エミリー・田野の航空巻物
| タイトル | エミリー・田野の航空巻物 |
|---|---|
| 画像 | 架空パッケージアート(巻物と飛行機影) |
| 画像サイズ | 250px |
| caption | “空を読む”を体感する巻物RPG |
| ジャンル | 航空ロールプレイングゲーム(ARPG要素) |
| 対応機種 | 巻物コンソール、巻物コンソール Lite |
| 開発元 | 田野航空巻物開発社 |
| 発売元 | 巻物流通株式会社 |
| プロデューサー | 渡辺精一郎(同人企画主任) |
| 音楽 | 音雲楽団(KON-UNG) |
| 発売日 | 2007年9月13日 |
| 対象年齢 | C(15歳以上相当) |
| 売上本数 | 全世界累計 1,102,483本(初年度計) |
| その他 | オンライン非対応(ただし巻物通信機能) |
『エミリー・田野の航空巻物』(よみ、英: Emily Tano's Aerial Scrolls、略称: ETAAS)は、[[2007年]][[9月13日]]に[[日本]]の[[田野航空巻物開発社]]から発売された[[架空の携帯型家庭用機「巻物コンソール」>巻物コンソール]]用[[ロールプレイングゲーム]]。[[「航空巻物」シリーズ]]の第1作目であり、同名の[[航空史資料]]を模した[[メディアミックス]]作品群を含む[1]。
概要[編集]
『エミリー・田野の航空巻物』は、架空の飛行史料を読み解くことで現代都市の「空気層」を再編し、敵対勢力の航空網を切断していく[[ロールプレイングゲーム]]である[1]。プレイヤーは主人公・田野エミリーの後継者として、地上の巻物(巻物断片)を手掛かりに、空から落ちる情報を「解析」しながら進行する。
本作は[[田野航空巻物開発社]]が制作した商用タイトルであるが、開発の発端は大阪府内で活動していた同人サークル「滑走紙芝居工房」の試作にあり、のちに警視総監の息子である[[渡辺精一郎]]が資金と権利管理を引き受けたことで規模が拡大したとされる[2]。なお、発売初期は難易度調整が過剰に厳格で、クリアまで平均1年を要したという噂が業界紙を賑わせた[3]。
ゲーム内容/ゲームシステム[編集]
ゲームシステムの中核は[[航空巻物]]と呼ばれる「読み物UI」であり、戦闘中にも巻物がめくられ、文章の改行位置に応じて行動コマンドが変化する仕組みである[4]。プレイヤーは章ごとに「索引番号」「高度目盛」「風向余白」を割り当て、同じ敵でも“読ませ方”で弱点が変動する。
戦闘は[[ハンティングアクション]]と[[ロールプレイングゲーム]]の折衷として設計され、敵の飛行パターンを“先読み”することで、攻撃の当たり判定が巻物の紙目に沿って補正されると説明される[5]。武器は銃火ではなく、巻物の繊維を伸長させて作る仮想ケーブル「糸索」であり、通常攻撃・召喚補助・状態付与が同一ボタンで切り替えられる。
アイテム面では、落ちてくるのは薬草やポーションではなく、破損した地図断片や、落雷痕に似た「黒点インク」が中心である[6]。これらは合成すると“索引番号”が更新され、次の章のイベント条件が書き換わるため、同じ周回でも展開が微妙に揺れることが特徴とされる。
対戦モードとしては、競争型の読み合い「巻物ラリー」が存在し、協力プレイも“巻物通信機能”によって模したローカル同期で実装されたとされる[7]。一方でオンライン対応はなく、通信ケーブルとタイムスタンプ調停の再現が評価されつつ、利便性の面で批判も受けた。
ストーリー[編集]
物語は[[2000年代]]の現代日本、特に[[大阪府]]の埋め立て地帯「淀浜港域」を舞台としている[8]。エミリーは失われた航空系統図を探すため、地元の図書倉庫に残る巻物を解読するが、解読が進むほど都市の空域が“実行中の作戦”として再現され、住民の移動ルートが変わっていく。
中盤では「そっくりさん選択」が発生し、プレイヤーは条件分岐により[[依神女苑]]のそっくりさんに遭遇するか、あるいは[[東条英機]]のそっくりさんを仲間にするかを迫られるとされる[9]。どちらを選んでもストーリーの骨格は維持されるが、台詞の語尾、持ち物の記号、そして巻物の索引番号の更新順が異なる。
終盤の最大イベントでは、[[朴正煕]]がラスボスとして“空港管制の影”の形で立ち現れる。倒し方は単純な戦闘勝利ではなく、「管制塔の詩句欄」を修復し、誤読によって発動していた命令体系を解除する必要がある[10]。このギミックが“クリアに平均1年”が必要と言われた主因であり、据え置き攻略が普及しきる前のプレイヤーほど苦戦したとされる。
登場キャラクター/登場人物[編集]
主人公は田野エミリーの後継者として選ばれる「巻物継承者」であり、性別は初期選択で固定されない設定とされる。キャラクターの台詞は短文が多く、巻物の行間から感情が推定されるため、プレイヤー自身の読み癖が強く反映される仕様だと説明された[11]。
仲間には、条件分岐により[[依神女苑]]のそっくりさん、または[[東条英機]]のそっくりさんのいずれかが参加する。依神ルートの仲間は“風向余白”の読みが得意で、索引番号のブーストが戦闘中にも発生する。一方、東条ルートの仲間は“規格化”に強く、巻物の改行位置を固定してブレを抑えることで、難所を安定攻略可能にする。
敵勢力側には、淀浜港域を制御する「滑走通信局」と、その上位組織である「第七空域編集局」があり、両者は敵グラフィックの色味が似ているため、序盤で混同しやすいとされる[12]。また、ラスボスである[[朴正煕]]は、戦闘開始時に必ず“管制の拍数”を読み上げる演出が入るため、読めなかったプレイヤーが動画投稿で挑戦したという逸話が残っている。
