わたしが◯◯ですの一覧
| 分野 | 大衆文化・演芸文型研究 |
|---|---|
| 成立背景 | ロールプレイングゲームの台詞文化の二次創作 |
| 主な対象 | 町長、判事、校長などの『職名×第一人称宣言』 |
| 掲載形式 | 台詞の原型、年、逸話 |
| 基準 | 『わたしが◯◯です』の語感が保たれていること |
| 初出とされる時期 | 2000年代後半の掲示板文化 |
| 編集方針 | 地名・組織名を過剰に具体化すること |
| 収録数(改訂版) | 全14項目(2024年時点の想定) |
(わたしが◯◯ですのいちらん)は、特定の文型「わたしが◯◯です」をパロディ化した台詞を集めた架空の台詞集である。派生語を含む形で、娯楽作品の引用・変形が常態化した経緯が記録されている[1]。
概要[編集]
は、「わたしが◯◯です」という第一人称宣言を核とし、◯◯に職業・役職・肩書きを差し込むことで成立する“定型ギャグ”を収集した一覧である。
成立経緯としては、あるロールプレイングゲーム作品における有名な自己紹介台詞のパロディが、掲示板上で『職名の差し替え遊び』へ転用されたことが契機とされる。編集者たちは、単なる口癖の転用では飽きられると判断し、舞台のや架空の管轄組織を混ぜた「現場感の過剰演出」を導入したとされる[1]。その結果、文章が“それっぽいのにズレている”という妙味が強化された。
掲載範囲は、(1) 町役場・学園・裁判所など公的空間に結びつく台詞、(2) 形式名を伴う職名(町長、判事、教頭など)、(3) 物語内の権威を装うのに小物のような弱点が漏れる台詞、の三条件で選定される。なお、台詞の一部が別の媒体(ラジオ、舞台脚本、イベントグッズ)へ転載された例もあり、注釈の付け方が回を追うごとに揺らいだとされる[2]。
編集史[編集]
初期の掲示板版と「職名ガチャ」化[編集]
本一覧の“編集史”は、架空ながらもかなり具体的な作法で語られている。2009年頃、のローカル掲示板に「職名差し替え選手権」が現れ、投稿者はテンプレとして「わたしが◯◯です」を書き、◯◯を30〜120秒の間に思いつく範囲で投げ込んだとされる。実際の運用では、検索避けのために「わたしがマル◯◯です」などの揺らぎも許されたが、編集者は語感が崩れる投稿を“風味劣化”として弾いたと記録されている[3]。
また、当初は職名の粒度が粗かったが、のちに「役職名の階級」を細かくする流れが生まれた。例えば町長だけでなく「助役」「副町長」「町長代理」「町長代行」のように派生を増やし、一覧の密度を競ったという。さらに、投稿者がの架空自治体名を大量に提案したことで、具体地名を織り込む習慣が定着したともされる[4]。
公的機関の架空文書風注釈と反発[編集]
2013年頃から、編集者は台詞の直後に“官公庁の文書風注釈”を添えるようになった。例えば「◯◯に対し、当該期間、口癖の使用頻度が記録された」など、わざと法律文書の調子に寄せる注釈である。この方式は、台詞を笑いの対象から“報告すべき事象”へ格上げし、読者の笑いが遅れて到達する構造を作ったと説明されている[5]。
一方で反発もあり、文書風注釈が増えるほど、台詞のテンポが落ちるという指摘が出た。特に(に似せた架空局である別館“民間芸能監修室”)の様式を模した記述が“権威の借用”に当たるとして議論になったとされる。編集者の一部は「権威っぽいほどズレる」と主張し、別の一部は「権威っぽいほど寒い」と反対した。結局、当初の熱量が落ちるたびに、再度“過剰に細かい数字”が投入されることで、議論が新規投稿の燃料に戻ったという[6]。
改訂版の選定基準と「2%の狂気」[編集]
改訂版では、台詞を「自己紹介の形」としてだけではなく、「社会的に起こりうる誤解」まで踏み込んで選ぶようになった。例えば“町長”が名乗るのに、町に最初の橋が架かった年を唐突に述べる台詞、あるいは“判事”が自分の判決を天気予報のように読み上げる台詞などである。このように、文型のまま役割の常識を僅かに外すことで、笑いの密度が高まるとされた。
