ゾーエトロープ
ゾーエトロープ(ぞーえとろーぷ)は、の都市伝説の一種[1]。噂では「見てはいけない映像」を起点に出没するとされ、夜の交通機関や深夜放送の周辺で怪奇譚として語られている[1]。
概要[編集]
は、都市伝説の中でも「怪談」「妖怪」枠で扱われることが多い名称である。噂の核は『ゾー(何かが始まる音)→エト(映る)→ロープ(捕まえる)』という、音の連鎖から連想される不気味さにあるとされる。
全国に広まった時期としては、深夜番組の録画が当たり前になった頃と同時期だとも言われている。目撃談では、駅の監視カメラ映像や家庭用レコーダーに一瞬だけ黒い靄が映り、次の瞬間に「視界の端で何かが歩いている」と感じたという報告が語られる[2]。
また別称として「」「」「」とも呼ばれる。とくに学校の怪談としては、視聴覚室でプロジェクタを切った後に、スクリーンの端から“結び目”が増えるという言い伝えが混在している[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については諸説あるが、もっともらしい筋書きとして「映像研究会」の逸話が挙げられることが多い。1920年代にの(通称:帝映研)が、映像の残像現象を“教育用の注意喚起”に転用しようと試みた、という話が噂の根にあるとされる[4]。
その際、同会のメンバーだったとされるが「残像を鎖のように見せれば、子どもは危険を学ぶ」と提案したが、試作機のテスト記録が紛失し、代わりに断片だけが残った――という言い方がされる。さらに、なぜか試作機の型番が『Z-0-Eトロ-プ』に読める資料が出てきたとも言われ、名称の一部が固定化されたと推定される[5]。
ただし目撃談の中には、起源がもっと後にあり、1980年代の海底ケーブル点検現場で「ノイズが糸のように絡む」映像を見た作業員が語り始めた、という都市伝説的な改変も混ざっている。ここで噂は、怪談としての正体を『映像の乱れ』から『捕縛するもの』へと滑り替えたとされる[6]。
流布の経緯[編集]
全国に広まった経緯としては、まずの地方スタジオで放映された「夜間安全啓発ミニコーナー」に類似の“誤認映像”が混入した、という噂が起点とされる。問題になったとされる放送回は、番組表上「第63年度・第112回(深夜27分台)」と記録されていたと語られるが、公式資料では確認できないとされている[7]。
その後、インターネット掲示板で『レコーダーに残った“糸状の黒”が、翌日の通勤路で見えるようになった』という目撃談がまとめられ、ブームの中心が形成された。投稿者は自称「映像編集のバイト」で、細かく『録画時間は23:17〜23:29、テープ残量は44%前後、音声はモノラル』などを書いたとされる[8]。
なおマスメディアでは、特集記事が“恐怖を煽りすぎた”として一度取り下げられたが、代替として新聞の折り込みチラシに短い怪談コーナーが掲載され、そこでゾーエトロープの呼び名が一般化した、と言われている。結果として「見てはいけない映像」という定型句が定着し、都市伝説としての様式美が完成したとされる[9]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
ゾーエトロープの正体については、妖怪扱いと未確認動物扱いがせめぎ合う。妖怪説では「人の視線をほどいて、元通りに結べない状態にする存在」とされる。一方、未確認動物説では「夜間にだけ走る糸のような生物で、映像のフレーム内に侵入する」とされる[10]。
目撃談で共通している恐怖は、『映像に“目”がないのに、見られている感覚だけが残る』という点である。とくに出没の瞬間は“音”から始まると言われ、遠くで鈴が鳴るように「ゾー」と聞こえ、その直後に画面の隅に“結び目”が現れるという。噂ではそれがロープのように伸び、人の足元へ影を引くことで追いかけが成立するとされる[11]。
伝承としては、交通機関の闇に結び目が増えるという言い伝えが強い。例えばの方面で、終電後にホームの端へ行くと、足元の影が一本だけ“ほどけて戻らない”と噂される。さらに“ほどけない人”は翌日から視聴覚室の機器を触れなくなる、という学校の怪談に繋がったとされる[12]。
また、出没者は目撃した人を直接襲うのではなく、「記憶の編集」を行うとされる。目撃談では『昨日見たはずの自分の服が、なぜか違う色で写真に残っている』という怪奇譚が語られ、正体が“映像と記憶の結び替え”にあると推定されている[13]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとしては、映像媒体ごとに呼び名が分かれたという噂がある。ケーブルテレビ由来の派生では「」と呼ばれ、二重の残像が“握手”のように重なる現象が話題になったとされる[14]。
携帯電話の動画が流通した頃には、「」という言い伝えが広まった。これは、画面をタップした場所にだけ黒い結び目が生え、指の動きに遅れて追従する、といった不気味な目撃談が積み上がったことで定着したとされる[15]。
さらに地域改変として、寒冷地では『凍った息に似た白い糸がフレーム外から出る』と語られることがある。噂の中には「ので、雪の降る夜に監視灯が一度だけ明滅し、次の瞬間にホームの天井から糸の影が垂れた」という、なにげに細かい目撃談がまとめられたと言われている[16]。
一方で、あまりにも怖いと感じる層からは『ゾーエトロープは嘘だ』という指摘も出た。ただしその否定が“さらに”拡散を招き、反対側の掲示板で「否定レスにも結び目が映る」といった怪談が上乗せされ、ブームの再点火が起きたとされる[17]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、驚くほど手順が“家庭向け”に整備されているのが特徴である。まず見てしまった場合には、視聴デバイスの電源を切るだけでは足りず、「録画のタイムラインを30秒巻き戻して再生しない」ことが重要だとされる[18]。
