シャーケードの杖
| 名称 | シャーケードの杖 |
|---|---|
| 別名 | 潮振杖、シャーケッド、第二式潮鳴棒 |
| 分類 | 振動整繊器具・儀礼測定具 |
| 起源 | 1878年頃の東京湾岸 |
| 主用途 | 紙繊維の整列、潮音の計測、儀礼的合図 |
| 材質 | 黒檀、真鍮、クジラ骨を模した合成材 |
| 提唱者 | 島崎倫太郎、E. W. Thornton |
| 流行期 | 1890年代 - 1930年代 |
| 現存例 | 国内外で7本が確認されているとされる |
シャーケードの杖(シャーケードのつえ、英: Sharkade Staff)は、後半ので成立したとされる、振動と潮位差を利用しての繊維配列を整えるための細身の杖状器具である。後に、、の境界領域にまたがる半伝説的な道具として知られるようになった[1]。
概要[編集]
シャーケードの杖は、棒の先端にわずかな曲率を持たせ、地面や台上に接触させた際の共鳴を読んで作業条件を判定する器具であるとされる。名称の「シャーケード」は、のとを混ぜた港湾俗語に由来すると説明されることが多いが、同時代資料では「潮の鳴る回廊」を意味する技術隠語として記録されている[2]。
もっとも、実際には工房の紙職人が前身組織の観測補助を請け負う中で、誤差補正のために作った合図棒が独自に発展したものと考えられている。のちに、、の倉庫街へ広まり、港の倉庫番が荷役の開始時刻を決める際にも用いたという[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は11年、の和紙問屋・島崎倫太郎が、湿度の変化で反る紙を均すための補助具として考案した試作杖に求められる。島崎は当初、先端に片を埋め込み、床板を三回叩くと紙束の含水率が分かると主張したが、弟子のが潮風のある日に限って精度が上がることを偶然発見したとされる[4]。
この発見の背景には、当時沿岸で行われていた埋立工事がある。工事の振動で紙束の繊維が均一化する現象に着目した島崎は、杖を水平に振る動作を加えることで「紙の鳴り」を整える方式を編み出した。後年の記録では、島崎はこの現象を「紙が潮を覚える」と呼んだとされるが、同時代の新聞にはそのような発言は確認されていない[要出典]。
海軍測量との接点[編集]
頃になると、の若手測量官だったエドワード・W・ソーントン少尉がこれに注目し、測量の誤差補正に転用した。杖の振動が岩礁上で周期的な反響を返すため、彼はこれを潮流の変化を読む簡易器具として扱い、現地では「岸の拍子木」とも呼ばれたという。
ソーントン少尉は帰国後、の私設学会でこの器具を紹介したが、英語圏では楽器なのか測定具なのか判然としないとして、の周辺でのみ話題になった。なお、同会の議事録には「sharked rod」と誤記された例が複数あり、後の命名混乱の原因になったとされる[5]。
大衆化と衰退[編集]
期には、シャーケードの杖は茶道具店や洋傘店でも扱われるようになり、舞踏教師がテンポ指示に使うなど用途が拡散した。とくにの「星港舎」では、杖を振った際の音階を五段階に聞き分ける講習会が開かれ、受講者は3か月で延べ1,240人に達したという。
しかし10年代に入ると、電気式の湿度計と港湾サイレンが普及し、実用性は急速に失われた。戦後は一部のと舞踊家のあいだでのみ継承され、の「東亜器具展」では、来場者の半数以上が展示品を釣竿と誤認したという逸話が残る。
構造と作動原理[編集]
標準的なシャーケードの杖は、長さ前後、重量前後で、黒檀製の軸にの節輪を三箇所はめ込む構造である。先端部には極小の鉛玉が封入され、振る角度によって内部の共鳴が変化するよう設計されているとされる。
作動原理は「潮振り共鳴理論」と呼ばれ、杖を傾けて床面から叩くと、周辺の湿度と人間の歩行速度を同時に推定できるという。もっとも、現代の再現実験では、再現に成功したと報告する研究者がいる一方で、同じ条件でただの木棒と差が見られなかったとの報告もあり、評価は定まっていない[6]。
文化的影響[編集]
シャーケードの杖は、単なる工芸品ではなく、「境界を測る道具」として文学や演劇に取り入れられた。流の随筆では、雨の匂いと紙鳴りを同時に扱う比喩として登場し、の小劇場では、役者が台詞の前に杖を鳴らす独特の上演作法が生まれたという。
また、港湾労働者のあいだでは、作業開始を告げる合図として杖を3回打つ習慣が残り、「シャーケードを打つ」という動詞表現まで派生した。もっとも、この言い回しはの若者言葉と混同され、県の一部ではストリートダンスの一種だと誤解されたことがある[7]。
批判と論争[編集]
最大の論争は、その実用性をめぐるものである。保存会側は、杖は「測る」のではなく「整える」道具であると主張してきたが、工学者の一部は、湿度や潮位との相関は統計的に有意とは言えないと反論している。
さらに、にの助教授・久我田一郎が発表した論文は、シャーケードの杖に用いられる「潮音指数」が、実際には実験者の思い込みを数値化しただけではないかと指摘し、学界で小さな騒動になった。これに対し保存会は、久我田が使った試料がすべて雨天保管されていたことを挙げて再反論したが、どちらも決定打にはならなかった[8]。
現代の継承[編集]
現在、シャーケードの杖はの民具館や、の海事資料室で限定的に所蔵されている。毎年に開かれる「潮鳴り講演会」では、復元品による演奏実演が行われ、最後に必ず紙片の束が整うかどうかで拍手のタイミングを競う催しがある。
なお、2021年には大学院生のグループが3Dプリンタで複製した「第七復元型」を発表したが、印字素材の関係で杖というより長い笛に近い外観となり、保存会は「思想は継承しているが形が先に行ってしまった」とコメントした。これがかえって若年層の関心を呼び、各地で入門講座が増えたという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 島崎倫太郎『潮鳴りと紙束の整列』星港書房, 1892年.
- ^ Edward W. Thornton, "On the Acoustic Use of the Sharkade Staff", Journal of Maritime Survey Miscellany, Vol. 8, No. 2, 1891, pp. 44-63.
- ^ 久我田一郎「潮音指数の再検討」『東京帝国大学工学部紀要』第12巻第1号, 1924年, pp. 11-29.
- ^ 小野寺静馬『紙工と風のあいだ』深川民藝社, 1931年.
- ^ Margaret A. L. Fenwick, "Staffs, Tide and Habit: A Study of Coastal Ritual Instruments", Proceedings of the Royal Society of Arcane Surveys, Vol. 3, 1904, pp. 201-219.
- ^ 渡会辰雄『港湾労働と合図具の変遷』みなと出版会, 1959年.
- ^ H. R. Bellamy, "The Sharkade Rod and Its Misprints", London Antiquarian Review, Vol. 17, No. 4, 1902, pp. 77-81.
- ^ 吉岡真理子「舞踏教師における杖鳴りの技法」『演劇と身体』第5巻第3号, 1978年, pp. 90-107.
- ^ 佐伯海人『海と紙と杖の民俗誌』東亜文化研究所, 2008年.
- ^ Atsushi Kanda, "Why a Stick Can Measure the Weather", Pacific Craft Studies, Vol. 22, No. 1, 2019, pp. 5-18.
- ^ 中野みちる『第七復元型の失敗と成功』潮鳴り保存協会叢書, 2022年.
外部リンク
- 潮鳴り保存協会
- 深川民具アーカイブ
- 横浜海事資料室
- 星港舎文庫
- 東京湾岸工芸研究ネット