また、編集部は「2%の狂気」を運用上の目標値として掲げた。具体的には、収録項目のうち約0.28項目(14項目換算で概ね0〜1個)が、読者が常識を疑うレベルの矛盾を含むように調整されたとされる[7]。この“調整”は、実在の地名(など)と架空組織(後述するなど)を混在させることで、リアリティの足場を確保した結果であると説明されている。
一覧[編集]
以下はに含まれる収録台詞の例である。各項目は「作品名/項目名(年)- 1〜3文の説明と面白いエピソード」の形式で記載される。
(カテゴリA:自治体・公的空間)
1. 『路地裏の伝承RPG』/町長・東雲(2008年)- 「わたしが東雲町の町長です」と名乗る直後、なぜかの雨樋工事の進捗を読み上げる。編集者は「役場の看板が笑いのトリガー」と評価し、原型の“堂々さ”を保つために台詞中の助詞だけ丁寧に直したとされる[8]。
2. 『夜更けの行政学院』/副町長・三分休符(2010年)- 副町長にもかかわらず「わたしが副町長です!」の直後に、なぜか“会議は3分で結論”という私的ルールを提示する。投稿者の一人が「議事録の3ページ目が白紙だった年に限り、声が二度反響する」など、妙に具体的な補足を付けたことで人気が出たとされる[9]。
3. 『砂時計判決録』/判事・夏至の台本(2011年)- 「わたしが判事です」と宣言するが、判決文の口調がなぜか朗読劇のように一定の抑揚で進む。結果として“判決なのに上演時間が気になる”という現象が起こり、読者がタイムスタンプを要求し始めたと記されている[10]。
4. 『学園封緘日誌』/教頭・複製インク(2012年)- 「わたしが教頭ですの」と言いかけて、しまったように「です!」を二重に言う。編集作業では二回目の“です”にだけ朱肉の種類(黒系/赤系)を想像で付け足し、反響が大きかったという。もっとも、この追加が原語感から外れて“2%の狂気”枠に入れられたとされる[11]。
5. 『市民課の月光』/町長代理・深夜窓口(2014年)- 「わたしが町長代理です」と名乗るが、手続き案内が“詩”として誤読される構造になっている。実際に投稿された解説では、窓口番号が「窓口A-07(ただしAは架空)」とされ、読者のツッコミが止まらなかったとされる[12]。
(カテゴリB:地域の商いと役割)
6. 『商店街の星座帳』/鍛冶屋・十三番目の火(2009年)- 「わたしが鍛冶屋です」と名乗ると同時に、剣の刃こぼれを“占い”として語る。編集者は、占いの形式があまりに行政っぽかったため、あえて台詞の末尾に「異議は火打石まで」と添えたと説明している[13]。
7. 『ラーメン監査R』/保健監査員・湯気の規格(2013年)- 「わたしが保健監査員です」と言いながら、スープの温度を“摂氏±0.7”まで指定する。数値の精密さが逆に不自然で笑いを生み、「その精度はどこで測ったのか?」という疑問が“注目度ランキング”へつながったとされる[14]。
8. 『鍵屋の回廊』/鍵師・二重施錠の口上(2015年)- 「わたしが鍵師です」と名乗り、鍵の種類を言う代わりに“自分の家のドアベルが鳴る回数”を述べる。元の投稿では回数が「108回(ただし玄関マットを数えた)」とされ、編集者が「数え方を固定した」ことで項目として成立したと記録されている[15]。
(カテゴリC:架空官庁と研究体制)
9. 『第三階層の演芸』/第三階層演芸公文書局(2016年)- 「わたしが第三階層演芸公文書局です」と名乗るが、局名だけで職能が想像できない。読者は“局がしゃべるのは変だ”と突っ込んだが、編集者は「それが定型の崩れである」と肯定し、要点だけを太字風に整えたとされる[16]。
10. 『港の統計士』/統計士・沈黙の母数(2017年)- 「わたしが統計士です」と宣言しつつ、肝心の母数を「深呼吸の回数」として提示する。改訂版では、母数の目標を「1日当たり64回」と定めた注釈が付いたが、元投稿の作者は「64は偶然だが、偶然を信じたくなる数字」とだけ書いたとされる[17]。
11. 『教育委員会の黒鍵』/特別指導官・弦振動(2018年)- 「わたしが特別指導官です」と名乗ると、なぜかギターの弦振動と校則の改定時期を結びつける。編集者は「制度と音が似ていると錯覚する瞬間を狙った」と語り、台詞の間に“音階のない沈黙”を入れたとされる[18]。
(カテゴリD:非日常の口上)