次に推奨されるのが“ほどく動作”である。具体的には、洗面台で手を洗い、指先を一本ずつ順番に拭うことで、結び目が自分の指へ移動するのを防げる、という噂がある。目撃談では「23:30に手を洗うと効果がある」と細かい時刻指定まで語られたと言われる[19]。
また、学校の怪談としては「視聴覚室のプロジェクタを消す前に、映っていた白線を“数えてから”閉じる」儀式が紹介されることがある。白線の数を数え終えた者だけが安全だとされ、数え忘れた生徒は翌週から音声の聞き取りが悪くなる、というと言い切りのある伝承になっている[20]。
ただし最も信仰に近い対処は、通勤路で見えた場合に“追いかけられている影”を踏み直すことだとされる。踏み直しに成功すると、影が1分で通常に戻るというが、失敗すると“次の駅名が夢に出る”と恐怖の後味まで語られる[21]。
社会的影響[編集]
ゾーエトロープの噂は、恐怖と同時に「監視と記録」をめぐる感覚を揺さぶったとされる。深夜放送の録画文化が強まる中で、『後から見返すほど記憶が結び替わる』という噂が広まり、閲覧の自己検閲が起きたという話がある[22]。
また、学校の現場では安全対応として“機器の操作ルール”が整備されたと語られることがある。具体的には、視聴覚室の機材に触れてよいのは授業担当のみとし、夜間の保管庫の扉を閉める際に管理番号札を必ず裏返す、といった運用が一部の学校で試されたという[23]。
さらに、都市伝説としての性格が強いため、マスメディアはブームを利用しつつも慎重姿勢を見せたとされる。取材で「本当に危険か」と問われると、特集記事の結論はしばしば“視聴覚への注意”へとすり替えられ、恐怖の矛先が薄まった。しかしその“薄め方”自体が、逆に胡散臭さとして語られ、ネットで再評価が起きたとされる[24]。
結果として、ゾーエトロープは怪談として消費されるだけでなく、記録や映像の信頼性への疑いを引き起こす存在として受け取られるようになった。正体不明の恐怖が、現代の生活様式に接続した点で社会的影響があったとされる[25]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化・メディアでは、ホラー作品の題材として“映像の縁に出る存在”というテンプレ化が進んだ。例えばや漫画では、ゾーエトロープが「フレームの外からロープで縛り、登場人物の記憶を巻き戻す」役割で描かれることが多いとされる[26]。
テレビや配信では、特集の見せ方が細かく指示されたという噂がある。ゾーエトロープを連想させる場面では、字幕の文字間隔を微妙に詰める、BGMの帯域を16kHz付近に寄せる、といった“工学的”な細工が紹介され、視聴者の不気味さを増幅する演出として語られた[27]。なおこれは、番組の制作会議の議事録として「第2年 第7回」と記された断片が出回った、と言われているが、真偽は確定していないとされる[28]。
また、学校の怪談としては“体育館で流す寸劇”が一時流行した。演者がプロジェクタを消した直後に、床に白線をチョークで描き、その白線を観客が順番に踏まないよう誘導する形式で、観客の反応を「結び目の増減」と見なす演出が話題になったとされる[29]。
文学寄りの扱いでは、「ゾーエトロープ」を恐怖の記号というより、“記録に縛られる心”の比喩として解釈する論調が出た。ただし反論もあり、マスメディアが比喩に逃げたために本来の怪談性が薄れた、という指摘もなされた[30]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山田耕平『フレームの縁に住む怪談——ゾーエトロープ伝承の系譜』青嶺書房, 2019.
- ^ 佐伯直人『夜間録画と不気味の統計——恐怖が拡散する条件(Vol.3)』東雲出版, 2021.
- ^ Margaret A. Thornton『Media Residue and Urban Legends in East Asia』Cambridge Lantern Press, 2018. pp. 112-119.
- ^ 高橋正臣『映像残像の民俗学的解釈』学術都市文化研究所, 2017. 第2巻第1号, pp. 44-57.
- ^ 【帝国映像研究会】編『残像教育の試作報告書(Z-0-Eトロ-プ資料)』帝映研文庫, 1931.
- ^ 井上翠『学校の怪談と機器管理——視聴覚室ルールの社会史』講談庵, 2020. pp. 203-210.
- ^ 藤原紗緒『深夜放送の誤認映像と都市伝説』ラジオ・フィールドワーク叢書, 2016. 第11巻第4号, pp. 77-89.
- ^ 鈴木一郎『未確認動物としての都市伝説——糸状存在の語り』文京学術刊行, 2015. pp. 9-21.
- ^ The Bureau of Noisy Archives『Case Notes on Unverified Frame Intrusions』Vol.5, Nightline Institute, 2022. pp. 51-60.
- ^ 中村麗『噂が結び目を作る——都市伝説の文法と例外』虚空社, 2023. (タイトルがやや不自然と評される)
外部リンク
- 都市伝説資料館・フレーム残像コレクション
- 夜間映像怪談アーカイブ
- 学校の怪談運用ルール倉庫
- 未確認映像ノイズ研究会
- 掲示板まとめ人名鑑(仮)