トラえもん
| タイトル | トラえもん |
|---|---|
| ジャンル | SF、学園、擬獣化ギャグ |
| 作者 | 深谷 了 |
| 出版社 | 東亜双葉社 |
| 掲載誌 | 月刊トランジット |
| レーベル | 双葉コミックスNEO |
| 連載期間 | 1978年4月号 - 1986年12月号 |
| 巻数 | 全17巻 |
| 話数 | 全204話 |
『トラえもん』(とらえもん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『トラえもん』は、からにかけてを中心に爆発的な人気を得たとされるSF漫画である。主人公の少年と、虎型の高機能保護獣「トラえもん」が織りなす騒動を通じ、家庭問題、受験競争、都市開発の歪みを寓話的に描いた作品として知られている。
連載は『』の看板企画として始まり、読者投稿欄での評判が先行した結果、単行本化の時点で異例の増刷がかかったとされる。累計発行部数は時点でを突破したとされ、のちのテレビアニメ化、舞台化、学習教材への転用により、当時の児童文化における「やや不穏な家庭向けユーモア」の代表作となった[1]。
制作背景[編集]
作者のは、出身の元機械設計補助者で、にの新人賞へ投稿した短編『夜の押入れで鳴くもの』が編集部の目に留まったことから本作の前身を描くようになったとされる。編集担当のは、当初は「猫型の便利ロボット」に近い案を求めていたが、深谷が徹底して虎にこだわったため、結果として“理想の保護者像を持つ肉食獣”という独特の方向へ収束した。
連載初期は、編集部内でも「かわいさと危険性の配合比が不安定」と議論されたが、の「毛皮の下にある家計簿」という回が中高生の間で話題となり、読者アンケートでは一時的にで掲載順を押し上げたという。なお、深谷は後年のインタビューで、トラえもんの鈴の位置はの展示柵の高さを参考にしたと述べている[2]。
あらすじ[編集]
導入編[編集]
物語は、の下町に住む小学生・が、押入れの奥から現れた虎型の機械生物トラえもんと出会うところから始まる。トラえもんはの動物保護局から送られてきたとされるが、実際には未来の証券取引所で不要在庫になった試作機を改造したという説もある。
進の家庭は、父が長距離運送、母が内職、祖父が町内会の防災委員という、ごく普通だが妙に忙しい一家であり、トラえもんは日々のトラブルを「牙を見せずに解決する」ことを使命としている。しかし、解決策の多くが結果的に騒動を拡大し、近所の商店街まで巻き込む展開が定番となった。
学園騒動編[編集]
に当たる学園騒動編では、進が通うの児童会選挙、遠足、運動会、そして妙に制度疲労した給食委員会が主な舞台となる。ここで登場した「ひっかくと未来が見える黒板消し」は、後にファンの間で最も象徴的な道具として扱われた。
特に「昼休み、職員室の温度が三度上がる」では、トラえもんが校長の私室に入り込んだだけで学校予算の再配分が決まるという展開が描かれ、教育現場の空気感を過剰に再現したとして一部の保護者会でも話題になった。
港湾都市編[編集]
中盤の港湾都市編では、物語がの再開発地区へと拡大し、未来の冷却装置を積んだ貨物船、仮設遊園地、税関で没収された謎の尻尾などが入り乱れる。ここでのトラえもんは、単なる守り役ではなく、都市化によって行き場を失った小規模商店の“最後の交渉人”として描かれた。
この編の最終回はので先行上映される予定だったが、会場搬入時に機材が「虎の咆哮」に反応して停止したため中止となった、という逸話が残っている[3]。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、成績は中の上だが状況判断が遅く、トラえもんの提案を聞くと大抵の場合、最初の一歩で失敗する少年である。彼の成長は、単なる友情物語ではなく、都市生活の中で「他者の善意をどう受け取るか」というテーマに接続されている。
は、全長約、体重、尻尾の角度で感情を表す虎型の機械生物である。口癖は「爪は貸せても、責任は貸せない」で、未来技術を用いる一方で、肝心なところで昭和的な根性論に傾くため、読者からは“理屈の通らない頼れる存在”として愛された。
は進の姉で、町内会新聞の編集者である。彼女はトラえもんの能力を最初から疑っており、たびたび「その虎、労災はどうなっているの」と詰問する場面が人気だった。また、、露店商の、未来からの監査官など、脇役の配置がやけに官僚的なのも本作の特徴である。
用語・世界観[編集]
作中の未来は、単なる技術進歩の結果ではなく、動物福祉と家庭内安全基準が異常に発達した社会として描かれている。トラえもんが所属するは、表向きは保護施設であるが、実際には「古い感情を再配布する装置」を管理しているとされ、ここに本作独自の不穏さがある。
