに「どっこい」が採用され、これが後に“強度優先派”と呼ばれる分派を生んだ。
制度と運用[編集]
よっこい省庁の運用は、単に声を出すだけではない。庁舎ごとに定められた「掛け声係」が決裁盆の角度、参加人数、声量を判定し、条件を満たしたときのみ書類移動が許可される。中央省庁の標準値では、での発声、声量以上、持ち上げ姿勢の保持時間が推奨された。
また、年度末の繁忙期には「二段よっこい」と呼ばれる強化版が現れ、の庁内放送に合わせて二度発声する。この方式は、ので発生した“棚からの連続滑落”を受けて導入されたとされる。なお、監査法人の報告では、二段よっこい導入後に腰痛申告が減少した一方、周辺の来庁者が驚いて書類を落とす事故が増えたという。
社会的影響[編集]
よっこい省庁は、庁内の肉体労働を軽減する制度としてだけでなく、日本の官僚文化における「声に出す合意形成」の象徴として語られてきた。会議で結論が出ない際、誰かが低く「よっこい」と言うことで、議題が机上から実務へ移るという俗信が生まれたともいう。
さらにには民間にも流入し、の古書店やの物流倉庫で「社内よっこい」が導入された。これにより、積み荷の安全性は向上したが、朝礼で全員が同時に発声するため近隣の学校から苦情が寄せられたという記録がある[4]。一部の労務研究者は、よっこい省庁を「日本的集団主義の音声化された最終形態」と評している。
批判と論争[編集]
もっとも、よっこい省庁には批判も多い。とりわけのによる内部評価では、掛け声の有無が文書処理速度に統計的な差をもたらさないとされ、制度の存廃が議論された。これに対し、現場職員は「速度ではなく気合である」と反論したが、議事録ではその部分だけが異様に長く引用されている。
また、からは、掛け声の音量基準が長らく男性の腹式呼吸を前提としているとして見直しを求める声が出た。一方で、庁舎清掃を担当する委託業者のあいだでは、「よっこい」の直後に床のマットが持ち上がりやすくなるとして支持する意見もあり、評価は分かれた。
現在の状況[編集]
以降、電子決裁の普及によりよっこい省庁は急速に縮小したが、完全には消滅していない。の一部出先機関やでは、サーバーラックの移設時に慣例として残存している。また、若手職員向けの研修では、紙の束を想定した模擬訓練として再利用されることがある。
時点で、関係者の推計では全国の中央・地方庁舎のうち約が何らかの形でよっこい省庁を保持しているとされる。ただし、この数値はの自己申告に基づくものであり、実態はやや低いと見る向きもある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『庁務振起論』行政資料出版社, 1983.
- ^ Margaret A. Thornton, "Vocal Lifting Practices in Japanese Bureaucracy," Journal of Administrative Folklore, Vol. 12, No. 3, 1984, pp. 41-67.
- ^ 佐伯一郎『霞が関の声と紙』東都出版, 1988.
- ^ 内閣官房行政姿勢研究班編『庁務振起要領注解』官庁文化研究所, 1991.
- ^ K. Sato and R. Hayashi, "Decibel Thresholds in Filing Room Coordination," Asian Public Sector Review, Vol. 7, No. 2, 1995, pp. 118-139.
- ^ 『よっこい省庁史資料集』日本庁務振起協会, 2001.
- ^ 山岡真澄『官庁の身体技法』ミネルヴァ書房, 2006.
- ^ Hiroshi Akiyama, "The Second Yokkoi and Its Administrative Impacts," Public Ritual Studies Quarterly, Vol. 19, No. 1, 2011, pp. 5-29.
- ^ 『行政音声学入門 よっこい篇』中央公論社, 2017.
- ^ 田中みどり『省庁はなぜ持ち上がるのか』朝霞文庫, 2022.
- ^ 「Yokkoi Ministry and the Politics of Lifting」『Proceedings of the Tokyo Bureaucratic Sound Conference』Vol. 4, 2023, pp. 88-104.
外部リンク
- 日本庁務振起協会
- 霞が関行政民俗資料館
- 官庁掛け声アーカイブ
- 行政音声学会
- 庁務振起デジタル年表