ゲイなんだろ?笑
| 分類 | 煽り文句・自虐反転表現 |
|---|---|
| 成立時期 | 2003年ごろと推定 |
| 発祥地 | 東京都千代田区外神田周辺のネット掲示群 |
| 主な使用層 | 10代後半〜20代前半の匿名投稿者 |
| 語構成 | 「ゲイなんだろ?」+失笑を示す「笑」 |
| 派生 | 「なんだろ?草」「○○なんだろ?笑」 |
| 初出記録 | 某匿名掲示板ログ(2003年8月) |
| 研究機関 | 国立情報言語研究所・俗語動態班 |
ゲイなんだろ?笑は、のインターネット黎明期に成立したとされる半ば挑発的な定型句であり、相手のを茶化す口調と、同時に発話者自身の防衛反応を兼ねた特殊な言い回しである[1]。2000年代前半のとの接触面で広まり、のちにとして研究対象になったとされる[2]。
概要[編集]
「ゲイなんだろ?笑」は、相手をからかう意図で投げられる一方、話者が議論の不利を笑いで包み隠すためにも用いられる、二重底のある表現である。単なる暴言として扱われがちであるが、の匿名文化においては、論破不能な話題を強制終了させる「会話終端子」として機能したとする説がある。
この語は、系の早朝雑談板と初期のコメント欄の中間地帯で形成されたとされ、当初は冗談半分のあだ名表現として使われていた。しかし以降、短文煽りの効率性が評価され、わずか4文字の笑いで議論を切断する「短文化時代」の象徴になったとされる[3]。
成立の経緯[編集]
起源については、外神田のインターネットカフェ「神田第七码」周辺で、深夜帯の対戦ゲーム観戦者が口頭で用いたのが始まりだという説が有力である。もともとは「おまえ、そっち系なんだろ?」という長い揶揄を、店内の静粛を保つために圧縮した言い換えであったが、常連客の一人であった渡会康平が最後に「笑」を付けたことで、攻撃性を稀釈しつつ刺さる文型が完成したと伝えられている[4]。
一方で、の高校生サークル「短文研」で先に体系化されたという説もあり、こちらでは「笑」の有無が語気の強弱を左右することが実験的に確認されたとされる。なお、この実験では被験者36名中31名が「むしろ腹が立つ」と回答したが、報告書の結論はなぜか「親密性の高いユーモアである」とまとめられている[5]。
流行の拡大[編集]
からにかけて、この表現はの予測変換に収まりやすいことから爆発的に拡散した。特にの個人サイト群では、語尾の「笑」を「w」に置換する書き換えが流行し、「ゲイなんだろ?w」が派生形として定着したとされる。
また、の同人イベントでは、会話の途中でこの語を紙製うちわに印字して見せる「無言煽り」が流行した。あるサークルは、わずか3日間で1,200本のうちわを頒布し、うち847本が翌週フリマアプリに再出品されたという記録が残る[6]。この再販率の高さは、当時のミーム商品としては異例であった。
文化的影響[編集]
この表現は、単なる侮蔑語にとどまらず、における「断定+失笑」の基本形を定着させた点で重要である。のちに「〜なんだろ?笑」は、政治談義、アニメ考察、鉄道模型、株価予想まで、あらゆる口論に挿入される汎用テンプレートとなった。
の外郭委員会がに実施した調査では、20代の匿名投稿者のうち17.4%が「一度は自分の発言に『笑』を付けて逃げた経験がある」と回答した。ただしこの調査は、回答者の半数近くが同一IPから送信されていた可能性があるため、学術的には慎重な扱いが必要である[7]。
批判と論争[編集]
この語は、差別的含意を帯びうることから、の普及期にたびたび炎上の対象となった。とくに、の動画配信者が生放送中に多用したことで、視聴者アンケートに「不快」「古い」「逆に効く」の三極化が起き、配信者側が翌週から「だろう?」のあとに5秒の沈黙を置くという奇妙な改変を行った。
また、短文化が進みすぎた結果、言葉の意味を失って純粋な記号として流通したとの批判もある。文化社会学者の黒沼百合子は「この語は攻撃ではなく、攻撃したい気持ちの保存容器である」と述べたが、同時に「保存方法が乱暴すぎる」とも書いている[8]。
研究と分類[編集]
語用論的分類[編集]
の言語行動研究室では、この表現を「疑問形を装った結論押しつけ型表現」に分類している。調査では、文末の「笑」が小文字の「w」に変わると攻撃性は平均12%低下する一方、受け手の苛立ちは19%上昇したと報告された[9]。
方言的変種[編集]
では「ゲイなんだべ?笑」、では「ゲイなんやろ?笑」といった変種が確認されているとされる。いずれも地元の若者言葉というより、全国チェーンの深夜チャットが各地の口調を雑に吸収した結果であるという見方が強い。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒田一真『匿名掲示板における終端表現の生成』情報社会学会誌, Vol.18, No.2, 2009, pp. 41-63.
- ^ 渡会康平『笑記号の暴力性と緩衝性』東京言語文化出版, 2012, pp. 88-104.
- ^ 佐藤みさき『「w」の拡散と日本語感情表現の変容』国語史研究, 第34巻第1号, 2014, pp. 5-29.
- ^ Margaret A. Thornton, 'Playful Hostility in East Asian Forum Culture', Journal of Digital Folklore, Vol. 7, No. 1, 2011, pp. 12-39.
- ^ 黒沼百合子『失笑の社会学』青嵐社, 2016, pp. 201-219.
- ^ 平井徹也『掲示板語彙の短文化現象』メディア表現研究, 第22巻第3号, 2010, pp. 66-92.
- ^ 国立情報言語研究所編『ネットミーム語彙年表 1999-2015』三省堂資料叢書, 2018, pp. 145-151.
- ^ E. Nakamura, 'The Humor of Aggression in Typing Speed Communities', Keio Review of Internet Studies, Vol. 5, No. 4, 2013, pp. 77-90.
- ^ 武田光一『煽り語の民俗誌』風間書房, 2019, pp. 33-57.
- ^ 小林真帆『「なんだろ?」構文の文法化について』日本語記号論集, 第11巻第2号, 2020, pp. 118-136.
外部リンク
- 国立情報言語研究所 デジタル俗語アーカイブ
- 日本ネット言語学会年報
- 短文文化資料室
- 匿名掲示板語彙年表館
- ミーム研究フォーラム