カタアンドトシ(42)
| 名称 | カタアンドトシ(42) |
|---|---|
| 別名 | 42式二重応答法 |
| 分類 | 演芸技法・口承形式 |
| 起源 | 1978年頃、東京都の学生寄席 |
| 提唱者 | 片倉敏夫、戸塚和子らとされる |
| 特徴 | 先行語を受けて二度返しを行う |
| 番号の由来 | 第四二回合同公演の控室記号 |
| 主な普及地 | 東京都、神奈川県、埼玉県 |
| 影響 | 漫才、朗読劇、地域放送に波及 |
カタアンドトシ(42)は、の複数ので用いられた、二人一組の即興応答形式を指す俗称である。特に後半から内の学生寄席を中心に広まり、のちにという番号が付された独自の型として整理された[1]。
概要[編集]
カタアンドトシ(42)は、相方の発話を「型」で受け、「トシ」でずらして返す二段階の応答を核とする口承技法である。一般にはの一変種として扱われることが多いが、実際には、、の境界で発達した中間的な様式であったとされる[2]。
名称中の「42」は、第四二回合同公演の整理番号に由来するとされるが、後年になってが保存した台帳では、同番号が「仮置き」か「鉛筆の書き直し」かで解釈が分かれている。なお、関係者の一部は「42」はを意味する縁起番号であると主張していたが、証言は一致していない[3]。
歴史[編集]
学生寄席期[編集]
起源は夏の周辺に求められることが多い。当時、がノートの余白に「片方が整え、片方が崩す」と書き付けたことが端緒とされ、これをが舞台上の応答テンポに転用したという[4]。初期の型では、返答は必ず7拍遅れで行われ、拍がずれるたびに客席の笑いが増幅したと記録されている。
一方で、の演芸部に残る記録では、同様の形式がそれ以前から「二項返し」と呼ばれていたともされる。ただし、両者を同一視する見解には異論があり、2011年の研究会報告では「カタアンドトシ(42)は二項返しの完成形ではなく、むしろ控室文化の産物である」と要約されている[5]。
番号の固定と普及[編集]
の第四二回合同公演で、控え席の札に誤って「KATA-42」と印字されたことが転機になったとされる。これを見たの構成作家・真鍋佐和子が、放送原稿に番号を残したまま紹介したところ、視聴者から「形式がわかりやすい」との反響が寄せられたという[6]。
その後、内の喫茶店「三角堂」やの小劇場では、観客が返し方を採点する「42票制」が導入された。採点は10点満点ではなく4項目×2点という不自然な方式で、これが後世の研究者に「なぜ42なのか」という誤解を長く残した。
制度化と教育利用[編集]
には、の一部研究者が、カタアンドトシ(42)を「協調的応答訓練」として注目した。とくにの文化祭では、これを流用した発声練習が導入され、1分間に19回の相互補正を行う訓練法が記録されている[7]。
また、の深夜実験番組『ことばの手前』では、出演者が原稿なしで42秒ごとに相槌を入れる企画が放送された。番組は視聴率0.8%前後であったが、翌週から一部の司会者の語尾が妙に整う現象が報告されたとされる。
技法[編集]
カタアンドトシ(42)の基本は、前者が「型」を提示し、後者が「時」をほどくことであると説明される。実演では、前者が一文目をきっちり12音節で置き、後者がその末尾を2音節だけ遅らせて回収するのが理想とされた[8]。
このため、熟練者は会話の中でしばしば不自然に丁寧になり、また相槌の間に謎の沈黙を挟む傾向があった。研究者の間では、これを「沈黙の42化」と呼ぶが、実際には緊張で言い直しているだけではないかという指摘もある。
なお、上級型には「逆カタ」と呼ばれる派生があり、先に結論を言ってから理由を後付けする。これはの寄席で流行したが、観客からは「説明が先に終わる」と苦情が出たため、半年ほどで廃れた。
社会的影響[編集]
カタアンドトシ(42)は、からやの原稿作法に影響を与えたとされる。特にの一部自治体では、防災無線の文末を二重に整える「42文体」が採用され、避難指示がやけに聞き取りやすくなったという評価がある[9]。
一方で、会議でこの技法を模倣した結果、要点が3倍に膨らむという副作用も生じた。あるの内部メモでは、25分で終わるはずの説明会が62分に伸び、参加者の半数が「今のは前振りか本題か」を見失ったと記録されている。
