イマラチオ
| 名称 | イマラチオ |
|---|---|
| 別名 | 遅延同調法、反復位相法 |
| 分野 | 情報工学、教育工学、広告表現 |
| 成立 | 1978年頃 |
| 提唱者 | 田島 恒一郎 |
| 発祥地 | 神奈川県横浜市磯子区 |
| 特徴 | 同一刺激を微妙にずらして反復提示する |
| 主な用途 | 教材設計、店頭演出、放送実験 |
| 衰退 | 1990年代後半以降は限定的 |
| 関連機関 | 横浜市立産業技術館研究準備室 |
イマラチオ(英: Imaratio)は、との境界領域で発展したとされる、時間差応答を前提とする反復型の表示・学習技法である。1970年代後半ので試験的に体系化されたとされ、後にの広告業界との教育工学界隈で広く知られるようになった[1]。
概要[編集]
イマラチオは、同一の情報や映像を完全一致させず、わずかな時間差・角度差・文言差を与えて反復提示することで、受け手の記憶定着や注意喚起を高める技法であるとされる。とくにからにかけて、の港湾関連広告と学校教材の実験で注目された。
名称は、研究報告書における「immediate ratio adjustment」の略記が転訛したものとされるが、後年になってから民間伝承が混入し、語源については複数説が存在する。なお、最初期の記録では「イマラ調法」とも表記されていた[2]。
成立の経緯[編集]
起源はの共同実験施設にあるとされ、秋、周辺の交通案内板を見やすくするための試行で偶発的に発見されたという。案内文を二重に印刷したところ、来訪者が一方を読み飛ばすのではなく、両者を照合しようとして立ち止まる傾向が確認され、これが研究の端緒になった。
中心人物は、当時系の委託研究員であった田島 恒一郎である。田島は、の非常勤講師であった杉本 みどり、の視聴覚担当技師・高梨 武夫らと組み、板書・字幕・音声をずらして提示する実験を反復した。記録によれば、最初の試験は延べの中学生を対象に実施され、理解度が平均上昇したと報告されたが、計測方法には後年疑義が呈された。
この手法が注目された背景には、当時の後半における「情報過密」への不安があったとされる。また、新聞広告の面積が増大する一方で読了率が落ちたことから、各社が「見た気にさせるのではなく、見直させる」技術を求めたことも大きい。イマラチオはその要請に合致した、きわめて時代的な発明であった。
技法[編集]
イマラチオの基本原理は、同じ内容を完全に同じまま繰り返さない点にある。たとえばの地下鉄車内広告では、1枚目に「今すぐ試す」、2枚目に「今こそ試す」、3枚目に「いま、試す」と微妙に語をずらし、受け手の脳内で意味を補完させる方式が採られた。
教育用途では、教科書の同一節を異なるレイアウトで3回提示する「三相配置」が有名である。これはにの公立中学校14校で試行され、歴史年表の記憶保持率が対照群より高かったとされる。ただし、試験実施校の一部では、教師が熱心すぎて黒板いっぱいに書き込みを増やしたため、イマラチオの効果なのか単なる気合いなのか判別しにくいという問題があった。
広告業界では、同一キャッチコピーをテレビ、新聞、駅貼りの3媒体で少しずつ文体変更して展開する「媒体分散型」が定着した。これにより、視聴者は内容を覚えるというより「どこかで見た気がする」という感覚を抱き、結果として商品名だけが強く残ると説明されることが多い。
普及と応用[編集]
前半には、教育番組の一部や、の機内案内映像の試作にまで応用範囲が広がったとされる。とりわけ機内案内では、同一の安全説明を座席位置ごとに微妙に差し替える「座席別位相」が導入され、乗客の注視時間が平均からへ伸びたという。
また、の閲覧案内では、書架案内図を入口・エレベータ前・カウンターで少しずつ異なる文言にしたところ、利用者の質問件数が減少したと報告された。図書館側は成功例として扱ったが、後年の聞き取りでは「結局どの案内も似ていて余計に迷った」との証言もあり、評価は分かれている。
民間では、家電量販店の売り場演出に採用された例が有名である。ある店舗では、同じ冷蔵庫を3台並べるのではなく、1台を正面、1台を斜め、1台を鏡像配置にして展示したところ、来店者が「台数が多いように錯覚する」現象が起きたとされる。これがイマラチオの商業的成功を決定づけたとする説がある。
