エバポレーションフレッシュ
| 名称 | エバポレーションフレッシュ |
|---|---|
| 英語表記 | Evaporation Fresh |
| 分野 | 食品保存・調理工学 |
| 提唱者 | 高瀬義一、マーガレット・L・ソーンダイク |
| 発祥 | 1968年頃、東京都大田区 |
| 主な用途 | 弁当、惣菜、病院食、長距離輸送用の軽食 |
| 特徴 | 微量蒸散、表面再結露抑制、香気層の保持 |
| 関連組織 | 国立食品保存研究所、東洋冷機工業、南関東調理衛生協会 |
エバポレーションフレッシュ(英: Evaporation Fresh)は、内の冷蔵・乾燥技術研究から派生したとされる食品保存概念で、微弱な蒸発作用によって香気と水分のバランスを保つ手法およびそれを用いた調理思想である[1]。20世紀後半の業務用厨房で普及したとされるが、起源には系の試験施設と民間飲料会社の共同実験が関わったとされる。
概要[編集]
エバポレーションフレッシュは、食品表面からごく少量の水分を意図的に抜きつつ、内部の香気と食感を「新鮮に見せる」ことを目的とした技術体系である。一般には保存法の一種とみなされるが、実際にはの普及期に生まれた業務用の温湿度制御理論であり、のちに家庭用包装や給食に転用されたとされる[2]。
この概念は、表面の乾きすぎを防ぎながら、逆に「乾いているようで湿っている」という独特の触感を作る点に特徴がある。1970年代にはの町工場で試作機が乱造され、現場では「冷えるのに生きている」「蓋を開けると湯気ではなく香りが先に立つ」といった、やや宗教的な評価を受けたという[3]。
歴史[編集]
前史[編集]
起源は30年代後半、に搬入される輸入果実の鮮度低下対策として、の倉庫管理技師・高瀬義一が考案した簡易送風箱にあるとされる。高瀬は、果物が完全に乾く前の段階で包装を交換すると、見た目の張りが2〜3日延びることに着目し、これを「蒸発の途中で止めるのではなく、蒸発を礼儀正しく通過させる」と記録した[4]。
確立期[編集]
1968年、(当時は所管の準独立機関とされた)で、アメリカ人研究者マーガレット・L・ソーンダイクが来日し、冷却風洞内の湿度勾配を食品に応用する共同研究を開始した。彼女はの古書店で偶然見つけた製菓用の透湿紙に強く影響を受け、透湿率を毎分0.7〜1.2%の範囲に制御する試験を提案したという。なお、この時期の実験ノートには「freshness is a managed loss(鮮度とは管理された損失である)」との有名な一節が残る[5]。
普及期[編集]
1974年にはが家庭用小型装置「EF-74」を発表し、百貨店の試食会で売上が前年比312%を記録したとされる。もっとも、普及の決定打は機械そのものではなく、の駅弁業者が導入した「開封後12分以内に最も香る」包装方式であった。これにより、長距離列車内での食事体験が「食べる前に完成する」と評され、鉄道雑誌にしばしば取り上げられた。
技術的特徴[編集]
エバポレーションフレッシュの中核は、食品を完全に密閉せず、微小な通気孔と吸湿層を組み合わせる点にある。表面から蒸発する水分が0.3〜0.8g/100gの範囲に収まると、味覚上の「冷えたて感」が強まるとされ、特に脂肪分の多い惣菜で有効とされた[6]。
また、香気の保持にはの印刷工場から転用された「二重フェルト・トレイ」が用いられた。これにより、食品本体ではなく包装内壁に香りを一度付着させてから戻すという、極めてまわりくどい循環が成立したのである。現場ではこの現象を「香りの回送」と呼び、熟練工は最終的な湯気の出方だけで仕上がりを判定したとされる。
社会的影響[編集]
1980年代に入ると、エバポレーションフレッシュは食や高齢者向け配食事業へ広がった。とくにの在宅配食モデル事業では、昼に配達したおかゆが夕方まで「薄く新しい」と感じられたため、利用者満足度が87.4%に達したという調査が残る[7]。
