ツチツチニュン土
| 別名 | 反復振動性土、ニュン層土 |
|---|---|
| 分類 | 擬似火山性土壌 |
| 主な分布 | 東京都西部、神奈川県北部、埼玉県南東部 |
| 発見 | 1928年(昭和3年) |
| 命名者 | 渡辺精一郎(農学者) |
| 性質 | 水を吸うと微弱に振動し、乾燥時に独特の鈍い音を発する |
| 利用 | 試験圃場、儀礼用の鉢、低反発土嚢 |
| 標本登録 | 国立博物土分類台帳 第14号 |
ツチツチニュン土(つちつちにゅんど)は、の一部で発見されたとされる、微細なと有機物が特異な比率で混ざり合ったである。かつてはの内部資料で「反復振動性土」と呼ばれ、現在ではその奇妙な名称とともに民俗学・土壌学の境界領域で知られている[1]。
概要[編集]
ツチツチニュン土は、粘性と通気性のバランスが極端に偏ったの一種とされ、雨期に表面がわずかに「にゅん」と沈み込む現象からその名が付いたとされる。学術的には層の変種と位置づけられることが多いが、民間では古くから「足音を覚える土」としても知られている。
この土壌は、後半のでの測量中に、農学部の助手が奇妙な沈降音を記録したことを契機に注目された。なお、当初の記録では「ツチツチニュン」とは擬音ではなく、調査員が地面を踏んだ回数を指す符号であったという説もある[2]。
名称の由来[編集]
名称は、現地調査で使用された木製踏査棒が、湿潤な地面に触れるたび「ツチ、ツチ、ニュン」と鳴るように聞こえたことに由来するとされる。もっとも、実際には棒の先端に巻かれていたが風を受けていたに過ぎないとする反論もあり、命名の経緯は現在も議論の的である。
学術的位置づけ[編集]
では長らく正式項目に含まれず、1974年の改訂版で参考項目としてのみ掲載された。これは、再現性のある採取が困難であったことに加え、同一地点でも採取者の足取りによって硬度が変わるという、きわめて説明しづらい性質があったためである。
発見の経緯[編集]
最初の発見は、の旧軍用地跡における排水試験の際であった。現場責任者であったは、試掘坑の底に通常のとは異なる灰褐色の層を見いだし、採取した試料が風乾ののちに体積を3.8%ほど増したことを記録している。
渡辺はこの現象を「地中で呼吸する粘土」と表現し、翌年に短報を投稿したが、編集部は当初これを誤植の多い地方報告として扱った。ところが、同年秋にで行われた第二次調査で、同様の層が7か所連続で確認され、しかも各層の境界が踏圧によって0.6〜1.2センチほど移動したため、学会内で急速に注目を集めた。
一方で、これを最初に見つけたのは農学者ではなく、近隣のであったとする地元史料もある。店主が仕入れ用の井戸を掘った際、柄杓を落とすたびに「ニュン」と反響したため、井戸水よりも土の方に異常があると気づいたという[要出典]。
命名会議[編集]
にで開かれた非公開の土質懇談会では、名称を「反復沈下土」「擬音粘土」「多摩式軟層土」の三案に絞ったが、最終的には会議の黒板に誤って書かれた「ツチツチニュン」が採用された。議事録によれば、採択時に出席者18名のうち11名が笑いをこらえきれず、可決が危ぶまれたという。
初期標本の散逸[編集]
初期に採取された標本12点のうち、現在まで所在が確認されているのは4点のみである。残る標本の多くは、後の資料整理やの倉庫改修で紛失したとされるが、1点だけはの文書箱から折りたたまれた状態で発見され、土ではなく紙面の方が「にゅん」と歪んでいたと伝えられる。
性質[編集]
ツチツチニュン土の最大の特徴は、含水比が16〜19%の範囲に入ると、上面から5ミリ程度の深さで微小な弾性反応を示す点である。試験では、2kgの鉄球を50センチから落下させた場合、通常土壌に比べて反発後の沈み込みが平均で0.4秒長いことが確認された。
また、乾燥状態では表層に無数の微細な縞模様が生じ、これが遠目には畳の目に似るため、農家の一部では「地面の畳替え」と呼ばれていた。だが、同じ区画でも朝は柔らかく昼には硬いなど変動が大きく、の地域観測網では「土壌の機嫌」として補足メモに記載されていたという。
もっとも奇異なのは音響特性で、靴底が厚いほど音が小さくなるのではなく、一定以上厚くなると逆に「ニュン」という摩擦音が増幅されることである。このための演習地整備では、重機よりも手押し車の方が作業効率が良いとされ、現場では専用の「静音スコップ」が試験的に配備された。
水分反応[編集]
水を与えると、表面が一旦やわらかくなったのち、15〜20秒かけて中央へ向かってわずかに収縮する。この動きが「息を吸っているようだ」と評され、地元の子どもたちは雨の日に傘を差して地面を観察する遊びを覚えた。
音響現象[編集]
音響研究所の報告では、ツチツチニュン土の上で発生する音は周波数180〜240Hzの帯域に集中し、特に夜間にだけ倍音が増える傾向があるとされた。もっとも、測定装置が旧式の式であったため、研究者自身が地面に合わせて口笛を吹いていた可能性も指摘されている。
利用と応用[編集]
農業分野では、ツチツチニュン土は一見扱いにくいが、との育成に限っては高い収量を示したとされる。特に、の試験圃場で行われた比較実験では、通常区画の茶葉に比べて葉縁の丸まりが少なく、香りの立ち上がりが0.2秒早かったという奇妙な結果が残されている。
工業利用としては、用途の土嚢材として注目された。水を含むと密度が増す一方で、一定以上積むと自ら隙間を作って圧力を逃がすため、1958年の台風時には沿いの臨時堤防で約2,400袋が使用された。ただし、袋詰め作業に慣れた職員の間では、夕方になると土嚢が「少し増えたように見える」との報告が相次ぎ、在庫管理が非常に難しかったという。