批判と論争[編集]
イマラチオには、早い段階から「注意喚起の技法に見せかけた単なる重複」との批判があった。とくにの認知心理学者・橋爪 直樹は、の論文で、効果の大半は新規性ではなく反復による慣れに起因すると指摘した。ただしこの論文は、例示に使われた図表が妙に凝っていたため、かえってイマラチオ実践者の間で人気を博した。
一方で、の文化面では「情報の過剰時代における礼儀正しい催眠術」と評され、賛否が分かれた。教育現場では、児童が配布物の違い探しに熱中して本題に戻らないケースが続出し、の一部学校では一時的に使用制限が設けられたと伝えられている。
なお、1989年に開催された「反復表示と社会」シンポジウムでは、田島自身が「イマラチオは完成された技法ではなく、使う側の不安を映す鏡である」と発言したとされるが、議事録の末尾がコーヒー染みで読めず、引用の正確性は確定していない。
衰退と再評価[編集]
後半に入ると、デジタル広告の自動最適化と、動画編集ソフトによる簡易ループ機能の普及によって、イマラチオは特別な技法としての地位を失った。代わって「同じものを少しずつ違えて大量配信する」行為そのものが一般化し、結果として名称だけが専門用語として残った。
しかし以降、レトロ広告研究や教育デザイン史の文脈で再評価が進み、の展示イベントでは「失われた表示文化」として紹介された。来場者の中には、イマラチオを初めて見たにもかかわらず、なぜか昔から知っていた気がするという感想を述べる者が多く、研究者はこの現象を「後追い認知」と呼んでいる。
再評価の流れの中で、田島の未整理資料からは、3枚のスライドをわざと1枚だけ余白多めにする「静かな差分法」や、会議資料の末尾にだけ図版を付ける「遅延補足法」など、派生技法が複数見つかったとされる。これらは現在でも一部ので細々と使われている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田島 恒一郎『遅延同調法の基礎研究』横浜産業技術資料室, 1981.
- ^ 杉本 みどり『反復表示と学習保持』慶應教育学会誌 Vol.12, No.3, pp. 41-58, 1983.
- ^ 高梨 武夫『視覚案内における位相ずらし効果』横浜市教育委員会研究紀要 第7巻第2号, pp. 9-27, 1982.
- ^ Naomi F. Ellison, “Imaratio and the Architecture of Repetition,” Journal of Applied Semiotics, Vol. 8, No. 1, pp. 77-96, 1987.
- ^ 橋爪 直樹『反復の過剰と注意の分散』東京大学認知科学研究報告 第18号, pp. 1-19, 1986.
- ^ M. A. Thornton, “Delayed Ratio Presentation in Urban Signage,” Proceedings of the International Congress on Visual Communication, pp. 201-219, 1984.
- ^ 『イマラチオ運用指針 1985年版』社団法人 日本媒体設計協会, 1985.
- ^ 小林 佐和子『広告における微差の経済学』朝日出版社, 1992.
- ^ Kenji Morita, “Three-Phase Layouts in Classroom Media,” Educational Technology Review, Vol. 15, No. 4, pp. 133-149, 1990.
- ^ 田島 恒一郎・杉本 みどり『イマラチオ総覧――静かな差分の技法』港北新書, 1994.
- ^ 横浜市立産業技術館研究準備室『展示解説用語集:イマラチオ』, 2018.
- ^ 橋爪 直樹『イマラチオ論序説』日本認知媒体学会誌 第3巻第1号, pp. 5-14, 1989.
外部リンク
- 横浜表示文化アーカイブ
- 日本イマラチオ研究会
- 港湾広告資料デジタル庫
- 反復表示学会
- みなとみらい展示史研究センター