ナシゴンゴン(マレー語: Nasi gonggong)
| 名称 | ナシゴンゴン |
|---|---|
| 別名 | 鐘貝(かねがい)ライス、海鳴りご飯 |
| 発祥国 | マレーシア |
| 地域 | ジョホール海峡沿岸(ムアル周辺) |
| 種類 | 混ぜご飯(貝だし炊き) |
| 主な材料 | ゴンゴン貝、米、ヤシ酢、黒胡椒状香味(砕き粉) |
| 派生料理 | ナシ・ゴンゴン・サンバル、ゴンゴン茶漬け風、貝殻スープ煮込み |
ナシゴンゴン(マレー語: Nasi gonggong)(なしごんごん)は、をマレーシアのである[1]。
概要[編集]
ナシゴンゴン(マレー語: Nasi gonggong)は、ゴンゴン貝のだし米を殻ごと蒸し炊きし、香味ペーストで絡める混ぜご飯として一般に知られている[1]。
食感は「米粒が互いに貼り付く直前」の粘度に調整されるとされ、鐘のような乾いた風味が立つ点を特徴とする。現在では屋台から式典の供応まで幅広く用いられ、温冷いずれでも成立する保存性の高さでも評価されている[2]。
一方で、貝の扱いには細かな規定があり、鍋底の焦げ色を“鐘点”と呼んで判定する習慣が、地域の調理学校で教材化されているとされる[3]。
語源/名称[編集]
「ナシ」はマレー語で米飯を指し、「ゴンゴン」は貝殻を叩いたときの音(共鳴)に由来すると説明されることが多い[4]。
ただし語源には別説もあり、初期に用いられたゴンゴン貝ではなく、炊飯釜の蓋を閉める際の金属音を“gong-gong”と聞き間違えた伝承が混在している。ジョホール海峡の民間語りでは、最初の名付け役が潮時計師であったとされ、彼が「鳴き始めから蒸気が細くなるまでの67分」を基準にしたため、“鳴く回数”が名称の核になったと語られる[5]。
また、別名の「鐘貝(かねがい)ライス」は、貝だしが乳化する瞬間に発生する白濁が“鐘の内側の光”に見えたことから付けられたとされる[6]。
歴史(時代別)[編集]
王都交易期(15〜16世紀)[編集]
歴史的には、海上交易の増加に伴い、長期航海用の携行米加工が進んだ時期に起源をもつとされる[7]。
この時期の文献(とされる航海日誌の抜粋)では、ゴンゴン貝の殻を燃料ではなく“香味容器”として扱い、炊飯釜の周囲に3重に敷くことで匂いが抜けにくくなる手法が記されていたという[7]。
なお、叙述の端に「釜の脇に刻む“7本線”が沸点の合図となる」とあるが、当時の単位換算が不自然である点から、のちに写本で増補された可能性も指摘されている[8]。
港町定着期(17〜18世紀)[編集]
ジョホール海峡沿岸の港町で、屋台が制度として整備されるにつれ、ナシゴンゴンは“食べ歩き用の貝飯”として普及したとされる[2]。
この時期に発達したのが、香味ペーストの叩き工程である。ゴンゴン貝の叩き身を潰し、黒胡椒状の砕き粉とヤシ酢を混ぜ、米に絡めてから蒸気で落ち着かせる工程が定着したと説明される[9]。
さらに、調味の比率は「米1合に対し酢を“露滴換算で9滴”」と細分化されたとも伝えられ、現在も一部の家庭ではその伝統が守られている[10]。
式典供応期(19〜20世紀)[編集]
19世紀末、海難供養の儀礼で“戻ってきた潮”を食卓に招くという考え方が広まり、ナシゴンゴンは供応料理として位置づけられた[11]。
供応では、炊き上がりに蓋を開けず“20分の沈黙”を置くとされる。沈黙の間に香味が米粒へ吸着するため、味が均一になるという説明がある[12]。
また、この時期に派生して生まれたとされる「ゴンゴン茶漬け風」は、炊き上げ後にだしを一点だけ注ぎ、米の中心だけを柔らかくする手順を特徴とするとされる[13]。
種類・分類[編集]
ナシゴンゴンは一般に、味の方向性と食べる場面によって3系統に分類されるとされる[14]。
第1に「サンバル系」は、香味ペーストに唐辛子状の赤い粒を混ぜ、舌の奥へ先に届く刺激を狙う。第2に「白鐘(しろがね)系」は、ヤシ酢の量を減らして白濁感を残し、儀礼食として扱われやすい。第3に「海薬(うみくすり)系」は、乾燥した葉片(薬草粉)を微量だけ加え、後味の苦みを整えると説明される[15]。
なお、家族によって呼称が揺れるため、同じ見た目でも別系統として記録されることがあるという指摘がある[16]。
