エフュージョン尼崎
| 名称 | エフュージョン尼崎 |
|---|---|
| 種類 | 複合文化施設(再演劇・展示・音響回廊) |
| 所在地 | (築地南臨海地区「A-9街区」) |
| 設立 | 4年(2022年) |
| 高さ | 地上38.7メートル(塔屋含む) |
| 構造 | 鉄骨造(一部免震)・ガラスカーテンウォール |
| 設計者 | 設計共同体「湾岸エコサウンド計画」(代表:渡辺精一郎) |
エフュージョン尼崎(よみ、英: Efusion Amagasaki)は、にある[1]。所在は海沿いの再開発区画とされ、夜間になるほど来場者の動線が「熱」ではなく「記憶」に寄ると説明されている[2]。
概要[編集]
エフュージョン尼崎は、再演劇(リプリゼンテーション)と常設展示、そして来場者の滞在音響を解析して館内演出へ転換する音響回廊を備えた複合文化施設である[1]。現在では、海風の湿度と建物の共鳴を利用して「同じ場所でも別の体験が得られる」ことが売りとして宣伝されている[2]。
名称は「Efusion(滲出・融和)」に由来する造語であり、開業当初から“記憶の滲み出し”をテーマにした企画展が組まれてきた。館内案内では、来場者が入館時に受け取る厚紙カードの表面温度(平均36.1℃)が、その人の歩行速度(秒間0.93歩)と相関して通路の音色が変化すると説明されている[3]。なお、これらの数値は実測値とされる一方で、要出典として扱われた経緯もある[4]。
名称[編集]
「エフュージョン尼崎」という表記は、施設の公式ロゴが縦書きで設計されていることに由来するとされる。特に、ロゴの「ュ」の形状は、阪神間工業地帯の旧型通信機器に見られる導波管の断面を模したものとして語られている[5]。
一方で、地元紙は名称決定の背景として、文化予算の交付条件が「温熱ではなく情熱(passion)の回収率」を求めたことを挙げている。すなわち、エフュージョンは“熱の放出”ではなく、“熱に似た何かの回収”として解釈されたというのである[6]。この解釈は、施設の内部に設置された展示「滲出計算室(Hydro-Log Room)」の展示説明文とも整合しているとされる[7]。
なお、当初は「エフュージョンあま」の略称で呼ばれる計画もあったが、尼崎市の音声案内システムが日本語方言の検出誤差を頻繁に起こしたため、正式名称に統一されたと報告されている[8]。
沿革/歴史[編集]
エフュージョン尼崎の構想は、の沿岸部にあった旧倉庫群を転用する計画に端を発するとされる。ただし計画書では、転用目的の第一が文化ではなく「海塩害の抑制」とされていた点が特徴である[9]。すなわち、塩分付着の振る舞いを音響で推定し、適切な清掃タイミングを導くための“静かな研究建築”として検討が始まったという[10]。
この研究は、音響工学者のが関与したとされる。彼は当時、免震ゴムの振動パターンを「感情の方程式」として扱う試みを行っており、エフュージョン尼崎はその延長として、館内に複数の共鳴チャンネルを持つことになったと説明されている[11]。のちに設計共同体「湾岸エコサウンド計画」が結成され、建築と展示を同一の制御系でまとめる方針が採択された[12]。
2年(2020年)の起工式では、基礎コンクリートの調合が“水比1:0.47、硬化促進剤は総量0.3%”と読み上げられたとされる。しかし後年、関係者は「当日の読み上げは式次第用の誇張で、実際は別配合だった」と語ったと記録されている[13]。このような細部の揺らぎは、施設が“滲む体験”を掲げる性格と相まって、むしろ物語性を補強する要素になったと指摘される[14]。
開業は4年(2022年)である。開業直後には、音響回廊において来館者が無意識に足音を揃える現象が観測され、「シンクロ歩行が平均17.8%増加した」という館内統計が公開された[15]。もっとも、この統計は個人情報非取得をうたっている一方、撮影機器の有無が一部で議論になったと報じられている[16]。
施設[編集]
エフュージョン尼崎は、展示棟A、再演劇場B、音響回廊C、そして教育ラボDから構成される[17]。最大の見どころは音響回廊Cであり、通路壁面が多孔質ガラスで形成されている。現在では、このガラスが入館者の歩行リズムを吸収・変換し、天井のスリットから微細な反射音として返すと説明されている[18]。
再演劇場Bは、舞台と客席の距離が可変であることが特徴とされる。案内資料では「初期設定の最短距離は6.2メートル」であり、座席の角度が変わるたびに“同一台詞の聞こえ方”が変わるよう調整されているという[19]。この調整は、展示棟Aの「台詞の粘土(Lyric Clay)」という触型展示で予習できるとされる[20]。
