スラ味
| 分類 | 味覚仮説(第5〜第7味系として扱われることが多い) |
|---|---|
| 別名 | スラテイスト、スラ味覚、後方味覚 |
| 推定主座 | 舌背側後部および咽頭手前 |
| 特徴(体感) | “滑るような旨味残響”と記述されることがある |
| 想定成分 | 超微量ポリフェノール錯体、揮発性硫黄化合物など |
| 初出とされる時期 | 1970年代後半に学会記録へ断片的に登場したとされる |
| 主要論争点 | 再現性、官能評価の誘導性、計測系の妥当性 |
(すらあじ、英: Sura-aji)は、舌の後方で感じられるとされる「味の1つ」である。特には、甘味・酸味・塩味・苦味に続く第5〜第7の“味系”として論じられることがある[1]。
概要[編集]
は、舌の奥寄りで生じる味覚体験として語られる概念であり、一般には甘味・酸味・塩味・苦味に続く「味の1つ」とされる。なお、学術側の記述では「第5味系」あるいは「第5〜第7味系の束」といった表現が採られることがある。
体感の記述としては「飲み込んだ直後に、味が少しだけ滑って残る」「香りが先に消えて味だけが追いかけてくる」といった語が引用される。こうした描写は官能評価の文脈で特に増幅されやすく、ある研究では被験者のうち約63%が“スラ味っぽい”と自己申告したと報告された[2]。
または、工業的には“味のブレンド設計”に応用されるとされ、食品メーカーの社内資料では「スラ味ライン」と称される品質管理指標が導入されたという。ただしこのラインの運用実態は非公開であるとされ、当時の担当者の証言が唯一の手がかりになっているとも述べられる。
歴史[編集]
学説の誕生:港の臭いと喫食実験[編集]
の原型は、冷戦期の臨床栄養研究に端を発したという説がある。具体的には、の栄養調整班が、海上勤務者の「食後の口腔感覚」を定量化する目的で、当時は珍しい官能評価票を導入したことが契機とされる。もっとも評価票の回収率は低く、最初の3か月で回収できたのは約41%であったとされる。
その後、(架空の法人名として文献では登場する)に在籍していたが、味覚を“残響”として扱う理論を提案したとされる。渡辺は、食塩や有機酸よりも、揮発性成分が後方味覚の感じ方を決める可能性に注目したとされ、後方域の刺激を「スライド刺激」と呼んだという。ここから「スラ味」という略称が社内で広がった、とする回想録もある。
ただし、当該理論は当初「科学的というより詩的」と評され、1978年の小規模会議では発表スライドが“滑る”表現に統一されていたことが笑いを誘ったと伝えられる。結果として、聴衆の一部がその語感に引きずられて評価を上振れさせた可能性が指摘され、現在では誘導バイアスの疑いも扱われている[3]。
制度化と社会的拡張:給食から広告へ[編集]
1980年代には、の品質改善を目的とした自治体主導の実証が“スラ味”の普及に寄与したとされる。たとえば内の一部区では、給食の喫食後アンケートに「奥に残る香味の滑り」という項目が追加された年があり、そこで陽性回答率が高かった献立が翌月の“改善メニュー”へ組み込まれたとされる。
この仕組みは、後に民間企業によって広告表現へ転用された。食品コンサルタントのは、味を説明する言葉が不足していた時期に、スラ味を“言い換え可能な成功体験”として提示したとされる。具体的には、同氏が関わったとされる商品企画の提案書では「スラ味スコアを10点満点で最低7.2以上にする」という数値目標が記されていたとされるが、その元データは公開されていない。
この数値の存在だけが独り歩きし、やがて“スラ味がある食品は高級”という短絡的な市場観が広がったとされる。小売店では試食コーナーに小さな札が掛けられ、「今週の奥残響はスラ味です」と書かれていたという証言もある。もっとも、その札の文言が誘導的であった点は、後年の批判論文で中心的に取り上げられた[4]。
計測ブーム:研究室のレシピが一般化した日[編集]
1990年代に入ると、や官能評価ロボットの導入が進み、“スラ味の定量化”がブームになった。ここで中心となったのが、後方刺激を扱うとされる模擬舌装置である。模擬舌装置では、温度・粘度・圧力・接触時間を細かく制御する必要があるとされ、当時のマニュアルには「接触は平均0.8秒、ばらつきは±0.15秒以内」といった不自然な厳密さが記されていたという。
さらに、揮発性成分の抽出条件も逐次調整された。ある報告では「吸着カートリッジの交換は28回ごと」とされ、研究者の間では“なぜ28なのか”が半ばネタとして語られていた。しかし同報告は査読付きで掲載されたとされ、結果として条件の変更が一種の流儀になっていったとされる。
一方で、同じ条件で作っても人によってスラ味の感じ方が異なる問題が蓄積し、再現性は徐々に揺らいだ。学会の討論では「舌ではなく記憶が反応しているのではないか」といった発言が出たともされる。このように、スラ味は計測対象として制度化されながらも、心理的要因の可能性を抱えたまま拡張していったと考えられている[5]。
性質と評価法[編集]
は、味の5番手として位置づけられることがあるが、実際には境界が曖昧であるとされる。具体的には「後方に来る旨味残響」や「滑るような余韻」と記述されるため、のような単純な旨味成分だけでは説明しにくいとされる。
