コールドウォーに幸あれ!
| タイトル | コールドウォーに幸あれ! |
|---|---|
| ジャンル | 冷戦史劇・架空戦記・青春コメディ |
| 作者 | 相沢冷也 |
| 出版社 | 霜文社 |
| 掲載誌 | 月刊フロスト・ジャンプ |
| レーベル | フロストコミックス |
| 連載期間 | 1987年3月 - 1994年11月 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全162話 |
『コールドウォーに幸あれ!』(こーるどうぉーにさちあれ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『コールドウォーに幸あれ!』は、からにかけて連載された架空の長編漫画である。東西対立のただ中にあるを舞台に、天才交渉術を持つ女子高生が、なぜか各国の秘密協定を次々と着地させていく物語として知られている[2]。
作中ではの国営放送局、の地下会議室、そしての古書店が相互に繋がるという奇妙な構図が採られており、当時の読者からは「史実に似ているが、細部だけが徹底的におかしい」と評された。この“似ているのに変”という感触が評判を呼び、累計発行部数は約840万部を突破したとされる[3]。
制作背景[編集]
作者のは、もともと鉄道趣味誌で編集補助をしていた人物で、という語を「冬の長い地政学」と誤読したことから本作の着想を得たとされる。本人は後年のインタビューで、「対立を描きたかったのではなく、対立の上に置かれるティーカップの安定感を描きたかった」と述べており、編集部内では半ば冗談として受け止められていた[4]。
連載開始時、霜文社は月刊誌の売上不振に悩んでいたが、担当編集のが「政治は難しいが、政治の人間関係は漫画にすると全部ラブコメになる」と判断し、秋の企画会議で強行採択したという。なお、初期案では主人公は男子大学生であったが、背景にの書き込みを入れたところ、作画スタッフが全員混乱したため、現在の女子高生主人公へ変更されたとの記録が残る[5]。
あらすじ[編集]
ベルリン封鎖編[編集]
のを思わせる市街で、霧島ユキノは祖父の遺した時計を手に入れる。その時計は1日3回だけ「相手の本音を英語字幕で表示する」という奇妙な機能を持ち、彼女は偶然側の通訳官と側の少年将校を同時に説得してしまう。第7話では、会議室の窓から飛んできた鳩が停戦文書に糞を落とし、条約の締結条件が「清掃費の折半」へ変更される場面が名物となった[6]。
キューバ危機編[編集]
上空で始まるこの編では、主人公たちが偶然の配線図をカフェのナプキンに描き写してしまい、それが危機回避の決定打となる。作中の大統領は、決断のたびにコーヒーを7杯飲む癖があり、胃痛を理由に会見を30分延長する描写が妙に生々しい。なお、この編の最終話でユキノが発した「撃つ前に測れ」という台詞は、後年の講演集で引用されたという[7]。
デタント文化祭編[編集]
後半の人気編であり、の緊張緩和を背景に、の高校で「東西合同文化祭」が開催される。ここではの展示台がスパイ機材として転用され、音響部の生徒が流したに各国の諜報員が一斉に踊り出すという事態が起きる。文化祭の来場者数は12,480人とされ、校舎前のパン売り切れ記録が地域ニュースになったことから、単なる学園編ではなく“公共外交編”として再評価された[8]。
最終停戦協定編[編集]
終盤では、霧島ユキノが各陣営の代表者をの湖畔へ集め、2,613ページに及ぶ停戦草案をたった8分で読み上げる。ところが最後の一文だけがなぜか俳句になっており、条約署名者のひとりが感動して署名欄の位置を1行下にずらしたため、歴史上の最終合意とは微妙に異なる“斜めの協定”が成立する。作者はこの結末について「平和は直線では来ない」と説明したが、編集部は清書ミスではないかと疑っていたとされる[9]。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、出身の17歳という設定である。交渉と暗算に異常な才能を持ち、相手の発言に対して常に一拍遅れて頷く癖があるため、周囲からは「遅延同意」と呼ばれていた。
は側の若手将校で、冷静沈着な人物として登場するが、実際には甘い菓子に目がなく、毎回の提供で情報漏洩してしまう。読者人気が高く、連載中盤ではファンクラブがの日本料理店に非公式で集まっていたという。
は霜文社側の担当編集に相当する劇中人物でもあり、現実の編集者と混同されたことで有名である。彼は作中でしばしば「構図はいい、だが緊張感が足りない」と言うが、そのたびに会議室の照明が落ちる演出が使われた。
用語・世界観[編集]
本作の世界では、は単なる国家間対立ではなく、「温度差のある意見が長期間すれ違う現象」を指す一般用語として扱われている。これにより、主人公たちは国際政治だけでなく、学級会や部活動の遠征日程まで“冷戦案件”として処理する。
また、は緊急連絡網ではなく、直火式の電話機と定義されており、相手国に伝える前に受話器が熱くなるため、重要交渉ほど慎重になるという理屈が用いられている。この設定は後に読者から「わかるようで全くわからない」と評された[10]。
作中地理ではに“第3の壁”が存在し、これは実際の壁よりも低く、子どもが越えられるが政治家は越えられない高さに設定されている。さらに、会議で出されるには時差を1時間遅らせる効果があるとされ、各国代表の発言順を巡る騒動の原因となった。
書誌情報[編集]
単行本はより刊行され、初版第1巻には作者の手書きによる「交渉は巻きすぎても破れる」という謎の注意書きが収録された。第9巻以降は背表紙を並べるとの断面図になる装丁が採用され、書店員の間では陳列が難しい本として知られた。
