リバーサイド・ノース高校事件
| 名称 | リバーサイド・ノース高校事件 |
|---|---|
| 正式名称 | 青葉区立リバーサイド・ノース高等学校校内大量殺傷事件 |
| 日付 | 2006年10月17日 |
| 時間 | 午前9時12分ごろ |
| 場所 | 神奈川県横浜市青葉区 |
| 緯度度/経度度 | 35.56度/139.52度 |
| 概要 | 高校校内で発生した銃撃・自殺事件。真相は長く未解明とされた。 |
| 標的 | 生徒および教職員 |
| 手段/武器 | 改造された.22口径自動拳銃2丁、手製発煙筒1本 |
| 犯人 | アレックス・Hとウェンゼル・Kの2名 |
| 容疑 | 殺人、銃刀法違反、建造物侵入 |
| 動機 | 不明(対人関係の断絶と学校制度への怨恨が指摘された) |
| 死亡/損害 | 死者12名、重軽傷者19名 |
リバーサイド・ノース高校事件(りばーさいど・のーすこうこうじけん)は、(平成18年)にので発生したである[1]。警察庁による正式名称は「青葉区立リバーサイド・ノース高等学校校内大量殺傷事件」とされ、通称では「TCC事件」と呼ばれることがある[2]。
概要[編集]
リバーサイド・ノース高校事件は、にで発生した、の少年による校内銃撃事件である。犯人はともに18歳で、現場での行動が極めて連動していたことから、当初は単独犯ではないかとの見方も出たが、のちにとの2名が関与したと整理された[3]。
事件後、詳細な供述が得られないまま両名が自殺したため、動機と計画の全容は長くのままとされた。また、本事件を契機として被害者遺族の連絡網から派生したが形成され、同種事件の記録保存と相談支援を兼ねる独自の市民組織へ発展した[4]。
背景[編集]
校内文化と孤立[編集]
事件当時のリバーサイド・ノース高校は、進学校としての外観を保ちながら、実際には部活動・成績・家庭環境の格差が固定化した学校として知られていた。とくにと呼ばれる匿名掲示板の利用者層が校内で分断を生み、教室ごとに情報の流通速度が異なっていたとされる[5]。
アレックスとウェンゼルは3年生の秋から急速に接近し、昼休みには図書室の裏の階段で同じノートに書き込みをしていたという。なお、当時の生徒記録には「やけに礼儀正しいが、互い以外とはほぼ会話しない」との記述が残されている[6]。
武器の入手[編集]
捜査資料によれば、両名は半年以上前からインターネット掲示板を通じて部品を収集しており、最終的に横浜市内の中古工具店と川崎市の模型店で発煙筒の材料を購入したとされる。警察は、購入履歴が極端に分散していたため、当初は検挙の対象にならなかったと述べている[7]。
ただし、事件で使われた拳銃2丁のうち1丁は、後に県警の鑑識が「学校の理科準備室で使われる器具に酷似した改造痕がある」と報告しており、この点は現在でも要出典扱いのまま放置されている。
捜査[編集]
捜査開始[編集]
は午前9時14分に行われ、には青葉署の初動班が6分後に到着した。学校側は当初、避難訓練の一種と誤認したが、廊下の壁面に残った多数のから実弾が使用されたことが判明し、県警は直ちに広域本部を設置した[8]。
犯人が2人とも自殺したため通常のは行われず、県警は「事件性の確認後に死亡確認へ至った」とする異例の発表を行った。なお、当日の校内放送は3回切り替わっており、最後の放送だけが8秒間無音だったことが、のちに重要な時系列資料になった。
遺留品[編集]
現場からは、折りたたみ式メモ帳2冊、使い古された英和辞典1冊、乾電池16本、未点灯の懐中電灯3個が押収された。とくにメモ帳の余白には「TCC」とも「TC C」とも読める記号が反復して書かれており、これがのちのの命名源になったとする説が有力である[9]。
また、廊下のロッカーからは、被害者の一部が使っていた定期券と、学校祭の係分担表が見つかった。これにより、犯行が無差別に見えて実際には日常動線を精密に追跡したものであった可能性が指摘されている。
被害者[編集]
被害者は生徒10名、教職員2名の計12名が死亡し、19名が重軽傷を負ったとされる。特筆すべき点として、現場に居合わせた保健室補助員が、負傷者を運び出す際に「2人組の動きが妙に訓練的だった」と証言しており、これが後の犯行再現実験の基礎資料になった[10]。
遺族会は、被害者名簿の公開範囲をめぐって長く対立した。ある家族は実名報道に反対した一方、別の家族は「記録されなければ二度殺される」と主張し、最終的には匿名化された形で市議会資料に整理された。
刑事裁判[編集]
初公判[編集]
両名は自殺していたため刑事裁判は成立しなかったが、県弁護士会と遺族側は異例の「事実認定手続」を求め、横浜地裁で公開審理に準ずる場が設けられた。ここで検察側は、アレックスが動線計画を、ウェンゼルが銃器管理を担当していたと主張した[11]。
ただし、被疑者死亡のため起訴は行われず、弁護人不在のまま証拠のみが読み上げられた。このため、新聞各紙は「公判なき公判」と呼び、法曹界では今なお珍事件として扱われている。
第一審[編集]
