エビフライエフェクト
| 分類 | 社会心理・意思決定論の擬似理論 |
|---|---|
| 提唱領域 | 都市伝説研究、行動経済学、香気認知 |
| 中心仮説 | 感覚刺激が“連鎖の期待”を生成する |
| 関連語 | 揚げ香シナプス、パン粉連鎖、最適満腹錯覚 |
| 観測例 | 飲食店選好の急な集団化、投票行動の偏り |
| 批判 | 因果の飛躍、再現性不足 |
(ebifuray eefekuto)は、ある出来事の“連鎖”が、揚げ物の香ばしさに似た心理的反射として増幅されるとする概念である。主に研究や周辺で言及され、飲食の印象が意思決定に波及する現象を指す[1]。
概要[編集]
は、特定の食体験が“その後に起きることが増える”という期待や不安を通じて周辺の行動を連鎖的に変える現象とされる概念である[1]。
本概念は一見すると料理名と科学用語の組み合わせに過ぎないが、研究者は「揚げたての匂いが、脳内で“次の出来事もある”という予測誤差を増幅させる」という比喩的なメカニズムを提示してきたとされる[2]。そのため、香りの種類よりも“食の期待”が鍵になると説明される場合が多い。
なお、この概念はのを踏まえて命名されたとされる。もっとも、語源をたどると“エビフライの記憶”が政治・経済の会議を動かしたという逸話が混入しており、真偽は別として語りのリアリティが高いとされる[3]。
成り立ちと概要[編集]
この呼称が広まったのは、1990年代後半に内の複数大学が行った「香り×選好」共同実験の未公開中間報告が、関係者の間で“エビフライの会話が波紋を呼んだ”として共有されたのが端緒であるとされる[4]。
報告では、被験者を3群に分け、同一の文章問題を解く前に、(1)揚げ物の香り、(2)煮込みの香り、(3)無臭の環境を与えたと記されている。そこで、解答に影響したのは味ではなく「次に何かが起きる気がした」という自己報告であり、その自己報告が後続のクリック率や申込率を説明した、とされる[5]。
一方で、この概念を一般化した側の言い分では、エビフライが象徴的だったのは、参加者の多くが“子どもの頃に特別な日へ連れていかれた記憶”を持っていたからだとされる。その結果、「揚げ香=イベントの前触れ」という学習が固定化し、会議後の行動にまで波及したのだと推定されている[6]。
さらに、香りの分子数や温度まで表にまとめたとされる記録があり、たとえば「油温は184.2℃〜186.0℃、室内の香気濃度は相対値で0.73〜0.81」といった細かい記述が、後世の語りを過剰に信じさせたとも指摘されている[7]。この数字の出どころは不明であるが、学術っぽさの効果は大きかったとされる。
歴史[編集]
未公開中間報告と“揚げ香の会議”[編集]
の食品安全コンサルタントであった(さえき しょうご)は、1998年、庁舎近くの研究室で「香りが“手続きを急がせる”」という相談を受けたとされる[8]。佐伯は議事録の余白に、なぜか“エビフライ定食が出たときだけ決裁が進む”と書き込み、これが後に“エビフライエフェクト”の原型になったという。
当時の研究室では、午後の審議枠に合わせて試験紙の匂いを調整し、会議室の空調で揚げ香が拡散する時間を計測していたとされる。その結果、「匂いは入室後47秒でピークに達し、決裁者の発言が急に具体化する」と記録されたとされる[9]。もっとも、ピークの秒数は後に削除され、残ったのは“エビフライの語”だけである。
この“削除”が、別の研究者の間で陰謀論を呼んだ。つまり、事実はもっと雑で、エビフライという都合のよい象徴が誤って採用され、概念が自立したのではないかとする説である[10]。しかし、概念が自立したことで、以降は香りの実測よりも“連鎖の語り”が研究の中心になったとされる。
拡散:家電・広告・住民投票へ[編集]
2000年代に入ると、向けの空間演出コンサルが、店内での香りイベントを“エビフライエフェクト実装”として売り込んだとされる[11]。特にの大手チェーンでは、週末の夕方に揚げ香を流し、テレビのリモコン売上が“なぜか”増えたと報告された。
その説明としては、香りが「今買うと後悔しない」という予測を生み、さらに「後続の施策(クーポン配布、抽選、追加提案)を受け入れる姿勢」を強めた、とされる[12]。ただし、当時の資料には“気づいた人の割合”が書かれておらず、再現性の検証は曖昧だったとされる。
さらに2011年頃には、で行われたある住民投票の直前に、投票所近くの臨時販売が賑わい、その勢いが“賛否の会話”を加速させたという逸話が報告された[13]。ここでは、匂いそのものより「揚げ物を買える=景気が悪くない」という安心感が連鎖を作ったのではないかと説明され、エビフライエフェクトは政治文脈にも接続されたとされる。
この時点で概念は、科学というより文化現象として定着した。しかし、定着の過程で「揚げ物なら何でも同じ」という誤解も増えたと指摘されている[14]。
メカニズム(とされるもの)[編集]
エビフライエフェクトの説明では、主に3段階のモデルが採用されるとされる。第1段階は「香りが“出来事の開始信号”として解釈される」である。第2段階は「開始信号が“連鎖が起きる確率”の見積もりを上げる」である。第3段階は「見積もりの上昇が、会話のテンポや行動の切替を速める」である[15]。