には愛蔵版全6巻が発売され、各巻末に「登場人物のその後」をまとめた年表が付属したが、年表の欄だけが空白であり、読者の間では作者が意図的に“何かを言っていない”と話題になった。なお、初期単行本には印刷所の都合で第42話と第43話のページ順が入れ替わった版が存在し、現在ではむしろ高値で取引されている[11]。
メディア展開[編集]
には化され、全39話が放送された。制作は架空のアニメスタジオが担当し、主題歌は「Dawn over the Wall」という英語詞の曲であったが、サビの一部だけがなぜかロシア民謡風にアレンジされ、放送当時の深夜帯では異例の視聴率6.8%を記録した。
さらに、には舞台版、にはゲーム化、には実写ドラマCDが制作されるなどメディアミックスが進んだ。とくにゲーム版は、交渉テーブルに出す菓子の順番でエンディングが変わるシステムが話題となり、発売3週で14万本を売り上げたとされる[12]。
反響・評価[編集]
本作は、冷戦を扱いながらも殺伐一辺倒にしなかった点が評価され、、などを受賞したとされる。評論家のは「国際政治を弁当箱の中に押し込んだような異様な完成度」と評し、特に第13巻の“停戦サンドイッチ”回を高く評価した[13]。
一方で、史実との距離感が独特すぎるため、教育現場では「参考にしてはならないが、きっかけにはなる」と半ば注意書き付きで紹介されることがあった。また、の章に出てくる国名が3か国ほど存在しないという指摘もあるが、単行本の巻末で作者が「地政学は気分で増減する」と回答したため、議論は収束しなかった。
脚注[編集]
[1] 霜文社編集部『月刊フロスト・ジャンプ創刊30周年記念資料集』霜文社、2018年、pp. 44-49.
[2] 相沢冷也『連載ノート 冷たい世界の描き方』フロストコミックス刊行会、1995年、pp. 11-18.
[3] 佐伯冬馬「1980年代後半漫画市場における架空戦記ブーム」『漫画文化研究』Vol. 12, No. 3、2002年、pp. 101-117.
[4] 黒川真一郎「編集会議の議事録に残らない議事録」『霜文社社内報』第7巻第2号、1994年、pp. 2-5.
[5] 小野寺綾子『少女主人公化の技法とその周辺』北霧書房、2006年、pp. 73-81.
[6] 石川レナ「鳩と停戦文書の記号論」『現代漫画批評』Vol. 8, No. 1、1999年、pp. 34-42.
[7] International Institute for Negotiation Studies, Proceedings of the Cold Dialogue Symposium, Vol. 4, 2007, pp. 88-92.
[8] 高城みのる『学園祭外交の社会史』白凍社、2011年、pp. 155-162.
[9] M. H. Langley, “The Slanted Peace Treaty in Popular Comics,” Journal of Imaginary History, Vol. 21, No. 4, 2015, pp. 201-219.
[10] 渡会篤『ホットライン概念の誤配線史』東方冷学出版、1998年、pp. 9-13.
[11] 霜文社倉庫課「初版流通差異一覧」内部資料、1993年、pp. 1-6.
[12] 鳥羽奈々『家庭用ゲームにおける交渉選択肢の発展』フローズンメディア社、2003年、pp. 90-97.
[13] 三好芳子「弁当箱としての地政学」『週刊架空評論』第58号、2005年、pp. 12-14.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霜文社編集部『月刊フロスト・ジャンプ創刊30周年記念資料集』霜文社、2018年、pp. 44-49.
- ^ 相沢冷也『連載ノート 冷たい世界の描き方』フロストコミックス刊行会、1995年、pp. 11-18.
- ^ 佐伯冬馬「1980年代後半漫画市場における架空戦記ブーム」『漫画文化研究』Vol. 12, No. 3、2002年、pp. 101-117.
- ^ 黒川真一郎「編集会議の議事録に残らない議事録」『霜文社社内報』第7巻第2号、1994年、pp. 2-5.
- ^ 小野寺綾子『少女主人公化の技法とその周辺』北霧書房、2006年、pp. 73-81.
- ^ 石川レナ「鳩と停戦文書の記号論」『現代漫画批評』Vol. 8, No. 1、1999年、pp. 34-42.
- ^ International Institute for Negotiation Studies, Proceedings of the Cold Dialogue Symposium, Vol. 4, 2007, pp. 88-92.
- ^ 高城みのる『学園祭外交の社会史』白凍社、2011年、pp. 155-162.
- ^ M. H. Langley, “The Slanted Peace Treaty in Popular Comics,” Journal of Imaginary History, Vol. 21, No. 4, 2015, pp. 201-219.
- ^ 渡会篤『ホットライン概念の誤配線史』東方冷学出版、1998年、pp. 9-13.
- ^ 鳥羽奈々『家庭用ゲームにおける交渉選択肢の発展』フローズンメディア社、2003年、pp. 90-97.
- ^ 三好芳子「弁当箱としての地政学」『週刊架空評論』第58号、2005年、pp. 12-14.
外部リンク
- 霜文社公式アーカイブ
- フロストコミックス年表館
- 冷戦漫画研究会
- 架空史料データベース・ノルド資料室
- ベルリン壁下の読書会