フィッシャーマンズ・ホライズン
| 名称 | フィッシャーマンズ・ホライズン |
|---|---|
| 種類 | 海景観測・水産博物施設(複合ドック型) |
| 所在地 | 沖合埋立地 |
| 設立 | (初開館) |
| 高さ | 58.4 m(潮位基準で換算) |
| 構造 | 鋼構造+制振ブレース、上部は木格子の回廊 |
| 設計者 | 長浜アトリエ設計共同体(通称:NAD) |
フィッシャーマンズ・ホライズン(ふぃっしゃーまんず・ほらいずん、英: Fisherman’s Horizon)は、にある[1]。
概要[編集]
フィッシャーマンズ・ホライズンは、漁師の経験則を「見える化」するために構想された海景観測・水産博物施設であり、潮目と航路の関係を体感させる設計が特徴とされている[1]。
現在では、夕刻の水平線に合わせて展示照明の角度を自動調整する仕組みが「海の時計」と呼ばれ、観光地としてだけでなく研究施設の周辺見学先としても位置づけられている[2]。
なお、本施設は港湾当局が定めた「沿岸景観保全指針」に基づく外装色で登録されており、灰青色の塗装が低反射性を持つ点が売りとされている[3]。
名称[編集]
名称は、漁師の「生活の地平」を意味する漁業者側の呼称案と、学術部門が提案した「海面の連続性(horizon continuity)」を折衷した造語であるとされる[4]。
開館準備期には、英語表記の採否で一度揉め、「Fishermen’s Horizon(漁師たちの地平)」にするか「Fisherman’s Horizon」にするかで、の広報課と港湾計画室の間で書簡が交わされたとされる[5]。
結局、団体名のように見える複数形を避け、単数形で「誰かの未来」を掲げる方針が採用されたため、現在の表記が定着したと説明されている[6]。
沿革/歴史[編集]
着想:『潮目の転写』計画[編集]
フィッシャーマンズ・ホライズンの起点は、に行われた「潮目の転写」社会実験とされている[7]。これは、漁の成否を左右する海面のうねりを、音ではなく視覚的な層として記録するための教育用モック(試作模型)を作る試みであった。
当初の試作は高さ12.7 mの簡易塔であり、回廊の床に埋め込まれた微細なガイドレール(全長3,260 m)が、来館者の視線移動を統計的に誘導することで「水平線を見る癖」を作ることを目的としたとされる[8]。
一方で、実験報告書には「見学者が水平線に到達するまでの平均時間が、雨天時で31秒延びる」など、妙に細かい指標が並び、計画の真面目さと不器用さが同時に伝わる資料として残っている[9]。
建設:海上制振回廊の採用[編集]
最終設計では、高潮や横風に備えるため、鋼管柱に制振ブレースを追加し、上部回廊を木格子で囲う構成が採用されたとされる[10]。
設計共同体の中心人物として、長浜アトリエ設計共同体の理事であるが挙げられることが多い[11]。同氏は、見学者が転倒しないための「歩幅推定モデル」を建築に持ち込んだ人物として知られ、床材の摩擦係数を0.58〜0.63の範囲に収めることを要求したとされる[12]。
ただし、当時の港湾側の担当者は、摩擦係数よりも塩害対策を優先すべきだと反対し、最終的には外装の耐塩膜を厚さ0.31 mmに統一したことで折り合いがついた、と内部記録に記されている[13]。
初開館:『水平線照明の失敗』[編集]
開館初日、夕刻の照明制御が予定より1.8度ずれており、来館者が「水平線が切れて見える」と一斉に通報したとされる[14]。
調整では、センサーの校正点を誤って「干潮の瞬間」に固定してしまったことが原因とされたが、皮肉にもその日の海象は非常に穏やかで、誤差が目立たない時間帯が存在したとも説明されている[15]。
この出来事は、以後の運用で「潮位ではなく視界(視程)を基準に補正する」手順が追加された契機とされ、現在の自動調整の原型となったと伝えられている[16]。
施設[編集]
フィッシャーマンズ・ホライズンは、海景観測棟、潮目展示回廊、簡易検査ドック、教育ホールの4系統で構成されている[17]。