このような事情から、カタアンドトシ(42)は「会話の秩序を保つ技法」と「話を長引かせる技法」の両面で評価されている。後者の効用は、特に自治体の答弁練習で重宝されたとされる。
批判と論争[編集]
批判の中心は、42という数字の根拠がきわめて曖昧である点にある。の准教授・宮内奈緒は、2018年の論文で「42は形式の中核ではなく、後から貼られた記号に過ぎない」と述べた[10]。これに対し、保存会側は「記号であっても、繰り返されれば制度になる」と反論している。
また、2006年には地方版に「学生寄席の伝統を名乗る新興派が、実際には喫茶店の注文方式を流用している」とする記事が掲載され、関係者の間で小規模な論争になった。もっとも、注文方式由来説は後に「カップに番号札を振る都合のよい比喩」であった可能性が高いと整理されている。
なお、最も奇妙な論点として、42の読みを「しじゅうに」ではなく「よいつぎ」と発音する流派が一部に存在した。これはの地方公演で誕生したとされるが、現在ではほとんど確認されていない。
保存と再評価[編集]
資料保存[編集]
、の民間アーカイブ団体「口承保存研究会」が、当時の台本片、控室札、コーヒー染みのある進行表など計84点をデジタル化した。中でも最重要資料とされたのは、片倉の鞄から見つかった半端なメモ紙で、「42は数字ではなく、合わせ目である」と走り書きされていた[11]。
このメモは後に複製が出回り、都内の古書店で「真筆風の写し」が何冊も販売される騒ぎとなった。学術的には真正性が疑われているが、文化史的には「偽作が保存運動を加速させた稀有な例」と評されている。
再評価[編集]
には、配信文化の普及に伴い、カタアンドトシ(42)が「チャットの即時応答に適した会話術」として再評価された。特にライブ配信者の間で、コメントを受ける際に一拍置いてから二度返す「42返し」が流行し、ある配信では同じフレーズが17分間で48回繰り返されたという[12]。
この再評価により、かつての学生寄席文化は単なる周縁芸能ではなく、現代の対話設計に先行する実験だったという見方も現れている。ただし、現場の配信者の大半は由来を知らず、単に「言い直すとウケる」から使っているにすぎないとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 片倉敏夫『二重応答の成立史』口承芸能出版社, 1994.
- ^ 戸塚和子『控室から始まる言葉』三角堂書店, 1987.
- ^ 宮内奈緒「カタアンドトシ(42)の記号論的再検討」『演芸文化研究』Vol.18, No.2, 2018, pp. 33-51.
- ^ 真鍋佐和子「学生寄席における番号札の機能」『放送構成学紀要』第7巻第1号, 1991, pp. 104-119.
- ^ 国立国語研究所編『協調的応答訓練と発話間隔』明治図書, 2002.
- ^ 佐伯健一『42秒の沈黙と笑い』文化放送出版部, 2008.
- ^ Y. Hoshina, “Double-Reply Forms in Urban Fringe Performance,” Journal of Japanese Performance Studies, Vol. 11, No. 4, 2005, pp. 201-226.
- ^ M. Thornton, “Numerical Labels in Improvisational Comedy,” East Asia Folklore Review, Vol. 3, No. 1, 2016, pp. 15-29.
- ^ 渡辺精一郎『防災無線の語尾整形』地方自治研究会, 2013.
- ^ 宮内奈緒『よいつぎ発音の民俗学』白水社, 2021.
- ^ K. Nakamura, “The Forty-Two Principle in Live Chat Interaction,” Media Linguistics Quarterly, Vol. 9, No. 2, 2022, pp. 77-96.
外部リンク
- 口承保存研究会アーカイブ
- 東京都立文化資料館デジタル目録
- 学生寄席年表データベース
- 42式応答法研究会
- 放送構成学オンライン年報