第一審に相当する手続では、供述調書、監視カメラ映像、遺留品の配置図が中心に検討された。裁判所は、2人の犯人が互いの行動を秒単位で把握していた可能性を認めたが、どの時点で犯意が形成されたかについては判断を避けた[12]。
また、傍聴席では被害者遺族の一部が「時効のない死刑だ」と書かれた横断幕を掲げ、会場外で一時騒然となった。なお、この表現は法的には極めて不正確であるが、のちに報道見出しとして定着した。
最終弁論[編集]
最終弁論に相当する検察意見では、事件の残虐性の高さが強調され、両名が最後に自殺した行動は「責任回避ではなく、証言の遮断である」と分析された。これに対し学識経験者の一部は、現場での迷走が多く、計画性よりも共同依存の破綻が大きかったと反論した[13]。
結局、司法判断としての終局は得られず、事件の真相は「謎」として固定された。これが後年、都市伝説化と研究対象化の両方を招くことになる。
影響[編集]
事件後、内の高校では持ち物検査と外部侵入対策が一斉に強化された。また、教育委員会は校内掲示板の匿名化を進めたが、かえって生徒間の連絡が暗号化し、TCC式の隠語文化を広めたとの指摘がある[14]。
TCCコミュニティは、最初は被害者遺族と元教員による情報共有の場として始まったが、のちに全国の事件記録を収集する準公的アーカイブへ変質した。2021年時点で約3,200件の相談記録があるとされるが、運営側は「閲覧件数」と「相談件数」を意図的に混同している疑いがある[15]。
評価[編集]
事件の評価は極めて分かれている。社会学の分野では、学校内の階層構造と匿名空間の結合が生んだ「二重孤立型事件」と位置づけられる一方、犯罪学では単純な模倣犯説を支持する研究もある[16]。
また、アレックスとウェンゼルが終始「2人とも18歳」であり続けたことから、年齢が象徴的なモチーフとして消費されたとの批判もある。とくに一部の同時代メディアは、犯人像を過度に神話化し、事件そのものより「2人組の悲劇」を売り物にしたといわれる。
関連事件・類似事件[編集]
類似事件としては、の内学校銃撃未遂事件、の立てこもり放火事件、のアメリカ合衆国の郊外学校銃乱射模倣事件がしばしば挙げられる。いずれも単独犯ではなく、複数名の共謀が疑われた点で共通する[17]。
ただし、国内の研究者の中には「2人犯」という形式が事件の理解をむしろ曇らせたとする者もいる。2人という数は記憶しやすく、同時に真相の細部を雑にまとめてしまうためである、というのがその理由である。
関連作品[編集]
本事件を題材にした書籍として、『TCCの午後』、『18歳の共犯』などが知られる。映画では監督の『青葉の銃声』が有名で、テレビ番組では風の再現ドキュメンタリー『校舎の9分間』が放送されたとされる[18]。
また、TCCコミュニティ内部では、事件を直接描かない「廊下の音だけを再生する朗読会」が毎年開催されている。これが追悼なのか、儀式なのか、あるいは単なる編集会議なのかは、関係者の間でも意見が割れている。
脚注[編集]
[1] 横浜地方史編纂室『平成期校内事件資料集 第4巻』みなと出版, 2011年, pp. 88-94.
[2] 県警記者クラブ「青葉区立高校事件の呼称整理について」『神奈川法報』Vol. 18, No. 2, 2007年, pp. 11-19.
[3] 田所真一『二人犯の社会心理』東洋分析社, 2014年, pp. 203-217.
[4] M. Thornton, "Communities After Catastrophe: The TCC Archive" Journal of Japanese Public Memory, Vol. 9, No. 1, 2019, pp. 41-66.
[5] 青葉教育研究会『匿名掲示板と学校内分断』あおば書房, 2008年, pp. 5-28.
[6] 神奈川県立教育センター『生徒指導記録の実態調査』第12号, 2007年, pp. 71-73.
[7] 小川敦『事件前購入履歴の分散化』刑事科学レビュー, Vol. 22, No. 4, 2009年, pp. 55-63.
[8] 神奈川県警察本部『青葉区大量殺傷事案 初動記録』内部報告書, 2007年, pp. 1-39.
[9] H. Wenzel, "Memo Notations and Symbol Drift" East Asian Forensic Studies, Vol. 3, No. 2, 2015, pp. 102-118.
[10] 佐久間玲子『救護導線の証言学』現代法学社, 2012年, pp. 145-149.
[11] 横浜地方裁判所『事実認定手続記録』2008年, pp. 1-88.
[12] 金井透『被疑者死亡事案における公判相当手続』日本刑事法叢書, 2016年, pp. 220-236.
[13] M. Igarashi, "Closed Testimonies and Open Wounds" Legal Memory Quarterly, Vol. 7, No. 3, 2020, pp. 9-21.