ネットミーム
| 分野 | 計算社会科学・デジタル言語学・コミュニケーション研究 |
|---|---|
| 対象 | 画像、文章、音声、振る舞い(ジェスチャー含む) |
| 特徴 | 反復、改変、内輪性、拡散速度のゆらぎ |
| 主な舞台 | 中心の都市型回線網、各国の学内・企業ネットワーク |
| 関連概念 | スパム、ボット、ミーム工学、模倣選択 |
| 観測指標 | 再投稿率、編集回数、引用率、消滅半減期 |
| 成立史の通説(架空) | 研究者が「合図」として定義したのが起源とされる |
ネットミーム(ねっとみーむ、英: Net Meme)は、上で模倣と改変を繰り返しながら広がる「短い合図」とされる概念である。主にやなどの媒体で観測され、言語学・情報論・行動科学の交差領域として扱われる[1]。
概要[編集]
ネットミームは、ネットワーク上で伝播する情報単位の一種として説明されることが多い。とりわけ、利用者が見た内容をそのまま貼り付けるだけでなく、少しだけ文言を変えたり、別の文脈に差し替えたりすることで、内容の意味が更新される点が特徴とされる。
一方で、ネットミームが「何でも拡散するもの」として雑に扱われることで、研究上の混乱が生じた経緯もある。そこで後年、や系の研究会では、ネットミームを「受信者が次の行為を予測できる合図」と定義する方向が提案された。なお、この定義には「予測可能性」の測定方法が含まれており、ここから指数関数的な拡散モデルが盛んに議論されたとされる[2]。
歴史[編集]
起源:合図としての「帯」[編集]
ネットミームの起源は、周辺で行われた「帯域の節約実験」に求める見解がある。1970年代末、研究者のは、当時の学内回線で動画を転送せず、代わりに“貼り替え前提の記号列”だけ送るプロトコルを構想したとされる。この記号列がのちに「合図」と呼ばれ、視聴者の頭の中で復元される前提の情報として位置づけられた。
さらに、1986年にの試験サイトで実施されたとされる実験では、記号列の長さを「ちょうど88文字」に固定したことで再投稿率が上がったという報告がある。もっとも、88文字という数字は現場の気分で決められたとも語られ、研究会の議事録では“偶然の整列”として記録されたと伝わる[3]。ただし、このような逸話は後に神話化され、ネットミーム成立の象徴として扱われた。
なお、ネットミームという呼称が一般化したのは1990年代後半であるとされる。実際には、の大学サーバで「ミーム」表記がシステムログに偶然混ざったのが発端で、運用担当者がそのまま採用したという説が有力だとされている。ここで面白いのは、当時は“ミーム=誤字”として扱われていたにもかかわらず、しばらくして当該誤字が研究上の鍵語になるほど再評価された点である。
発展:ミーム工学と拡散半減期[編集]
ネットミームの理論化は、2000年代初頭に「ミーム工学」が提唱されたことで加速した。特に、のらが提案した「消滅半減期」モデルは、拡散ではなく“忘れられ方”を測るという発想として注目された。モデルでは、同じテンプレが再編集される回数をt=0からの指数減衰として扱い、「消滅半減期が11日を超えるとコミュニティ文化になる」とされる[4]。
この考え方は、領域にも波及した。つまり、攻撃コードの拡散を抑えるのではなく、「攻撃っぽいミーム」を早期に“意味を失わせる”ことで被害を下げる発想が生まれたのである。そこでは、怪しい拡散に対して「反応テンプレ」を先回りで配布する広報を試行したとされる。
ただし、その試行は“拡散に対抗するミームがさらに拡散した”という逆転現象も招いた。2013年の統計では、反応テンプレの閲覧数が通常の注意喚起を平均で3.4倍上回ったと報告される一方、なぜか閲覧者の約0.7%がテンプレを改造して別用途に転用したとされる[5]。この割合が小さいと見積もられたことが、後に「ネットミームは小さな改造から革命を始める」という格言を生んだとされる。
社会的影響[編集]
ネットミームは、単なる娯楽ではなく、言語運用や社会規範の更新装置として機能したとされる。たとえば、で流行した“謝罪の定型句を5行に切る”型のミームは、対人コミュニケーションのテンポを変えることで「謝罪=短く、次の行動=即時」という規範を強化したとする論考がある。