また、主要アイテムとして知られる「しっぽ式収納ポケット」は、虎の尾の動きを利用して空間を折り畳む仕組みとされるが、作中ではたびたび飴玉、裁縫箱、町内会の議事録が混在して出てくる。読者の間では「収納の思想が雑すぎる」と評され、のちに関連書籍である『』の主要論点となった。
世界観上、からへ移動すると時間の流れがわずかに早くなるという設定があり、通学路での会話が妙に長く感じられる理由として説明された。ただし、この設定は後期に追加されたもので、初期巻との整合性が完全ではないと指摘されている[4]。
書誌情報[編集]
単行本はより全17巻が刊行され、第9巻以降は表紙の背表紙部分にトラえもんの尻尾が巻数ごとに少しずつ伸びる仕様が採用された。これにより書店棚での視認性が極端に高まり、には「背表紙だけで買う読者」が発生したとされる。
愛蔵版は全8巻、文庫版は全10巻で、いずれも一部の話数順が編集されている。とくに文庫版第3巻では、校庭に埋められた未来弁当箱の回が削除され、その代わりに作者あとがきが3ページ増えている。
また、設定資料集『』はに限定で発売され、初版の半数近くが書店の店頭ではなく学校図書館経由で流通したという珍しい経路をたどった。
メディア展開[編集]
にはでテレビアニメ化され、毎週土曜18時枠に放送された。主題歌「♪とびだせ、トラの時間」は、子ども向けでありながらコーラスにの混声合唱団を起用したことで知られ、制作費のがここに充てられたとされる。
さらに、には劇場版『トラえもん 夕焼けの運河と三本の鈴』が公開され、観客動員を記録した。舞台版ではトラえもん役に大型パペットと実写俳優を併用する方式が採られ、地方公演では尻尾のモーター音が客席にまで聞こえてしまうため、音響担当が常に体制だったという。
ほかにも、学習帳、ふりかけ、温冷切替式まくらなどのタイアップ商品が発売され、特に「虎型下敷き」は全国の小学校で“配られると机の上が少し落ち着く”として社会現象となった。
反響・評価[編集]
本作は、単なるギャグ漫画ではなく、「子どもの無力感に大人の制度をぶつける」という独自の構造を持つ作品として批評された。『』では、社会学者のが「虎を保護者として配置したことで、家庭内の権威が常に半歩ずれる」と論じており、この分析は後年の研究でも引用されている。
一方で、一部の教育関係者からは「便利道具の依存性が高い」「町内会の描写が妙に生々しい」との批判もあった。しかし、読者アンケートでは「トラえもんの出す解決策がだいたい面倒くさいので、逆に現実感がある」との声が多く、結果的に支持は安定していた。
に実施されたでは、児童向け漫画としては異例のの所蔵率を記録したとされる。ただし、調査票の「主人公の種別」欄に“虎”か“機械”かで揺れがあり、集計方法には要出典の余地がある[5]。
脚注[編集]
[1] 『月刊トランジット』4月号、東亜双葉社。
[2] 深谷了「鈴と尻尾のあいだ」『創作往来』第12巻第3号、、pp. 44-49。
[3] 東亜テレビ編『1980年代アニメ制作史資料集』東亜映像出版、、pp. 118-121。
[4] 田所理一「都市移動と時間差の表象」『漫画表象研究』Vol. 7, No. 2, 、pp. 15-28。
[5] 全国学校図書室協議会『児童漫画所蔵率白書 1994』、、pp. 61-63。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 深谷了『トラえもん 第1巻』東亜双葉社、1979年.
- ^ 神谷遼『子どもと機械獣のあいだ』東洋児童文化研究所、1987年、pp. 21-38.
- ^ 三条 恒一『編集部の虎たち』双葉社文化叢書、1991年、pp. 77-93.
- ^ 田所理一「都市移動と時間差の表象」『漫画表象研究』Vol. 7, No. 2, 1990年, pp. 15-28.
- ^ 深谷 了・南雲 早苗『トラえもん大全 牙の向こう側』東亜双葉社、1987年.
- ^ 黒川史郎『1980年代漫画産業の再編』文化出版局、1993年、pp. 201-219.
- ^ 石渡菜穂子「保護者としての猛獣像」『児童文化評論』第14巻第1号、1986年、pp. 4-19.
- ^ 東亜テレビ編『1980年代アニメ制作史資料集』東亜映像出版、1992年、pp. 118-121.
- ^ 全国学校図書室協議会『児童漫画所蔵率白書 1994』図書教育新報社、1995年.
- ^ 宮本正樹『虎の尻尾はなぜ伸びるのか』青陵書房、1988年、pp. 9-17.
外部リンク
- 東亜漫画アーカイブ
- 月刊トランジット公式資料室
- 深谷了作品年表データベース
- トラえもん研究会
- 児童漫画電子年鑑