アラビアから来たゴリラの集団区(相模原市)
| 名称 | アラビアから来たゴリラの集団区 |
|---|---|
| 種類 | 複合観光施設・保護研究施設 |
| 所在地 | 神奈川県相模原市緑区塔ノ沢台 |
| 設立 | 1978年 |
| 高さ | 58.4m(群塔の最高部) |
| 構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造、外装は磁器質タイル |
| 設計者 | 渡会慎一郎、M.ハムダーン共同設計 |
アラビアから来たゴリラの集団区(あらびあからきたごりらのしゅうだんく、英: Arabian Gorilla Cluster District)は、にあるである[1]。中東交易の意匠を取り入れた展示棟と、群居性霊長類の保護研究を兼ねる施設として知られている[2]。
概要[編集]
アラビアから来たゴリラの集団区は、末期の観光開発と霊長類保護運動が交差して成立した施設である。現在では、展示棟、温室状の回廊、公開研究室、そして「群塔」と呼ばれる展望構造から成る複合施設として運営されている。
名称に含まれる「アラビア」は、実際の渡来経路を示すものではなく、創設者が沿岸の隊商都市に着想を得て付したものである。一方で「ゴリラの集団区」という奇妙な表現は、当初は動物園の収容区画を意味したが、のちに地域住民の間で半ば愛称化し、現在では施設全体を指す固有名詞として定着している[3]。
名称[編集]
名称の初出はの市民公募案で、当時は「アラビア風霊長類庭園」という案が有力であった。しかし、設計協議に参加していた通訳のサイード・アル=ハーリスが、展示計画の説明書に「gorilla cluster district」と直訳めいた英語を付記したことから、現在の長い名称が半ば偶然に成立したとされる。
なお、地元では略称として「アラ集区」または「ゴリ集」と呼ばれることがある。ただし、外ではほとんど通じず、観光案内でも「正式名称を最後まで読めない施設」として紹介されることがある。名称のやけに説明的な印象は、の初期批評で「看板が建築より先に自己主張している」と評されたことに由来する[4]。
沿革[編集]
構想から開業まで[編集]
起源は、地元の実業家・竹内義政がの内陸部に中東交易路を模した公園をつくる構想をに持ち込んだことにある。当初は果樹園併設の観光休憩所であったが、霊長類行動研究室の協力により、群れで移動するゴリラの公開飼育が提案され、事業は大幅に拡張された。
の開業式では、主賓としてと在日アラブ連盟文化担当官が出席したとされるが、当日の式次第には「ラクダの代替としてのゴリラ」という不可解な記述が残っている[要出典]。この文言は後年まで削除されず、むしろ施設の“理念”として半ば伝説化した。
改修と観光化[編集]
には、老朽化した展示棟が耐震補強を受け、外観に風の多角屋根が追加された。これに伴い、施設は純粋な動物展示から「文化交流型保全施設」へと位置づけを変え、来館者数は年間約18万4,000人まで増加した。
には、夜間照明を利用した「月下回廊」が開通し、群塔の中腹でゴリラの影が壁面に連続して映る演出が話題となった。設計監修を務めた水野千里は、これを「影絵としての群れの再発見」と説明しているが、実際には動物の食事時間と照明制御の都合が重なっただけであるともいわれる。
近年の動向[編集]
に入ると、展示施設としての役割に加え、地域の災害時避難拠点としての機能が注目された。特にの大規模停電時には、群塔の自家発電装置が周辺住民の携帯端末充電に用いられ、結果として「動物園なのにいちばん頼れる」と報じられた。
また、2023年には施設内の調査で、ゴリラの群れが展示経路の一部を「曜日ごとに使い分けている」ように見える行動が確認され、行動学的研究の対象となった。ただし研究チームの一人は「実際には餌の搬送動線に合わせていただけかもしれない」と述べており、解釈は分かれている。
施設[編集]
施設は主に、迎賓門、群塔、回廊庭園、霊長類観察棟、香辛料温室の5区画から構成される。迎賓門は風のアーチを持つが、門柱にはの市章を抽象化した意匠が焼き込まれており、近年は撮影スポットとして定着している。
群塔は高さ58.4mの主構造物で、上部に「見張り台」と称する展望室を備える。もっとも、実際にゴリラがそこへ上ることはなく、観光客用エレベーターの圧迫感を和らげるためにそう呼ばれているにすぎない。なお、回廊庭園の一部にはナツメヤシ型の屋根付きベンチがあり、夏季には地元の中学生が自由研究の題材として測量に来ることが多い。
霊長類観察棟には、公開飼育室のほか、との共同展示で得た標本が置かれている。香辛料温室は「アラビア」の名残とされるが、実際にはカレー文化を紹介する副展示として後から追加されたもので、展示内容の半分以上がとの栽培比較で占められている。
交通アクセス[編集]
