アイツはZARAに来る様な顔じゃない
アイツはZARAに来る様な顔じゃない(あいつはざらにくるようなおやじゃない)は、日本で流布した都市伝説の一種である[1]。
概要[編集]
アイツはZARAに来る様な顔じゃないとは、入店やすれ違いをめぐって語られる怪談として知られている。噂では、ファストファッションのに「相応しい顔」があり、それに合わない者は出没先で不気味な違和感に遭遇すると言われている[2]。
伝承の要点は、実在の顔立ちではなく“空気”や“視線の角度”に関する不可視の審査にあるとされる。全国に広まったのは、SNSの短文が「言い切りの呪文」になったことが背景とされる[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、ごろに渋谷周辺で“試着拒否”の苦情が相次いだとされる時期に遡るという。噂の発端として挙げられるのは、道玄坂の裏路地で働いていたとされる見習い店員・の証言である[4]。
渡辺は、レジ前に掲げられていた見えない「顔の審査基準」が、店内の防犯カメラの角度調整(監視ダミーのレンズ位置)と連動していると語ったとされる[5]。この“基準”を示す合言葉として、「アイツはZARAに来る様な顔じゃない」というフレーズが、言い換えの効かない形で残ったとも言われている[6]。
流布の経緯[編集]
、匿名掲示板「街角・不気味仕分け」スレッドに、全国の店舗名を伏せた目撃談がまとめられ、噂が一気にブームへ転じたとされる。特に京都市の複合施設で「採寸室の鏡が一瞬だけ“違う顔”を映した」とする書き込みが拡散し、恐怖が“顔”という語に結びついて定着した[7]。
また、にはマスメディアのローカル特番が「若者のブランド観察」を“恐怖演出”として取り上げ、都市伝説の言い回しが整えられた。結果として、全国に広まったのは、真偽よりも“言い切り”の短さと、羞恥心を煽るリズムにあったと推定されている[8]。なお、出典とされる音声データには不自然な編集が見つかったとも言われ、要出典となる箇所もある[9]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承では、「ZARAに来る様な顔じゃない」と言われる人物像として、次のような特徴が挙げられる。第一に、鏡を見ないのに店員の動きを追う者である。第二に、鏡の前で止まる時間が平均より短い者である(目撃談では平均7.4秒、しかし“拒絶側”は平均2.1秒とされる[10])。
この都市伝説の正体(とされるもの)は、妖怪の類ではなく「接客動線の歪み」である、と言われている。具体的には、入店者の歩行軌跡がフロア図に沿わない場合、店舗の照明が“薄く顔色を偽装する”ように働き、その瞬間に合言葉の呪文が店内で反響するとされる[11]。
目撃談では、出没の合図として、試着室の呼び鈴が本来より3回多く鳴ることが示されている。恐怖として描かれるのは、当人が笑いながら会計を済ませようとするのに、なぜか「サイズのタグの数字だけ」が読めなくなる点である。噂の語り手は、この“数字の欠落”が恐怖を増幅させ、パニックへ繋がるとする[12]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションでは、同じ呪文でも地域によって微妙に語尾が変わるとされる。例えば横浜市では「アイツはZARAの光に耐えられない顔」と言い換えられ、大阪市では「アイツの眉がZARAの値札を裏切ってる」と言われたという噂がある[13]。
また、ZARA以外に置換される例も報告されている。特に“同系列のファストファッション”とされるやに読み替えた派生が、インターネットの文化として2018年頃から増えたとされるが、中心となる“顔”の語感は保持される傾向がある[14]。
一方で、学校の怪談化した型も存在する。中学・高校の噂としては、「登校初日、制服のまま店のチラシを受け取ろうとした者に限って言われる」という伝承が紹介され、怪談として校内ブームになったとされる[15]。この系統では“ZARAのレシートを持つと、放課後の帰り道で声が追いかけてくる”とも言われており、出没譚の語彙が学校の噂の文法に寄せられている。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法としては、まず「呪文を復唱しないこと」が基本とされる。言い換えであっても、音のリズムが似ていると“店内反響”が発動すると言われているからである[16]。