12. 『夜間巡回ファンタズム』/巡回員・番号札の呪い(2019年)- 「わたしが夜間巡回員です」と名乗り、札の番号を読み上げるたびに周囲の街灯が一斉に減灯する。面白いエピソードとして、減灯の回数が「1回目は1秒、2回目は3秒」など二段階で設定されていたとされる[19]。
13. 『伝説の抽選箱』/くじ引き係・外れの確率(2020年)- 「わたしがくじ引き係です」と言いつつ、外れくじの当選者が“すでに当選した人”として再登場する矛盾が仕込まれている。読者は「当選の定義が崩れている」と笑い、編集者はその不条理が“定型の延命”だと称した[20]。
14. 『復興祭の町長代理』/町長代理・感謝状の裏(2022年)- 「わたしが町長代理です」と締める直前、感謝状の裏面を読んでしまう。裏面の文章が「実は本人の手癖で書かれていた」と注釈されるため、正体が二重になる仕掛けになっている。最終的に読者が「これ、町長って誰?」と迷い始め、一覧の人気が再燃したという[21]。
(注)項目年は投稿・再編集が発生した時期を基準とした推定である。編集者の個人差により、同一台詞でも年の記録が一致しない例があるとされる。
批判と論争[編集]
本一覧は“定型ギャグの研究”として評価される一方で、過剰な具体性が読者の集中を奪うという批判もある。特になど実在地名の登場が増えると「現実の行政を笑うのか」という論点が生まれたとされる。もっとも編集部側は、地名はあくまで“リズムの固定具”であり、笑いの核は職名差し替えにあると反論した[22]。
また、架空組織の命名(例:)が、実在の公的機関の権威を借りすぎているという指摘もある。ある編集者は「権威の借用が強いほど笑いは遅れて来る」と述べたが、別の編集者は「遅れてくる笑いは読者の疲労と衝突する」として、注釈の長さを減らすべきだと主張したと記録されている[23]。
さらに、2%の狂気枠の運用が恣意的である点も論争となった。読者からは「なぜこれだけが“矛盾枠”なのか」という質問が繰り返され、編集会議では“偶然と数値の関係”が議論された。会議議事録の一部が「深呼吸の回数」で閉じられていたとされ、会議の真偽を巡って再燃したという[24]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中カナメ「台詞の定型性と職名差し替えの快感」『メディア文芸研究』第12巻第3号, 2011年, pp. 44-62.
- ^ 山田スミレ「第一人称宣言パロディの受容:掲示板投稿の統計的観察」『大衆文化評論』Vol.18 No.2, 2014年, pp. 91-115.
- ^ Kobayashi, Haruto「Administrative Tone in Parodic Speech Acts」『Journal of Fictional Bureaucracy』Vol.5, No.1, 2016, pp. 10-37.
- ^ 鈴木眞琴「“現場感の過剰”が笑いを遅延させる」『演芸言語学会報』第7巻第1号, 2017年, pp. 1-19.
- ^ Miller, Rachael A.「When Numbers Become Jokes: Precision as Humor」『Quantified Comedy Review』Vol.9, No.4, 2018, pp. 202-226.
- ^ 伊藤リオ「架空官庁の命名規則と読者の推論」『ナラティブ設計論文集』第3巻第2号, 2020年, pp. 55-79.
- ^ 佐伯ヨウ「二重正体(署名と注釈)の構造分析」『演劇パロディ学』第2巻第1号, 2021年, pp. 77-98.
- ^ 第三階層演芸公文書局編『口上文型の改訂と運用(暫定版)』民間芸能監修室, 2022年, pp. 13-41.
- ^ 文化庁(別館)編『官公庁様式模倣のガイドライン』第【昭和】33年復刻, 1970年, pp. 201-219.
- ^ 西村ユウ「わたしが◯◯ですの一覧:編集史と“2%の狂気”」『嘘ペディア研究年報』Vol.1 No.1, 2024年, pp. 5-33.
外部リンク
- 定型ギャグ資料館
- 職名差し替えアーカイブ
- 架空官庁ネーミング辞典
- 演芸文書風注釈コレクション
- 掲示板口上アーカイブ