また、企業の広報も影響を受けた。従来の定型文をそのまま出すと伸びない一方で、社内で用意した“編集余地のある定型”を先に配布すると拡散率が上がることが知られた。そのための一部委員会では、ネットミームを「炎上リスク」と同時に「市場学習の指標」として扱う試みが進められたとされる[6]。
一方で、ネットミームが集団の境界を描くことにもつながった。内輪の合図が増えるほど、外部の人には意味が読めず、結果として“同じ内容でも理解速度が違う”という格差が生まれると指摘されている。ある研究グループは、理解速度を「初回クリックから意味推定までの中央値」で測り、コミュニティ内では中央値が43秒、外部では平均で7分と報告した[7]。この数字はセンセーショナルに引用されたが、同じ論文の別節でサンプルが22名に過ぎないことも記され、議論を呼ぶことになった。
批判と論争[編集]
ネットミーム研究には、拡散を“文化”として肯定する立場と、“操作可能な広告媒体”として疑う立場の対立がある。前者は、改変の連鎖が創造性を生むと論じ、後者は、改変が誘導の余地を拡大すると主張した。
特に論争の中心になったのは「ボット混入率」の推定である。ある年、SNSのトレンド解析で、トレンド入りしたネットミームのうち26%が“編集のふりをした自動投稿”に由来する可能性があると報告された。しかし同時に、その報告には観測時間が深夜の3時間だけであったため、過大評価ではないかという反論も出た[8]。
また、「言葉を軽くしてしまう」という批判もある。ネットミームのテンプレが短すぎるために、現実の問題が薄められ、当事者の経験が置き換わるという指摘である。たとえば、で問題化した“悲しみをスタンプで代替する”型のミームは、短い表現の便利さゆえに反応が増える一方、当事者からは「沈黙の正当化」に見えたという証言が出たとされる[9]。この論争は「ネットミームの自由」と「関係者の尊厳」の境界をめぐる争点として残った。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「帯域節約プロトコルと“合図”の復元」『情報通信研究紀要』第12巻第3号, 1987年, pp.101-138.
- ^ Margaret A. Thornton「消滅半減期から見た模倣鎖の安定性」『Journal of Computational Social Behavior』Vol.14 No.2, 2008年, pp.55-90.
- ^ 中村梨沙「内輪性の定量化:理解速度中央値という発想」『言語とネットワーク』第5巻第1号, 2012年, pp.1-24.
- ^ Satoshi Kobayashi「A/B拡散実験の落とし穴:観測時間がもたらす歪み」『Proceedings of the International Symposium on Web Dynamics』, 2014年, pp.201-215.
- ^ 田中啓介「反応テンプレ配布の逆転効果と再編集率」『社会情報学レビュー』第9巻第4号, 2013年, pp.77-104.
- ^ Elena Markovic「Bots as Fake Editors: Apparent Meme Authorship」『Computational Media & Ethics』Vol.7 No.1, 2016年, pp.33-61.
- ^ 林悠真「謝罪の行数制御が生む規範の短縮」『コミュニケーション規範学研究』第2巻第2号, 2019年, pp.200-233.
- ^ 【嘘】小林元「ミーム工学の標準化手順(ドラフト)」『総務省デジタル社会白書叢書』第1巻, 2020年, pp.10-29.
- ^ 佐藤真琴「トレンド入りネットミームのボット混入率推定:深夜3時間データの再検証」『オンライン行動統計年報』第27号, 2021年, pp.412-449.
外部リンク
- ミーム工学アーカイブ
- ネットミーム観測所
- 拡散半減期シミュレータ
- 内輪性測定ベンチマーク
- 反応テンプレ設計ガイド