このモデルは比喩的とされつつも、細かな観察記述が多い。たとえば、ある展示会の記録では「匂い導入から5分以内に、購入相談の“言い換え回数”が平均2.6回から3.4回へ増えた」と書かれている[16]。ただし、言い換え回数が測定基準として成立しているかは別として、数値が独り歩きしたと批判されている。
また、香りの役割を“信号”として捉えつつ、味の役割もゼロではないとする立場がある。一方で、揚げたての音(ジュッという皮の破裂音)まで含めた「音・匂い・記憶の三位一体」が提案されたこともある[17]。このように、説明は次々と拡張される傾向があるとされる。
ただし、研究者の中には「エビフライという単語の語感が、説明の段取りを軽くする」つまり“言語効果”が本体ではないかとする説もある。もっとも、この説は反証に弱いとされ、主流ではないとされる[18]。
事例[編集]
エビフライエフェクトは、食関連の出来事だけでなく“手続き”にも波及するとされる。以下は、紹介されやすいとされる事例である[19]。
のある自治体研修では、昼食に揚げ物が出た回だけ、議題の“決め台詞”が最後まで言い切られたという。具体的には、議事録の要約に含まれる動詞の種類が、非揚げ物日の比で1.27倍だったとされる[20]。この数字は科学的というより編集の都合によると推測され、なお疑義が残る。
また、の広告制作会社では、打ち合わせ直前に冷凍エビフライを温める“儀式”が導入された。結果として、初回提案の修正回数が平均6.1回から4.8回に減り、クライアントの承認が早まったと報告された[21]。ただし、同時期に担当者の入れ替えがあったため、因果が香りのみと断定できないという指摘もある。
一方で、“うまくいかなかった例”も語られている。たとえば、揚げ香を再現しようとして、規定温度より低い160℃で調理した場合には、連鎖が起きず、逆に沈黙が増えたとされる[22]。この逸話では、「揚げの準備が“始まり”の儀式として解釈されるには、ある閾値が必要だった」という説明がつけられている。
総じて、エビフライエフェクトは“香り→連鎖”の単純な一本道としては扱われにくく、むしろ象徴(特別な日、合図、イベント)として利用されることで効き目が強調される傾向があるとされる[23]。
批判と論争[編集]
批判は主に、因果の飛躍と再現性不足に向けられている。具体的には、香りが行動を変えるのではなく、食体験が“注意の置き場所”を変えたに過ぎない可能性があるとされる[24]。
さらに、エビフライエフェクトという語が強すぎるため、被験者や現場スタッフが期待で行動を修正する可能性(プラセボ的効果)があると指摘された。ある検討会の議事録では「概念が先にあると、結果が概念を裏づけるように整形されがちである」との発言が記録されている[25]。
加えて、細かい数値が多用される一方で、測定装置や手順が同定できない報告が多いとされる。たとえば、前述の「匂いピーク47秒」のような数値は、後年の追補で“だいたい1分”と修正されているにもかかわらず、ネット上では古い数字が流通したという[26]。ここに、概念の拡散過程の弱点があるとされる。
それでも概念が生き残った理由としては、説明が“研究者の語り”として使いやすい点が挙げられる。つまり、検証不能でも場を回せるフレーズが、社会では評価されるということである[27]。このような実用性が、学術的厳密さより優先されてきたと見る向きもある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 東雲 玲音『香りは議事録を変える:揚げ香の社会心理学』新潮学芸出版, 2007.
- ^ Margaret A. Thornton, “Olfactory Priming and Chain-Expectation in Semi-Structured Tasks,” Vol.12, No.3, Journal of Applied Narrative, pp.114-139, 2012.
- ^ 佐伯 祥吾『エビフライ定食と意思決定:未公開中間報告の復元』官庁系資料出版局, 2001.
- ^ 山路 文彦『都市伝説の計量的研究:比喩が効く条件』講談社学術文庫, 2015.
- ^ “Spatial Scent Diffusion in Meeting Rooms: A Reanalysis,” Vol.7, No.1, Indoor Climate Studies, pp.22-41, 2009.
- ^ 小鳥遊 静『最適満腹錯覚と連鎖行動:購入相談の言い換え回数』日本購買行動研究所, 第24回大会要旨集, pp.55-61, 2013.
- ^ 市村 由理『香気濃度の相対指標と閾値設定:0.73〜0.81の意味』香料科学会誌, 第6巻第2号, pp.77-98, 2018.
- ^ 田辺 克也『手続きのテンポは香りで決まるか』日本政策科学会, Vol.3, No.4, pp.201-220, 2004.
- ^ Klaus von Aster, “Symbolic Foods and Political Conversation Dynamics,” Vol.18, No.2, Proceedings of the Culinary Sociology Society, pp.1-19, 2016.
- ^ 中原 和泉『バン粉と期待の統計:揚げの音の計測がもたらすもの』中央大学出版, 2020.
外部リンク
- エビフライエフェクト資料館
- 香気認知アーカイブ
- 都市伝説計量研究フォーラム
- 揚げ香シミュレータ
- 会議室の匂いログ公開サイト