評価法としては、官能評価票に「飲み込み後の滑走感」「香りと味の時間差」「舌奥での触覚的なざらつきの有無」といった項目が組み込まれることが多い。ただし項目数は研究ごとに増減しており、ある会議録では“平均項目数が12.4”と報告された[6]。平均という言い方が採られている点から、実務上は項目が頻繁に入れ替わっていた可能性がある。
また、センサー評価では、pHや電導度に加えて「粘性の減衰カーブ」から推定する方式が提案されたとされる。推定式の係数がやけに細かいことがあり、「係数a=0.73、係数b=1.14」のように報告されることがあるが、同じ式を別の食品で当てるとズレると指摘された。このため、スラ味は“測定できるが、説明の筋が完全ではない”味系として扱われることが多い。
食品・飲料への応用[編集]
は、家庭料理よりも加工食品で語られやすい。理由としては、香気成分の調整や粘度設計が可能であり、後方に残す“余韻設計”がしやすいからだと説明される。ある食品会社の内部資料(回覧された写しが研究者の間に出回ったとされる)では、狙う余韻時間を「最短1分、最大9分」とし、9分を超えると“胃に張りつく感”として不評になると書かれていた。
具体例としては、だし飲料、即席麺の改良、そして“喉越し重視の清涼飲料”の3系統が挙げられる。清涼飲料では、炭酸が先に消えるように設計し、その後にスラ味が出るよう配合を調整したとされる。ただしこの配合の詳細は企業秘密とされ、代替として「一般には微量硫黄化合物と金属イオンの組み合わせが効く」といった曖昧な表現にとどまることが多い。
また、和菓子分野でも“奥に残る上品な滑り”が狙われたとされ、(架空の地名として文献に登場しうる)の菓子職人が試作した「黒糖スラ和」なる名の試作品が一時期SNSで話題になったという。もっとも、後にその投稿がマーケティング用の文章を含んでいたと批判され、スラ味の社会性が再び論点となった[7]。
批判と論争[編集]
には懐疑的な見方も強い。主な批判は、官能評価の手続きが“言葉の影響”を受けやすいことである。たとえば、試食前に「今からスラ味を感じてください」と言った場合、自己申告率が上がる可能性があるとされる。実際、ある追試では、事前説明なし群で陽性回答が約12%だったのに対し、説明あり群で約46%になったと報告された[8]。この差は統計的に有意であるとされたが、反面、心理誘導そのものが効果の正体ではないかという疑いを生んだ。
次に、科学的な再現性の問題がある。計測条件が細かすぎるために、温度や粘度の微差が結果を左右しうると指摘されたのである。さらに、装置の校正が“研究室ごと”に異なるとされ、同じ係数でも装置が違えば別の味を読んでいるのではないか、とする声もあった。
ただし擁護論も存在する。スラ味は「味覚そのもの」よりも「味覚と嗅覚、口腔触感が合成された体験」として扱えば整合的である、という立場である。実際、ある討論では「スラ味は単一の分子ではなく、条件の集合の名である」と語られたともされる。しかしこの説明は便利な反面、反証可能性を弱めるため、論争が収束しにくい。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『舌背後域の残響モデル:スラ味仮説の検討』海洋食品研究叢書, 1981.
- ^ Sora K. Hoshino『On the “Slide-Aftertaste” Phenomenon in Post-Pharyngeal Taste Perception』Journal of Culinary Sensory Systems, Vol. 12 No. 3, pp. 201-219, 1992.
- ^ 佐伯マリナ『味を言語化する技術:スラテイスト指標の設計原理』食品品質技術講座, 第2巻第1号, pp. 33-58, 1988.
- ^ Martha L. Benton『Bias in Self-Reported Taste Dimensions Under Pre-Labeling』International Review of Sensory Psychology, Vol. 7 No. 2, pp. 77-95, 1995.
- ^ 国立海洋食品研究所編『後方味覚評価の標準化ガイド』海洋食品研究所出版部, 1979.
- ^ 『スラ味スコアと品質の相関:社内試作記録の公開部分』食品技術研究年報, 第15巻第4号, pp. 410-431, 1997.
- ^ 伊藤ノリ子『給食における余韻項目の導入と受容:東京都区別集計』学校栄養学雑誌, Vol. 9 No. 1, pp. 12-28, 1986.
- ^ 田中章浩『揮発性成分抽出条件の妥当性:吸着カートリッジ28回交換の意味』日本嗅味学会誌, 第3巻第2号, pp. 88-104, 1991.
- ^ R. A. McCrane『Taste as a Composite Experience: A Note on the Slur-Taste Boundary』Flavour Science Letters, Vol. 4 No. 1, pp. 1-14, 2001.
- ^ 小倉英彦『黒糖スラ和の試作と喉越し設計』菓子研究速報, 第1巻第1号, pp. 5-19, 1999.
外部リンク
- スラ味研究会アーカイブ
- 味覚センサー仕様データベース(暫定版)
- 学校給食余韻評価プロトコル
- FlavourNet 日本支部(抄録倉庫)
- 官能評価票コレクション