一方で、過度に適用された地域では「食品がいつまでも完成しない」「袋を開けても食べ頃が来ない」との苦情もあった。1989年には内の学校給食で、汁物にまで同方式が試験導入され、児童の多くが「カレーが静かに増える」と証言したため、翌年度から運用が見直された。なお、この件はとされることが多い。
批判と論争[編集]
批判の中心は、エバポレーションフレッシュが鮮度を守る技術というより、鮮度がありそうに見える状態を演出する装置ではないかという点にあった。とくにの食品工学講座では、1992年の公開討論会で「管理された水分移動は保存であって鮮度ではない」とする反論が出され、会場が40分以上にわたって静まり返ったと伝えられる。
また、の一部委員は、香気保持のために用いられた特殊フィルムが高価で、1食あたりの包装費が通常比で1.8倍に膨らむと指摘した。ただし、エバポレーションフレッシュ支持派は「安い鮮度は鮮度ではない」と応酬し、この言い回しがのちに商品広告の定型句になった。
主要な実験施設と応用例[編集]
1981年に開設されたでは、弁当、ゼリー、焼き魚、冷製スープの4系統で比較実験が行われた。最も高い適合率を示したのは焼き魚で、次点は卵焼きであったが、ゼリーは「意味が不明なほど向いていた」と報告されている[8]。
応用例として知られるのが、の一部観光列車で使用された「開封時香気回復型駅弁」である。乗客が蓋を開けた瞬間に、前夜の仕込み時点の香りが0.6秒遅れで戻る仕組みで、車内販売員は「音より先に食欲が来る」と説明していた。もっとも、この現象は天候によって再現性が大きく変動し、雨の日にはただの湿った弁当に終わることもあった。
文化的受容[編集]
1990年代以降、エバポレーションフレッシュは料理番組よりもむしろインテリア雑誌や生活科学系の月刊誌で取り上げられた。理由は、食品保存法としてだけでなく「台所に置いておくと空気まで整う」という説明が受け、主婦層と都市型単身世帯の双方に訴求したためである。
また、の一部カフェでは、ケーキを冷蔵ケースから出してから提供までの間に微風を当てる「E.F.サービス」が流行した。これにより、見た目の艶を保ったまま口当たりを軽くすることができたが、実際にはケーキの側面が必要以上に乾くため、常連客の間では「初動は最高、終盤は砂漠」と呼ばれていた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬義一『蒸散と鮮度のあいだ』東洋食品工学出版, 1972年.
- ^ Margaret L. Thorndyke, “Managed Loss and Freshness,” Journal of Postharvest Systems, Vol. 14, No. 3, pp. 118-136, 1969.
- ^ 国立食品保存研究所編『エバポレーションフレッシュ試験報告書 第4集』研究資料刊行室, 1971年.
- ^ 佐伯文雄『包装内気流の実際』南関東工業新聞社, 1976年.
- ^ A. K. Weller, “Semi-open Humidity Packaging for Ready Meals,” International Review of Food Handling, Vol. 22, No. 1, pp. 44-63, 1981.
- ^ 日本包装学会『第18回大会講演要旨集』第18巻第2号, pp. 201-219, 1992年.
- ^ 山岸たえ子『香りの回送理論とその応用』生活科学社, 1988年.
- ^ N. H. Carlisle, “Evaporation Fresh in Urban Meal Transport,” London Institute of Culinary Systems Bulletin, Vol. 9, No. 4, pp. 7-29, 1995.
- ^ 『月刊厨房実験』編集部『ケーキが砂漠になるまで』厨房実験社, 1999年.
- ^ 藤堂正和『微風と食感の政治学』北海文化出版, 2003年.
外部リンク
- 国立食品保存研究所デジタルアーカイブ
- 南関東調理衛生協会資料室
- 東洋冷機工業OB会年報
- 日本包装学会アーカイブ
- 都市給食文化研究センター