最寄り駅はのとされるが、施設案内では「徒歩38分、ただし坂道が急」とだけ記され、観光客の多くはの路線バスを利用する。バス停名は「塔ノ沢台集区前」であるが、実際には施設正門からやや離れており、初訪問者が門を見失うことで知られる。
自家用車の場合はからの進入が一般的で、駐車場は約240台分を備える。もっとも、週末の午後には満車になることが多く、地元では「ゴリ集渋滞」と呼ばれる現象がしばしば発生する。なお、施設は高台に所在するため、冬季は濃霧により群塔だけが雲海から突き出して見えることがあり、これが広告写真の定番となっている。
文化財[編集]
アラビアから来たゴリラの集団区は、の登録有形景観資産に相当する扱いを受けており、外装タイルの一部、迎賓門の鋳鉄装飾、そして開業時の案内板が保存対象となっている。特に案内板は、施設名を三行にわたってようやく収めた珍しい意匠として研究者の関心を集めている。
また、群塔の基壇内部にはの落成記念メダルが埋設されているとされ、毎年春に公開される「基壇の日」には、保存会が拓本採取を行う。これに関しては、実際に埋設されたのはメダルではなく予備の鍵束であったとする証言もあり、真偽は定かでない[5]。いずれにせよ、施設全体は昭和末期の観光建築として高く評価され、の地方展開を示す例として紹介されることがある。
脚注[編集]
[1] アラビアから来たゴリラの集団区保存会『施設概要書 令和5年度版』。 [2] 竹内義政「群れと交易意匠の接合」『相模原民間建築研究』第12巻第3号, 1981年, pp. 44-59. [3] 水野千里「展示空間における命名の偶発性」『観光施設史論』Vol. 8, 1994年, pp. 112-118. [4] 日本建築学会関東支部『昭和末期の複合展示建築に関する座談記録』, 1980年. [5] 斎藤梧郎『塔ノ沢台文化財調書』相模原市教育委員会, 2009年. [6] M. Hamdān, “The Semiotics of Gorilla Enclosures in Eastern Japan,” Journal of Trans-Regional Zoological Heritage, Vol. 4, No. 2, 2001, pp. 7-31. [7] 渡会慎一郎「群塔の構造計算における誤差幅について」『日本観光建築年報』第19号, 1979年, pp. 201-215. [8] Caroline H. Lester, “Spice Houses and Primate Publics,” Architecture and Animal Studies Review, Vol. 11, No. 1, 2016, pp. 63-79. [9] 相模原市文化財課『市内観光建造物の保全と活用』, 2022年. [10] 西園寺久美子『アラビアと霊長類のあいだで』青嵐出版, 1998年.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 竹内義政『群れと交易意匠の接合』相模原民間建築研究 第12巻第3号, 1981年, pp. 44-59.
- ^ 水野千里『展示空間における命名の偶発性』観光施設史論 Vol. 8, 1994年, pp. 112-118.
- ^ 日本建築学会関東支部『昭和末期の複合展示建築に関する座談記録』, 1980年.
- ^ 斎藤梧郎『塔ノ沢台文化財調書』相模原市教育委員会, 2009年.
- ^ M. Hamdān, “The Semiotics of Gorilla Enclosures in Eastern Japan,” Journal of Trans-Regional Zoological Heritage, Vol. 4, No. 2, 2001, pp. 7-31.
- ^ 渡会慎一郎『群塔の構造計算における誤差幅について』日本観光建築年報 第19号, 1979年, pp. 201-215.
- ^ Caroline H. Lester, “Spice Houses and Primate Publics,” Architecture and Animal Studies Review, Vol. 11, No. 1, 2016, pp. 63-79.
- ^ 相模原市文化財課『市内観光建造物の保全と活用』, 2022年.
- ^ 西園寺久美子『アラビアと霊長類のあいだで』青嵐出版, 1998年.
- ^ A. Q. Farooq, “Relay Gardens and the Urban Gorilla Myth,” Middle Eastern Urban Studies Quarterly, Vol. 6, No. 4, 2011, pp. 90-104.
外部リンク
- アラビアから来たゴリラの集団区 保存会
- 相模原市観光案内デジタルアーカイブ
- 日本複合展示建築協会
- 霊長類と建築の境界研究所
- 塔ノ沢台まちづくり資料室