チーズ右翼
| 分類 | ネットスラング・政治イメージ語 |
|---|---|
| 使用地域 | 日本 |
| 主な媒体 | 掲示板、SNS、掲示板由来のまとめサイト |
| 含意 | 揶揄(しばしば自己啓発風の攻撃性を含む) |
| 同義語として扱われる語 | ネトウヨ、チー牛右翼、チーズ保守 |
| 語形成の時期 | 2010年代後半(とされる) |
| 関連語 | チー牛、ネトウヨ、ヘイトジェスチャー、風刺口調 |
(ちーずうよく)は、主に日本のネット空間で用いられる、的な文脈と的言説を雑に接続した造語である。しばしばと同意語のように扱われるが、語られ方は世相とともに変容している[1]。
概要[編集]
は、政治的立場を直接論じるのではなく、話し手が相手を「雰囲気」でラベリングするために使われる語として整理されることが多い。特にに付随する「弱さ」「自意識」「陰の攻撃性」などのイメージと、の言い回し(愛国、反転、因果応報など)を一つの“味”として混ぜ合わせる点が特徴とされる。
語の成立は、オンラインのミーム文化に関わる複数の系統が“調味料”のように足し合わされた結果であると説明されることが多い。なお、同意語としてが持ち出される場合、必ずしも厳密な対義関係が意図されているわけではないとされる。実務的には、相手を支持者として分析する前に「食卓の比喩」で切り捨てるためのショートコードとして機能していると見られている。
語の成り立ち[編集]
「チーズ」が象徴する“政治の乳化”[編集]
「チーズ」が付く理由としては、チーズが単に食品であるだけでなく、加工工程を経て性質が“なじむ”ことにたとえられたとする説がある。具体的には、愛国的なスローガンが議論を通じて緩衝され、結果として「熱くはないが、妙に伸びる」言説になっていく様を乳化に見立てたという説明である。
この説を補強する資料として、ネット史研究者の(架空、言語ミーム史研究会所属)が『厨房から読む政治記号学』において、2017年のある掲示板群で「チーズ=伸びる論点」という対応表が“非公式”に作られたと述べている[2]。もっとも、この対応表の一次資料は確認が難しいとされ、「第◯回研究会の配布資料による」とだけ記されることが多い点が、解釈を不安定にしている。
「右翼」と“自己紹介の癖”[編集]
一方、「右翼」が付く理由は、思想内容よりも口調の型(たとえば「先に謝罪しろ」「歴史は歪められた」など)にあるとされる。掲示板文化では、思想そのものより“名乗り方”が先に観測されるため、話者は自分の主張を組み立てる前に、装置のように言い回しを起動することがある。
そのためは、単なる“右派”の意味ではなく、右翼らしい決め台詞が一段ずつ“味付け”されていく過程で生じたラベルとも整理される。なお、用語が“ネトウヨ”とほぼ同一視される傾向は、言い回しの似通いが先に気づかれ、分類が後から追いついたという実務上の事情に由来すると指摘されている[3]。
歴史[編集]
2016年、渋谷の「チーズ討論会」未遂[編集]
語の発火点として、2016年秋にの貸会議室で開催予定だった「チーズ討論会」(主催:架空の『市民乳化研究所』)が挙げられることがある。この会は、政治団体の勧誘を目的としたものではなく、討論を“乳化”して対立を和らげるワークショップとして企画されたとされるが、当日の参加者が“討論”ではなく“相手の顔”を揶揄する方向へ流れたと記録される。
地方自治体の要請で中止になったとも、あるいは会場確保の手違いで開始前に解散したとも言われる。さらに困ったことに、SNS上には「受付で◯◯チーズを全員に配った」「当日参加希望は172名だったが、実参加は169名だった」などの詳細が残り、数字の整合性が検証されないまま独り歩きした[4]。この“未遂”が、後年の揶揄語へ転用されたという筋書きが、最ももっともらしい俗説として共有されるようになった。
2018年、国会議事堂前の“価格表”事件[編集]
2018年春、周辺で撮影されたとされる写真(撮影者名は不明)が拡散し、「右翼っぽい人ほど、やたらと“値札”を持ち歩く」という言い伝えが広まったという。写真の背景には、架空の団体『言論市場整備協議会』が配布したという“価格表”が見えるとされ、そこには「賛成:1,980円」「不満:980円」「沈黙:0円(ただし送料別)」のような文言があったと説明される。
この事件そのものが真偽不明であるにもかかわらず、価格表の小道具として出回ったのが「封入されたチーズの香りシール」であった、という二次エピソードが付着した。結果としては、“政治を市場化し、さらに匂いで販促する”という比喩の記号として定着したと考えられている[5]。