次に提案されるのが、試着室に入る前にレジ横のポスターを1分間だけ読む行為である。目撃談では、ポスターの文字を正面から読むと照明の歪みが相殺され、合言葉が出なかったという例が挙げられている[17]。さらに“細かい数字”の作法として、購入前に値札ではなく衣類の縫い目の糸目を数えると回避できるとも語られる(「右足の裾の糸を18本、左足を17本」などの具体が付くとされる[18])。
ただし、最も多い勧告は「店員に率直に質問する」ことである。噂は、質問が発生すると“審査装置”が作動しない、と説明している。なお、架空の対策アイテムとして「反射フィルム入りの名札ケース」も紹介されているが、効果は疑われている[19]。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、購買の場における“見えない序列”の恐怖を可視化したものとして語られてきた。結果として、若者の間では「顔」という言葉が、単なる容姿ではなく“場の適合”を示すメタファーとして使われるようになったと指摘されている[20]。
また、店舗側が不快な表現として問題視する局面もあった。報道では、周辺の店舗に「言い方が攻撃的」とする匿名通報が年間約36件あったという(2017年時点の集計として語られることが多い)[21]。さらに、SNS上で“挑発的な投稿”が増え、軽い冗談のつもりが実際のトラブルに結びつくこともあったとされる。
その一方で、“自分を守るための儀式”として対処法が広まり、噂の流布がコミュニティ内の結束に転じた例もある。噂を信じるかどうか以前に、「店での振る舞い」を学ぶ語りとして機能したと考えられている[22]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化的には、ブランド観察と怪談の混線として扱われることが多い。特にテレビでは、夜のショッピング街を映しながら「ZARAの入口だけが不気味に明るい」と演出され、恐怖が“買い物のための緊張”として表現された[23]。
ネット文化では、短文コピペのテンプレート化が進み、「アイツは○○に来る様な顔じゃない」の形で派生した。ここで重要なのは、各地で店名が変わっても“顔じゃない”が呪文の核として残る点である。ブームの中心にあったのは、視聴者が勝手に自分の周囲を当てはめられるためである、とする分析が見られる[24]。
なお、一部の若者向け雑誌では“〜とされるお化け”の枠組みに寄せられ、「不気味な店員妖怪『タグ守り』が値札の番号を食べる」という設定で連載されたことがある。もっとも、作中の“正体”は毎回変更され、ファンの間では「都市伝説のほうが先に進化した」と言われたという[25]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中瑞希『“顔の言い切り”が広がる夜:日本の都市伝説語彙分析』青灯社, 2019.
- ^ Margaret A. Thornton『Retail Hauntings in the Screenshot Era』Routledge, 2021.
- ^ 佐藤一誠『ブランド観察と怪談の接続点』筑摩書房, 2016.
- ^ 渡辺精二郎『渋谷の試着室で聞いた三度目の呼び鈴』私家版, 2013.
- ^ 小林真琴『匿名掲示板における恐怖の計測:7.4秒の根拠』Vol.12第3号, 都市噂研究会紀要, 2018, pp.45-62.
- ^ Hiroshi Matsuda『Liminal Ordering: Unseen Criteria in Consumer Spaces』Journal of Folklore and Media, Vol.8, No.1, 2020, pp.101-129.
- ^ 山本梓『学校の怪談化する都市伝説の文法』日本民俗学会編集委員会, 第44巻第2号, 2022, pp.77-95.
- ^ Sophie K. Nguyen『The Tag That Bites: Price Labels as Omens』Oxford Ledger of Urban Myths, Vol.3, Issue 7, 2023, pp.13-29.
- ^ 『都市伝説・関東夜間報告書(便宜版)』港区防犯広報局, 2017, pp.1-38.
- ^ (微妙に不自然)『SZA RAの光:古代から続く照明伝承』架空学術出版社, 2014, pp.210-219.
外部リンク
- 怪談アーカイブ『タグ守り』
- 都市噂地図(ベータ版)
- 学校の怪談クラブ(掲示板)
- 都市伝説用語辞典:顔・値札・鏡
- 夜間撮影アーカイヴ