また、施設の教育ラボDでは、滲出計算(Efusion Computation)という独自カリキュラムが実施されている。ここでは建築材料の劣化音を採取し、劣化予測へ接続する教材が配布される。教員は内の技術系高校から招かれたとされるが、年次によって担当者名が微妙に変動することが指摘されている[21]。
一方で、訪問者の導線は“再演”に寄せられている。館内の休憩ラウンジEに配置された配管むき出しの柱は、あえて避けるルートが用意されているとされ、来場者が「回避した道」でも体験が成立するよう演出が作りこまれている[22]。この設計思想は、施設の総合プロデューサーとされるの言葉として紹介されることが多い[23]。
交通アクセス[編集]
交通アクセスは、中心部からの路線バスと、湾岸地区の循環シャトルが組み合わされている。施設最寄りの仮設バス停は「A-9循環・エフュージョン前」と呼ばれ、日中は5〜12分間隔で運行されるとされる[24]。
施設敷地の東側には臨時の自転車動線が整備されており、歩行者と分離された“低速ゾーン”が設定されている。公式案内では、低速ゾーンの制限速度は時速12キロメートルとされるが、警備員の配置人数が季節で増減するため、実運用は異なると見られている[25]。
また、開業翌年の改修で、タクシー待機列が建物の北面に移されたとされる。理由は、北面のガラスカーテンウォールが“雨音を増幅する”ため、待機中のストレスが軽減されたという説明が付けられた[26]。ただし、効果の検証手法は公開されていないとされる[27]。
文化財[編集]
エフュージョン尼崎には、文化財として扱われる複数要素があるとされる。まず旧倉庫の梁材が一部保存されており、館内の「梁の観測室」でガラス越しに観察できる[28]。梁材は、海塩害への対処として当初から銅系防蝕処理が施された可能性があると記録されているが、処理の正確な時期は不明とされる[29]。
次に、施設敷地内の地下に埋設された“音響基礎”がある。これは、戦前の計測井戸を転用したものとされ、現在では簡易展示として公開されている。案内では、地中部の共鳴周波数が平均42.6Hzとされるが、測定条件が一定しないため、指定の根拠資料には議論があるとされる[30]。
さらに、塔屋の銅板モザイクは「工芸的意匠」として登録されている。モザイクは、近隣工房による切り欠き加工が施され、1平方メートルあたりの細片数が約3,210片と説明される[31]。なお、この数字はパンフレット改訂のたびにわずかに変わっており、計数方法(面積の丸め・重なり)をめぐって問い合わせが起きたと報告されている[32]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 建築音響研究会『湾岸施設の共鳴制御: エフュージョン尼崎の設計資料』エコサウンド出版, 2022年.
- ^ 渡辺精一郎『免震と感情の相関モデル』共鳴工学社, 2019年.
- ^ 小寺綾乃『滲出演出論: 観客の歩行リズムを読む』港湾美術館叢書, 2021年.
- ^ 兵庫県文化観光局『沿岸部複合文化施設の運用指針(試行版)』兵庫県庁, 【令和】3年.
- ^ 『Efusion Amagasaki Opening Report』Journal of Participatory Acoustics, Vol.12 No.2, pp.33-58, 2022.
- ^ A. Thornton『Memory-Driven Wayfinding in Waterfront Buildings』Proceedings of the International Symposium on Sound Architecture, Vol.7, pp.101-118, 2023.
- ^ 尼崎市『A-9街区再開発年報』尼崎市企画課, 2020年.
- ^ 『地下音響基礎の簡易公開に関する技術メモ』日本音響建築学会, 第18巻第4号, pp.210-223, 2021年.
- ^ 増田綾子『文化財指定と誤差: 銅板モザイクの計数問題』美術史技術研究, Vol.5 No.1, pp.1-17, 2018年.
- ^ 佐藤慎二『建築パンフレット数値の信頼性評価』建設広報学会, 2016年(第2版).
外部リンク
- Efusion尼崎公式アーカイブ
- 湾岸エコサウンド計画 研究室
- A-9街区 交通運用ポータル
- 尼崎市文化観光局 展示データベース
- 参加型音響学会 メディアセンター