海景観測棟では、ガラス面の前に設けられた層状の風向表示(全28区画)が、風の変化を来館者の背面で可視化する仕掛けになっているとされる[18]。潮目展示回廊には、漁師が使う網の結び目を再現した断面模型があり、結節点の数が「一艘あたり平均147点」という記述とともに展示されているが、根拠は「聞き取り資料の統計整理」と説明されている[19]。
また、施設内の簡易検査ドックには、架台の定期点検として「週次で56点の塩膜」を計測する運用があるとされ、数値管理が観光体験にまで滲み出る点が、学術ファンにも好まれる理由と指摘されている[20]。
交通アクセス[編集]
施設はの沖合埋立地に所在するため、陸路からは専用連絡通路で到達すると案内される[21]。
最寄りの起点としては、中心部から循環バス「みさき潮路線」が出ており、終点「ホライズン入口」までの所要時間は約18分とされる[22]。ただし、夕刻は観光ピークと重なるため、運行間隔が平均で7.5分から11分へ広がる場合があると記載されている[23]。
海路の場合は、小型艇の定期便が日中に限り運航されるとされ、強風時には「視程優先」で欠航判断が行われるため、当日の天候掲示板では湿度(相対湿度84%など)が併記されることがある[24]。
文化財[編集]
フィッシャーマンズ・ホライズンは、外装の色彩設計と海上制振回廊の意匠が評価され、に「沿岸景観保存対象」として登録されている[25]。
また、施設内部の教育機器(水平線照明制御盤)が「後世の技術史を示す部材」として一部指定され、展示用の制御盤は更新前の写真資料とともに保全されているとされる[26]。
一方で、木格子の回廊は経年で変色しやすいことから、維持管理計画では再塗装の基準を「日射角が25度を超える週」のみ実施すると定めたと説明されており、実務的な運用の妙が指摘されている[27]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 三浦市港湾計画室「『潮目の転写』社会実験報告書」『三浦市港湾技報』第12巻第2号, 1991, pp. 41-63.
- ^ 長浜アトリエ設計共同体「海上制振回廊の設計条件に関する一次検討」『沿岸建築年報』Vol.8 No.1, 1995, pp. 9-27.
- ^ Katherine R. Wells, “Visual Navigation in Coastal Museums,” Journal of Maritime Learning, Vol.14, No.3, 1998, pp. 112-134.
- ^ 日本水産教育研究会「水産博物施設における視線誘導の試み」『水産教育研究』第5巻第1号, 2000, pp. 55-72.
- ^ 佐藤恵理子「沿岸景観保存対象の選定基準と運用」『建築文化政策論集』第22号, 2007, pp. 88-101.
- ^ 【2006年】「沿岸景観保存対象一覧(神奈川県)」『神奈川県告示集』第3014号, 2006, pp. 3-19.
- ^ Marit B. Ellingsen, “Horizon-Based Lighting Systems for Public Aquaria,” International Review of Coastal Technology, Vol.3, Issue 2, 2002, pp. 201-223.
- ^ 日本港湾技術者協会「制振ブレースの耐塩害評価と維持管理」『港湾技術』第41巻第4号, 2004, pp. 33-60.
- ^ 藤原正登「灰青色外装が低反射に寄与する条件」『照明環境研究』第9巻第2号, 2010, pp. 10-24.
- ^ John P. Marlowe, “Anecdotes of Seaside Infrastructure,” Port Studies Quarterly, Vol.0, No.0, 1999, pp. 1-9.
外部リンク
- ホライズン公式アーカイブ
- 三浦市港湾技報データベース
- 沿岸景観保存ポータル
- みさき潮路線時刻表掲示
- NAD設計共同体の設計図保管庫