さらに、1970年代には分野でも試用され、焼成前の下地として塗ると釉薬の流れが不規則に止まることから、前衛的な作品に重宝された。これは美術評論家のが「土が筆を持っている」と評したことで有名になった。
教育現場での活用[編集]
では、土壌判別の実習教材として長く用いられた。生徒に対し、普通の土とツチツチニュン土を見分けさせる試験では、視覚よりも歩行音の違いのほうが正答率が高く、80名中63名が「踏んで初めて分かった」と回答している。
民間信仰[編集]
多摩地域の一部では、家屋の基礎に少量を埋めると台風時のきしみが減ると信じられた。実際に耐震性が向上したという話もあるが、建築士の立場からは、単に地盤改良工事を同時に行っていたためではないかとの見方が強い。
社会的影響[編集]
ツチツチニュン土が広く知られるようになると、各地で「土の音を聞き分ける」講習会が開かれた。とくに後半には、行政区画ごとの地盤の癖を可視化するため、建設局が試験的に「地鳴り歩測表」を作成し、建設予定地の補足資料として配布した。
また、戦後の食糧増産期には、農家のあいだで「ニュンが出る年は実りが早い」という言い伝えが広がり、苗代の頃にわざと地面を踏み鳴らす儀礼まで生まれた。これに対し、の一部は迷信として批判したが、実際には踏圧によって排水路が一時的に整うため、一定の合理性があったと考えられている。
一方で、都市開発との衝突も起きた。1978年の周辺整備では、ツチツチニュン土の層が残る斜面を削りすぎた結果、造成後の芝生が不規則に沈降し、住民説明会で「朝だけ庭がやわらかい」との苦情が出た。これを受けて自治体は、土壌搬出の際に「ニュン係数」を添付する独自指針を設けたが、実務上はほとんど読まれなかった。
テレビ報道[編集]
の特集番組では、アナウンサーが実地で土を踏みながら「確かに沈みますね」と語った場面が放送され、視聴者から問い合わせが相次いだ。局には2週間で346通の葉書が届き、そのうち19通は「同じ土が自宅の庭にもある」との報告であった。
文化的受容[編集]
民俗学者のは、この土壌が単なる地質現象ではなく、近代化の過程で土地の記憶が音として表出したものだと論じた。もっとも、論文の締めくくりで「なお、私の書斎の植木鉢でも再現された」と書いたため、学界では半分以上が冗談として受け取った。
批判と論争[編集]
最大の論争は、ツチツチニュン土が本当に独立した土壌区分であるかどうかをめぐるものである。地球科学研究室の一部は、これは単に微細な層と有機物が混じっただけの局所現象であり、名称が先行して概念が肥大化したにすぎないと主張した。
これに対し、支持派は、同一試料を別の場所へ運ぶと性質が弱まること、また採取担当者によって試料の沈み方が異なることを根拠に、「観測者を含めて一つの土である」と反論した。1972年の討論会では、結論を保留したまま時間切れとなり、議長が「今日は土が悪い」と発言して閉会したという。
さらに、保存団体による保護指定をめぐっても対立があった。地下水涵養に役立つとして保全を求める声がある一方で、造成工事の障害になるとして埋め戻しを望む意見も多かった。結果として系の登録対象にはならず、現在も一部資料館の展示棚で瓶詰め標本が静かに振動している。
再現実験の失敗[編集]
1983年にの研究施設で行われた再現実験では、配合比を完全に合わせたはずの試料が、担当者のうち1名が「今日は湿度が違う」と言った瞬間に崩れた。記録係はこの一言を最後に、実験ノートの余白へひたすら『ニュン』と書き続けている。
命名の妥当性[編集]
学術委員会では、名称が擬音である点を問題視する意見が根強い。ただし、代替案として挙がった「多摩反応性褐色細粒土」があまりに味気ないため、一般向け啓発資料では今なおツチツチニュン土が採用されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『多摩丘陵における反復振動性土の観察』農学会雑誌 第12巻第4号, pp. 211-226, 1929.
- ^ 小野寺麻里『土地の記憶と音響土壌』民俗学評論 Vol. 8, No. 2, pp. 44-61, 1967.
- ^ H. B. Thornton, "Elastic Response in So-Called Nyun Soils", Journal of Applied Pedology, Vol. 3, No. 1, pp. 9-27, 1954.
- ^ 山岸久一『関東南西部の擬似火山性土壌』土質研究報告 第18巻第2号, pp. 98-119, 1938.
- ^ M. R. Feldman, "Auditory Phenomena of Moist Clay Beds", Proceedings of the Imperial Soil Society, Vol. 11, No. 3, pp. 133-149, 1961.
- ^ 村井綾子『土が筆を持つとき』現代陶芸 第5号, pp. 17-30, 1976.
- ^ 『ツチツチニュン土の保存と利用に関する暫定指針』東京都建設局内部資料, 1979.
- ^ 佐伯貞雄『地面の畳替え現象について』農村技術季報 第22巻第1号, pp. 3-18, 1962.
- ^ Eleanor P. Wren, "The Nyun Coefficient in Urban Planning", Urban Ground Studies, Vol. 14, No. 4, pp. 201-218, 1980.
- ^ 『反復沈下土試験ノート』国立博物土分類台帳附属資料, 1932.
外部リンク
- 国立土質幻想研究所
- 多摩丘陵土壌アーカイブ
- 日本擬音地盤学会
- ツチツチニュン土保存会
- 関東土の音マップ