用語・世界観/設定[編集]
世界観は「空域が記憶を持つ」という前提に基づいており、航空史料が解読されると、過去の運用手順が現代の地形に“再生”される。作中ではこの現象を「空域反復」と呼ぶとされ、[[大阪府]]の都市再開発計画と絡めて描写された[13]。
[[航空巻物]]は紙媒体に見えるが、実際は“風の電文”の保管形式であると説明される。巻物断片は破損しても機能し、欠けた文字はプレイヤーの入力(索引番号、余白設定)で補完されるため、選択が結果として歴史を書き換えるように作用する。
なお、用語集には「警視総監」「航空管制」「編集局」といった現実の制度名が一部混用されている。これは開発側が“リアリティのため”として取り込んだとされる一方、監修会議で「架空の制度設計でも良いのでは」という異論が出たが、最終的に通ったという証言がある[14]。この点が、後年になって議論の火種となった。
開発/制作[編集]
制作経緯について、同人サークル「滑走紙芝居工房」の初期試作は、警察庁系資料の閲覧制限が緩和された時期に合わせて“空域の暗号”をテーマ化したことから始まったとされる[15]。その後、警視総監の息子である[[渡辺精一郎]]が制作統括として関与し、版権整理と印刷用データの保全を請け負ったため、同人発の企画が商用へ移行した。
スタッフは、ディレクターに[[山吹まどか]]、シナリオに[[小野寺琥珀]]、デザインに[[相良航介]]、プログラマーに[[桐生誠司]]が参加したとされる[16]。特に桐生は、巻物UIの改行位置を“1ピクセル単位の入力誤差”で扱う設計を主張し、難易度が意図せず上振れした経緯があると書かれた。
発売後の修正として、パッチ1.03では「黒点インクのドロップ率」を変更したとされるが、改定内容は1行だけで、プレイヤーが“改行1回分の違い”を検証するまで発見されなかったという[17]。この混乱が、攻略文化を加速させたとも指摘されている。
音楽[編集]
音楽は[[音雲楽団]](KON-UNG)が担当し、全体を通して「巻物をめくる音」をパーカッションとして採用したとされる[18]。楽曲は章ごとにテンポが固定され、戦闘中の巻物改行位置に連動して小節の区切りが変化する仕様だと説明された。
サウンドトラック『空域反復譜(くういきはんぷくふ)』は2007年12月1日にリリースされ、収録曲は全28曲・総演奏時間 1時間06分41秒であるとされる[19]。なお、未収録トラックとして“淀浜港域・夜勤管制”のデモ音源が存在するという噂があり、当時の開発室テープが一部ファンに渡ったとする記録がある。
“依神女苑そっくりさんルート”と“東条英機そっくりさんルート”では、同名のテーマ曲でも調性が異なる。媒体によっては同一曲扱いで掲載されており、後年のレビューで「聴いて初めて別物」と指摘された[20]。
評価(売上)[編集]
発売初年度の商業評価は概ね好意的である。売上は全世界累計 1,102,483本を記録し、国内では[[ファミ通]]のクロスレビューによりゴールド殿堂入り相当とされたと報じられた[21]。
ただし難易度と手探り性は賛否が分かれ、「クリアに平均1年」「巻物UIの入力誤差で運ゲー化している」といった批判が出た。一方で支持層は、誤読を“読み”の一部として消化する設計だと擁護し、攻略サイトよりも“自分の改行癖”を見つけることが重要だと主張した。
また、条件分岐の仲間に現実人物のそっくりさんが含まれる点については、表現の倫理をめぐる議論が起きた。公式側は「歴史の再現ではなく、巻物の読み替え表現である」と回答したが、のちに一部の記事で「編集局がわざと現実語彙を混ぜた」可能性が指摘された[22]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『巻物UIの設計原則: 1ピクセル誤差が物語を変える』巻物技術叢書, 2008.
- ^ 山吹まどか「航空巻物RPGにおける索引番号補完の試み」『電子記号研究』Vol.12第1号, pp.33-58, 2009.
- ^ 小野寺琥珀『空域反復と現代都市の寓意』大阪文庫, 2010.
- ^ 相良航介『淀浜港域の風向余白: レベルデザインノート』滑走建築社, 2007.
- ^ 桐生誠司「改行位置同期による戦闘補正アルゴリズム」『計算演出会誌』第7巻第2号, pp.101-134, 2008.
- ^ KON-UNG『空域反復譜』音雲楽団, 2007.
- ^ Emily R. Thornton, “Aerial Scroll Interfaces in Fictional RPGs,” Proceedings of the Fictional Games Symposium, Vol.3 No.1, pp.1-19, 2011.
- ^ 『ファミ通クロスレビュー』編集部『ゲーム大賞受賞ソフト総覧(架空版)』角川幻影堂, 2008.
- ^ 渡辺精一郎『本当に1年かかるRPG』日本ゲーム教育協会, 2012.
- ^ James H. Kline, “Conditional Companions and Ethical Representation in Narrative RPGs,” Journal of Pretend Studies, Vol.5, pp.77-96, 2014.
外部リンク
- 巻物技術アーカイブ
- 空域反復ファンアトラス
- 田野航空巻物開発社 公式記録
- 音雲楽団資料室
- 淀浜港域探索掲示板(保存)