2020年、自治体検閲より先にミーム検閲が起きた[編集]
2020年に入ると、言論の場では直接的な侮辱表現が規制対象になる一方で、ミーム化した語彙は迂回路として利用されやすかったとされる。そこでは、「直接的な政治批判」ではなく「食文化による人格評価」という形で運用され、検閲をすり抜ける語として扱われたことがある。
また、その運用が“正義”として語られることもあり、のオンライン・モデレーション当局(架空の「言語衛生庁」)は、2021年の暫定レポートで「食品連想型の政治ラベリングは検知困難」と述べたとされる[6]。もっとも、このレポートの実在性には疑義がある一方、用語の拡散速度の説明としては都合がよく、語の共同体に都合よく受け入れられた。
社会に与えた影響[編集]
は、個々の政治思想を理解するための語彙というより、衝突を先に起こす“速度制御装置”として機能したとされる。つまり、議題の中身ではなく、話し手がどの陣営っぽい口調を選んだかが先に競われるようになり、議論の摩耗が加速したという指摘である。
一部では、言い換えが戦略的に行われたとされる。たとえば、ストレートな侮辱語を使う代わりにやを挟み、「相手を分析しているようで、実際は人格を嗅ぎ分けている」という構図が作られることがあった[7]。これにより、当事者は反論以前に“食卓の匂い”を巡って争わされることになり、結果として政治的対話の回路が細くなったと考えられている。
さらに、企業の広告コミュニケーション側でも「チーズ=親しみ」「右翼=強さ」という雑な対比が一時的に流行したという。実在の内のある販促会社が、研修資料に「チーズ右翼的メッセージは低燃費で拡散する」と書き込んだとされるが、社内の回収ログは公開されておらず、真偽は確定していない[8]。
批判と論争[編集]
という語は、しばしば政治的立場を“外見・味覚・出身文化”に還元する表現だとして批判されている。特に、という語が本来は思想史・社会運動史の議論を含むにもかかわらず、単なる嘲笑の道具に転じることで、議論の土俵が狭くなるという批判がある。
一方で、反論として「これは思想の否定ではなく、言論のマナーの否定である」とする見解もあり、語の射程が揺れているとされる。また、同意語としてが持ち出される場面では、当該語が対象を“単一属性の集合”として扱ってしまう危険があると指摘される[9]。
なお、論争の中で最も注目を集めたのは、2022年に一部の利用者が「チーズは食品なので差別ではない」という理屈で、投稿規約の抜け道を試したとされる“実験”である。もっとも、これは規約適用の観点からは同じであり、結果として一時凍結が相次いだと報じられた[10]。ただし、凍結件数は「12件」「27件」「31件」など複数の数字が出回り、検証不能なまま伝説化した点が、当該語のミーム性をさらに強めたとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 小田間 譲『厨房から読む政治記号学』勉誠出版, 2019.
- ^ 佐倉 美咲『ミームの拡散はなぜ止まらないか』筑摩書房, 2021.
- ^ M. A. Thornton「Food Metaphors in Online Conflict: A Case Study」Journal of Digital Rhetoric, Vol. 12 No. 3, 2020 pp. 44-61.
- ^ 山川 慎一『掲示板年代記—匿名の言葉が作る秩序』新潮社, 2018.
- ^ 市民乳化研究所編『チーズ討論会記録(未遂)』市民乳化研究所, 2016.
- ^ 言論市場整備協議会『価格表と拡散(付・香りシールの効用)』内閣府政策資料室, 2018.
- ^ 江崎 由紀『オンライン・モデレーションの実務と例外』日本評論社, 2022.
- ^ 言語衛生庁『食品連想型ラベリングの検知困難性(暫定報告)』2021.
- ^ 田崎 崇人『嘲笑語彙の社会言語学』東京大学出版会, 2020.
- ^ Kobayashi, Ren & Thornton, Margaret「The Elastic Insult: How “Cheese” Softens Hard Politics」Proceedings of the International Symposium on Meme Linguistics, Vol. 7, 2022 pp. 101-119.
外部リンク
- チーズ右翼研究所
- 匿名掲示板語彙図鑑
- ミーム・アーカイブ(暫定)
- 言論衛生の実験場
- 食卓比喩と政治の系譜