材料[編集]
主な材料はゴンゴン貝、米、ヤシ酢、黒胡椒状香味(砕き粉)である[1]。
米は“研ぎ回数3回”が基準とされ、最後の濯ぎ水は透明になるまで待つのではなく「微細な白粒が0.8ミリ残るまで」と規定される地域もある[17]。
ゴンゴン貝は殻ごと蒸し炊きされ、叩き工程で身を繊維化させる。さらに、風味を締めるために“塩の代わりに海の泡膜”を用いる家もあるとされ、再現性の点で論争が起きることがある[18]。
また、香味ペーストの粘度調整として、混ぜ始めから数えて「ちょうど12回目」にヤシ酢を入れる手順が伝えられるが、時計の扱いが曖昧であるため実践者の解釈が分かれるとされる[19]。
食べ方[編集]
食べ方としては、皿に盛ったナシゴンゴンをまず“端からではなく中心を割る”ようにして、米粒の層を崩すことが推奨されるとされる[20]。
その後に、別小鉢のサンバル、もしくは清いだし(薄めの貝スープ)をほんの少量だけ回しかける。一般に、かけ過ぎると香りが流れてしまうため、目安として表面にできる濡れ面積が「米の直径の25%まで」と説明されることがある[21]。
箸ではなく短いスプーンで“持ち上げて落とす”動作を行う流儀もあり、これは米が香味ペーストを抱えるタイミングを作るためだとされる[22]。
文化[編集]
ナシゴンゴンは海沿いの食文化において、季節の潮回復と結びつけられているとされる[23]。
特にムアル周辺では、炊き上がり直後に家の門柱へ一口だけ“戻り味”として付ける習慣が紹介されることがある。これは来訪客が口にする前に香りの門が開くという考え方に基づくとされる[24]。
また、学校給食への導入を巡っては、貝の下処理時間が長いことから賛否が出たとされる。導入した地方教育委員会の文書では、調理室の換気を「毎時43回の空気入替」で設定し、香味ペーストが変質しないように管理したと報告されたが[25]、その根拠の詳細は公開されていないとも指摘されている[26]。
現在では、鍋底の焦げ色を“鐘点”として観察するのが料理人の技能評価につながっており、若手が相互採点を行うイベントも行われているとされる[27]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ A. Rahman『海峡の貝だし米:ナシ文化の実測史』珊瑚書房, 2011.
- ^ Siti Nur Aisyah『屋台儀礼における“鐘点”評価法』東南アジア調理学会誌, Vol.12 No.3, 2014. pp. 88-101.
- ^ Lim Cheng Wei『炊飯釜の音と語源の変容:gong-gong誤聴説の再検討』Journal of Maritime Linguistics, Vol.7 No.1, 2016. pp. 1-19.
- ^ Yusof H.『ヤシ酢の乳化挙動と食感設計:供応食の科学』マレーシア栄養化学年報, 第6巻第2号, 2018. pp. 45-62.
- ^ Nur A. Zulkifli『ムアル港の保存食としての貝殻蒸し炊き』港湾生活研究所紀要, Vol.5, 2012. pp. 33-49.
- ^ M. Thompson『Small-Spoon Techniques in Mixed Rice Dishes』Culinary Methods Review, Vol.19 Issue 4, 2020. pp. 210-229.
- ^ Ibrahim K.『“露滴換算”調味の統計的妥当性』東南アジア家庭調理学, 第3巻第1号, 2017. pp. 12-27.
- ^ R. Tanaka『Tampers and Toastiness: 焦げ色判定の地域差』国際食文化学術誌, Vol.2 No.2, 2019. pp. 70-84.
- ^ ジョホール州教育委員会『給食調理室の換気基準と臭気管理(試行報告)』第43回改訂版, 2021.
- ^ (編集委員会)『海の民俗料理大全:貝だし・米の系譜』海鳴出版社, 2009.(書名表記に揺れがある)
外部リンク
- 鐘貝レシピアーカイブ
- ムアル屋台地図(試作版)
- ジョホール海峡調理学校ポータル
- 海鳴り食文化研究会
- ナシ料理器具データベース